最初に動いたのは星熊童子からだった。
巨大な斧を振りかぶると時雨に向けて真正面から振り下ろす。
「良い攻撃じゃがちと軌道が素直すぎるのぉ。」
時雨はそれを半身ズラす事で完全に回避した。
そして、そのまま星熊童子の胴体を斬ろうとするが刃が星熊童子の身体に触れた瞬間、キン!とまるで金属同士がぶつかった様な音を出して弾かれてしまう。
「!?」
「無駄だよ。
僕達の身体はねお父さん譲りでスッゴく硬いんだ。
そんな呪具じゃ、傷一つ付かないよ。」
「成る程のぉ....道理でお主がさっきから防御する姿勢すら見せないと思ったわ!」
「そう言うこと!おじさんは僕の斧でグチャグチャに潰されて死ぬんだよ!」
星熊童子はそう言いながら斧を振るう。
しかし、時雨は動揺しなかった。
「余りワシを嘗めるなよ。
シン・陰流 二刀
時雨は二刀を重ねると星熊童子が振るった斧に向かって刀を連続で突き出した。
ガガガガガ!と削れる音と共に斧を支えていた持ち手が削り斬られてしまう。
「嘘っ!?」
「斬れぬならば武器を砕けば良いだけじゃ!
それにの....試し切り程度で本気だと思われるのは少々癪だぞ?」
「シン・陰流 二刀.....!?」
時雨が星熊童子に追撃を仕掛けようとしたが途中で止めると一定の距離を取った。
それを見た星熊童子は笑う。
「どうしたの?
絶好のチャンスだったのに....」
「お主....ワシを嵌めようとしたの?」
時雨の言葉に星熊童子は悪戯がバレた子供の様に表情をする。
「凄いねおじさん!
僕の仕掛けを見抜くなんて....まるで頼光みたいだ。」
「伊達に年は取っておらんわ。」
そう言いながら時雨は周囲への感覚を研ぎ澄ませていった。
尼刈 時雨は生得術式を持たない。
天与呪縛により生得術式を失っていたのだ。
その代わりに時雨が手に入れたのは"感覚"。
時雨はレーダーの様に呪力の位置を知覚し捕らえることが出来るのだ。
(急にあやつの前の空間の呪力が増えた時には驚いたがやはり、何か仕掛けておった様じゃのぉ。
はてさてどうしたものか。
技を抜きにした刀は弾かれるかといって近付こうものなら何かが起きる。
うーむ、情報が少ない。
仲間がいるのなら犠牲覚悟で突っ込めるが今は一人じゃからのぉ....困った困った。)
対する星熊童子も考えていた。
(あのおじさんの刀は半端じゃない。
多分だけど僕を切れる技があるんだろうね。
あんまり、長引かせたくはないなぁ。
他の奴等が痺れを切らしそうだし....仕方ない久々にやるかな。)
星熊童子は体内の呪力を練り上げ増大させる。
(来るか!)
「"領域展開"....
星熊童子が領域展開を発動すると上空に黒い月が浮かび二人の身体を浮かした。
「!?」
「僕の能力は重力操作。
そして、天翔の月は上に出ている黒い月に引き付けられる様に重力が働く。
ただそれだけ....でも人間は空中に浮かぶ経験なんて無いでしょう。
でも僕はこの空間を好きに動ける....これで終わりだ。」
星熊童子は宙に浮いた時雨に向かって一直線に進んでいく。
対する時雨は急に浮いた身体を安定させようとするが乱回転するだけだった。
故に星熊童子は勝ちを確信していた。
「"簡易領域"....シン・陰流 二刀....」
星熊童子の拳が時雨にぶつかる刹那、彼の身体が星熊童子の正面に向くと星熊童子の肩を両足で踏み締めた。
「
星熊童子は咄嗟に振るおうとした拳で首を守った。
それが功を奏したのか星熊童子の首は無事だった。
殴ろうとした腕一本を犠牲にすることで.....
「ぎゃあぁぁ!痛ぃぃい!」
「しぶといのぉ....後少しで楽になれたものを」
時雨の放った断華はシン・陰流を学び手に入れた簡易領域を使用した必殺技と呼ぶレベルの攻撃だった。
「断華で腕が斬れるのなら首も問題無さそうじゃのぉ....これこれ暴れるな次で楽にしてやる。」
時雨がそう言って刀を構えようとすると星熊童子の姿が消失してしまった。
「む!何じゃ逃げるのか?」
『貴方は星熊童子の腕を切り落としました。
これによってこの遊びは貴方の勝利となります。
ですので星熊童子を引かせたのです。』
「死なない所で高みの見物か....呪霊の癖に良い身分じゃのぉ。」
『認めましょう私達は貴方を...."人間を舐めていた"。
時が進み人は私達の予想よりも強くなった様ですね。
ですから、ここから"新たな遊び"を始めましょう。』
そう言うと時雨のいた景色が一変する。
平安時代の様な建物が溢れる空間に時雨は転移した。
『ここは私達が生きた平安の都。
貴方達はここで死んで貰います。」
「何じゃ!漸く本気を出すと言うことか?」
『少し違います。
貴方はこの都の歴史に....殺されるのです。』
そう言うと建物の裏から平安時代の格好と武装をした人間が大量に現れた。
その背後には大将を気取る様に三体の鬼が鎮座している。
『平安時代の我々が相手をしてきた人間達です。
大将は我が三人の子....
貴方が彼等に同時に傷を付けられれば貴方の勝ち。
逆に貴方が命を失えば貴方の敗けです。』
「随分とそちらに有利な縛りじゃのぉ。
そんなにワシが恐ろしいか?」
『いいえ、それは我が子らの願いなのです。
末っ子である星熊童子の腕を切った貴方を苦しめて殺したいと....母である私はそれを叶えたいだけです。』
「母か....お主はどんな名なのじゃ?
コイツらを始末したら会いに行ってやる。」
その時雨の回答に話をしていた呪霊の呪力が解放される。
『我が子を始末するだと?....そんな事をすればお前ら全員の首をなで切りにしてやるぞ。』
その増大した呪力を浴びた時雨は冷や汗をかく。
(この呪力....間違いない。
奴は"特級呪霊"じゃ。
それにしてもなんて冷たく重い呪力じゃ....冷や汗をかくなど何年ぶりか。)
そうしていると増大していた呪力が引っ込んだ。
『私の名は"茨木童子"。
四人の子の母であり"酒呑童子"の妻。
貴方が生きてここに来れるとは思いませんから冥土の土産に教えてあげます。』
そう言うと平安の都に早鐘の音が鳴る。
『そろそろ時間のようです。
都に入った賊は打ち取られるのが定め....貴方の死が苦しく悲惨なものになるよう祈っております。』
そう言い終わると茨木童子の呪力が消え去った。
すると、先程までボーッとしていた人間の兵士達が弓を構えて時雨に向かい矢を引き絞った。
「放てぇ!」
号令の合図と共に天を埋め尽くす程の矢が時雨に向かい降り注がれる。
「くっ!円累。」
時雨は二刀を回しながら矢を回避していく。
だが、圧倒的な物量の矢を全て防ぐことは叶わず肩と足に矢が刺さってしまう。
「分が悪い!」
時雨は痛みを我慢しながら走り建物に隠れた。
刺さった矢肩と足の矢を抜き取る。
「痛いのぉ!...矢じりに返しが付いておる。
戦の武器か....むっ!」
時雨が頭を動かすとそこに槍が突き刺さる。
「休む間も無いか!」
時雨は立ち上がると建物の壁を突き破って襲ってくる槍を刀で防いでいく。
すると、建物の壁を壊して兵士が槍を持って襲ってきた。
「やむを得ん....許せ。
シン・陰流 二刀
時雨は回転しながら二刀を嵐の如く振るい槍と人間達を細切れにした。
だが、鈴の音がすると細切れになった人間達が合体に槍を身体に付けた化け物へと変わった。
「何でもありか!」
そう言いながらも対応しようとしたのが失敗だった。
化物になった人間ごと巻き込むように突っ込んできた大鐘に時雨も激突してしまう。
ギリギリで刀を差し込めたが凄まじい衝撃により片方の刀は折れ、もう片方には亀裂が入ってしまう。
地面を転がりながら衝撃を逃がすと大鐘を撃ってきた敵を見つめる。
赤い身体と三本の角を頭部に持つ鬼が手を掲げると大鐘がまるで意思を持った様に浮かび上がった。
「チッ!今ので仕留められないのか。」
すると黄色の身体と二本の角を持った女の鬼が手に持った鈴を振るう。
鈴の音がなるとバラバラになった人間が浮かび上がり一つの怪物へと姿を変えた。
「虎熊童子....貴方は何時も雑なのよ。
母上からもそれで怒られていたでしょう?」
「五月蝿いぞ金童子。
殺せればどっちも同じだろう。」
時雨は折れた刀を見つめる。
(ふむ....一切り程度なら使えるか。
だが、しまったのぉ。
刀が折られもう片方には亀裂....両方とも一回使えれば良い方か。)
その姿を見た金童子が笑う。
「あらあら、大事な武器だったのかしら?
それなら治して差し上げましょうか?」
「敵がワシの刀を治す?
余計な世話じゃい。」
「あらそう?
見たところ貴方の刀、結構な業物でしょう。
どちらも一級レベルの呪具ではなくて?」
「良く気付いたのぉ。
その通りじゃ....」
「私、人の作る道具が好きなの。
人は脆弱だけど道具は違う。
何時までも残り続ける....私達、呪霊の様に....」
「金童子!...下らない会話は止せ。
ここは戦場だ。」
「相変わらずそこは固いわねぇ虎熊童子。
でも、もう"終わり"でしょ?」
「終わりじゃと?」
「えぇ、貴方はもう"熊童子の口の中"だから」
金童子の言葉が聞こえると時雨の周囲の地面から歯が出現すると時雨を巻き込み緑色の鬼がその部分を喰らった。
「熊童子は何でも食べるの。
しかも、口を開けている間は呪力を一切感じさせなくなる。
貴方が呪力を感知しているのは星熊童子との戦いで分かったわ。
だからわざと私達の呪力と攻撃を見せた。
本命が熊童子なのをバレない為にね.....
さてと熊童子、さっさとその人間を消化しちゃいなさい。」
そう言う金童子だったが熊童子は口を抑えながら慌てている。
「どうしたの熊童子?」
「オレの.....口の...中....変......ボゲァ!?」
我慢できなくなった熊童子が口を開くとそこから煙が吹き出し中から唾液まみれになった時雨が抜け出してくる。
「汚いのぉ!いきなりワシを喰らうなどマナーが悪いわい。」
「あら、脱出したの....でも、どうやって?
熊童子の口に入ったら最後、潰される筈なのだけど」
金童子の問いに時雨は熊童子を指差す。
「惜しかったがワシの命の為だ。
愛刀二本をくれてやったわい。」
「...成る程、刀を支えにして潰されるのを防いだ訳ね。
でも、同じ事よ。
貴方は呪具を失なった。
その様子だともう武器は何も無いんじゃないかしら?」
金童子は獰猛に笑いながら時雨に告げる。
武器を無くした呪術師は非力だ。
これからコイツは凄惨な死を迎える。
それを理解した人間がどんな顔をするのか見たかったのだ。
だが、そんな想いとは裏腹に時雨の顔は笑顔だった。
「あっはっは!お主ら呪霊は勘違いが多いのぉ。
確かに今のワシには武器はない。
だがの!ワシは一人ではない!
お前達の様に人を怪物にさせなくても共闘することは出来るのじゃよ。」
「どういう意味かしら?
この空間にあの呪術師達が入って来れると思っているの?
無駄よ。
この結界術はお母様が作り出した最強の空間。
誰一人としてこの結界を敗れた者はいない。」
「それは一体何時の話をしている?
お前達が動いていたのは何百年前じゃ?
人は歴史を重ねる事で進化を続けてきた。
お前達、呪いに対抗する為にの.....」
時雨がそう話しているとこの空間に異変が起きる。
空を照らしていた月が歪み出した。
それを見て虎熊童子と金童子が驚く。
「バカなっ!?」
「あり得ない!お母様の結界が!?」
「ワシは刀を振るう以外、能がない。
だが、全ての術師がそうではない。
世の中にはのぉ....お主らが足下にも及ばない才能を持つ人間もおるのじゃ。
ここにおるのはそう言う人じゃぞ?」
その瞬間、空の月が割れそこから一馬と麗....そして"ミゲル"が中に入ってきた。
一馬が時雨を見て言う。
「遅れてすまない時雨さん。」
「いやいや、ナイスタイミングじゃ!
すまぬが刀を無くしてしまっての....何か代わりを」
そう言うと一馬はポーチから日本刀を二本取り出すと時雨に差し出した。
「四級の呪具ですので使い捨てで構いません。
思いっきり使ってください。」
「すまん、恩に着る。
...あのお嬢さんは?」
「そこにいるミゲルの部下に保護して貰いました。
彼等が安全を守ってくれます。」
「ほぉ、異人の術師か!
何度か仕事を組んだ事があるぞ。」
そんな話をしているとミゲルが一馬に尋ねる。
「一馬....アノ、呪霊ガ、ターゲットカ?」
「そうですね。
ターゲットの関係者といった所です。」
「ナラバ....コイツラヲ、祓えバ、追加報酬ハ出るノカ?」
「....分かりました。
一体につき500万でどうですか?」
「....三体デ、1500万カ....悪くナイ。」
そう言うとミゲルは懐からナイフと"黒い縄"を取り出す。
「お母様の結界が破られた。
人間の分際でっ!許せない!」
「貴様ら全員、殺してやる!」
「お前ら....喰う!」
三人の鬼がそう言いながら呪術師を睨んだ。
それを見た一馬が言う。
「悪いが此方も時間がない。
瞬殺で終わらせる。」
そう言うと一馬は彼等の前に出て呪力を解放した。
「領域展開.....」