悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十五話 手合わせ(表)

 

幸吉を捨餓螺家の従者としてから1年が経った。

天与呪縛により身体に受けた傷を何とかする為、

二虎が苦心した結果、凄い呪具が生まれた。

 

1つ目が幸吉の身体を覆う"皮膜"。

"呪断膜"(じゅだんまく)と名付けられたその呪具は人間の皮膚と同じ質感と性質を持ちこれを身に着ける事で幸吉の天与呪縛のデメリットを完全に無効化する。

 

これを使い幸吉の失われた皮膚と身体を復元していった。

二つ目が失われた"手足"。

幸吉の場合は右腕と膝から下の足の部分を失っていた。

 

そこで一馬は幸吉の術式を利用した呪具を作り上げる事にした。

一馬が目を向けたのは"呪骸"(じゅがい)の技術だった。

傀儡呪術学の第一人者である夜蛾 正道(やが まさみち)が考案した無生物の内側に呪いを宿し自律可動させる技術。

これは生物の様な動作を呪具に与えられる事を意味していた。

 

(ただの呪力を込めた義足や義手ならば作るのは簡単だ。

だが、それじゃあ幸吉は満足に動くことは出来ない。

だからこそ、夜蛾の技術がいる。)

 

早速、俺はあらゆるコネクションを使い夜蛾とコンタクトを取れる機会を探った。

そうしていると何と五条家から連絡が来たのだ。

 

開口一番、五条家当主である三ツ木が電話してきた。

「やぁやぁ久し振りだね一馬くん

ところで夜蛾に会いたいんだって?」

「何処でその情報を聞いたかは知りませんけど夜蛾さんに会いたいのは本当ですよ。」

 

一馬がそう答えると三ツ木の声が一気に調子づく。

「丁度良かったぁ、なら一馬君。

五条家に来ちゃいなよ!」

「………は?」

余りにも突然の提案に一馬もついつい素が出てしまう。

 

「実は夜蛾って呪術師として俺の一つ後輩なんだよねぇ。

だからパシ……ごほん。

呼び出す事は割と簡単な訳。

でもさぁ、今僕、関東にいる訳なのさ。

つまりどういう事か分かるよね?」

「俺が関東に行く理由って意味なら一ミリも分かんねぇが……」

 

「良かったぁ君ならそう言うと思ってたよ。

んじゃ、そっちに遣いを送るから一緒に五条家においでよ。

勿論、こっちに来ている間の費用は家持ちだから安心してね。」

「おいコラ何勝手に話進めてんだ。

てか、まだ行くなんて一言も言って……」

 

「それじゃこっちに来るのを楽しみに待ってるよ!

五条家で君と握手!!」

それだけ言って電話を切られた一馬は怒りから携帯をぶん投げそうになるが何とかそれを抑え弟の二虎のいる部屋に報告に向かうのだった。

 

部屋に着いて扉を開けるとそこには書類仕事をしている二虎と隣で目を瞑っている幸吉、そして幸吉が操作しているのであろう木人形が二虎の手伝いをしていた。

「よぉ二虎……って幸吉。

お前また二虎の手伝いしてんのか?

まだ餓鬼なんだから少しは遊んだり甘えても良いんだぞ。」

 

そう言って心配する一馬に木人形が答える。

『僕は捨餓螺家の従者ですから少しでもお二人の役に立ちたいんです。』

「こう言って梃子でも動かないから仕方なく手伝って貰ってる。

でも、僕の仕事が終えたらちゃんと幸吉君と遊ぶから安心してね兄さん。」

 

『二虎様、僕に遊びなんて……』

そう言う木人形に二虎は答える。

「君はまだ幼い。

それにこの世界について何も知らない。

木人形を通してでしか知識を得てこなかったんだ。

僕は君自身の眼でこの世界を見て欲しいんだよ。」

 

『二虎様……ありがとうございます。』

その姿を見た一馬も微笑む。

(二虎の奴、弟だと思ってたら立派に兄貴の役目出来てるじゃねぇか。

やっぱり俺の弟は最高だな。)

 

「そう言えば兄さん。

今日はどうしたの?」

「あぁ、幸吉の手足を作る為に呪骸の研究をしたいって言ってたろ?

五条 三ツ木がその場所を整えてくれるらしくてこれからちょっと出なきゃならねぇ。

あんまり、遅くならない様にはするが報告しとこうと思ってな。」

 

「そっか……三ツ木様の事だから何か厄介な事がありそうだね。」

「まぁ、俺もそこは懸念してる。

だから"俺の呪具を一式持って行く"。

何かあったら報告するからその時は頼む。」

 

「分かったよ兄さん……あぁ、そう言えば家等の分家である"鎖餓螺"家からまた催促が来たよ。」

二虎の言葉を聞いた一馬は辟易した顔で言う。

「またかよ……本当にしつこい奴等だな。」

 

今現在、捨餓螺家の呪具製作のノウハウを学ぶ為、様々な術師が工房に来ているがその中でも分家である鎖餓螺家はかなり力を入れており次期当主候補を丸々こちらに送り付けていた。

 

「提案して来たのは長男の"鷹光"(たかみつ)の方か?」

「うん、呪具師の最高峰である兄さんの腕を実際に見て学びたいって……」

 

「当主である二虎は眼中に無い辺りかなり舐めてんな。

てか、実際どうなんだ鎖餓螺家の腕前は?」

二虎は書類を下ろし腕を組みながら答える。

「才能はあると思う。

特に長男の鷹光は飲み込みも早い。

印呪写法も一番早く使いこなしているしね。

多分、物によっては捨餓螺家の呪術師よりも良い呪具が作れるとは思う。

でも、"それだけだ"。

悪いけど良くて捨餓螺家の呪具師止まりだね。

最高峰の呪具を作るなら兄さんがいるし正直、呪具作りなら僕は彼に負ける気はしない。」

「流石は俺の弟だカッコいいねぇ。

それで他の兄弟は?」

「次男の"斑鳩"(いかる)は多分、母の息がかなり掛かってるね。

僕達の情報を奪いたくて必死な感じだ。

野心も強い……兄の鷹光に対してかなりコンプレックスを持ってるみたい。

対して三男の"飛鷲"(ひわし)は純粋に兄を尊敬している素振りがある。

呪具製作には才能は無いが戦闘に関しては強いね。

元々、兄の作った呪具を使って呪術師として戦うつもりだったらしいからその影響が強いんだろうね。」

 

「つまりは油断出来ねぇ奴等って事か。

……なぁ二虎、その三男の飛鷲だっけ?

五条家に行く時に借りて行っても良いか?」

「連れてくのかい兄さん?」

 

「あんまり、要請を断ってたら不審がられる。

なら、俺の情報を奪えなさそうな戦闘バカを付けた方が安心だ。

何かあった時、戦えるならコッチとしても助かるんでな。」

「そういう事か。

分かったその旨を伝えておくよ。」

 

「んじゃ、準備終えたら向かうわ。

先に行くから飛鷲には後で付いて来いとだけ言っといてくれ。」

 

それだけ告げると一馬は二虎の部屋を後にするのだった。

 

 

 

朝に出たお陰で成田空港に昼頃付いた一馬は辺りを見渡す。

「確かここら辺にいるって言ってたよな。」

そう言う一馬の背中から大量の荷物を持った金髪の青年が着いてくる。

「ハァハァ……クソ重いな。」

それを聞いた一馬が言う。

「辛いなら帰っても良いぞ"飛鷲"?

俺としては一人旅の方が気楽で良いしな。」

 

飛鷲と呼ばれた青年は顔を怒りで歪めながら答える。

「ざけんな!鷹兄に頼まれてんだ。

勝手に止めてたまるかよ!」

「そうか、まぁ安心しろ空港からは五条家の従者が迎えに来てくれるらしいからその荷物も背負わなくて良いぞ。」

 

「ってか、この荷物の中身なんだよ?

普通のトランクケースからは想像もつかねぇ位、重いんだが……」

飛鷲の問いに一馬が答える。

「そりゃあ、俺が術式で内部の大きさを変えてるからな。

そのトランクケース一つで"コンテナサイズ"の容量だ。

色々と入って便利だが重さの問題だけ解決しなかったんだよ。」

それを聞いた飛鷲の動きが止まる。

 

「ちょっと待ってくれ。

だとしたら俺の持ってる"5つ"のトランクケース全部が呪具に改造してあるのか?」

「勿論、トランクに色々とぎっしり詰まってるぞ。」

 

「だからこんなに重かったのかよ。

てか、ならどうして空港の検査には引っ掛からなかったんだ?」

「あー、呪力も持った奴が触れると重さが復活する仕様なんだよ。

その分、出したい荷物はイメージするだけで出て来るからそこはかなり便利だぞ。」

 

「マジでふざけんなよな……クソ重かったってのに」

悪態をつく飛鷲を見ながら一馬は冷静に分析する。

(見た所、典型的なヤンキー気質だな。

俺に反抗しないのも兄貴から色々言われたからだろう。

それにしても凄まじい身体能力だな。

マジで置いてくつもりで荷物を渡したのに息を上げてはいるが持ってきやがった。

呪術かそれとも何か別の仕掛けがあるのか?

どっちにしてもまだ警戒は緩めない方が良いな。)

 

そうして話していると此方に近付く黒服の集団が現れた。

「捨餓螺 一馬様ですねお待ちしておりました。

私達は当主から貴方のお世話を仰せつかった者です。

……お連れの方は?」

「まぁ、助手みたいな感じだ。

俺が五条家に世話になる間、小間使いをして貰う。」

 

「承知致しました。

お荷物はお持ちしても?」

「あぁ、あの助手が持ってる荷物が全てだ。」

 

そう言うと黒服の集団は飛鷲が持っていたトランクケースを持つとスタスタと歩いて行ったその光景を見た飛鷲が呆然とする。

「は?……それ重く……」

「言い忘れたがそのトランクケースは"呪力を吸って重さを軽減させる"機能があってな。

お前に持って貰う間、重く感じたのは呪力を吸われたからだ。

あぁ、安心しろ。

吸われるって言っても死ぬレベルじゃねぇ……ほらさっさと行くぞ。」

 

飛鷲は一馬の顔を見て殴りたい衝動に駆られながらも何とかそれに耐え一馬と共に五条家の屋敷へと向かうのだった。

 

 

屋敷に到着すると一馬を出迎えたのは扇子を開き仰ぎながら不敵に笑う三ツ木だった。

「いやぁ、こんな暑い日に遠い所から御苦労様。

大変だったでしょ?

ほら、中で冷たい麦茶あるから飲んできなよ。」

 

そう言って屋敷に入る一馬だが早速、歩きながら本題に入る。

「それで夜蛾さんは何処に?」

「えぇ、いきなり本題?

もっとこう言葉のキャッチボールをさ……」

 

「貴方が呼び出す時は大抵面倒くさい事が起きると昔から知ってますから正直、夜蛾さんが来ないならこのままさっさと帰りたいぐらいです。」

「それは困るなぁ……仕方ないなら本題を話そうか。」

 

そう言いながら三ツ木は到着した部屋に一馬と飛鷲を通す。

そして、出された麦茶を一口飲むと三ツ木は話し始める。

「一馬君は御三家の実情について何処まで知ってる?」

「実情と言うのは?」

 

「まぁ所謂、"跡取り"的な話さ。

君は御三家全員と直接関われる稀有な立場だからね。」

「少なくとも加茂家と禪院家じゃそんな話は聞いてませんね。」

 

「ありゃりゃ、だとしたら本当にいないか意図的に隠してるかだね。

まぁ、でも良いや。

実は五条家にはもう跡取り候補が決まってる……いや、正確に言うならばもう既に跡取りとして活動して貰ってるの方が正しいかな?」

とんでもない発言を聞いた一馬の手が止まる。

「それって俺に話しても良いんですか?」

 

「まぁ、問題ないでしょ?

君には縛りを付けてるしそこの彼ならもう"寝ちゃってる"しね。」

三ツ木の言葉を聞き一馬が飛鷲に目を向けると麦茶を飲み豪快に爆睡している飛鷲がいた。

「睡眠薬?」

「正解、安心して君のには入ってない。

その子、分家から来たんでしょ?

情報を抜き取られる可能性が万に一つもある以上、警戒させて貰うよ。」

 

「そこまで徹底するって事は跡取りに何か秘密でもあるのか?」

その言葉を聞いた三ツ木は笑う。

「まぁ、詳しい事は実際に会わせてから教えるよ。」

 

そう言うと先程までいた屋敷の景色が変わり全面がコンクリートで出来た空間が現れる。

「長い間、呪霊を相手にしてきた五条家には独特の相伝術式があってね。

この結界術もその一つ。

空間を絵の様に切り取って結界内に嵌め込む。

呪力をかなり使うけど五感全てに作用する空間を作れる。

常に警戒してた君も騙せる位の空間をね。」

 

まるで悪戯が成功した様に笑う三ツ木を見て一馬は両手を上げた。

「チッ!……降参だ。

こういう化かし合いではアンタに分がある。」

「ごめんね一馬君、でも今回は僕もこれだけ本気って事さ。

それじゃ、本題だ。

そこにいる白髪の子供見える?」

 

扇子で指された方向を一馬が見るとそこには着物を着た中学生位の青年が立っていた。

 

「彼の名は"五条 悟"(ごじょう さとる)

次期五条家当主となる男だ。」

 

 

「この子供が当主?」

子供という言葉を聞き不快感を表した悟が答える。

「おじさんにとってはガキに思うかもしれないけどこれでもちゃんと呪術師として働いてるんだ。

ナメた事言わないでくれる?」

 

「おじっ!?

いやぁ、随分と活気強い呪術師だな君は(ナメた態度を取るクソガキだな)…」

表面上では笑顔で取り繕ったが内心が漏れそうになるのを誤魔化しながら話す姿を見て三ツ木は笑う。

「あははっ!!悪童がおじさん呼ばわりとかww

受けるっww」

 

「……ふぅ、喧嘩なら買うぞクソ当主。(人をおちょくるのは止めてください。)

「本音と建前が逆転してるよ一馬君。

……まぁでも悟がクソ餓鬼なのは事実だ。

実際、当主として発表したら反発するのは目に見えてる。

でもね、そんな事が些末な事になる位には彼は"強い"んだよ。

 

まぁ、本題を話す前にそれを確認しておいた方が一馬君としても理解しやすいでしょ?

おーい、悟君!

今からこの一馬おじさんと模擬戦して貰うよ。

何時もの様に殺すのは厳禁だからそこだけ気をつけてね。」

 

その言葉を聞いた一馬は不快感を表す。

「はぁ、おい当主。

アンタ程じゃ無いにしても俺だって相当場数を踏んでるんだ。

こんなガキに殺される程、軟じゃ……」

 

そうして油断した瞬間、悟は一馬の懐に入る。

「!?」

「そうやって油断する奴をバカって言うんだぜオッサン。

ちょっと吹っ飛んで反省しろよ。」

 

直後、一馬の身体が真横に一直線に吹き飛びコンクリートの壁に深々と突き刺さった。

 

 

 

これが後に"現代最強"と呼ばれる最強の呪術師である五条 悟と"現代最高の呪具師"と呼ばれる捨餓螺 一馬の出会いだった。

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