悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十二話 終宴(上)

 

賢尺に両腕を落とされた酒呑童子が地面に落ちると息を吐きながらも立ち上がった。

 

「それでまだ立てるなんて流石は特級呪霊だねぇ。」

 

感嘆する三ツ木だったがそれとは裏腹に酒呑童子の身体に流れる呪力がゴッソリと減っていることに気付く。

(賢尺の猛攻を受けて呪力が残っているだけでも凄いがこれで終わりだろう。

あの呪力で僕達から逃げることは不可能だしね。)

 

戦いの終わりを感じていたのは酒呑童子も同じだった。

(クソッ!呪力を消費しすぎた。

あの人間(賢尺)を舐めたツケか....

こっから逃げるにしても状況が悪いな。

はは....この俺が...人間の頃、鬼と言われた俺が逃げるか......)

 

酒呑童子は人であった頃、誰よりも敵を殺してきた。

死線を何度も潜り抜ける事に達成感と満足感を得ていた。

しかし、呪霊となり酒呑童子となってからは死線を潜り抜ける経験は全く無くなった。

 

槍も弓矢も酒呑童子の身体を傷付ける事は出来ず敵を殺すのも一瞬で終わるまるで作業の様な戦....いや虐殺しかなかった。

 

何時しか俺は自分ではなく妻や子が殺戮をするのを見る機会が増えていった。

呪霊になった今では心が揺さぶられる死線は訪れないと思っていた。

 

そのぬるま湯に浸かった期間が酒呑童子に逃げると言う選択肢を与えた事実を気付き、彼は怒りと興奮を同時に感じていた。

 

 

逃走と選択をしようとした自分に対する怒り.....

 

過去に待ち望んだ死線が漸く現れた興奮.....

 

「ふはっ!ははっ!あはははははっ!!

 

酒呑童子は狂った様に笑い出した。

 

「急に笑い出した....何?どうしたの?」

三ツ木の問いに酒呑童子は答える。

「いやはや、自分の不甲斐なさに笑えてきたんだ。

だが、もうそんな事はどうでも良い。」

 

「まだ殺る気か?」

「当然だろう!

漸く、死ぬかもしれない死線を取り戻したんだ!

あぁ、そうだこれだわこれっ!!

何時死ぬかも分からず心がすり減っていくこの感覚っ!

 

礼を言うぞ今世の呪術師達よ。

そして、見せてやろう平安を生きた....武士の力を」

 

「"領域展開".......鬼炎万雷!!(きえんばんらい)

 

領域展開を発動した酒呑童子は両断された肩から大量の炎が巻き上がる。

そして、その炎が酒呑童子の全身を包み込むと炎の色が白く変わり鎧の形を形成していく。

 

その炎は酒呑童子の失った両腕を象ると折れた大太刀を拾い上げる。

すると、拾い上げた大太刀も炎が包み込み新たな刀身が出来上がると右肩に背負った。

 

酒呑童子から溢れ出る炎を見て三ツ木と賢尺の額から汗が流れる。

「どうしたん?

随分とヤル気になってるみたいだけど」

「何....思い出しただけだ。

命を惜しんで戦うなんて楽しくもなんともねぇ!

命を燃やし殺しあった先に真の闘争の愉悦がある。

 

だから、これから先が本当の死闘だ。

さぁ、殺ろうぜ呪術師ども!

ギリギリの戦いを楽しもうじゃねぇかっ!」

 

酒呑童子は狂喜の表情を浮かべながら賢尺に襲い掛かる。

酒呑童子の振り下ろした大太刀を回避すると顔面を殴る。

だが、殴られた酒呑童子は口から血を流しながらも笑顔で斬りかかってきた。

 

防御を完全に捨てた攻撃は素早く賢尺の頬を刃が捉えた。

斬られた頬から炎が巻き上がるが賢尺は冷静に頬の炎を払った。

 

しかし、賢尺の頬にはこれまでと違い刀傷と火傷の後が残っていた。

「さっきまでと同じ炎じゃねぇな。」

賢尺の推測を酒呑童子は否定する。

「いんや、ただ火力が違うだけさ。

呪力を元に燃え上がる俺の炎は下手すれば俺の身体すら燃やし尽くしちまう。

 

だが、そのレベルの火力なら俺よりも硬い身体を持つお前を突破出来ると思ってなぁ....」

 

酒呑童子はこれまで自分の身を燃やさないようにセーブしていた火力を解放した。

結果、今彼の身体に纏っている炎は全ての呪力を燃やし尽くす地獄の業火へと変わっていたのだ。

 

その炎で研ぎ澄まされた大太刀も強化されており、今の大太刀の切れ味は賢尺の身体を断てる程、研ぎ澄まされていたのだ。

 

だが、それだけの火力を放つ領域展開にも当然、弱点がある。

(ぐっ!....骨が肉を超えて骨まで焼けてきやがったか。)

 

酒呑童子の身体は自ら作り出した白炎に現在進行形で焼かれていた。

肉体を焼かれ呪力が消えていく度に酒呑童子を覆う白炎が強さを増していく。

 

その炎を肌で感じる酒呑童子の心は歓喜していた。

(あぁ、これだ。

自分が消えるか相手が死ぬかのギリギリの戦い。

これこそが俺の求めていた闘争だ。)

 

酒呑童子は賢尺に太刀を振るう。

しかし、今度は賢尺は離れて回避する選択を取った。

「おいおい逃げんじゃねぇよ!

折角の戦だぞ!」

追おうとする酒呑童子の前に三ツ木の黒玉が設置された。

 

「止めよ黒玉。」

 

三ツ木の力で酒呑童子の肉体がまた固定される。

「ぐっ!....ははっ!まだまだぁ!!」

 

酒呑童子は両腕を炎に戻すと黒い球体の一つを炎で包み込んだ。

「なっ!?」

「これも要は呪力による産物だ。

なら、俺の炎を集約すれば燃え消える。」

 

酒呑童子の言うとおり炎に包まれた黒玉は呪力を燃やすその力に負けて消失してしまった。

「ブラックホール消すとかあの炎ヤバイなぁ。」

 

三ツ木は口では軽薄に答えながらも内心では焦っていた。

 

ブラックホールを作り出す球核術式は一見、最強の術式に見えるが弱点がある。

一つはもし、ブラックホールが消滅すれば消失したブラックホールを再展開するのに数週間の時が必要となる。

 

つまり、現状三ツ木が展開できるブラックホールは2つしかなくそのコントロールも難しかった。

ブラックホールは凄まじい力で吸い込み続ける虚構の穴の様な存在だ。

 

三ツ木程の術師でも完璧にコントロールは出来ない。

故に三ツ木は展開したブラックホールを三つ並べる事で互いの引力を使いコントロールをしていたのだ。

 

(2つの黒玉を展開し続けられるのは30秒が限度....それ以上はコントロールを失って暴走してしまう。

だが、その30秒であの酒天童子を祓えるか?

 

見たところ酒天童子に斬られた賢尺を身体に傷が出来ている。

....つまり、今の酒天童子に賢尺の盾は通じてない事を意味している。)

 

手をこまねいている三ツ木を他所に攻めに転じてくる酒天童子の攻撃を賢尺は何とか捌いていく。

だが、攻撃は避けられても炎からは逃げられず賢尺の両腕には大きな火傷が目立ち始めてきた。

 

賢尺は火傷の痛みに耐えながら反撃の機会を探る。

そんな時、鉄嚼鎚を握った一馬が現れると呪具の力を発動する。

 

一馬から大量に送り込まれた呪力により発動した重力攻撃は酒天童子の身体を数秒押し留めた。

そのチャンスを逃がすかと言わんばかりに一馬は領域展開を発動した。

 

「領域展開.....無限転域」

 

一馬を中心として広がった呪力が酒天童子に触れると彼の身体が変質していく。

何時もの呪霊相手や蝕の様な意思の薄い呪霊ならこれで終わっていただろうが目の前で戦っている呪霊は特級クラスの武士だった。

 

「しゃらくせぇ!」

 

酒天童子は変わっていく全身を業火で包み込むとそのままの勢いで一馬に接近し岩山へと蹴り飛ばした。

脇腹を蹴られた一馬の身体から骨が折れる音が響く。

 

「ぐふっ!」

 

口から血を吐きながら岩山に激突する一馬。

その姿を見た時雨とミゲルが酒天童子に襲い掛かる。

 

「簡易領域....シン・陰流 二刀"断華"!!」

時雨の振るった必殺の抜刀を酒天童子は全身をしなやかに動かし回避する。

そのまま、片足を上げると時雨の背中に振り下ろした。

 

「がっ!?」

「二度も見れば返しの一つや二つは思い浮かぶ。」

 

「喰ラエ!」

時雨を蹴るその隙にミゲルが銅玄と黒縄を振るう。

黒縄が酒天童子の腰に巻かれた事で両腕となっていた炎が霧散し銅玄の刃は酒天童子の首に深々と突き刺さる。

 

酒天童子の口から血が漏れるが気にする素振りを見せず腰に巻かれた黒縄を口で咥えると全身に巻き付ける様に動いた。

 

ミゲルは黒縄に引っ張られる形で酒天童子に急接近すると酒天童子はミゲルの胸部にヘッドバットを放った。

呻き声を上げながら地面に倒れたミゲルは握っていた黒縄を放してしまう。

 

(胸骨ガ砕カレタ!?

.....立テナイ。)

 

そして、時雨も刀をもって立ち上がろうとするが起きることも出来なかった。

(背骨をやられたか....動けん。)

 

岩山に飛ばされた一馬も動けないながら反転術式で身体を回復させながら先程の一件を分析していた。

 

(あの...野郎!?...無限転域で自分が完全に呪具に変わる前に俺を吹き飛ばして領域範囲外まで押し出しやがった。

一級呪霊なら、抵抗できずに呪具に変えられたが特級は違うってことか。

 

領域展開をもう一度発動することは出来るがやった所で二の舞になるだけだ。

無限転域よりも早く正確に酒天童子を呪具にするしかねぇ。)

 

一馬の領域展開である無限転域は呪霊を触れて呪具に変える呪具転生の術式を触れずに展開した呪力に触れた相手を問答無用で呪具と化す能力だ。

 

しかし、無限転域で発動する力が呪具転生と同じかと言われればそうではない。

呪具に変える際の精密な呪力操作をある程度簡略化しているのだ。

 

現在の無限転域は呪具転生の95%の精度で発動していた。

つまり、それで呪具化出来ないのであれば100%で行える呪具転生を使うしかなかった。

 

(だが、呪具転生は対象に触れないと発動しない。

あのバカみたいな炎を何とかしねぇと俺が触れる前に御陀仏だ。)

 

一馬は反転術式で動けるまで回復すると銀隸棍と金華釣を背負い酒天童子達の元へ戻る。

そして、酒天童子に倒されている時雨とミゲルを見つけた瞬間、即行動を起こした。

 

金華釣の釣り針を時雨とミゲルに付ける。

能力でダメージを吊り上げながら銀隸棍の磁力を使いた加速を使い分割した棍を酒天童子に放った。

凄まじい衝撃を酒天童子は受けるがケロっとした顔で撃ち放たれた棍を握る。

 

酒天童子の炎により棍は燃え上がり力を失ったのか地面に落ちてしまった。

(銀隸棍に注ぎ込んだ呪力ごと消されたか。)

「だが、目的は達したぞ。」

 

全快した時雨とミゲルが立ち上がる。

それを見た一馬は呪具を捨てると酒天童子の元へ真っ直ぐ走っていった。

一馬の考えを理解したミゲルは落ちていた黒縄を拾うと酒天童子に向けて放ち縛り上げようとする。

 

当然回避しようとする酒天童子だがそれを止めたのは賢尺だった。

賢尺は酒天童子の足に組み付くと時雨の渾身の二刀が酒天童子の身体を斬りつけた。

 

無論、それで止まるとは思ってない時雨は刀を捨てると酒天童子の首を締め上げる。

「邪魔だっ!...人間っ!」

 

酒天童子は炎を放ち二人を燃やそうとする。

しかし、ミゲルの放った黒縄は酒天童子の腰に結ばれており炎の術式が乱され無効化された。

 

皆が作り出した一瞬の隙により一馬は酒天童子の身体に触れた。

「!?」

「転魂術式....呪具転生!!」

 

一馬の術式が酒天童子に送り込まれていく。

「しゃらくせえ!!」

酒天童子は呪力を解放し一馬以外の人間を吹き飛ばした。

そのせいでミゲルが使用していた黒縄も酒天童子の身体から離れてしまう。

 

その瞬間、一馬の身体を酒天童子の炎が包み込んだ。

「アギ.....ア....!?」

「燃え尽きちまえ!」

 

酒天童子は火力を上げて一馬を消し炭にしようとするが一馬は反転術式で身体を再生させながら酒天童子を睨み付ける。

「な...めん...なっ!

テメェは.....ここ....で....呪具にしてやる!」

「上等だっ!ここで死ねぇ!現代の術師!」

 

一馬が呪具にするのが先か酒天童子が燃やし尽くすのが先か酒天童子は一馬の術式から抗う為、術式の解除と一馬を燃やすのに集中してしまった。

 

故に気付くのが遅れてしまったのだ。

背後を這いずる様に現れた麗が時雨の落とした刀を拾い背後から酒天童子の心臓を刺した事に.....

 

「がっ!....テメェ...は」

「もうこれで....終わりよ。

私達の家系が負ってきた長い歴史も....」

 

麗の行った攻撃は酒天童子を祓うレベルの一撃ではなかった。

呪霊にとって心臓は急所足り得ない。

集中している酒天童子が相手ならば致命傷とすらならない攻撃。

 

だが、今このタイミングでの一撃は酒天童子の意識に一瞬の隙を生じさせた。

その隙に一馬の術式が入り込んでいく。

 

術式が身体を満たすと酒天童子の仕掛けていた結界が崩壊する。

焼けただれた大江山の大地の上で全身火傷だらけの一馬は一本の日本刀を持っていた。

 

黒い刃が光る刀を見つめる一馬。

「はぁ...はぁ...これで...終わり....だ。」

刀を見つめながら一馬は意識を手放した。

 

こうして一馬は2個目の特級呪具をその手に納めるのだった。

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