(とある財閥の御曹司)
「もうそろそろで到着します。」
家の使用人が運転する車の中でこれから先の事について考える。
今回、京都にきたのは商談の為だ。
正直、直に見るまでは眉唾物だった。
霊に呪い?そんなのがいるわけないだろうと.....
だけど、家族が霊に襲われてそれを呪術師と名乗る者が助けてくれた。
今向かっているのは呪術師が使う呪具と呼ばれる道具を作っている家らしい。
恩人の呪術師が言っていた。
「この家は呪術師の名家と呼ばれる御三家が囲んでいる特別な家なんだ。
そして最近、この家が新しい呪具を開発してな。
それが何と非術師....つまり、お前みたいな奴に向けた商品なんだよ。
実際に見せて貰ったがアレは凄い。
もし、量産化したら非術師は呪霊に怯える心配が減る筈だ。」
それを聞いて商売魂に火がついた私はその家にコンタクトを取るためあらゆるコネを使い、今日、会えることになったのだ。
正直、緊張していないと言えば嘘になる。
普通の人間では対処すら出来ない霊と言う物と戦える存在なのだ。
出来ることならまともな会話が出来ると良いんだが....
そんな事を考えていると車が止まった。
「着きました。
こちらが捨餓螺家になります。」
「ここが.....」
立派な屋敷にも驚いたが私が一番驚いたのは門の周りで列をなしている集団だった。
この暑い中、高い服を着た大人が列を作っているのだ。
それを見た使用人は説明する。
「....あぁ彼等は皆、捨餓螺家に取り入ろうと集まった連中です。
御当主様と"一度"会われた後もああやって何度も起こしになるので"時間が会えば会う"と言う形を取って取ります。」
そう言って使用人は中に案内しようとするとその使用人に懇願するように抱き着く男が現れた。
「おおおお願いします。
何卒、二虎様にお目通りを....謝罪を!?」
「また貴方ですか?
御当主様から"貴方達一家"を含めた関係者の出入りは禁止になっております。
お引き取りを.....」
「そこを何とか...お願いします..お願いします!」
そう言いながら男は屋敷の者に摘まみ出されてしまった。
その光景を疑問に思った顔をしている私に説明してくれた。
「あの方は政財界で"ドン"と呼ばれていた人だったそうです。
しかし、捨餓螺家に訪れた際に失礼な態度が多かったので家への出入りを禁止させて貰っています。」
この話は助けて貰った呪術師からも聞いたことがあった。
捨餓螺家が開発した非術師向けの商品の利権を得る為に挨拶に行った先でまだ"幼い当主"をバカにする発言をしてそれを当主の兄に聞かれてしまったそうなのだ。
それにキレた兄がその男や家族を家から力ずくで追い出したらしい。
後日、兄がいないタイミングを見計らって行ったお陰で当主には会えたがその場で兄に対する暴言を言った結果。
当主からも嫌われたとか.....
「その時、捨餓螺の当主が何て言ったか分かるか?
"そんなにご自分の立場に自信がおありなら我々など必要ありませんね"だ....これがどんなに恐ろしい言葉か分かるか?
呪具師の家を敵に回すって事は利権だけじゃなく呪術師からの信用も失うんだ。
呪具を必要とする術師は多い。
捨餓螺家に嫌われた家の仕事を受けた事がバレたら面倒ごとに巻き込まれるのはバカでも分かるからな。
呪術師はその立場から権力者との付き合いも多い。
そうなった先の末路なんざ考えなくても分かるだろ?」
そして、その男は政財界からも追放扱いとなり、また怨みから捨餓螺家に殺し屋を送ろうとするが殺し屋を無傷で捕縛され男の家の前に置いていかれたことが原因となり政財界だけでなくあらゆるコミュニティから閉め出しをくらったのだという。
結果、家は没落。
漸く自分の仕出かした事を理解した家族は捨餓螺家に謝罪に来ているのだ。
(あー、帰りたい。)
御曹司はこの時ばかりは家の命令抜きに帰りたいと願ったのだった。
外見が立派な屋敷だったのだから当然、中身も凄いとは思っていたが予想を遥かに越えていた。
屏風や置物に至るまで金がかかっており江戸時代の殿様の城に迷い混んだ錯覚を覚えるほどだった。
(大河ドラマのセットみたいだな。)
私は客人用の部屋に連れていかれると座布団と飲み物が置かれ当主が来るまで待ってくれと言われた。
暫くすると着物を着た高校生位の青年と白髪の老人が部屋にはいってきて私の対面に座った。
「お待たせして申し訳ありません。
捨餓螺家当主を勤めている捨餓螺 二虎です。
こっちは源吾、僕のお目付け役です。」
子供とは思えない丁寧な挨拶に驚きながら此方も自己紹介をする。
「あっ!始めまして....えーっと"林フーズ"で働いている
父に変わって御当主様に挨拶に来ました。」
「林フーズ....もしかして、最近話題になってるハンバーガーチェーンの?」
「えっ?はいそうです。
その店の経営もしています。」
「そうなんですが。
よく兄が僕に差し入れてくれるので何時も美味しくいただいています。」
「ありがとうございます。
でも、意外でしたこう言った屋敷に住んでる人が食べるには余りにも場違いかなと....すいません!」
「いえいえ、良いんです。
僕も兄さんが持ってこなかったら食べる機会は無かったかと思いますし....それで今回はどの様なご用件で?
食料関係の会社の方が我が捨餓螺家と関わりを持ちたい理由が分からないのですが....」
「えーっと....それが私も余り分かってないんです。
私達、家族を助けてくれた呪術師の方が此方に伺うべきだと強く推したんです。」
「その呪術師とは?」
「
その名を聞いた二虎は溜め息をつく。
「はぁ、全くあの人は.....
分かりました。
九十九さんの紹介なら裏も無さそうだ。」
その対応を見て疑問に思った私は二虎に尋ねる。
「あの....やっぱり九十九さんって呪術師の中でも....その..."変な人"なんですかね?」
「.....何かあったんですか?」
「いや、助けて貰った時、開口一番に言ったのが"どの女がタイプだ?"だったんですよ。
普通、助けたタイミングでそんな事を聞くかなと思って今回の事もいきなり、家に来て捨餓螺家に行ってみなしか教えてくれなかったんで.....そのもしかしたらそれが呪術師としての普通かなと思っちゃってて」
「あぁ、成る程。
九十九さん基準で呪術師を見たら警戒しますよね?
安心してくださいあの人は呪術師の中でもかなり異端ですから」
「それなら良かったです。
ですから本当にこれ以上何をしたら良いのか分からないんです。」
「そうでしたか。
同じ呪術師が迷惑をお掛けしました。」
「あぁ、いえいえトラブルが無いなら良いんです。
弟にも迷惑掛けたくないですし」
「弟.....兄弟がいるのですか?」
「えぇ、優秀な弟です。
俺が跡目を継がずに自由に生きられるのは弟のお陰です。」
「貴方にとって弟はどういう存在なのですか?」
「そうですね...."自慢の弟"ですかね。
俺よりも優秀なのにそれを鼻に掛けず俺を頼ってくれるんですよ。」
そう言う俺を二虎は優しく見つめる。
「そうですか....あの、また来てくださいませんか?
何分、ここに来る連中の話は退屈なんです。
今度ゆっくりとお互いの兄弟について話しましょう。」
これ以降、林 誠は捨餓螺兄弟に気に入られ京都の呪術高等専門学校に林フーズのハンバーガーが並ぶことになった。
(甚爾の記憶)
捨餓螺家に来た甚爾は早速、中庭で源吾の話を聞いていた。
「甚爾様が求めていらっしゃる呪力武術ですが先ずはその歴史から説明致しましょう。
始まりは600年代初等、遣隋使が日本に来た際に伝えられた中国武術が起源となっております。
それをベースに百年の時間を掛けてその頃の呪術師が産み出したのがこの武術の先駆けです。
元々はあらゆる武術の流派があったそうですが時の流れと共に統合され呪力武術と言う名だけが残りました。
呪力武術には大きく分けて二つの"タイプ"がございます。
先ずは
そう言うと源吾は中庭にある大岩をノックするように殴った。
その瞬間、大岩はまるで爆発した様に破裂しその威力に甚爾は驚く。
「あらゆる障害や敵をその力で砕き、壊す。
単純故に強い技と言えます。
もう一つが
此方は二虎様が得意としています。」
今度は中庭の大木に近付くと優しく手を触れた。
そして、全身を使い大木を回す様に力を加えると源吾の触れた大木が刃物で切断された様に切れて上下反対になり木に嵌め込まれた。
「静流は相手と自分の流れを読み時にいなし時に反発させて相手を操作します。
使いこなせれば自分よりも大きな敵を簡単に組伏せることが出来ます。」
「そして、剛流と静流の二つを極めた先にあるのが"呪力武術の免許皆伝"
ここにまで至っている者はこれまでの五十鈴家の歴史の中でも片手で数えられる程の人数しかいません。」
「その免許皆伝になれれば俺はもっと強くなるって訳か?」
「そうですねぇ。
もし、免許皆伝まで辿り着けたのなら大抵の呪霊と呪祖師と戦える様になるとは思います。
ですが、いくら貴方が身体能力が高くてもこの武術は呪力を併用して戦う技です。
源流は呪力を必要としていなかったらしいですがそれ相応の身体能力が必要だった。
つまり、呪力で強化することで漸く使える武術と言うわけです。
それを聞いてもやりますか?」
源吾の問いに甚爾は笑う。
「当たり前だろ。
その為に俺はここに来たんだ。
強くなって見せる....禪院よりも
少なくともそれぐらいになんないと一馬の隣じゃ戦えねぇだろう?」
そう言う甚爾の顔を見て源吾は安心した様に笑う。
(良かったですね一馬様。
甚爾様は貴方の事をちゃんと友として見てくれていますよ。)
「では、始めましょうか?
なにぶん私は古い人間ですので実戦形式でしか教えられません。
ですのでこうしましょう。
甚爾が限界だと思ったら仰ってください。
直ぐに休憩に致しますので.....」
「それは俺が直ぐに音を上げると思っているのか?」
「まさか、言ったでしょう?
私は古い人間だと....壊してしまっては稽古にならないと申しているのです。」
あからさまな挑発だとは甚爾も分かっているがこめかみに青筋が立つ。
「一馬の恩人だと聞いてたから下手に出てたがそう言うことなら話は早いな....ぶっ殺してやるよ老害!」
甚爾は足に込めた力を解放して一気に接近すると源吾の首に向かって回し蹴りを放った。
しかし、源吾は振り抜かれた甚爾の蹴りに余裕で追い付くと手を触れた。
すると、一瞬の内に甚爾の身体は波に巻き込まれた様に回転すると地面に組み伏せられてしまった。
「くっ!」
「呪力武術"静流"....
相手の攻撃を利用しその流れを乱すことで組み伏せる技です。」
「マジかよ....完璧に入ったと思ったんだが」
「此方も驚きましたよ。
天与呪縛を持った者とは何度か戦ってきましたが貴方程、その力を使いこなしている御仁にあったのは始めてです。
ですが、些か攻撃が素直すぎますね。
最短距離で急所を狙う様は素晴らしいですが真剣勝負の場での読み合いでは不利になりやすい。
狙うのでしたら"二~三手"挟み込んでから使うことをオススメしますよ。」
そう言って冷静に話される源吾を見て甚爾は更に笑顔になる。
「くくっ!これだよ。
俺の天与呪縛なんてろくに役立たない程の武術の使い手....源吾さんみたいな人を俺は探してたんだ。」
「そちらのお眼鏡に叶った様で光栄ですよ甚爾様。
....それでどうされます?
もう降参されますか?」
「はっ!勝負はまだこれからだろ!」
甚爾は源吾の手を振り払うと立ち上がり構える。
「一馬が帰ってくる迄には形にして見せる。」
「それはまた大きく出ましたね?」
「源吾さんは出来ねぇと思うか?」
「まさか、寧ろそれぐらいして貰わないとこちらも張り合いがありませんから.....」
「アンタも言ってくれるじゃねぇか源吾さん。
さぁ....行くぜ!」
この日の甚爾と源吾の稽古は深夜までぶっ通しで行われた。
この稽古の終わりを告げたのは疲れによる甚爾の気絶だった。
その姿を見て源吾は戦慄する。
(スタミナも才能も申し分ない。
彼ならばもしかしたら私と同じく免許皆伝まで行くかもしれない。)
「本当に....素晴らしい友を得られましたね一馬様。
爺はとても嬉しいですぞ。」
深夜に輝く月に誰かを重ねながら源吾は呟くのだった。