悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十四話 傀儡(裏)

【与幸吉の記憶】

 

自由に生きたい。

 

誰にも関わらず一人でも良いから自分の足で立って歩きたい。

 

だが、そんな願いは叶わない。

 

与幸吉の呪いの人生は産まれてから始まった。

初めて感じたのは全身が焼かれる様な痛みと産んだ母親の精神が壊れていく絶叫だった。

 

それからの事は余り覚えていない。

気が付けば札を貼られた箱に閉じ込められた暗い世界が僕の居場所になっていた。

 

(暗い…怖い……助けて……"ここから出たい"。)

 

そんな願いが僕の術式を覚醒させたのだ。

気が付くと僕の手足が動く事が分かった。

それどころか立って動くことすら出来たのだ。

 

僕は嬉しさから出口を探す。

薄く漏れる明かりが希望に感じそこに手を掛けた。

バキン!

鉄の錠前が壊れると共に僕は外の景色に目を向けた。

明るく極彩色に溢れた世界……

 

黒く暗い世界しかいなかった僕にとっては言葉にならない感情を与えてくれた。

だが、そんな感情も他でもない父親に塗り替えられてしまった。

 

僕は呪術を使い傀儡を操っている状態らしい。

実際に鏡を向けられた時は驚いた。

そこには僕ではなく木人形が映っていたからだ。

 

傀儡操術(かいらいそうじゅつ)と呼ばれるこの術式は自らの意識を人形に送り操ったり意識を一時的に移せる。

僕はこの術式を使い与家にある木人形に乗り移り保管していた蔵から出たと言うのだ。

 

「与家は代々、傀儡操術を生得術式として使える者が多いがお前はその中でもその才能が高かったのだろう。」

 

それを聞いた僕は嬉しかった。

人形でもこれなら父や母にも会えるかもしれない。

 

ずっと会いたかった……

話をしたかった……

甘えたかった……

 

僕は立ち上がり父に抱き着こうとする。

だが、その姿を見た父は僕に怒りを向けた。

「私に触れようとするな化け物!!」

 

怒りと憎悪に染まった父の顔を最後に僕はまた暗い世界に戻ってきた。

どうやら、父が僕の木人形を怒りのままに壊したかららしい。

 

(化物?……どうして?)

 

それから僕はこの術式を使い家の人形全てを掌握した。

元々、才覚はあったが孤独と悲しみが術を強化してくれたらしい。

そこで、僕は知ったのだ。

 

僕が産まれたせいで母が狂い、父の両親が死んだ事に……

 

(僕が……産まれたせいで……)

 

父はきっと僕を恨んでいる。

あの怒りはそういう意味だったんだ。

 

そうしていると与家の従者が父からの伝言を伝えてくれた。

お前の事は今後、関与しない。

食事や必要な物は従者に言って自分の傀儡で運べ。

 

(あぁ、僕はもう人間でも家族でもないのか……)

 

そうして、月日が立ち傀儡で生身の自分の世話をするのにも慣れた頃、この家にお客さんが来た。

何時もならば僕のいる部屋には誰も来ないのにその男は扉を開けて入ってきたのだ。

 

そいつは僕のもとにゆっくりと近づいてくる。

僕はそれに恐怖して木人形達を襲わせた。

だけど、そいつはその木人形を全員、壊しながら僕の方へ向かって来た。

 

「ダレ?....コワイ!タスケテ!オトウサン!オカアサン!」

 

僕は叫んだ。

家族や人間と思われて無くても僕に頼れたのは二人しかいなかったからだ。

けど、その声は届かない。

 

男はその声を聞き悲痛な顔を浮かべながら何かを投げる。

そこから出てきた煙を吸って僕は意識を失った。

 

 

次に目を覚ますとそこは暗い空間だった。

だが、これまでと違い何も見えない真っ暗闇じゃない。

光を落としている部屋だった。

外はまだ明るいのか木漏れ陽が障子から漏れている。

 

「こ……こは?」

 

自分が何処にいるのか分からず困惑していると障子が開かれ後光に照らされながら僕を捕まえようとした男が入ってきた。

「お!……良かった目が覚めたんだな。

っとその前にこのまま光を浴びたら身体に悪いからな。

ほれ!プレゼントだ。」

 

男は僕に向かって灰色の何かを投げる。

それは広がると僕の身体を包み込んだ。

「止めて!?……死にたくない!!」

怯える僕の声とは裏腹に男は言う。

 

「いや、死なねぇから。

お前の身体に合わせた人工皮膚だ。

これを纏えば陽の光を浴びても身体に何の外傷もなくなる。

まぁ、急拵えで作ったから見た目は悪いがもっと質の良いのをニ虎が作ってるからそこは安心しろ。

それよりほら行くぞ。」

男は僕の身体を掴むと光が溢れる外に僕を連れ出した。

思わず身体を守ろうとするが痛みが無い。

 

「痛く……ない。」

「当然だろ。

誰がその呪具を作ったと思ってるんだ?

それよりどうだ?

気持ち良いだろ外に出るのってさ。」

 

そう言って笑顔を向ける男の背中が急に叩かれた。

痛ったぁ!?何すんだよニ虎!!」

男が後ろを向くとそこには豪勢な着物を着ているが急いで来たからか肩で息をしている男がいた。

「それはこっちの台詞ですよ兄さん!?

何勝手に連れ出してるんですか!

いきなり知らない家に連れ去らせた幸吉君の気持ちを少しは考えて!」

 

「だから、ここが安全だと教える為に呪具を付けさせて外に出させたんだろ!?」

「それ幸吉君に説明しました?

彼の顔を見る限り起きていきなり呪具付けられて外に出させられた様に見えたんですが………」

「…………」

 

「兄さん!!」

僕を担ぐ男を咎める様に声を出すニ虎と呼ばれた人は僕を見るなり優しい顔で告げる。

「いきなり、こんな事をしてごめんね。

僕の名前は捨餓螺 ニ虎。

こっちは僕の兄で捨餓螺 一馬。

君を助けに来たんだ。」

 

そう言いながら三人は部屋に戻ると僕に詳しく説明してくれた。

「お父さんが僕の事を殺そうと……」

真実を悲痛な顔で伝えたニ虎は答える。

「辛い現実だと思う。

僕の両親も君とは違うけど僕達を道具の様にしようとしたしね。」

 

そう話すと一馬が続ける。

「んで、そんなクソみたいな命令聞くぐらいならお前を助けちまおうと思ってニ虎と一芝居打ったんだ。」

「芝居?」

 

「えぇ、この一件には御三家の一人である加茂家が関わってる事は調べたら分かりました。

だから、何処かのタイミングで呪具に変えた幸吉君を奪いに来ると思ったんです。」

ニ虎の説明に一馬が補足する。

「そこで俺の領域展開を使ったんだ。

俺の力でお前の"呪力の一部"を呪具に変えて代わりに奴等に渡した。」

「そして、眠らせた貴方を僕達の屋敷に匿った。

でも兄さん大丈夫?

もし、幸吉君が生きているのが奴等に知られたら襲われる危険があるんじゃない?」

 

ニ虎の懸念に一馬が答える。

「そりゃ、ほぼ無ぇ。

幸吉の呪力の一部とは言え使われているからな。

本人が使うより性能は格段に落ちるが呪具には傀儡操術の能力が加わっている。

仮にバレたとしても加茂家はそんな簡単には動けねぇ。

賢尺の話じゃ、紫痕って奴はこの前の一件の責任を取らされて立場が悪くなってる。

ここで、俺達を糾弾すれば表立って俺を敵に回す事になるしそうなれば当主である賢尺が紫痕を始末する材料を与える。」

「つまり、ここから動ける手をもう紫痕は持ってないってこと?」

 

「そういう事だ。」

一馬の言葉を聞きニ虎は安堵する。

「良かった。

なら、安心して幸吉君の今後について話せる。」

 

そう言うとニ虎は僕に向かって尋ねた。

「幸吉君。

僕達が君を助けたのは兄さんがそうするべきと考え僕も同調したからだ。

でも、それが君にとって最良の選択かと言われれば分からない。

どんなに酷い扱いを受けたとしても生まれた家と両親は何にも代えがたい大切な存在だ。

与 幸吉君………君は何をしたい?

どんな生き方をしたいか教えてくれないか?」

 

ニ虎の優しい声色に僕は心の内を答えた。

「僕は……何が欲しいかなんて分からない。

産まれてからずっと暗い空間しか知らなかった。

でも……もし叶うなら"後悔しない人生を生きたい"。

自分が生きてて良かったと思える様になりたいです。」

 

その言葉を聞いた一馬が答える。

「アホ……生きてちゃいけない人間なんて一人もいねぇよ。」

「兄さんの言う通りだ。

君は精一杯生きていいんだ。

その手伝いを僕達にさせてくれないか?」

 

その言葉を聞いた後は覚えていない。

後で聞いたら涙が溢れ大声で泣いて疲れて眠ってしまったらしい。

その後、僕は一馬さんと二虎さんの二人を交えて今後の人生について話した。

僕が生きているのがバレれば厄介な事になる。

だから僕は与家の名前を捨てた。

 

そして、代わりに二人の恩人の名字を貰った。 

 

僕の名前は"五十鈴 幸吉"

 

捨餓螺家の従者であり何時か一馬兄さんと二虎兄さんの二人を助けられる立派な呪術師になる男だ。

 

 

 

【閑話】

 

幸吉の今後について話し終わると一馬がふと幸吉に尋ねた。

「そう言えば幸吉、お前って今いくつなんだ?」

その問いに二虎が首を傾げる。

 

「急にどうしたの兄さん?」

「いや、幸吉は生まれてからずっとあの家に閉じ込められてた訳だろ?

傀儡ごしに対話した時は片言だったのに今は流暢に話せてるのが不思議でな。」

 

その疑問に幸吉が答える。

「多分……一馬さんが僕の木人形を壊したからだと思います。」

「どういうい意味だそれ?」

 

「僕の傀儡操術は傀儡を操るだけじゃなくそこから得た知識も共有出来ます。

そして、共有していた傀儡が壊されるとその知識が本体である僕の脳に移行するんです。

 

あの家にいた時は兎に角、自分が何なのか分からなかったんです沢山の傀儡を使って家の中を散策したりして情報を集めてたんです。

 

そして、一馬さんが来た時にはその傀儡を全員動員してました。」

 

「成る程、つまり俺がその傀儡をぶっ壊したから蓄積された知識を幸吉は得た訳か。」

「でもそんな膨大な知識を頭に叩き込まれて良く無事だったね。」

 

二虎の問いに幸吉は答える。

「この身体のせいで普通にしてても激痛が身体を襲ってました。

この呪具のお陰で今は何とも無くなって寧ろ集中出来るんです。」

それを聞いた一馬が固まる。

「ちょっと待て……幸吉、お前俺を止める為に屋敷の傀儡全員動かしたって言ってたよな?

具体的に何体動かしてたんだ?」

「"30体"です。」

 

その言葉を聞いて今度は二虎が固まる。

「えっと……つまり今、幸吉君の頭には30体分の傀儡が蓄積した知識が叩き込まれたって事?

どっか身体に不調は無いのか?」

「頭が痛くてボーっとしますけどあの頃の激痛と比べたらこれぐらい……」

 

「「いや、今直ぐに寝ろ!!」」

 

その後、一馬と二虎により幸吉は強制的に布団に連れて行かれ幸吉は回復するまで数日間、眠ることになった。

(肉体と精神の疲労、そして栄養問題は一馬と二虎の二人が付きっきりで看病して事無きを得たのだった。)

 

 

 

【加茂 紫痕の記憶】

 

紫痕は一馬から受け取った呪具を加茂家で紫痕が管理する屋敷の保管庫の中で見つめている。

傀儡操術の一家である与家の中でも特に才能のある子供を使い作られた呪具。

 

これは今後の計画に置いて重要な道具になると彼は予感していた。

そうしている紫痕の部下が報告に現れる。

 

「紫痕様、手はず通りに賢尺には捨餓螺 一馬が独断で行動し与家の子を殺したと報告してまいりました。」

「御苦労、あの惨状を見れば捨餓螺 一馬を犯人に仕立て上げるの等は容易い。

して……賢尺は?」

 

「警察に根回しを行い事件の隠蔽を図りました。」

「そうだろうな。

事実でも嘘でも捨餓螺 一馬を賢尺は守ろうとするだろう。

奴には借りがある。

賢尺の事だ…根回しした事は捨餓螺 一馬には伝えないだろうからこれでこの話を追求する術はない。

この失点を使えばこの呪具を賢尺に取られる心配はないだろう。」

 

「では、我々はこれ以上は動かないと?」

「これ以上、動けば捨餓螺家が動く事になる。

そうなれば加茂家としての失点になりかねん。

あくまで裏で動き処理出来るレベルで収める必要があるのだ。

事をこれ以上、荒立てればそれは叶わなくなる。」

 

紫痕の話を聞いた部下は納得する。

「承知致しました。」

「捨餓螺家と言えばあの母親からの返答は?」

 

「"計画に全面的に協力する"と……もう既に母親の息がかかった間者を忍ばせているらしく何時でも動かせるとの事です。」

それを聞いた紫痕は笑う。

 

「では、これから本腰を入れて計画を進めよう。

呪術師の権力を復権させる為に何としても五条 悟を殺し逆らう勢力を削る。

今動かせる奴はいるか?」

「はい、"数名の呪術師と呪詛師"……それに"五条を恨むあの呪霊"にも連絡を取り何時でも動けるとの事です。」

 

「良し……計画は変更なく進める。

"加茂家、禪院家、五条家……それに捨餓螺家"に駒を送れ。

戦力が減り手薄になった隙にその呪霊に"五条 悟"を殺して貰う。」

「承知致しました。

それで……何時頃、始めましょう?」

 

「タイミングは五条家の当主決定の場にするべきだ。

他家を襲うのもそのタイミングが良いだろう。

少なくとも"あと1年"は時間がある。

十分に時間を掛けて準備を行え。」

「承知致しました。

準備を整えておきます。」

 

「頼んだぞお前達の働きが今後の呪術師の未来を決めるのだ。

全ては呪術師が日本を操っていた昔に戻す為……期待しているぞ。」

そう紫痕は部下に告げると保管庫の扉を閉めるのだった。

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