【ミゲルの記憶】
仲介人により大江山に連れて来られたミゲルと仲間の呪祖師一行は周囲から感じる違和感に気付いた。
「コノ感じは....結界術カ。」
ミゲルはアフリカを拠点にしている呪祖師でありアフリカには太古からの呪いや結界が多い為、周囲を漂う呪力を肌で感じこの違和感が結界術のせいだと理解した。
「このクラスの結界ダト解除ハ厳シイダロウ。
ナラバ、コレを使うカ。」
ミゲルは編み込まれた黒い縄を取り出した。
「コレで穴を開ける。」
それだけ言うと仲間の呪祖師は頷く。
ミゲルが勢い良く黒縄を振るうと構成していた結界が一瞬、解除され隠されていた空間が開かれる。
その瞬間、にミゲルと仲間の呪祖師はその穴に飛び込んでいった。
数回、黒縄を降っていくと一馬と麗を見つけた。
ミゲル達を見て警戒する麗だが一馬は違った。
「仲介人から紹介された術師の方ですか?」
「ソウダ....私ノ名ハ、ミゲル...後ろノ奴等ハ、仲間ダ。
聞イタ話デハ一人ニツキ1000万ダッタナ?」
「えぇ、貴方同様に使える人材ならきっちりとお支払しますよ。」
「ソコハ安心シテ良い。
一馬....お前のサポートをシヨウ。」
「では、早速働いて貰いましょう。
仲間の呪術師が結界の中に囚われていますのでそれを救います。
....その前に誰か
この子はこの事件に巻き込まれた被害者ですので」
一馬がそう言うとミゲルが仲間にアイコンタクトをかわす。
頷いた仲間が前に出た。
「彼ニ送リ届ケサセヨウ。」
「ありがとうございます。
では、このまま向かいましょう。」
「向かうノハ良いが居場所ノ宛てハアルノカ?」
「えぇ、時雨さんが持っていった木箱には俺の作った呪具が仕込まれています。
その呪具を発信器代わりにすれば居場所を特定できる。」
そう言うと一馬は呪術を使い時雨に渡した木箱の呪力を探す。
そして、木箱を見つけ出すとミゲルに指示を出す。
「見つけました。
後は結界を破れれば....」
「問題ナイ。
コレを使ウ。」
そう言ってミゲルは黒縄を一馬に見せる。
「それは?」
「相手ノ術式ヲ乱シ無効化スル呪具ダ。」
「凄いですねその呪具。
後で見せていただいても?」
「悪イガ....コレは大切ナ呪具ナノデナ。」
「そうですか。
....ではお願いします。」
「任セロ。」
ミゲルが黒縄を振るうと亀裂から平安の都の様な光景と中心で戦う三体の鬼と時雨の姿が確認できた。
「見つけました。
行きましょうミゲルさん。
麗さんはどうしますか?」
「行くわ。
私の術式が役に立つ事もあるだろうし...」
「良シ....お前達ハここにいろ。
何カアレバ知らせろ。」
ミゲルの背後にいた呪祖師が頷くとミゲルと一馬、そして麗は開かれた亀裂へと飛び込んでいくのだった。
【星熊童子の記憶】
「何なんだ!アイツらは!?」
「落ち着きなさい星熊童子!」
「でも母さん!?
アイツら母さんの結界を破ってきたんだよ!」
星熊童子はこれまでこんな事態にあったことがなかった。
平安の頃の戦でも母さんが仕掛けた結界術の中に人間を閉じ込めて四人の子供達でいたぶるだけで良かった。
それに反抗出来る存在などいなかった。
でも、コイツらは違う。
僕の腕を落としたおじさんに母さんの結界を破ってきた呪術師....どう考えても普通じゃない。
僕達四人の力が合わないと勝てない。
そう考えた星熊童子は三人のいる空間に飛び込んだ。
「星熊童子!」
後ろから叫ぶ母の声を振り切って.....
もしもあの時に母さんの声で止まれていたら....僕達の運命は変わっていたのかな?
「無限転域」
その声が聞こえた後、人間が発生させた呪力に僕達四人は飲み込まれた。
僕達の身体が何かに変わっていく。
いや、変わり続けていったんだ。
変わる身体の速度に僕の意識が追い付かなくなっていく。
「そん....な..ぼ...くが....キ...ェ...ru。」
完全に意識が消失するのに時間はかからなかった。
そして、空間に残ったのは四つの呪具だけだった。
【茨木童子の記憶】
「そんな.....私の子供達が....嫌ぁぁあああ!!」
自分の子を全て失なった茨木童子は封印されている大江山で絶叫した。
それを見ながら酒呑童子は酒を煽る。
「そうか...餓鬼どもは"漸く死ねた"か。」
「貴方!!どうしてそんな悠長な態度を取れるの?
私の....私達の子が殺されたのよ!?」
「そりゃあ、殺されるのは"二度目"だからな。」
「二度....目?何を言っているの?
私の子は殺されてなんて!?」
「思い出せ茨木童子。
俺達が"封印された日"を.....
あの日、俺達を封印しようとした二人の武士が四人の子と対峙した。
そして、そこで....俺達の子は....」
「止めて!」
「思い出すんだ。
茨木童子....お前を子の死を嘆き、認められなかった。
そこで、自らの血肉を使い...蘇らせた。」
「蘇らせた?」
「俺とお前の血は特別だ。
俺の血には"相手を意のままに操る力"が....お前の血には"死者を蘇らせる力"があった。
お前は自らの血を使い子を蘇らそうとしたが無理だった。
足りなかったんだ...だからお前は"自らの身体を四つ"に分けて子供に与えた。
そのせいでお前は死ぬ筈だったが....俺がお前の意識だけ生かした。
相手を操る俺の血を使いお前は"自分が生きていると思い込まされた"。」
「そん....な.....」
「今のお前は大江山に存在する残留思念でしかない。
そして、子が死んだことで...お前も....すまない。
お前を助けたかったがお前の子への想いを俺は止められなかった。
例え、俺一人になったとしてもお前の望みだけは叶えたかった。」
「あ...な......た...」
「もう眠れ。
お前はこれまで良く生きた。
地獄で俺達の子を頼む。」
酒呑童子がそう言うと先程まで聞こえていた茨木童子の声や気配は聞こえなくなった。
彼女が消えたことを酒呑童子は理解した。
その瞬間、怒りから手に持った盃を地面に投げ付ける。
「うおぁぁぁぁ!!
許さん!!許さんぞ人間ども!!
我らを造るだけでは飽きたらず今度は我が子と妻まで奪おうと言うのか!
お前達、人間は傲慢だ。
我等よりも化物だ!
殺してやる!この呪いを解きこの山から解き放たれたら全てを壊し消してやる!」
酒呑童子は怒り暴れようとするが身体に巻き付く鎖がその邪魔をする。
だが、これまでと違い鎖に歪みが生じていた。
これは人間の勘違いから起きた鬼切丸と童子切は酒呑童子と茨木童子の二人を封印する為に作られた特級呪具であり二刀一対の関係だった。
故に保管する際も木像に二刀を共に納めていたのだ。
そして、封印は二体の呪霊の呪力と呪具を織り混ぜる事で強固にしていた。
茨木童子が自らの子を救う為に命を差し出したすとはこの刀を作り上げた五人目の子には考え付かなかったのだ。
故に封印が完全なものにならず時が経つにつれて呪霊は呪いを溜めていった。
そして、茨木童子の意識が完全に消滅したことで二人を封印していた楔が弛みズレ始めていた。
(この状態ならば思ったよりも早く力を使いこなせそうだ。
だが、完全に封印を解くには大切な鍵が足りない。
我らを封印する際に使われた刀に使われた血肉.....)
「裏切った"五人目の子の血を引く者"が.....」
【加茂 麗の記憶】
「お前の血には人でない者の血が....."鬼の血"が流れている。」
幼い私に両親は教えてくれた。
私の家系が抱える呪いを.....
酒呑童子と茨木童子の間に産まれた五人目の子供は人の姿をしていた。
他の兄弟と比べて呪力も無いに等しかった子は親から捨てられた。
運が良かったのは捨てられた子を人間が救った点だ。
拾われた親の元で大きくなる内に彼は自分の力を自覚し始めていた。
彼の住む村に呪霊が出た時、彼は自らの血を呪霊にかけて葬った。
彼の血には"呪いを分解し抑制する力"があったのだ。
その噂を聞き付けた当時の加茂家は彼を養子として迎え入れ自らの出生と呪いについて知った。
そして、彼は自分を救ってくれた人の為に呪術師になろうと決心した。
そこで加茂家の令嬢と仲良くなり遂には伴侶とすることが出来た。
だが、ここで彼の人生に不幸が起きる。
彼が産まれ育った村と義両親が呪霊の襲撃により無くなったのだ。
襲ったのは酒呑童子達でありその事を知った男は怨みと怒りに支配された。
彼は復讐を誓い、自らの血の力を持って酒呑童子達を葬ろうと決めた。
自らの血肉を削り作り上げた二刀を妻に託すと彼は命を落とした。
だが、その時にはもう妻の腹の中に彼のとの子が生まれていたのだ。
そして、時代は進んでいくが何れだけの人と交わろうとも鬼の血は薄れることはなかった。
恐らく、作られた二刀と鬼の血がリンクしており一種の縛りが出来ているのだと賢尺様は仰った。
呪霊にとっては必殺となり得るこの血だが呪いを分解する力は自らにも降りかかっており加茂家相伝の赤血操術にまで干渉し麗もこの術式を得ながらも全く使いこなせない無能な術師の烙印を押されてしまった。
そのせいで麗も家では不遇な扱いを承けることが多かった。
だが、彼女が呪術師を止めることを家が許してくれない。
何故なら、彼女の血は鬼切丸と童子切を収めている木像である静ノ巫女の封印を強めるのに必要だからだ。
この二刀は鬼の血肉で作られているが故に定期的に封印で消費される血を欲していたのだ。
だからこそ、この山の管理は加茂家にしか出来ない。
鬼の血を持つ血族をその内に抱えるものにしか....
今回の大江山の件に麗が選ばれた時、彼女は覚悟をしていた。
自分はここで死ぬことを.....
鬼の血を持つ者が二刀に触れることで刀は血の吸収を始める。
だが、そのせいで血を吸われた者は死んでしまうのだ。
それが鬼の血を受け継いだ者が成さねばならない使命であった。
「すまないな麗。
お前達一族には迷惑をかける。」
「いいえ、この血を捧げることが私の存在意義ですので....」
賢尺と麗がそうやって話していると賢尺は手に持ったステンレス製のコップを握る。
ミシ!と言う音がしてコップが歪んでしまった。
それを見た麗が言う。
「当主様、先代が仰っていたでしょう?
心の隙を見せるなと....貴方は当主なのです。
これは当主として正しい選択なのですよ。」
「正しい....か。
確かに我々、呪術師は呪霊を祓うためならば命を賭けるのは当然の義務だ。
....だが、それは古いやり方を続けて良い理由にはならない。」
賢尺と麗は幼い頃、共に呪霊を祓ってきた仲間だ。
その後、賢尺が当主となり仲間としての関係は続けられなくなったがそれでも二人の間には命を預けあった絶対的な信頼があった。
悲痛な顔をする賢尺を見て麗は口調を崩す。
「賢尺....これは仕方がないことよ。
私の命を使うことで大江山の封印はより強固なものになる。
古いやり方は変えなかったんじゃない。
その方法が最も良いと思ったから残っているのよ。」
「麗...お前がその血で苦しんでいたことは側にいた私がよく知っている。
だが、お前はそれでも努力し呪術の研鑽に勤め呪術師として認められた。
そんな君を...まるで使い捨ての道具の様にするなど....」
「だから、貴方は上層部に直訴していたのね。
過去の術に関する見直しを....」
賢尺が当主になってから彼はこれまで行われていた呪術の中で使用者の命を犠牲にする術を率先的に改良してきた。
だが、古い考えに支配されている加茂家の上の連中がそれを邪魔し続けていたのだ。
「アイツらは偶々、運良く生き残れた老害だ。
奴等にとって大事なのは今や未来を生きる呪術師の命ではない。
残り少ない自分の命と立場だ。
アイツらの顔を見る度に...この手で潰してやりたくなる。」
「賢尺.......
私、もう行くわ。
色々と準備をしないといけないから...」
麗はそう言うと部屋を出ていった。
一人になった賢尺は自分の不甲斐なさを呪った。
「当主になってもこの様か....私の手では誰も救えない。
私も奴等と同じ老害の一人だ。
だからこそ、未来に賭けたくなるのだ。
私達が守っていた下らないルールを壊してくれる誰かが....」
そんな事を考えていると賢尺の部屋に使用人が入ってきた。
「失礼します。
捨餓螺 一馬様がご到着致しました。」
「ご苦労...ここに通せ。」
使用人は賢尺の言葉に頷くと部屋を出ていった。
捨餓螺 一馬....呪術師として異端と呼べる若き才を持つ逸材。
(彼ならきっと...何かが変わるのかもな。)
賢尺は一馬に己の出来なかった想いを託すのだった。