次期、捨餓螺家当主に異を唱えた竜臣の妻は、当主選定の為の両者の呪具作りを提案した。
先ず、呪具とは呪いが籠った武器や道具を指しその強さや能力により等級が別れており更にはその作り方でも様々な種類が存在する。
一つ目は道具に呪力を込めただけの物で
二つ目は呪力と呪術の二つを込めた物で
そして、捨餓螺家はこの呪装具の製作で名を馳せていた。
「捨餓螺家でも呪装具を作れるのは一部の才覚がある者のみと言われています。」
捨餓螺の歴史書を見せながら源吾は一馬に説明する。
それを見ながら一馬は尋ねる。
「俺の弟の二虎なら何処まで出来るんだ?」
「二虎様は捨餓螺家の歴史の中で天才の部類に入ると指南をしていた加茂家の方は仰っておられました。
ですので等級は低くとも呪装具を作ることも可能かと...」
「そっかぁ....俺の弟はそんなに優秀なんだな。」
自分の弟が優秀だと聞き一馬の顔は自然と微笑む。
「一馬様......」
「そんな心配そうな顔しないでよ源爺。
別に俺だって勝負を諦めた訳じゃない。
ただ、単純に弟が優秀で嬉しいだけだ。」
一馬は話を変える様に源爺に尋ねる。
「そう言えば"呪具"と"呪物"って何が違うんだ?
呪いを纏っているし俺にはそんな変わらない様に見えるんだけど.....」
「確かに呪いを纏っていると言う点では呪具も呪物も変わりはありません。
しかし、"呪いの質"に決定的な違いがあります。」
「呪いの質?」
「呪具とはあくまで呪いを"記号"として道具に刻み込みます。
そこに意志が介在する余地はなく道具としてでしか存在出来ません。
対して呪物は作った呪霊や呪術師の"意志"が内包されます。
有名な呪物として
明治で史上最悪の呪術師として名を馳せた人物が造り上げたとされておりその正体は強大な力を持った呪霊と呼ばれています。
呪具師の名を賜っている捨餓螺家では呪物の破棄も行っていますが特級呪物だけは捨餓螺家の物でも破棄することが出来ない物となっております。」
「成る程、記号と意志.....か。」
「故に捨餓螺家にはこんな格言があります。
"呪具に込めるは願いであり意思に非ず".....
呪術師を生かす願いは込めても意思を持たせては呪物へと堕ちてしまう。
それを戒め理解する為の言葉です。」
「.....そっか。
なぁ、源爺?
今の俺なら何れだけの呪具が造れるんだ?」
本題を聞かれた源吾は苦しい顔をしながら答える。
「呪具を作るには捨餓螺家で代々伝えられている"呪法"や道具を使う必要があります。
一馬様の才能は二虎様と遜色無い程に高いと源爺は理解しておりますが.....本家の指南役から直接、習っている二虎様と比べ一馬様は....」
「もう良いよ源爺。
俺を不安にさせないようにしてくれてありがとう。」
「ですが.....貴方の今のお立場は奥様の独断によるものです。
本来、当主として選ばれるべきなのは一馬様なのですよ?」
そう源吾に言われた一馬は始めて本心を話した。
「正直、俺は捨餓螺家の当主の座に"興味がない"んだ。
源爺は違うけど捨餓螺家にいる奴らは皆、俺や二虎の事を人ではなく道具のように見ている様に感じてな。
この当主争いもまるで新しい機械の試験運用を遠目から見ている感じだ。
俺にはそれが我慢ならない。
俺や二虎はアイツ等の道具じゃない。」
「一馬様.....」
「あー、ごめん源爺、別に暗くするつもりは無かったんだ。
何だかんだ言っても俺は捨餓螺家の人間な訳だし頑張れるだけ頑張るさ。
.....良し!源爺のお陰で呪具についてある程度は理解できたな。
そう言えばこの書物に書かれている呪具の種類に黒く塗り潰された場所があるけどこれは何なんだ?」
「あぁ、此方の呪具は作るのに多大な犠牲を払うことからその名と方法を含めて封印された呪具となります。」
「そんなヤバイ呪具があるのか源爺?」
「えぇ、この手法で作られた呪具はこれ迄の歴史から鑑みても他とは比較にならない強さを持っております。
過去この呪法が使われたのは"平安初期"と"戦国時代"、そして"第一次、第二次世界大戦"が起きていた時代のみです。」
「....どちらも戦争が多くあった時代だね。」
「はい、恐らくはそれが必要な呪法があったのでしょう。
だからこそ、現代では封印されたのだと思います。
私も名前しか聞いたことがありません。」
「へぇ、後学の為に教えてよ源爺。」
一馬の問いに源吾は答えた。
「三つ目の呪具の名は
先々代当主曰く、この方法を使えば"特級呪具"すら造り出せると呼ばれたそうです。」
こうして時が流れまた一年が経った。
今日は捨餓螺家にとって大切な後継者を決める日となっている。
呪具製作の名家と言うこともあり御三家からも見届け人が訪れていた。
俺と二虎は似合わない着物姿に着替えさせられ二人の目の前には呪いを注ぎ込む刀が置かれていた。
(はぁ、どいつもこいつも物珍しそうに俺達を眺めやがって.....見世物じゃねぇぞ。
ったく、うっぜぇなぁ。)
心の中で悪態をつきつつ二虎に目を向ける。
目の下に大きな隈が出来て両手は怪我をしたのか包帯が巻かれている。
(こんなに俺の弟を傷付けたのか....."あの女"は)
今の一馬にとって産みの親である母親への思いは憎しみしかない。
大事な家族である弟を痛め付けるクソ.....
そう認識していたのだ。
一馬にそう思われている等、露とも知らない母親は準備が済んだのか周りで見ている人に向かって話しかける。
「今回はお越しくださり有難う御座います。
私が今回、一馬の当主就任に対して異を唱えたのは才能の差もありますがそれ以上に、捨餓螺家の者でありながら呪具への理解が余りにも"低い"ことです。」
(良く言うよ。
俺が呪具について学べない様にわざと遠ざけていたくせに......)
「ですので皆様の目の前で呪具を造りどちらが当主に相応しいかここでハッキリと結論をつけたいと思います。
今、二人の前にあるのは京都の刀匠が打ち出した一振の小太刀です。
呪力的要因が無いこの小太刀を呪具に変えられれば十分に才覚を証明できると私は判断いたしました。
では、両者。
早速、呪具を造り上げなさい。」
母親の言葉を受けて二虎は印を結んでいく。
捨餓螺家に代々伝わる呪力を道具に刻み込む
二虎の呪力が小太刀の周りを舞いながら文字を刻み吸収されていく。
「はぁ...はぁ....はぁ...」
苦しく呼吸しながらも二虎は小太刀を見つめ集中を切らさない。
それを見て見届け人の呪術師達も感嘆の声を上げる。
「素晴らしい。」
「あの年で大した者だ。」
「呪力操作が緻密だな。」
二虎が誉められている事に気を良くした母親が話す。
「私の自慢の息子である二虎は印呪写法を、完璧に使いこなせているのも一つですがもう一つは彼の持つ生得術式も一役買っております。
二虎の持つ術式は
自分や他者の持つ呪力を限界までコントロール出来る力があります。
正に、捨餓螺家の当主に相応しい素晴らしい術式です。」
そんな事を話していると手を翳していた二虎が手を下ろし地面に手足をつけた。
「はぁ...はぁ...出来...まし...た。」
見届け人を勤めていた呪術師の一人が二虎の目の前に置かれている小太刀を手に取ると呪力を流し込んだ。
すると、小太刀から風が発せられる。
小太刀を持って外に出ると距離の空いた"外の岩"に小太刀を振るった。
ヒュ!と言う空気を切る音と共に岩に一筋の傷が付いた。
「ざっと、2~3級の間....か。
まだ、小学生だと言うのに大した者だ。」
そう評価すると二虎の前に小太刀を置いた。
幼いその身でありながら大人と遜色無い呪具を作り出したその姿を見て見届け人達の顔色は明るくなる。
それを見て母親は勝ちを確信した。
「もうよろしいでしょう。
皆さんもご覧になった通り、二虎が呪具を作る間、一馬は何もしなかった。
こんな才能もやる気も無い人間に当主の座など相応しくない!
二虎が当主となるのは当然の結論なのです。」
好き勝手、一馬を貶しているが当の本人は本当にどうでも良かった。
(当主の座なんか端から興味ないし俺より二虎の方が才能もあるのも事実だろう。
二虎が当主になるならこの家も安心だろうしな。)
そう思っていた一馬は小太刀に触れようとすらせずそれを敗北と捉えた母親は高らかに宣言する。
「これで決まりましたわね!
当主はやはり二虎で揺るがない!
お前の様な出来損ないは家から追い出されのたれ死ぬ運命なのよ!
あはははは!!」
母親は一頻り笑い終わると使用人を呼び一つの木箱を持ってこさせる。
「これは生前、夫の竜臣が次の当主の為に残した"財産"です。
これを受け取る事で正式に二虎は捨餓螺家の当主となります。
さぁ、二虎!
早く立ち上がりなさい。
そして、木箱を開けるのです。」
「は....い...お母....様。」
二虎はフラフラしながらも立ち上がると木箱の前に立った。
木箱を封じていた紐を解いて中を開いた。
木箱が開いた瞬間、部屋に呪力が満たされる。
「なっ!?」
「これはどう言うことだ!」
そんな事を言っていると見届け人の一人だった男が姿を消した。
そして、部屋の中なのにまるでにわか雨でも降ったかのように水が滴り落ちてきた。
その生暖かい水に触れて何なのか見てしまい彼等は正体を理解する。
その正体は天井に張り付き"見届け人の身体をバラバラにして喰らっている一体の呪霊"だった。
突如として現れた呪霊に部屋の人は全員パニックになる。
「どうして呪霊がこんな所に!?」
「それよりも早く奴を祓うべきだ!」
そう言った一人の呪術師は呪力を練ろうとすると先程まで天井にいた呪霊は地面に降り立ち口を大きく開いた。
「へ?」
そんな間抜けな声と共に呪術師の上半身は呪霊に呆気なく喰われてしまった。
格の違う強さに周りにいた呪術師は驚愕するがそれを呪霊は待ってくれない。
呆然とする呪術師達を呪霊は一人ずつ丁寧に喰らっていった。
「どういう....事なの?」
母親は目の前で起きている惨状を理解できないでいた。
いや、正確には理解したくなかったのかもしれない。
(二虎が当主として認められて....それで上手く行く筈だったのに...一体どうして?)
現実逃避している母親に粗方、呪術師を喰らった呪霊が目を向ける。
「止め...て....来ない...で」
呪霊に母親がそう懇願すると呪霊は彼女目の前から急にいなくなった。
ホッとした母親は胸を撫で下ろすが右腕が熱くなり目を向ける。
すると、そこにあった筈の腕が無くなりそこから血が吹き出していた。
「いやぁぁぁ!う...腕がっ!?私の腕がぁぁ!!」
痛みとショックから地面に踞る母親を呪霊は先程、喰い千切った腕を眺めながら笑っている。
「あぎゃげげげげ!」
呪霊は次の獲物を探すように周りを見渡す。
そして、見つけたのはショックで気絶している二虎だった。
次の獲物を見つけたと言うかの様に笑うと二虎に向かおうとするが呪霊は危険を感知してバックステップするとさっきまで呪霊が立っていた場所を呪力を込められた針が射抜いた。
針を投げた源吾が周りを確認する。
「まさか、屋敷に呪霊が現れるだなんて.....」
源吾は倒れている二虎に目を向けたいが目の前の呪霊がそれを許さない。
(この色合いは、間違いなく"一級呪霊"クラス。
ここでコイツを祓うにはリスクが高過ぎる。
どうすれば良い?)
そんな事を悩みながら針を構えていると急に呪霊がそっぽを向いた。
(何だ?一体何が......!?)
ここで、源吾もやっと感知した。
自分達とは格の違う呪力が一気に部屋の中を覆った事に.....
その中心に目を向けるとそこにいたのは目の前の現状に怒りを覚えている一馬だった。
一馬は呪霊を睨み付ける。
「おい、テメェ"誰の弟"に手を出そうとしてるんだ?
.......あ?」
一馬の放った呪力が呪霊を刺激した。
一馬に向かって最短距離で近付いていく。
「いけない!一馬様、お逃げください!」
源吾は一馬を守ろうと走るが間に合わない。
しかし、一馬は呪霊を恐れる処か余裕を持っていた。
高速で接近した呪霊が一馬を喰らおうとするがそれを最小限の動きで回避すると一馬は呪霊に触れた。
「
一馬がそう唱えると触れられた呪霊が一瞬の内に形を変えると"小太刀の姿"に変わり地面に突き刺さった。
その光景を見て源吾は先々代との会話を思い出した。
「捨餓螺家の"初代当主だった男"が得意としていた術式がある。
それこそ、捨餓螺家が"禁忌の呪法"と定めた模倣呪術の原本である生得術式。
その名を転魂術式.....呪霊その者を呪具へと変換する技だ。」
それを聞いた若き日の源吾が言う。
「そんな強力な術式があるのですか?」
「あぁ、今現存する"特級呪具"の大半はこの転魂術式を使い作られた程だ。
だからこそ、この捨餓螺家は御三家からも一目置かれ"呪具師"の名を名乗ることを許された。
覚えておけ源吾。
もし、転魂術式を持った者が現れたのなら絶対に捨餓螺家に囲い込み呪霊の手に堕ちることだけは避けろ。
でなければ呪術師は滅びることとなる。」
「一馬様が....転魂術式の使い手.....」
この一件により捨餓螺 一馬の名は呪術界大きく広がり後に悪童と呼ばれる大事件を起こす事になるのだがそれはまた別の話.......