【加茂家の記憶】
賢尺は加茂家の中にある禁書庫に来ていた。
ここには過去に加茂家の起こした罪や禁術が保管されており万が一盗まれない様に部屋には多数の呪いや呪霊がトラップとして設置されていた。
賢尺は禁書庫の中で最奥に保管されている巻物に手を触れた。
加茂家の赤血操術を利用した結界が賢尺を当主と認識すると巻物のトラップが解除され手に取れる様になる。
手に取った巻物を広げると賢尺は中身を確認する。
それは平安時代に描かれた加茂家が初代当主が記した。
過去に行われた呪霊に関わる事件や呪いの記録。
"最悪の呪術師"と呼ばれた
時は平安....呪いが全盛期だった時代ある呪術師が恐ろしい実験を思い付いた。
人を殺し続けた一族を呪いに転化したらどうなるのか?
それを実践するために選ばれたのが
その呪術師はその家を陥れ無実の罪で投獄した。
それを不服に思った御魅家は戦を起こした。
その戦は凄惨を極め大量の死者を出した。
だが、朝廷に反抗した御魅家の力及ばず。
家の者は全員死ぬことになった。
その遺体を使い呪術師は呪いをかけ大きな呪いの塊が一族の死体を包むと二体の半人半霊を産み出した。
その呪霊は"酒呑童子と茨木童子"と呼ばれた。
何時しか二人の呪霊は交わると五人の子を生んだ。
その殆どが二人と同じ鬼の姿で産まれたが一人だけは人間の姿として産まれてしまった。
彼等は自分と違う姿をした子を疎み山に捨てた。
そして、彼等は人間を襲いながら呪霊としての栄華を極めていた。
それが変わったのがとある合戦だった。
源氏と平家の戦いに鬼達は参戦した。
目的なんて無い。
ただ、人間の血肉を欲したからだ。
突然現れた鬼達により両陣営は深刻な被害を受けた。
その為、両陣営は鬼を倒すことだけを目的として共闘した。
鬼共にとってそれは好都合だった。
喰らう血肉が増えると歓喜した。
だがそうはならなかった。
源の陣営にいた
勝てると思っていた....だが奴等は我等を倒す武器を持っていたのだ。
"童子切"と"鬼切丸"と呼ばれる刀は過去に捨てた我が子が己が血と骨を使い打ち据えた刀だった。
その刀は我が子四人を切り殺し我等の身体にも深傷を負わされた。
その刀に斬られたことで我等の呪力は弱まりここ大江山へと封じられたのだ。
幾度、怒りで叫んだであろう。
幾度、裏切られた悲しみで泣いたであろう。
だが、いくら泣こうが喚こうが失った子やこの身は戻らない。
ならばこの山を呪おう....何時か復活した際にこの世界に我等の怒りと悲しみを刻み付ける為に.....
我等は決して許さない。
人も呪術師も....そして、捨てた我が子を広い上げた"加茂家"も....
呪術により封印された酒呑童子と茨木童子が話した恨みの内容が巻物には鮮明に刻まれていた。
加茂家は酒呑童子が捨てた子を広い上げてかの者に名を与え加茂家の一員とした。
そこで子を為すと最後の仕事として親の始末をつける為に鬼切丸と童子切を作り息絶えたのだ。
彼が残した血の末裔は今でも加茂家で着々と受け継がれている。
賢尺は巻物を閉じると考える。
(これは...我々が半人半霊を手元に置いた故の責任だ。
本来なら捨餓螺 一馬には預かり知らぬ業ではあるが....この書物の通りだとすれば普通に祓うのが難しい呪霊になるだろう。
だとしたら、酒呑童子達を祓えるのは呪霊を呪具に変える一馬しかいない。)
賢尺は一馬が呪祖師との仲介人を使っていることを知っていた。
呪術師として見れば誉められた行為ではないが清濁を合わせのみ使える者は何でも使うその考えには好感が持てる。
(捨餓螺 一馬はこの呪術界にとって異端な思考と行動力を持っている。
そんな彼なら....この業から麗を救えるかもしれない。
だが、此方ももしもの為の備えは必要だな。)
賢尺は使用人を呼びつけた。
「"五条家"に向かう。
準備を......」
そう言うと賢尺は五条家に足を運ぶのだった。
【呪祖師の仲介人の記憶】
一馬からのメールを見た仲介人は溜め息をつく。
「はぁ...全く無茶を言いますね捨餓螺家の人は」
そう言っていると碼鶴が仲介人に近付いてきた。
「何々?仕事の依頼?」
「えぇ、大江山に呪祖師を集めて欲しいそうです。」
「金額は?」
「1000万」
「受けた!」
「ダメです。」
「なぁんでぇ!?」
「貴方の義手がまだ届いてないじゃないですか。
それに依頼人の注文はサポートも出来る呪祖師です。
貴方は暗殺や戦闘専門の筈でしょう?」
「ちぇ!美味しい仕事だと思ったのにっ!」
「ですが、金額が金額ですから見逃すのも惜しいですね。
1000万なら仲介料もかなり入る筈ですから....」
「でも、サポートも出来る呪祖師なんてそれこそ貴重だぜ?
竹中だって弱い癖に呪霊を操作出来るから色んな仕事に呼ばれてるじゃん。
うーらーやーまーしーいー!」
「なら、サポートの一つでも覚えたらどうですか碼鶴さん?」
「うーん....誤射って何発までOK?」
「もう良いです。
.....あの方ならば的確でしょう。」
そう言うと仲介人はとある電話番号を入力した。
数回のコール音の後、相手が電話に出た。
「お前カラ、連絡ガ来るナンテ、珍しいナ、ドウシタ?」
相手の片言の日本語が聞こえてくる。
「お久し振りです"ミゲル"さん。
確か、今仕事で日本にいましたよね?」
「アァ、丁度、終わったトコロダ。」
「それはそれは....よろしければもう一仕事しませんか?
依頼料は一人頭1000万ですから貴方のお仲間も行けば稼げると思いますよ。」
「高いナ....用件ハ?」
「とある呪術師のサポートです。
戦闘もあるようですがメインはそちらかと...どうしますか?」
ミゲルは少し考えると答えを出した。
「受けよウ...場所ハ?」
「大江山です。
此方から迎えを出しますのでご心配なく...では」
「アァ。」
そう言うと仲介人は電話を切る。
「へぇ、ミゲルが来るんだぁ。
良いなぁその仕事、絶対楽しいじゃん。」
「彼ならば依頼人も満足してくれるでしょう。」
「だろうねぇ。
捨餓螺 一馬の依頼なら尚更ね。」
依頼人の名前が出て来て仲介人は警戒する。
「メールの中身を見たんですか?」
「いいや、何時もなら仕事を依頼されてそんなに悩まないアンタがそこまで悩む相手は一人しかいない。
毎回、無茶な依頼をして来る捨餓螺 一馬だけだ。」
どんなツテを使ったのか捨餓螺 一馬は仲介人である私の居場所を見つけ出した。
その時、近くにいた碼鶴が報復に来たと思い私を守ろうと動いたが一馬の行動は予想外だった。
「あんたらに仕事を頼みたい。」
一馬から来る仕事は単純なものから難しい内容まで様々だったが毎回共通していたのは金払いが良かった事だ。
「お陰でかなりの額を稼がせて貰えましたがその分、厄介な依頼が多かった。」
「だなぁ。
呪具作成の為に呪霊を集めてこいとか言われて数体集めたら本当は数百体欲しかったと言われた時は新手のギャグかと思ったし。」
「メールの内容から見ても急ぎの依頼なのは分かりました。
今必要なのは時間と腕の立つ術師。
その両方を満たせるのはミゲルさんしかいません。」
「良いなぁ...ぜーったい楽しそうだなぁ。」
「.......」
「俺の毒弾が役立つ依頼かもしれないのにぃ残念だなぁ。」
「.......」
「....ケチ。」
「........」
「頑固者!メガネ!..."アラサー"!」
「......碼鶴さんの義手の代金の立て替えは止めておきますね。」
「ヤバッ!?ごめんごめん!
嘘です!嘘ですからぁぁぁ!」
そう言って碼鶴は仲介人に土下座するのだった。
【とある老人の記憶】
老人は衰えた身体を杖で支えながら山を登っていく。
「....ふぅ、流石にこの年の身体だと疲れるな。」
山をある程度、登ると休憩の為、建てられている小屋に入った。
老人は背負っていたバックを下ろして荷を開けた。
そこに入っていたのはタッパーに別けられた大量の目玉だった。
そこから一つのタッパーを開けて目玉を選別すると一つを選んだ。
「これで良いかの」
老人はその目玉を飲み込むと術式を発動した。
すると、老人はまるでスイッチが切れた様にその場に倒れてしまう。
老人の意識は食らった目玉を持っていた動物へと移動する。
意識を取り戻した老人が見たのはカラスになった己の姿だった。
老人はカラスの身体で華麗に飛ぶと大江山の上空を観察する。
(ふむ....結界術が張られている。
この多重結界は茨木童子の得意技だったな。)
複数の帳を同じ空間に同時に下ろすことで空間内に複数の錯覚と異常を起こす呪術。
(100年前に見た時はここまで大きな結界にはなっていなかった。
....相当な数の人間を喰らったな?
これでは封印が解けるのも時間の問題か。)
そうしていると老人は山から殺気を感じると直ぐに繋がっているカラスとのリンクを切った。
その瞬間、飛んできた斬撃がカラスを両断する。
目を覚ました老人は肩で息をしながら笑う。
「はぁはぁ....ふふっ!
久々の再開だと言うのに反抗的なのは変わらないか酒呑童子!
やれやれ、そこを作り替えられなかったのは失敗だったな。」
老人は"頭の縫われている横一線の傷"に触れる。
「そろそろ、"入れ替えの時期"だが今のままでは乗っ取るのが難しそうだ。
....まぁ良い。
代わりの"候補"はまだいる。
この体ももう少しは動くだろう。
これだけの結界が出来たのならば呪術師達が気づく筈だ。
転居候補の身体を探す意味でもゆっくり観察させて貰おう。
まだまだ、目玉のストックはあるからね。」
そう言っていると小屋の中に一人の登山者が入ってきた。
「あれ?ここの小屋って確か俺が予約した筈なんですけど....」
「...おぉ、すまんのぉ。
ちょっと歩き疲れてしまって休ませて貰っておったんじゃ。
邪魔をしたのなら直ぐに出て行こう。」
「あぁ別に大丈夫ですよ!
流石におじいさんを追い出すことなんてしませんから...」
「すまないのぉ恩に着るぞ.....うむ?」
老人が登山者の顔を見つめる。
いきなりのことで登山者は驚いてしまう。
「なっ....何か?」
「お主....良い身体をしておるのぉ。」
「身体...ですか?
そうですね。
これでも結構鍛えてますから...」
「あぁ、違う違うそう言う意味ではない。」
「お主の持っている身体に刻まれた"術式"に関してじゃよ。」
「え?」
突如、老人は腰に指していた短刀を抜き登山者の頭部を横一線で切り裂いた。
一瞬のことで気付く間も無かったが頭から溢れ出す血を感じたことで登山者は自分が斬られて死んだことを知覚した。
地面に倒れた衝撃で斬られた頭の上部分が地面に転がり脳の断面が剥き出しになる。
老人は脳に指を突き立てると無理矢理、引き抜いた。
「さて、先ずは試し住みと行こうかの。」
老人はこめかみにある縫合用の糸を掴むと引っ張った。
スルスルと糸が抜けると頭部が開き脳が露になる。
その脳は普通と全く違っており前頭葉の部分には口と歯が付いていた。
老人は自分の脳を取り出すと先程、殺した登山者の頭に嵌め込んだ。
その瞬間、登山者の身体は電気が走った様に痙攣すると立ち上がった。
登山者が立った瞬間、老人は人形の様に倒れてしまう。
倒れている老人を見て登山者は告げた。
「長い間、お疲れ様。
住み心地は悪くなかった。
.....さてと、この身体の術式はどんなものかな?」
登山者が呪力を込めるとその周囲で風が巻き起こった。
「成る程、呪力を風に変換する術式の様だな。
直ぐに使う機会はなさそうだが応用が効きそうだ。
手に入れておいて損はないだろう。
さて.....前の術式だがどうしようか?
残すにしても容量を喰うからなぁ。
この身体に完全に適合するまで使うか。
どうせ、数日と持たない。」
登山者は老人の取り出していたタッパーに触れると新たな目玉を取り出し飲み込んだ。
そうして、また意識を別の生物に飛ばすのだった。