悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十一話 酒呑 (上)

 

一馬が行った領域展開が終わると残ったのは四つの呪具と鬼の腹にあった時雨の愛刀と結界が壊れた事で現れた大江山の中腹だった。

 

「ふぅ、どうやら全員巻き込めたみたいだな。」

そう言って呪力を収める一馬に驚きながら時雨が言う。

「凄まじい領域展開じゃな!!

話しには聞いておったが本当に呪霊をその場で呪具に変えられるのじゃな。

それにワシの刀もこうして取り戻せたわい。

.....むむっ!やはり折れてしまったか。」

 

「今回は偶々、運が良かっただけです。

あの呪霊達が領域展開していたら呪力のぶつかり合いになっていたでしょうから多分、成功しなかったと思います。

それと、時雨さん終わったら刀の破片を見つけてくださいそれがあれば修理しますから.....」

その説明を受けて時雨は納得するが麗は違和感に気付いた。

 

(領域展開をしていないから成功した?

それはあり得ない。

目の前にいたあの鬼達は最低でも一級クラスの呪霊だった。

 

それを四体同時に呪具に変えてしまう領域展開を使って本人は汗一つかいていない。

どう考えても辻褄が合わない。)

 

麗が考えていることは当たっておりそれを可能にしていたのは一馬の体内に保管されていた御霊の壺の力だった。

無限に増え続ける呪力を一馬はその体内に蓄えており領域展開や呪力を大量に使う術を発動する時に使っていたのだ。

 

当然、そんな無茶をすれば肉体にダメージが残るがそのダメージは反転術式を使い治療していた。

しかも、その反転術式に使用する呪力も御霊の壺から直接供給していた。

 

一馬は術式の使い方が上手い訳ではない。

精密操作に関しては二虎や麗の足元にすら及ばないだろう。

なら、どうするか?

 

大量の呪力でゴリ押せば良い。

 

一馬の反転術式は云わば10の呪力で1の傷を治す様のものだ。

だが、そんな無駄遣いをしても御霊の壺の呪力で補填されている。

 

実際、領域展開を発動して消費した呪力は戻りつつあった。

(御霊の壺の呪力をかなり使ったな。

ざっと六割は使った計算か....残りで酒呑童子を呪具化出来るか分からないがやるしかないな。)

 

 

一馬は新たに出来た四つの呪具に触れた。

 

「この呪力....やっぱり一級クラスだな。

ワンチャン特級にも迫る呪具になった訳か。」

 

一馬にミゲルが寄ってくる。

「一馬、直グ動ケソウカ?」

「どうかしましたか?」

 

「アノ(時雨)モ感ジタ様ダガ結界ガ解除シタ後、凄マジイ呪力ヲアノ山カラ感ジル。」

そう言われ一馬は意識を集中させると確かに大江山の内部から強大な呪力を感じた。

 

「これは不味いな。

早く酒呑童子を封印している呪具を治さないと....麗さん!静ノ巫女は山の頂上にある祠にあるんですよね?」

「えぇ、資料ではそう書いてある。」

 

「僕とミゲルで頂上に向かいます。

お二人にはそのサポートを...!?

何だこの呪力は!」

一馬が指示を出していると先程感じていた呪力が一気に強くなった。

 

そして、大江山の頂上で爆発が起こる。

その振動を感じ時雨が叫ぶ。

「こりゃあ、"噴火"じゃ!!

気を付けい!落石が来るぞ!」

 

時雨の言う通り、空と頂上から大量の岩が落ちてきた。

「マズイ!

ミゲルさん!この盾を地面に突き刺して!

時雨さんと麗さんこっちに!!」

「ワカッタ!

オ前達モ手伝エ!」

 

一馬はポーチから元の大きさに戻した大盾をミゲルに渡す。

ミゲルとその仲間は盾を地面に突き刺して即席の壁を作ると上部は仲間達が盾を掲げた。

 

「出来タゾ!」

「その盾は呪力で硬度を増します。」

「ソウ言ウイウコトカ!」

 

一馬とミゲルは盾に触れると呪力を流し込んだ。

二人の呪力により強化された盾は落石から中の者の身を守る。

だが、衝撃までは防げない為盾を持っている者は落ちてくる岩の重さから顔を歪ませる。

 

落石が収まってくると上部に掲げていた盾が下げられる。

「収まったようじゃな。

しかし、どうしていきなり噴火なんぞが起きたんじゃ?」

 

「そりゃあ、"俺"が動ける様になったからな。」

 

一瞬だった。

全員の意識が知覚する前に一体の鬼が背後に立っていたのだ。

「ふん!」

時雨が気付いた瞬間、刀を振るうが指の間に挟まれて止められてしまう。

 

「!?」

「良い腕じゃねぇか....だが獲物の質が悪いな。

星熊童子とやりあってた時の獲物ならもっと鋭かった筈だぜ?」

 

そう言うと摘まんでいた刀を離す。

その光景を見て警戒し距離を離した。

 

「お前は?」

一馬の問いに頭に二本の螺旋状の角を携え全身を甲冑で固めた鬼が答える。

 

「俺の名は...."酒呑童子"。

お前らだろう?

俺の子と妻を奪ったのは....死ねや。」

 

瞬きの刹那、近付いてきた酒呑童子がミゲルの仲間の首を引き千切った。

「貴様ッ!」

ミゲルが黒縄で酒呑童子を絞り上げようとするがそれを見て酒呑童子は笑う。

 

口を開けた酒呑童子は腹に力を込めるとその力を一気に解放した。

 

「うらぁぁぁあぁあ!!」

 

声と共に乗せられた衝撃はミゲルの身体を吹き飛ばす。

そして、牙を思いっきり鳴らし火花を起こした。

 

ドカーン!!

 

凄まじい爆発がその場を包み込み酒呑童子を除いた全てが吹き飛んだ。

 

その光景を見た酒呑童子は唸る。

「うーむ...そんなに強くする気はなかったが...些か飲み過ぎたか?」

酒呑童子が起こした爆発の原理は簡単だ。

 

彼が常日頃、呑んでいる酒が染み込んだ吐息にかち合わせた牙により起こった火花が引火し爆発したのだ。

 

周囲を更地にするレベルの爆発だったが爆心地にいた酒呑童子は平然としていた。

それも全て、自身の誇る強固な身体の力によるものだった。

「これじゃあ、骨も残ってねぇかもなぁ....!?」

 

そう言って頭をかく酒呑童子を背後から時雨の二刀が襲う。

だが、酒呑童子の身体に触れた刀は酒呑童子の硬質な皮膚を絶ち斬るどころか刀が負けてしまい、根元から折れてしまった。

 

時雨は刀を捨てると距離を取った。

酒呑童子は彼の姿を見て首をかしげる。

「良く生きてたなぁ...あの爆発でよ。」

「刃すら通らんとは、硬すぎるのぉ。

オマケに判断も的確...正に武士(もののふ)じゃな。」

 

「ほぉ、そこまで分かるとはやるじゃねぇか今世の武士も.....それより質問に答えちゃあくれねぇか?

どうしてあの爆発で生きている?」

「さぁのぉ....実はワシもサッパリじゃ

気が付いたら身体が元気になっておったでなぁ。」

 

「ほぅ....面白ぇなそれは

なら、もう一回ぶっ飛ばして種を明かしてやろうじゃないか。」

酒呑童子が息を吸い込むと空から鳥が酒呑童子に向かって飛来してきた。

 

鳥の嘴が酒呑童子の身体に刺さると驚きながらその鳥を引き抜いた。

良く見ればそれは紙で折られた鳥であり嘴には赤い血が付着していた。

 

「俺の身体を刺せるって事は....くくっ!

やっぱりここにいるんだなぁ!俺の子の血を持った奴がよぉ!出てこいよぉ!」

そう言うと地面からミゲルが大鎌を持って現れた。

「仲間ノ仇ダ!」

 

ミゲルの振るった鎌を酒呑童子はかわすと先程の様に爆発を起こそうと口を開けるがそれを待っていた様に鎌が二つに割れそこから巨大な口が現れると酒呑童子の呪力を喰らおうとする。

 

「くぉっ!....離れろっ!」

酒呑童子は地面を殴りその衝撃で鎌から離れた。

「俺の呪力を喰いやがっただと!?

.....この感じはまさか..."熊童子"か!?」

 

酒呑童子はミゲルの持つ大鎌を見ながら言った。

「熊童子は呪力を喰らう力があった.....そうか、漸く分かった。

何でお前らが無傷なのかをよ。

出てこいよ....さっきからウザってぇんだよ!!

 

酒呑童子が腕を振るい起こした風で一馬と麗を包んでいた布が飛ばされる。

すると、一馬は持っていた棍棒で酒呑童子に攻撃した。

棍棒が酒呑童子に触れた瞬間、棍棒が三つに分割しその勢いで酒呑童子を吹き飛ばす。

 

「まだまだぁ!」

一馬は分離したまま棍棒を操り上と下から挟む様に棍棒を振るった。

「んな安直な攻撃当たるかよ....!?

身体が...重い!?...ぐあっ!」

 

酒呑童子は急に身体の自由が効かなくなり止まったことで上下からの棍棒の攻撃を頭に受けてしまう。

「いくら、身体が頑丈でも衝撃までは逃がせないだろう。

今なら斬れますよね?」

「当然じゃ!」

 

時雨は一馬によって修復して貰った愛刀を構える。

 

「簡易領域....シン・陰流 二刀....断華っ!」

時雨の振るった一撃は酒呑童子の硬質な皮膚を突破すると胸に二降りの傷を与えた。

「ぐ....お.....」

 

うめき声を上げながら酒呑童子は地面に倒れ伏すのだった。

「やったかのぉ...」

時雨は完璧に折れてしまった愛刀を投げ捨てると一馬より渡された背中の刀を抜いて酒呑童子に向ける。

 

「まだ祓えてはいないでしょうが....今なら俺の力で奴を呪具に変えられる。」

「そうか....それにしてもお手柄じゃったのぉ!

捨餓螺 一馬、まさかお主の呪具がここまで役立つとは思わなんだぞ。」

 

 

時は酒呑童子の爆発を受けた時に戻る。

一馬は御霊の壺の呪力を使い反転術式で爆発のダメージを回復していた。

 

巨大な爆発による煙に紛れながら先程、呪具にした金色の竿を振るった。

"金華釣"(きんかちょう)と名付けたその呪具は金童子の力を有しており病や傷を釣り上げて回復する力があった。

 

それを使い時雨とミゲル、麗の傷を完治させると三人に身体を覆える布を渡した。

「こりゃ、何じゃ?」

「呪力と気配を消せる呪具です。

これで気配を消しながら酒呑童子に近付いてください。」

 

「ダガ、近付イテモ有効ナ攻撃手段ガ無イゾ?」

「そこでこの呪具を使います。

先程、呪具にした武器です。

ミゲルさんにはこれを....名は"銅玄"(どうげん)

相手の呪力を喰らう鎌です。

麗さんにはこれを....名は"鉄嚼鎚"(てっしゃくつい)

相手を空間に閉じ込めて押し潰す力があります。」

 

「ワシはどうする?

正直、ワシは日本刀以外、からっきしだぞ?」

「時雨さんには愛刀でトドメを刺して貰います。

折れた破片がそこら辺にあるのなら修復は可能です。」

 

「それは助かる。」

「だけど、あくまで傷を塞ぐ程度の修復ですから恐らく、大技一発で壊れてしまうと....」

 

「その一撃で酒呑童子を祓えるのなら安いもんじゃい。

じゃが、奴は強い。

トドメヲ刺すにしてもワシの技が通じるだけの間合いまで気付かれずに近付く手段が無ければこの策はご破算じゃぞ?」

「そこはこれを使います。

"銀隸棍"(ぎんれいこん)....これを使った連撃で酒呑童子の意識を此方に向けさせる。」

 

(この呪具達は酒呑童子にとって子供の様な存在だ。

その力で攻撃すれば怒りから俺達に目を向けるだろう。

 

銀隸棍は"呪力で分離する三節棍"だ。

呪力を込めれば込める程、分離する距離や操作精度も上がる。

 

俺達の攻撃で酒呑童子の目を釘付けにして時雨の二刀で斬り伏せる。

上手くは行ったがやっぱり首は斬れなかったか.....

 

呪霊は呪力を消費すれば肉体の傷は回復する。

なら早く術式を発動して呪具に変えないと...)

 

そう言って酒呑童子に向けて歩こうとした矢先、背後にいた麗が地面に倒れた。

ドサッ!と言う音と共に倒れた麗の後ろには先程、逃がした筈の少女が血に濡れた短刀を持っていた。

 

「「「!?」」」

 

他の者がその光景に驚いていると急に立ち上がった酒呑童子が少女を抱えて距離を取った。

「まさか、まだ動けるとは」

「動けはするが...実際ギリギリだぞ?

封印のせいで俺の呪力は"10分1"まで削られてるからな。」

 

「10分1じゃと!?」

「そうさ。

だから、ずっと待ってたのさ。

封印を解ける鬼の血を受け継いだ呪術師の血を....手に入れる時をな。」

 

酒呑童子は少女から短刀を奪い取るとそのまま口の中に放り込んだ。

用を終えた少女は酒呑童子の手を離されると意識を取り戻した。

 

「え?...私は?」

「お嬢さん!こっちに来い!」

 

時雨の怒号に驚きながらも少女は彼等の元へ走っていった。

その間、酒呑童子の身体には先程までは見えなかった無数の鎖が現れていた。

その中心には静ノ巫女がくくりつけられている

 

 

「見えるか?

これが俺の捨て子が作り出した術式だ。

俺の持つ呪力を吸い付くそうとしてきやがるが....これも捨てた子からの反抗期と思えばまぁ可愛げもあったんだが、これで仕舞いだ。」

 

酒呑童子の身体を覆っていた鎖が弾け飛び木像が吹き飛ぶととこれまで封印されていた酒呑童子の呪力が戻る。

「ふはは!良いぞ!これだこれ!

これこそ、"鬼綱"(おにつな)....いや、酒呑童子、本来の力だっ!

うぉぉぉぉぉぉ!!!

 

呪力を解放した瞬間、周囲の景色が歪み上から帳が落ちてくる。

帳は呪術師達を飲み込むが逃げていた少女はその場に姿を残した。

すると、周囲の景色が変わりまだ焼け野原にする前の木々が生い茂る大江山へと姿を変えた。

 

そして、酒呑童子の見た目も変わる。

体躯が更に大きくなり身体を覆っていた鎧が弾け飛ぶ。

胸には赤い入れ墨が浮かび頭の角も金色に輝いていた。

 

「漸く戻れたんだ。

アイツらも使ってやらねぇとな。」

酒呑童子は歪ませた空間から巨大な大太刀と漆で塗られ鎖が巻かれた大瓢箪を取り出した。

 

「この大太刀は平安の頃の刀匠である"天国"(あまくに)って奴に作らせた俺専用の太刀である"八咫烏"(やたがらす)だ。

そして、この瓢箪はその時に襲った都で奪ってきた取って置きの品だ。

 

この瓢箪はな俺の呪力と反応するとこんなことが出来るんだぜ。」

 

酒呑童子は瓢箪の栓を抜くとそこから大量の酒が溢れ出し竜の形に姿を変えた。

「久々だな"酔竜"(すいりゅう)....さぁ、暴れようか。」

 

酒呑童子は笑いながらそう告げると大太刀を握り地面に鞘を突き立てると刃を引き抜いた。

青白く光る刀が呪術師達を写し出すのだった。

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