悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十一話 酒呑(下)

酒呑童子は急に戦い方が変わった呪術師を見て困惑していた。

(俺の首を狙っていた武士(時雨)はさっきから爆発する筒を延々と投げ続けてきやがる。

黒い呪術師(ミゲル)は鎌での攻撃をしつつも無理に攻めては来てない。

俺を仕留める気が無いのか?

 

あの()に関しては訳が分からん筒から金属の塊を飛ばしやがる。

しかも、その金属もやけに高い呪力を持ってるから面倒だ。

それに.....)

 

酒呑童子が麗に大太刀を振るおうとすると時雨が煙幕効果を持つ手榴弾を投げつけ麗への視界を遮った。

煙から出ると麗の姿は消えていた。

(まただ。

あの女を殺ろうとすると的確に邪魔してきやがる。

他の二人を殺ろうとすれば女が現れて邪魔を続ける。

 

時間稼ぎとしては優秀な戦法だがそれじゃあ俺は祓えねぇ....そんな事は呪術師達が良く分かっている筈だ。

なら、目的は何だ?

 

援軍を待っている?

それとも武器の調達か?)

 

そうして、思考を続けながらも途中から面倒くさくなったのか酒呑童子は指を噛み血を流した。

「小細工が面倒なんでな。

手っ取り早く潰させて貰う。」

 

酒呑童子は指の血を瓢箪の中に突っ込んだ。

すると、瓢箪から大量の酒が溢れ出すと酒呑童子の全身を包み込み鎧の姿を為していく。

そして、全身を包み込み終わると歯を噛み火花を起こした。

 

酒に火がつくと炎を上げる鎧に姿を変えた。

「んじゃ、喰らいやがれ!」

酒呑童子が腕を振るうと鎧の炎がうねり上がり竜巻となってミゲルの方へ放たれる。

 

ミゲルは黒縄を遠くの木に投げてくくりつけるとそちらの方へ移動する。

すると、先程までミゲルがいた場所が炎に巻き込まれ一瞬の内に焼け野原へと変わってしまった。

 

(何ダ、アノ火力ハ!?)

「少しでも触れれば消し炭になるか。」

 

「あぁ、お前らが時間稼ぎに興じるのは勝手だが....それに付き合う義理もねぇんでな。

隠れてる場所ごと燃やし尽くしてやるよ!!」

 

酒呑童子は周囲に向かって炎の竜巻を放ち出す。

その炎が周囲を焼け野腹に変えていく。

 

「あのままでは隠れている麗殿が危険じゃな。」

「ダガ、マダ一馬カラ武器ガ届イテナイゾ!」

 

「届いてなくても出来ることはあるわい。

ミゲル、銅玄を貸せ。」

「ドウスル気ダ?」

 

「見たところあの炎は瓢箪の酒に引火して強くなっておる。

これだけ炎を使っても衰えてない所を見ると瓢箪と酒を供給している部位が必ずある筈じゃ

そこを銅玄の能力で食い荒らす。

 

とは言え鎌は不得手じゃ、ミゲル、鉄嚼鎚で援護してくれ。」

「ワカッタ。」

 

時雨はミゲルから銅玄を受け取るとわざと目につくように酒呑童子の周りを回りながらながら接近していった。

それを見つけた酒呑童子は時雨にターゲットを移す。

 

走り回る時雨の前に現れると腕を振るい炎の竜巻をぶつけた。

時雨はその攻撃を紙一重で避けると銅玄を振り下ろした。

酒呑童子はその攻撃をわざとその身で受けた。

銅玄の刃が鎧を斬るが斬られた先から瓢箪の酒が溢れ出し補修した。

 

そして、銅玄の刃を酒呑童子は握っていた。

 

「"肉を斬らせて骨を絶つ"だったか?

これで回避も出来ねぇだろう。

まずは一人目だっ!」

 

酒呑童子の振るった渾身の拳が時雨の頭を捕えそうになるがその直後、身体に掛かった強烈な圧により酒呑童子の拳は時雨の脇腹へと当たる。

骨の折れる痛みに耐えながら時雨は酒呑童子の腕に触れた。

 

「うぐっ!....シン・陰流 無手術(むてじゅつ)鯉落とし(こいおとし)!」

 

時雨は酒呑童子の腕を機転に全身の回転を利用して真横に投げ飛ばした。

投げられた酒呑童子はその場で回転して立て直すと地面に着地する。

 

そのタイミングを狙った様に麗の放った弾丸が酒呑童子の目に当たった。

 

「うぐぁっ!」

 

酒呑童子は目を抑え蹲るのを見て好機と捉えた麗は追撃を加えようとするが時雨が叫んだ。

「違う!あれは罠じゃ!」

「えっ?」

 

時雨の警告を麗が聞こえた頃には遅かった。

麗の腹部が真一文字に斬り裂かれる。

「!?」

「言ったろ肉を斬らせて骨を絶つって....まぁ、肉が斬れる程のダメージもなかったがな。」

 

目を抑えていた酒呑童子が平然と立ち上がり人差し指と親指で止めた弾丸を転がした。

 

(あの大太刀で斬られたか!マズイ!)

 

時雨が麗の救援に行こうと油断した隙を酒呑童子は見逃さない。

「二人目....これで仕舞いだ。」

「いいや、まだだよ。」

 

時雨への酒呑童子の接近を一馬の銀隸棍が阻止した。

「遅いぞ一馬!」

「思ったより手間取った....でもキッチリと仕上げたぜ。

おら!使えオッサン!」

 

一馬は時雨に二本の刀を投げ渡す。

それを手に取ると時雨は笑った。

 

「ほほぉ!これ程か!」

「あぁ、その刀なら酒呑童子をぶった斬れる。

後はアンタの技量次第だな。」

 

「ぬかせ小僧。

たが....感謝する。」

時雨が二刀を腰に指す。

その姿を見た酒呑童子は分かりやすく顔を歪めた。

 

「その刀は....」

「そうだ。

あんた達鬼を封印した"鬼切丸"と"童子切"だよ。」

 

「んなもん見れば分かる!

俺が言ってるのはどうして力が戻っているかだ。」

酒呑童子を封印していた二刀は時の経過と共にゆっくりとだが力が衰えていた。

 

だからこそ、酒呑童子は仮に二刀が奪われても勝てると践んでいたのだ。

だが、今、時雨の持っている刀は両方とも全盛期と同じ強さを誇っていた。

 

「特級呪具と呼ばれる物にはそれぞれ作った者の意思や感情が反映される。

鬼切丸と童子切もお前達を封印することを目的としていた。

そして、実際に封印が行われたせいで術式が僅かに緩んでしまっていたんだ。

だから、この呪具の力を補給するには鬼の血が必要だった。」

「じゃあ、お前はどうやってこの二刀を直したんだ?

鬼の血を持った女はずっとここにいただろう?」

 

「俺が人の命を犠牲にして呪具を完成させる訳ねぇだろう。

俺の術式で刀に込められた呪いを改変したのさ。

大量の呪力で無理やり書き換えてな。」

「バカな!?....この二刀に込められた呪力を捩じ伏せて作り替えたとでも言うのかよ。」

 

 

「そうだ。

今のこの二刀はお前達、鬼を確実に祓える様に作り直した呪具だ。」

「なら...試してみようかのぉ。

簡易領域....シン・陰流....断華!!」

 

時雨が二刀を引き抜き放った高速の斬撃が酒呑童子の肩と左の角を斬り裂いた。

身体と角を斬られた事で酒呑童子の余裕は完全に消えた。

 

「うむ....これならお主の首に届きそうじゃのぉ。

さて....では祓うとしようか。」

「ふっ....俺の身体を斬れる刀を手に入れた程度でそんなに喜ぶとはな。

お前達だけで何が出来る?」

 

酒呑童子の問いに一馬が答える。

「俺らだけじゃねぇよ。

それに...援軍ならもうすぐ来る。」

 

すると、天井に張っていた結界に凄まじいダメージが起き空間が歪んだのを感じた。

酒呑童子が張った結界だったので反動により痛みを受ける。

 

「くっ!?」

「あー、やっぱり結界に入ったダメージ程度じゃ殺れねぇか。

今のダメージはお前が最初に散々俺達に与えてきた物だ。」

 

一馬が皆の回復に使った呪具である金華釣はダメージや病を釣り上げて完治させる能力があったがそのダメージは呪具に蓄積される欠点もあった。

 

「本来ならばダメージを溜め込むだけの呪具だが俺の生得術式を"反転"させることで呪具の特性を"逆転"させられるんだよ。」

ダメージの吸収を反転させれば放出となる。

金華釣で釣り上げたダメージを反転させて酒呑童子の結界へと放出したのだ。

 

(だが、この程度のダメージでは俺の結界は壊れねぇ。)

 

そう考えている酒呑童子の思惑はいとも簡単に崩れ去る事となる。

結界の外から増大する呪力が関知されるとその呪力は酒呑童子の結界を"捻り切った"のだ。

 

空いた穴から二人の人間が入ってくる。

それを見た一馬が言った。

「結界にダメージを与えたのはここの位置を教える為だ。

ほら...援軍の登場だ。」

 

地面に着地した"加茂 賢尺"と"五条 三ツ木"が一馬に目を向けた。

「おっ!生きてて安心したよ一馬君。」

「存外無事な様だな.....!?

麗はどうしたんだ!」

 

腹から血が出ている麗を見て賢尺は驚く。

「酒呑童子にやられたのじゃ....」

時雨の言葉に被せる様に一馬が言った。

「麗さんは俺が治します。

その間、酒呑童子を任せても良いですか?」

 

「....良いだろう。

行くぞ三ツ木。」

「ありゃ?賢尺、喋り方、昔に戻っとるよ?」

 

賢尺は怒りを三ツ木は飄々としながら酒呑童子と対峙する。

それを見送ると一馬は麗や他の物達の治療を行うのだった。

 

 

酒天童子をみつめながら賢尺が尋ねる。

「貴様か.....」

「お前達が奴の言っていた援軍と言う訳か.....まぁ、どんだけ強かろうと俺には敵わねぇ。

怖ぇのはあの武士が持ってる刀だけだ。

 

丁度良い....お前ら二人をさっさと殺して奴等に絶望を味合わせてやるよ!」

 

酒呑童子がそう言うと賢尺の目の前に行くと大太刀を袈裟から振り下ろした。

何時もの様に肉と骨を断つ感覚が手に来るのを待つ酒呑童子だが、訪れたのは太刀に起きた嫌な感触だった。

 

酒呑童子の大太刀は確かに賢尺の肩に落とされていた。

だが、実際に傷付いたのは賢尺では無く大太刀の方だった。

賢尺に触れた部分の刃が潰れヒビまで入っていた。

ヒビが入った太刀を賢尺は握ると酒呑童子の顔面を殴り付けた。

 

ズガン!

 

人が振るったとは思えない拳の堅さと重さに酒呑童子の首が吹き飛びそうになる。

「がっ!?」

「一発で首が吹き飛ばねぇとは....厄介だなっ!!」

 

賢尺は何時もの口調をかなぐり捨てた言葉で大太刀を自分の方へ引き寄せると酒呑童子の顔面をもう一度、殴ろうとした。

 

酒呑童子はそれを紙一重で回避する。

しかし、賢尺はそれを読んでおり酒呑童子の腹部に膝蹴りを行った。

 

回避が間に合わないことを理解した酒呑童子は自分の腹部に大太刀を滑り込ませて盾とした。

だが、賢尺は大太刀ごと酒呑童子の腹を蹴り上げた。

 

賢尺の蹴りは大太刀を砕き折り酒呑童子の腹に深々と突き刺さった。

「ガファ!!」

酒呑童子は吹き飛び背後の山に激突する。

 

蹴られた腹部を抑えながら酒呑童子を睨む。

(バカなっ!!俺の皮膚どころか太刀もへし折るなんてどんなパワーしてやがる。

 

いや、それ以前に奴の体はどうして無事なんだ?

普通ならダメージどころか相手の骨が持たねぇ筈なのに....)

 

 

加茂 賢尺は赤血操術の中で最も得意としているのは血液を加圧して限界まで圧縮する"百斂"(びゃくれん)と言う技を得意としていた。

 

賢尺はこの百斂を使い体内の血を限界まで加圧していた。

その状態で体内の血液を増やし続けた結果、通常の血液よりもあらゆる成分の含有量が5~10倍以上増大した血液を手に入れていた。

 

その中でも鉄分が一番多く、それを使い行う身体強化の技である"赤鱗躍動"(せきりんやくどう)は人間としての肉体の限界を簡単に超えてしまった。

 

結果、賢尺の身体は地球上のどんな物質よりも硬くその身体から発揮される力は鋼鉄すらも簡単にねじ曲げられる程となってしまった。

 

(故に日常生活ではその力をもて余す為、賢尺が使う道具は全て金属製となっている。)

 

 

故に禅院 直毘人が"最速の術師"と呼ばれる様に賢尺にも異名がある。

"最硬の術師".....賢尺は加茂家当主として相応しい力を示していた。

 

賢尺の戦いを見ていた三ツ木が扇子を開きながら言う。

「おぉ、やっとるねぇ賢尺。

けど、一人だけ楽しむのはズルって感じじゃない。

僕もカッコつけさせて貰うよ。

球核術式(きゅうかくじゅつしき)......黒玉(くろだま)。」

 

三ツ木が術式を発動すると彼の扇子に黒い玉が三つ現れる。

三ツ木は扇子を傾けて左右に玉を転がすと酒呑童子に向けて放った。玉は酒呑童子に当たらず酒呑童子を囲む様に配置された。

 

(あの黒い玉、近くにいると危険か?)

 

酒呑童子は賢尺に炎を吐きつけると飛び上がり距離を取ろうとする。

 

「させんよ?

止めよ黒玉。」

三ツ木が扇子を振るうと酒呑童子を囲う黒玉から同時に引力が起こり酒呑童子を身体を縛り上げた。

 

「ぐっ!こ.....のっ!」

「どんだけ暴れても無駄だよ。

この玉にはブラックホールレベルの引力が封じられている。

僕の球核術式はその玉にかかる引力に指向性を持たせる事が出来る。

 

今、君の身体にはブラックホール三つ分の引力でその空間に固定している。

さて、問題です。

空中で動くことの出来ない君はこれからどうなるでしょうか?」

 

三ツ木の問いの答えとなる様に服が燃えながら賢尺が空中で制止する酒呑童子に向かう。

「!?」

「こんな火で俺の身体は燃やせねぇ。

トドメだ。」

 

「ぐっ、酔竜!」

酒呑童子は瓢箪から酔竜を呼び出そうとする。

しかし、その瓢箪に時雨が刃を突き立てた。

二刀の刃が瓢箪の硬質な表面を貫通する。

 

「ワシの事を忘れるとは....その瓢箪貰うぞ?

シン・陰流 乱柳!」

時雨の斬撃は瓢箪を細かく斬り裂いた。

 

呪具が破壊された事で賢尺に向かおうとしていた竜は酒の姿へ戻る。

それを驚愕した目で見ていた酒呑童子の隙を賢尺はついた。

 

大太刀すらへし折る腕から放たれる両手の抜き手は酒呑童子の両肩を打ち抜きそのまま引き千切った。

両腕を無くした酒呑童子が地面へ落ちるのだった。

 

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