悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十三話 別れ(上)

 

大江山から帰って来た一馬は一息つくとそれといったトラブルもなく御三家からの依頼もなかった事から手に入れた呪具の習熟と甚爾との訓練で時を過ごしていった。

 

気付いたがやはり甚爾は武術だけでなく呪術の理解度に関しても天賦の才を持っていた。

源吾から指導された呪力武術で遂に免許皆伝を手にしたのだ。

 

「ワシも驚きましたが甚爾様の才能は私が見てきた中でも素晴らしいものでしたな。」

それを聞いた一馬は不服そうな顔をしながら顔を絆創膏を貼っていた。

隣にいる甚爾は一馬を見てニヤけている。

 

ついさっきも甚爾と一馬は戦闘訓練をしていたのだ。

「そうイラつくなって一馬。」

「別にイラついてねぇし.....」

 

大人げないとは思いながらも一馬は不服そうな顔をする。

一馬も甚爾も年齢的には大人になっていた。

二人とも呪術師として沢山の功績を残しており"悪童"の通り名も今となっては有名となりつつある程だった。

 

互いに等級も上がり甚爾は"二級"、一馬はその能力から"特級"に一時的に分類された。(国家転覆レベルの呪具を作れる事から)

 

苛立っている一馬を源吾が宥める。

「仕方ありませんぞ一馬様。

甚爾様の武芸は既に達人の域を越えております。」

「んな事は分かってるけどよ。

だからってボコられてイラつかねぇ訳じゃねぇよ。」

 

甚爾は既に徒手空拳だけでなら一馬に圧勝できるレベルまで強くなっていた。

「でもよ一馬。

呪具ありだと俺との戦績は良い分になるじゃねぇか?」

「そりゃ、そうだろ。

俺の呪具は1級クラスだぜ?

て言うかお前の使ってる呪具は精々、3~4級だろう?

それで五分五分だと何かモヤるんだよ。」

 

「そりゃ、俺の戦闘スタイルだと武器は使い潰しが前提になっちまうからな。」

甚爾が武器術に関しても達人クラスの強さだが弱点として武器の耐久力に甚爾の力がついていかない。

 

刃物を使えば二降りで刃に亀裂が入り棍棒に至っては強く握っただけで折れてしまう。

そんな甚爾にとって武器は使い捨てが前提であり大量の呪具を使い潰しながら戦うのが彼のスタイルとなっていた。

 

「でもよ甚爾。

いくらお前が強いからって武器を使い潰して良いなんて考え方じゃ何れ足元掬われるぞ?」

「....まぁな。

雑魚相手ならそれで行けるがお前みたいに特級を相手にしようってなら信用できる武器がいるな。」

 

「おっ!なら武器は俺が揃えてやるよ。」

「"捨餓螺家最高の特級呪具師"であるお前が二級の俺に随分なサービスだな。」

 

「あんなもんは頭の固いジジィどもが付けた勝手な枠組みだろ?

現にお前に俺は歯がたたねぇ....それにんな事、お前は気にしてねぇだろ?」

「まぁな。

....じゃあ、楽しみにさせて貰うわ。」

 

「もう行くのかよ甚爾?」

「あぁ、家からの依頼でな。

これから遠出だ。」

 

「大丈夫だとは思うが気を付けろよ。」

「おう、行ってくる。」

 

 

それが...."甚爾を見た最後"だった。

 

禪院家から捨餓螺家に連絡が入る。

『禪院 甚爾は禪院家から"出奔"しました。』

「.....は?」

 

『つきまして捨餓螺家との今後の付き合いですが...』

「おいちょっと待て....出奔ってどういうことだ?」

 

『お話しした通りです。

つきましては今後について話し合いたいので捨餓螺家には一度、禪院家に入らして...』

そこで一馬は携帯を切ると急いで甚爾に連絡する。

 

「さっさと出ろよ甚爾!」

怒りながら連続で連絡していると甚爾に繋がった。

『あ?一馬じゃねぇかどうしたんだ?』

「そりゃ、こっちの台詞だ!

禪院家で何があったんだ!」

 

『あー.....目的の場所に行ったら呪術師に殺されかけた。』

「んだとそれ?」

 

『大方、俺の存在が疎ましかったんだろうな。

まぁだからって本気で殺しに来るとは俺も思ってなかったけどな。』

「お前、無事だったのか?」

 

『あぁ....だが手加減して何とかなるほど甘くなくてな。

襲ってきた奴等を"皆殺し"にした。』

「!?」

 

呪術師を殺したとなればどんな扱いを受けるかは分かりきっている。

「甚爾、直ぐに家に来い。

ここからお前を匿える。」

『そうは行かねぇ....お前にも立場があるだろうが』

 

「んなもん知るかよ!

ダチ守れねぇなら意味がねぇよ。」

『相変わらずだな一馬。

俺みたいな呪力の無い奴が術師を殺したとなれば普通、連絡どころか禪院家に通報しても可笑しくねぇ。

それなのにお前は俺もまだ守ろうとするんだな。』

 

「何が言いたいんだ?」

『一馬、俺はな....ずっと"後悔"してんだ。

ガキの時、お前が特級呪霊に連れていかれるのを俺は止められなかった。

ダチ一人守れねぇでずっと頼ってばっかりだ。

だから、俺はこっから一人で生きる。

お前と本当の意味で並び立てるって...そう思えるまでな。』

 

「甚爾.....」

『心配すんな。

俺は死なねぇよ。』

 

「んな事、知ってるよ。

お前程、信用できる呪術師もいねぇからな。」

『...じゃあな一馬。』

 

そう言って電話が切られると一馬の声を聞いて急いできた二虎と源吾が一馬を見つめていた。

 

「兄さん....」

「一馬様。」

 

「悪い二人とも.....本当ならここで動かねぇのが正しいんだろうがどうも腹の虫が収まらねぇ。」

一馬の言葉を聞き二人は悟る。

 

「行くんだね兄さん。」

「あぁ....最悪の場合も考えて俺の事は捨餓螺家から」

 

「そんな事しないよ兄さん。

僕にとっても甚爾さんは大切な人だった。

だから......」

「あぁ、任せろ。

源爺、ちょっと無茶な頼みをして良いか?」

 

「ほっほっほ...一馬様の無茶振りにはもう慣れっこですよ。」

「それもそうだな。」

 

「それに....彼も"私の弟子"ですから少しは怒りもありますしね。」

「それじゃあ....行こうか。」

 

 

「"禪院家"に殴り込みかけるぞ。」

 

 

 

 

 

 

「これはどういうことだ扇?

事の次第によってはいくら弟でも許せんぞ?」

直毘人が弟の扇を睨み付ける。

それを見て扇は動揺を隠せないでいた。

 

「兄者....誤解だ。」

「ほぅ、誤解と来たか。

お前が先導して甚爾を襲わせた事実はとっくに調べがついている。

止めようとして間に合わなかったがな。」

 

直毘人は甚爾が禪院家に嫌われている事に気付いていた。

だが、それでも甚爾はそこら辺の禪院の呪術師と比べれば圧倒的に強かった。

そして、本人の気質もあってこれまで無視されていた。

 

だが、今回起こした事態は明らかにその度合いを越えていた。

甚爾は襲ってきた"呪術師"を殺してしまった。

如何なる理由があろうと今の呪術師界では許されない事だ。

 

「あやつは強くこれから先の呪術師にとって必要な存在だった。

それなのに何故、呪術師を差し向け殺される様な事態を作った?」

「私はっ!殺させるつもりで仕向けた訳ではない。

兄者も分かっているだろう!

禪院家はこれまで呪力と術式に重きを置いていた。

その中で甚爾は異質だ。

 

呪力を全く持たないのに呪霊を祓う事が出来る。

高々、強化された身体能力だけでだ。

アレは禪院家の歴史を否定する存在なのだぞ!」

 

「否定だと?馬鹿者!!

禪院にとって重要なのは力じゃ!

呪霊を祓う力があるのならどんな人間でも取り込んできたそれが禪院の本当の歴史じゃろうが!」

「!?」

 

「どちらにしても今回は非常に不味い。

"ヤツ"の事だ甚爾にした所業について直ぐに調べをつけるだろう。」

「ヤツ?...兄者は一体何を」

 

ドゴン!

 

そう話していると外から凄まじい轟音が聞こえた。

「!?」

「やはり来たか。」

 

そう二人で話していると使用人が急いで部屋に入ってきた。

「ほっ!報告致します。

捨餓螺 一馬が武器を持ちながら此方に向かってきています!!」

「!?」

「だろうな。

仕方あるまい....躯倶留隊(くくるたい)を向かわせて足止めをさせろ。

ワシが直に赴く。」

 

「えっ?」

「怒りの理由は分かる。

話して納得するかはさておき当主であるワシが出なければ話しになるまい。」

 

「ですが!」

「納得しないのならば扇....お前に責任を取って貰う事になる。

故に共に来い。」

 

そうして直毘人も扇は暴れている一馬の方へと向かうのだった。

 

 

「何だ....これは!?」

扇は目の前の現状に驚愕していた。

足止めとして向かわせた躯倶留隊だったが無傷な者は誰もいない。

 

全員、血塗れか爆発を受けて肉が抉れていた。

隊長である"禪院 信朗"(のぶあき)に関しては両手足が完全に吹き飛び達磨状態になっていた。

 

そして、一馬の目の前では大きな鎌に腹を地面ごと刺されている"禪院 甚壱"の姿もあった。

 

捨餓螺 一馬っ!?何故貴様がここに!」

 

扇の声を聞いた一馬は冷たい目と霊力を扇にぶつけた。

その濃密で冷たい目と雰囲気にに扇は覚えがあった。

(これは....殺気だ。

間違いない捨餓螺 一馬は私を殺しに来たのだ!)

 

恐怖から反射的に刀に手を置く扇の肩に直毘人が手を置いた。

「兄者....」

「落ち着け扇。

先ずは話をしてからでも遅くはないだろう。」

 

そう言うと直毘人は何時もの様な機嫌で一馬に話し掛ける。

「久しぶりじゃな一馬っ!

そんな殺気立ってどうしたのだ?」

「今日は呑気に話すつもりはねぇぞ。

あんたが甚爾に対して怨みがねぇのは知ってる。

今回の一件はそこに隠れてる扇の仕業だろ?」

 

「.....流石は捨餓螺家。

余計な隠し事は出来ねぇみたいだな。」

「用件は一つだ。

扇をここに出せ。」

 

「出して....どうする?」

「"ボコす"。」

 

「がっはっは!単純な答えじゃのぉ。

....安心したわ。

おい、扇!お主の指名じゃぞ。」

「兄者!?」

 

「一馬が言ったじゃろう?

奴はお前をボコす事で今回の"落とし前"をつけると言っている。

それで済むのなら安いものだ。

お主もそろそろ...."現実"を理解するべきだろ。

さぁ、扇。

一馬とやりあってくると良い。」

「くっ!?....兄者がそう言うのなら良いだろう。

捨餓螺 一馬!これ以上の狼藉は許しておけぬ。

私がお前に各の違いを教えてやろう。」

 

扇は日本刀を抜くと術式を発動して刀に炎を纏わせて構えようとするが突如感じた危機感から刀で顔を守るように構えた。

 

瞬間、扇の身体が吹き飛び壁に激突した。

それを見ていた信朗が驚愕する。

「な...んだ?今の...攻..撃か?」

信朗は一馬の放った攻撃が見えなかったが直毘人はその仕掛けを理解した。

 

「"速いな"。

あれを止めるならばワシも少しは本気を出さねぇとキツそうだ。」

壁から抜け出てきた扇が言う。

「兄...者」

「気を抜くな扇。

まだまだこれからだぞ?」

 

「!?」

一馬が銀隸棍を振りかぶり扇の顔面に振り下ろす。

間一髪の所で扇は刀を差し込みその攻撃を止めた。

「貴様っ!」

 

扇は棍を弾き反撃を行おうとするが刀に掛かる重量が増えそれを支えるので動きが止まってしまう。

「くっ!?」

「やっぱり"弱ぇな"....お前。」

 

「何...だと!?」

「甚爾と何度も戦ったから分かる。

お前程度じゃ甚爾を殺れねぇだろ?

だからこそ、他の呪術師を使った。」

 

一馬は話しながら棍を三つに分離させると両サイドから扇を挟む様に分離した棍が向かっていった。

扇はバックステップして攻撃を回避するがその動きは一馬に読まれていた。

 

一馬は三つに分離させた棍を間隔を空けて前に二つ配置する。

「呪力武術 剛流..."奥義"獅子討ち(ししうち)

 

一馬は棍を持った手を引き勢いを込めて前方の棍を打ち抜いた。

「"ガウス加速機"って知ってるか?

磁石と鉄球を使った実験でな。

磁力を使って鉄球を高速で撃ち出せる...俺はこれを銀隸棍を使い再現した。

 

呪力による反発力と俺の呪力武術の破壊力を二乗して放つ技....止められるもんなら止めてみろ。」

 

一馬の放った一撃は棍を通して威力が爆発的に膨れ上がり前にあった棍の先端が扇へと飛び出した。

極限まで加速した棍は空気を切ると一瞬の内に扇の元へ辿り着く。

 

だが、扇も対策をしていた。

扇も直毘人と同じく領域展開の対抗策である"落花の情"を使えた。

自身を覆った呪力の膜に接触した攻撃に自動反撃を行う呪術、

 

最初の攻撃を受けてから扇は落花の情を発動していた。

(奴の攻撃がいくら速かろうと落花の情があればカウンターが取れる。

後はこの一撃を止めれば勝てる。)

 

扇の発動した落花の情に反応があると自動的に刀を振るった。

振るった刀が放たれた棍とぶつかる。

その瞬間、扇の刀から凄まじい炎が上がった。

 

焦眉之赳(しょうびのきゅう)....この武器ごと叩き斬ってやる!」

 

扇の技と一馬の技、普通ならば一馬に勝ち目など無い。

 

扇は腐っても長年呪術師として戦ってきたベテランであった。

 

だが、そんな事実すら簡単に覆すのが"呪力の恐ろしさ"でもある。

扇の刀は棍と激突した瞬間、真っ二つに折れ刀を握っていた扇の右肩を抉り抜いた。

 

「ガァァァッ!!...うっ腕がっ!?」

 

扇は皮膚一枚でギリギリ繋がっている肩を抑えながらのたうち回った。

一馬はその姿を虫を見るような目で見つめる。

 

扇の技を破れた理由は単純だ。

一馬はこの攻撃に"自分の呪力だけでなく御霊の壺の呪力の大半"を注ぎ込んだのだ。

 

純粋な呪力による差は攻撃だけでなくそれを放った武器にすら適応し扇の刀をへし折り肩をぶち抜く結果となった。

 

一馬は銀隸棍を元に戻すとのたうち回る扇にゆっくりと近づく。

そして、目の前に来ると銀隸棍を扇の頭部に思いっきり振り下ろした。

 

「ひっ!」

「そこまでじゃ一馬。」

 

一馬の銀隸棍は怯える扇に当たる前に現れた直毘人の手により防がれる。

 

(あの距離からここまで一瞬の内に詰めてきやがった。

これが最速の術師の本領って訳か。)

「お主は扇をボコすと言った。

だからこそ、この戦いを許可したが殺すと言うのならば今度はワシが相手になるぞ。」

 

その言葉を聞き睨み会う二人。

互いの呪力がぶつかり空気が揺れた。

 

(これ以上は無理だな。)

一馬は呪力を抑えると銀隸棍をしまう。

それを見て直毘人も警戒を解いた。

 

「用は済んだ。

俺は帰る....問題にしたいなら好きにしろ。」

「問題になぞしたら残りの御三家から文句が出るわ。

だが、この人的被害は何とかして貰わんとなぁ。」

 

一馬はポーチから術式で縮小した金華釣を取り出すと呪具の術式を発動した。

 

周囲の怪我人全員にに釣り針がかかり引き上げると倒れていた全員の傷が完治する。

扇の腕も完治させると一馬は言った。

 

「これで文句はねぇだろ?」

「うむ。

世話をかけたな一馬。」

 

一馬は返事をすることなくその場を後にするのだった。

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