悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十三話 別れ(下)

【禪院 真希の記憶】

 

禪院 真希は目の前で起こっている惨劇を見て思考が止まってしまっていた。

急に躯倶留隊の集合命令を受けて正門に集められた私達が最初に見たのはデカい爆発だった。

 

その爆発で正門が壊されると中から一人の男が現れた。

(誰だあの男?)

真希が現れた男に注視する。

(呪力はそこそこ....あの動きは武術を何かやっているのか?

てか、禪院家にカチコミかけるなんてどんな神経してんだよ。)

 

そうしていると躯倶留隊の隊長である禪院 信朗が前に出ると尋ねた。

「お前は、"捨餓螺 一馬"だな?

正門爆破しやがって何の用....!?」

 

信朗がそう言って訪ねようとする前に捨餓螺 一馬は動いていた。

一瞬の内に信朗との距離を詰めると手元から"急に現れた刀"で信朗の両手足を斬り"達磨"にしたのだ。

 

「マジ..かよ。」

 

信朗は余りの早業に反撃する間もなく地面に倒れる。

それを見て呆然とする者と違い真希は上空にある影を見つけた。

 

その形を見た真希だけが行動に移せた。

「ふせろ!」

無駄だと分かっていても真希はそう叫び地面に伏せた。

直後起こったのは連鎖的な爆発音。

 

真希が気付いた時には周囲にはクレーターとほぼ全員重症状態で地面に倒れふす躯倶留隊しかいなくなっていた。

爆発により腕に負った切り傷を抑えながら真希は思考する。

(あの爆発はどう見ても爆弾だ。

"クソ隊長"(信朗)が奴の事を捨餓螺 一馬って呼んでやがったな。

捨餓螺って言えば呪具作りの名家じゃねぇか。

てか、それよりも何だあの動き?

一瞬で近付いたと思ったら急に現れた刀でクソ隊長をバラバラにしやがった。

クソッ!考えても何も分からねぇ....)

 

そうしていると禪院 甚壱がその場に現れその場の惨状を目撃する。

頭に青筋を立てながら一馬に向かって吠えた。

 

どういうつもりだ捨餓螺 一馬!!貴様は禪院家を敵に回すつもりかっ!」

「あ?誰だお前?」

 

「禪院 甚壱....躯倶留隊は俺の管理する部隊だ。

それよりも早く質問に答えろ。」

「甚壱....あぁ、お前が甚爾の言ってた兄貴か。

見てわかんねぇか?殴り込みかけて邪魔したからぶっ飛ばしたそれだけだ。」

 

「なっ!?」

一馬の返答に甚壱は理解できない表情を見せる。

「お前んとこの扇が俺のダチを殺そうとした。

その落とし前をつけに来たんだよ。」

 

「落とし前だと?何を言っている?」

「.....はぁ、面倒だ。

どうせ、お前は気にしてもいないんだろうな。

その顔見れば分かるぜ。

取り敢えずお前も一回....ボコすわ。」

 

一馬の雰囲気が変わった事に気付いた甚壱は戦闘態勢を取る。

先に動いたのは一馬だった。

甚壱に向かって小さい何かを投げつける。

すると、それは甚壱の目の前で大きくなった。

 

投げられた刃物や鈍器に甚壱は驚きながらも冷静に回避する。

甚壱は拳を握り込むと一馬のいる方向に向けて正拳突きを行う。

 

すると、甚壱の背後に呪力により生成された巨大な拳が現れ一馬の元へ向かった。

「へぇ...面白い術式だな。

だけど、その攻撃見たところ呪力で出来てる感じだな?

....ならっ!」

 

一馬は銅玄を取り出すと迫ってくる拳を切り裂いた。

切り裂かれた拳は開かれた銅玄の口の中に吸収される。

「!?」

「呪力なら銅玄で無力化出来る。」

 

一馬はそう言いながら甚壱に接近すると腹部に向けて左拳を捩じ込んだ。

鍛えられた拳だったが甚壱の腹筋にはダメージはない。

 

「そんなパンチ効くかっ!」

「まぁ、効かねぇだろうな....."こうしねぇと"」

 

ドカン!

 

反撃をしようとした甚壱だったが突如起こった腹部からの爆発に意識を削がれてしまう。

 

「うっ!...な...に..がっ!」

「"捨餓螺特製手榴弾"の味はどうだ?

これで暫く寝とけ。」

 

一馬は右手に持った銅玄の刃を甚壱の腹部に深々と突き刺すと地面に倒した。

銅玄の刃は地面をも貫通していた。

 

引き抜こうとする甚壱に一馬が言う。

「止めとけ。

その呪具はお前の呪力を喰らっている。

反転術式使ってないと抜く頃には出血多量で死ぬぞ?」

「貴様っ!」

 

「大人しくしてろ....どうせ扇と殺りあったら治してやるからよ。」

そう言いながら一馬は手榴弾により吹き飛んだ左手に反転術式を発動する。

一瞬の内に粉々になった左手が再生する姿を見た真希は驚愕する。

 

(あんなに凄い反転術式を見たことねぇ。)

 

そうしていると現場に直毘人も父親である扇が現れた。

扇は倒れている娘である真希に目を向けることなく捨餓螺 一馬を怒鳴り付ける。

 

そして、一馬と直毘人が話し合うと扇との一対一の戦いが始まった。

すると、これまで一馬から感じていた呪力がお遊びと思える程の呪力とさっきを扇にぶつけた。

 

それを見た真希は理解した。

"自分の父親が捨餓螺 一馬を怒らせてこの事態が引き起こされた"のだと

 

「ざっ...けん...な....クソ...親...父。」

 

真希は戦っている扇を睨み付けながら意識を失うのだった。

 

 

 

【禪院 扇の記憶】

 

扇との戦いに決着がつくと捨餓螺 一馬はその場を去った。

そして残った直毘人が躯倶留隊へ指示を飛ばす。

「済まんかったな。

お主達は通常業務に戻れ。」

 

その命令に"甚壱"と"信朗"の二人が反論する。

「これだけやられて泣き寝入りするつもりなのか!?」

「そうです!

ここで捨餓螺 一馬を逃がせば禪院家は他の奴らから笑い者になるだけですよ!」

 

その言葉を直毘人は否定する。

「いや、そうはならん。

何故なら何の証拠も残ってないからな。

お主達の怪我は一馬の呪具で完治したじゃろ?」

「だが、奴が正門を吹き飛ばして入ってきたのはどう説明するんだ?」

「黙っておれば良い。」

 

「「なっ!?」」

 

直毘人の消極的な発言に二人は驚く。

だが、その後に続かれた言葉を聞き二人はその意味を理解した。

 

「それでは真実を伝えて捨餓螺家を糾弾するか?

呪具を作る術師が単身で禪院家に乗り込み、戦闘部隊である躯倶留隊と(甚壱)の術師を全滅させたと....

そんな事が洩れたらそれこそ禪院の名が笑い物にされるだけじゃろう。」

 

 

呪術師の中で才能と力で統制された戦闘一族として有名である禪院家が呪具作りの名家だが力はないと思われている捨餓螺家の者により手痛い傷を負わされた。

 

それが事実だろうと嘘だろうとそんな噂が流れれば家としてマイナスになるのはどう考えても禪院家だった。

 

「それにあの一家の作る呪具は貴重じゃ。

捨餓螺家の名前は今や呪術師だけでなく非術師にも広がっておる。

本当ならば今回の様な不和が起こることは何よりも避けねば為らない相手だったが.....なってしまったものは仕方がない。

 

この一件はワシに預けろ。

お主達は戻れ.....良いな?」

 

直毘人の言葉を聞き渋々納得した甚壱と信朗は躯倶留隊に指示を出すとその場を後にする。

残ったのは直毘人と膝が崩れ地面に突っ伏している扇だけだった。

 

そんな扇を見て直毘人の顔は曇る。

(愚かとは言え大事な弟じゃが.....仕方あるまい。

今回ばかりは庇いだて出来んな。)

 

「扇....お主も理解できただろう?」

「....何がだ兄者。」

 

「お主に....."当主の器"は無い。」

「!?」

 

「気付いてないとでも思ったか?

お主が当主になりたいが為に裏でこそこそと動いていること等、昔から知っておったわ。」

「.....ならば何故、兄者は」

 

「告発しなかった....か?

簡単な話じゃ、お主がどれだけ吠えようと当主になれる可能性が無いと分かっているからじゃ。」

「俺の....俺の何がダメなのだ!

たまたま俺よりも早く産まれ!兄になったから当主になれたのだろうがっ!」

 

扇の言葉を聞き直毘人は溜め息をつく。

「はぁ....扇、一馬がお前の体を穿った最後の一撃が見えたか?」

「何を言って....」

 

「誤魔化すな。

"見えなかった"だろう?

奴の攻撃が....だからこそお主は落華の情を使わざるを得なかった。」

「......」

 

「己の体に呪力の薄い膜を作り触れた攻撃に自動でカウンターを合わせる技だが弱点もある。

それはどんな攻撃でもカウンターを取ろうとしてしまうことじゃ.....自分の技よりも遥かに強い攻撃にもカウンターを合わせてしまう。

 

お前は一馬の攻撃が見えなかった。

だから、落華の情を使いカウンターを取ろうとした。

だが、技の威力に差があればいくらカウンターを取った所で刀が折られるだけの徒労に終わる。

そして、見えない攻撃は避けようがない。

 

だから、お主は負けた。」

「兄者ならば....止められたとでも言うのか!」

 

「お主へのトドメの一撃を止めたのはワシじゃ。

一馬の技は良く研鑽が積まれていた。

呪力も技術も良く練られた一撃だった。

それに比べてお主の技は荒い....呪霊や格下の術師ならば相手に出来ただろうがな。」

「俺が....捨餓螺のガキよりも弱いだと?」

 

「そこまで言わねば分からぬか?

お主は弱すぎる。

一馬や甚爾にも勝てない程にな。」

「何故、奴の名が出てくる?

俺が呪力の無いあのガキにも劣ると言うのか兄者!!」

 

「甚爾は捨餓螺家で一馬と武芸の研鑽を常に続けていた。

知っておるか?

甚爾は一馬との戦いではほぼ無敗じゃ。

しかも、呪具付きの戦いでだ。」

「!?」

 

自分が一馬だけではなく呪力の無い甚爾にも劣ると言う事実を突きつけられ呆然としてしまう。

「お主がどれだけ鍛練を積み策謀を巡らせようと当主となる未来は来ない。

扇.....理解しろお前は弱いのじゃ。」

「俺が....弱い?....」

 

哀れな顔をして告げていた直毘人だったがその直後、厳しい当主の顔へと変わる。

「お主の仕出かした一件はもう庇いだて様がない。

責任は取って貰うぞ扇。

詳しい沙汰が決まるまでお主には謹慎を命ずる。

一人でゆっくりと自分の犯した間違いについて考えることだ。」

 

そう言うと直毘人は扇に背を向けて屋敷へと歩いていった。

 

 

 

【甚爾の記憶】

 

扇の策略にはまり襲ってきた呪術師を殺した甚爾は裏の世界へと足を運んだ。

(一人にはなっちまったがまだ己を鍛える方法はある。

戦場に出て感覚や技を磨けば少しはマシになるだろう。)

 

一馬との付き合いで呪詛師を斡旋する仲介者の存在を知っていた甚爾は早速、仲介者の頼りで傭兵になった。

 

呪術師としてのこれまでの功績が活きたのか直ぐに仲介者は見つかった。

数々の依頼を受けて力を示していったある日、仲介人になった"孔 時雨"(コン・シウ)から連絡が入る。

 

大口の仕事と言われて意気揚々と向かうが目の前に現れたのは初老をとっくに過ぎたヨボヨボの爺さんだった。

杖を付きながら甚爾を見つめている。

 

その爺さんに甚爾は見覚えがあった。

 

(ヤッベ....あれキレてんじゃん。

ってことはこの依頼も"アイツ"の差し金かよ。)

 

面倒臭くなった甚爾がその場から離れようとすると甚爾の顔面に向かって豪速球で杖が飛んで来た。

「何処に行く"バカ弟子"(甚爾)?」

「うげっ!?死にかけの癖に速すぎんだろ"爺さん"!」

 

「前の様に"源吾師匠"と呼ばんか。」

そう言いながら源吾は甚爾の前へ急接近すると拳を振るってきた。

甚爾はその拳をわざと体で受けて流しながら回避する。

 

「呪力武術 "流転"....腕は衰えてないようじゃな?」

「そりゃ!戦場で!鍛えてきたからなっ!」

 

「一馬坊っちゃんが言っておったぞ。

何で捨餓螺家の屋敷に来ないのかとな。

渡した携帯も繋がらないからと坊っちゃんはワシを遣わしたのだぞ?」

「そりゃ悪かったよ!携帯充填すんの!忘れてて....ってうおっ!?」

 

甚爾と源吾の会話しながらの攻防は飛び上がった源吾が甚爾に組み付き腕を極めた事で終わりを向かえた。

「ふむ....確かに良く鍛えておる。

禪院家を追い出されてから海外の紛争地域を渡り歩いていたとは聞いていたがそれだけ動けるならば問題ないじゃろう。」

「痛ててっ!?...小手調べが終わったんなら離してくれよ!

さっきから地味に締め上げやがって痛いんだよ!」

 

「顔を見せなかった罰じゃ少しは受け入れい。

....だが、無事で本当に良かった。

一馬様も二虎様もお主の事は心配しておったのじゃぞ?」

源吾はそう言いながら甚爾から手を離す。

「....しゃーねぇだろ。

今の捨餓螺家は俺みたいなはぐれ者を匿って良い程、安い身分の家じゃねぇ。

呪術師だけでなく非術師からもその名前は聞こえてくるんだぜ。」

 

外に出た事で甚爾は改めて捨餓螺家の評判を聞いた。

術師の中では高名な呪具を作り御三家とも繋がりのある名家。

そして、非術師の中では霊力を必要とせず呪霊への対処を行える呪具を作りそれを供給する組織として認識されていた。

 

「今や捨餓螺家は日本政府だけじゃなくアメリカともパイプがある。

噂じゃ御三家と同等の影響力を持ち始めているって言うじゃねぇか。」

「二虎様は優秀じゃからな。

交渉などに関してはもうワシの手すら必要ないレベルじゃよ。」

 

「んで実力行使したとしても一馬が後ろに控えてるってか?

知ってるぜ。

現代兵器の呪具化が成功したってな。

そんな奴に喧嘩売ろうなんてアホ早々いねぇだろ。」

「しかし、いないわけではない。

何処の世界にもアホはいる者じゃからな。」

 

「違いない。

それで俺をここに呼び出したのは何の用なんだ?」

「一馬坊っちゃんからお主へ贈り物じゃ。」

 

源吾は甚爾は大きめの黒いポーチを差し出した。

「これは?」

「坊っちゃんがお主の為に作った呪具じゃ。

中は広大な空間が広がっていて大抵の物は仕舞えるし取り出せる。」

 

「凄い呪具だな。」

「うむ、中に入っているのは一馬様が作った呪具が殆んどじゃが数点別の物も入っておる。

お主にとっても縁がある呪具もな。」

 

甚爾は一馬の作ったポーチを手に取ると腰のベルトに着けた。

「流石は一馬の呪具だ.....やっぱり俺にはこれが合う。」

「そうか.....では物も渡したからのワシはここで失礼するぞ。」

 

「俺を連れ戻さなくて良いのか?」

「戻ってこいと言って素直に言うことを聞くお主ではなかろう。

そうじゃな.....親戚の家だと思ってたまにで良いから顔を出せ。

ワシらは甚爾....お前が捨餓螺家に"帰ってくる"のを心待ちにしておるからな。」

 

源吾はそれだけ言うと腰を叩きながらその場を去っていった。

「"来るじゃなくて帰る"....か。

ったく.....厄介な奴だぜ爺さんも....お前もな一馬。」

 

甚爾は頬を伝う()を雑にぬぐうと夜の闇へと姿を消すのだった。

 

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