是非、楽しんでいただけるとさいわいです。
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筆者
【捨餓螺 竜臣の記憶】
竜臣は自分に従う呪術師を集めていた。
全てはこの日の為に......
「漸く、"最高の呪術師"を作り出せる。」
竜臣が当主となっている捨餓螺家は呪具を作る名家でありその歴史は平安時代から続いている。
捨餓螺家の者が作る呪具は他の呪術師が作る物とは一線を化す性能がありそれを認められ呪術師の御三家から
そんな捨餓螺家だからだろう。
この家に産まれた者が手に入れる術式も呪具に関わる物が多い。
呪術師は産まれた時にその身体に呪術を宿す。
故に呪術師は実力は産まれた時の才能が八割とまで言われているのだ。
そんな家系に置いて息子である一馬が手に入れた術式は捨餓螺の初代当主が持っていた物と同じだった。
それを知った竜臣は考えた。
(このままでは自分の当主としての立場が危うくなる。
現に御三家の五条家は"六眼"と"無下限呪術"を持った赤子が産まれてから現当主はもう引退の話が出ていると聞く。
だが、私はそうはならない。)
竜臣は捨餓螺の文献を調べ上げた。
そして、見つけたのだ人を呪具に変えて操る邪法を....
その為に用意したこの部屋の中にはとある術式を織り混ぜた呪具で結界を作っている。
その中心には"呪いを封じ込める呪言"を記した布で一馬の全身を覆っている。
ミイラの様になっている息子を見ながら竜臣は笑う。
「安心しろ一馬。
お前はこれから呪具となり私の役に立つのだ。
これも親孝行だよ。
....さぁ、始めようか。」
周りの呪術師に目で合図すると囲っている呪具に呪力を流し込む。
「あぁぁぐぁぎゃぁぁぐがぁぁ!!」
呪力を流した瞬間から苦しい声を上げながらまるで芋虫のように跳ね回る一馬。
その身体が飛び上がり結界から抜けようとする。
「逃げようとするな。
「はい、竜臣様。」
竜臣の背後にいた鎧を着た男が飛び上がると結界から抜けようとする一馬の前に立ち蹴り付けた。
大の大人の本気の蹴りが一馬の腹部に深々と刺さり一馬は結界の中心に戻される。
「いくら暴れても無駄だ。
どんなに逃げようとしても勝也がお前を結界内へと押し戻す。
さぁ、早く自我を捨てて呪具となれ一馬っ!!」
こうして絶え間無く呪力を結界に流しそれにより一馬の肉体と精神が破壊されても勝也により強制的に結界に戻される。
それが12時間近く続くと突如、四方に設置した呪具が自壊した。
それが邪法が成功した合図でもある。
ぐったりとして動かなくなった一馬を縛っている布は溢れ出た血により真っ赤に染まっていた。
「はは!....いよいよだ。
遂に完成したぞ!
捨餓螺家の.....いや私の為の呪具がっ!!」
喜ぶ竜臣と周りにいる呪術師の歓声が部屋に木霊する。
「領域展開」
故にその歓声が竜臣や部屋の中にいた呪術師が聞く最後の声となったのだ。
【捨餓螺家 呪術指南役の場合】
「良いわね?
貴方が育てるのは二虎よ。
偶然、生き延びた
「承知しております。
奥様。」
もう、何度言われたか分からない忠告に何時もの様に理解を示すと捨餓螺家の奥様は部屋を出ていった。
それを見て捨餓螺家の呪術指南を勤めている男は溜め息を漏らした。
「はぁ....もう何度も来られたらこっちの気が滅入ってしまうな。
まぁ、あれを見れば仕方もないか。」
捨餓螺家は御三家程ではないにしても由緒正しい呪術師の名家だ。
だからこそ、呪術の指導には大金を払い御三家の家から優秀な呪術師が指南しに来る。
この男も
彼は捨餓螺家の次男である二虎の専属講師となり呪術について指導を行っていた。
才能有る無しで言えば二虎は才能があり将来、とても優れた呪術師、或いは呪具師になるのは分かっていた。
きっと彼が捨餓螺家の跡目を継ぐのだろう。
この目で捨餓螺 一馬を見るまでは本気でそう思っていた。
私が彼を見たのは偶然だった、中庭の一角に座っている一馬が懐からゴムボールを取り出すと呪力を流し込み壁当てを始める。
この訓練自体は呪術師が培う繊細な呪力コントロールを身に付ける為に行う一般的な修行だ。
二虎にも教えており彼も行っている訓練だ。
投げたボールの軌道をコントロールしたり跳ね返ったボールの動きすら支配する。
正直、それだけ見ていたのなら一馬は二虎と同等レベルの呪力コントロールが出来ると思っただけだっただろう。
だが、暫く壁当てをしていた一馬はボールをポケットにしまうと反対のポケットから大量のスーパーボールを取り出したのだ。
(壁当てに飽きて普通の遊びでもするのか?)
そう思っていた私の考えを覆す様に一馬は小さい手に溢れる程の"スーパーボール全て"に呪力を流し込むと同じ要領で壁当てをし始めたのだ。
それを見て私は絶句してしまった。
何故なら、それはもう天才の域すら越えかねない"化物のやる遊び"だったからだ。
ゴムボールを使った呪力操作を分かりやすく言うと計算ドリルを解く様な物だ。
その場面にあった答えを当てはめていく。
ボールが手を離れてから壁に着弾し戻るまでの動きで必要な計算を予め解く事でイメージ通りの軌道が起こる。
"凡人は投げた軌道すらコントロール出来ず"、"優秀な者は完璧に投げた軌道をコントロールする"。
そして、"天才は跳ね返ってくるボールの軌道すらコントロール出来る"。
更にコントロールする物の"大きさ"により呪力操作の難易度は劇的に上がる。
ゴムボールサイズが一般的な呪術師がコントロール出来る最小の大きさだったのだ。
だからこそ、私は二虎が跳ね返ってくるボールの軌道すらコントロール出来る姿を見て天才の部類に入ると判断したのだ。
だが、目の前にいる
私は戦慄を覚えた。
若い才能に対する嫉妬や期待等ではない。
目の前にいる怪物に恐怖してしまったのだ。
そしてその異常な行動は捨餓螺家の使用人や呪術師の目にも嫌が応でも止まる。
母親が次期当主にと推す"天才の捨餓螺 二虎"。
片やその母から疎まれ家からも爪弾きにされながら人とは一線を化してしまう才能をもつ"怪物の捨餓螺 一馬"。
当然、家の中で問題になるだろう。
どちらを"後継者"とするべきか?
呪術師の世界は才能が全てだ。
呪力を持たない人間は人として扱われずろくな術式を持たなければ無能の烙印を押される。
だからこそ、奥様は焦っているのだろう。
「まぁでも、私には関係は無いか。
言われた仕事を淡々とこなすだけだ。」
男はまるで現実から目を背ける様に一馬に背を向けると部屋に戻るのだった。
【五十鈴 源吾の記憶】
五十鈴家と捨餓螺家の縁は深い。
平安時代に呪具の名家として名を馳せた捨餓螺家はその一方で呪いを受けやすい立場でもあった。
しかし、呪術師として捨餓螺家の力は弱かった。
故に捨餓螺家は自分達を守れる護衛兼呪術師を求めた。
そこで、契りを交わしたのが五十鈴家だった。
そして、時は流れ五十鈴家は捨餓螺の護衛兼、世話役の立場となり代々、彼等を守ってきたのだ。
五十鈴源吾も過去、先々代捨餓螺当主の護衛を勤めていたが年老いた彼は第一線を退いていたのだ。
今、五十鈴家の当主となっているのは曾孫の
勝也は呪力武術に置いて天賦の才を持っていた。
だからこそ、当主と共に消えてしまったことに源吾は疑問を持っていた。
(勝也の強さは良く知っている。
仮に呪霊に殺されたとしても何も反撃できずに殺されることは考えられない。
一級呪霊すら無傷で祓える実力のある男だ。
それ以前に竜臣様が連れられていた呪術師も皆、第一線で活躍している現役の呪術師だ。
それが何の痕跡もなく消えてしまった。
一馬様を残して......
まさか、一馬様が彼等を?
いや、それこそ考えすぎだな。
やれやれ、私も耄碌した者だ。)
そんな事を考えていると屋敷に"不穏な色"が侵入してくるのを見つけた。
「やれやれ、奥様も諦めが悪く困ったものです。」
大方、一馬様を殺すために雇った殺し屋でしょう。
源吾は立ち上がると袖の下に忍ばせていた"太い針"を取り出すと屋敷から飛び出した。
五十鈴 源吾の持つ生得術式は
"呪いや呪力を色として捉えて見る"ことが出来る。
これを使うと呪霊の位置や弱点が色が変わって見ることが出来る。
一馬が何か言う前に彼の求めている事を理解できたのもこの術式のお陰だった。
屋敷の外から侵入した赤い色を纏った襲撃者達の目の前に源吾は立つ。
「こんな夜更けに捨餓螺家に何か御用ですか?」
その声に驚いた襲撃者達は源吾に銃を向ける。
それを見ても源吾は余裕の表情を崩さない。
「そんな無粋な武器を振り回さないで頂きたい。
それにこの夜更けに発砲されては眠っている方の迷惑になる。」
そう告げた瞬間、源吾は後ろの襲撃者の眉間に針を撃ち込んだ。
「今、"撃とうとしましたね"?
色が変わりましたよ。」
それを聞いた残りの襲撃者が源吾を撃ち殺そうとするがそれよりも速く源吾は立ち回り手に持った針で一人一人襲撃者を仕留めていく。
引き金に指をかけた瞬間、指の神経に向かって針が投げられ指が動かなくなり叫ぶ間もなく眉間に針を撃ち込まれ殺される。
源吾も使う針も呪具であり呪力を流すと同系統の針を何本でも複製できる。
これを使い、源吾は複製した針で襲撃者を皆殺しにすると時計を確認した。
「ふむ、この死体を全て片付ける頃には朝になってしまいますね。
久々に"アレ"を使いましょう。」
源吾はそう言うと懐から虫籠を取り出すと地面に置き指で印を結ぶ。
「闇より出でて闇より黒くその穢れ禊ぎ祓え」
そう唱えると源吾を中心に真っ黒な液体状の何かが出現し襲撃者達のいる空間を包み込んだ。
帳の展開が終わると源吾は結界を"解いた"。
すると、先ほどまで地面を転がっていた死体や銃がいなくなり代わりに虫籠の中に紫色の怪しい光を放つ蝶が1羽入っていた。
五十鈴家に渡されている隠者の虫籠には"人間の死体とそれに関わる物"を切り取る様に作られていた。
死体の処理を終えた源吾は虫籠を手に取ると懐に閉まった。
これでもう何回目だ?
一馬様に向かって殺し屋を差し向けられたのは....
一馬様が才能を奥様に見られてから襲撃の割合が増えた。
更に最近は召し上がる食事にまで毒を仕込もうとする始末.......
「実の息子の筈なのに.....何故、一馬様も二虎様と同じ様に愛することが出来ないのですか奥様?」
届かない疑問を夜の闇に溶け込ませる様に呟く。
夜は良い。
物や想いを隠して己を冷静にしてくれる。
源吾は自分の手を見つめる。
五十鈴家として生を受けてから何百何千の人を殺してきた。
この手はもう人の色をしていないだろう。
本当ならこんな手で子供に触れてはいけない。
だが、一馬様や二虎様はこんな私を慕ってくださっている。
お二人ともとてもお優しいお方だ。
きっと、二人で話し合えば奥様によって作られた溝も直ぐに埋まるだろう。
竜臣様も奥様も....親としては不合格だろう。
それは勿論、私も同じだ。
こんな血で汚れた手で子供に人の道を説くこと等、出来はしない。
私に出来るのはこの命が尽きるまで二人を悪意から守ることだけだ。
それこそが竜臣様から与えられた私の最後の使命。
源吾は屋敷に戻ると一馬の部屋に向かった。
一人布団で眠っている彼の姿を見ると心が落ち着く。
それと同時に彼を見つけ出した日を思い出す。
呪言で覆われた布で全身を覆われ餓死寸前まで痩せ細り血で汚れたその姿を.....
(竜臣様....貴方が一馬様に何をしたのか私には分かりません。
ですが、私は例えどんなことがあっても一馬様を裏切りません。
彼は化物ではない。
心優しき一人の人間です。
そこにどんな真実があったとしても私は一馬様が立派に成人するまでは守り続ける所存です。
それが、老いながらも生きている私の役目でもありますから.....)
源吾は再度、己の心に覚悟を決めると寝ている一馬の部屋の襖を静かに閉めるのだった。