悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第十五話 手合わせ(裏)

【五条 三ツ木の記憶】

 

「五条家としての運全て使い切ったんちゃうん?」

三ツ木が、始めて五条 悟を見た時に感じだ感想はそれだった。

 

五条家相伝の術の中でも、

特に最強と呼ばれる"無下限呪術"(むかげんじゅじゅつ)

収束する無限を現実にする術式を幼い悟が会得出来たのは両眼に宿る力のお陰だった。

 

"六眼"(ろくがん)と呼ばれる宝石の様に輝くその両目には呪力の詳細を見ただけで看破し又、ミリ単位の超繊細な呪力操作も可能に出来る能力がある。

 

その2つが揃った事で悟は名実共に呪術師最強になる資格を得た。

現段階でも当主である三ツ木は正面から悟と対峙して勝てるビジョンが浮かばない。

(球核術式も強力な術だけど無下限術式と比べたら思いっ切り下位互換だし何なら六眼による繊細なコントロールが出来るから正直、今の僕よりも子どもの彼の方が強いよねぇ。

 

弱点があるとすれば六眼や無下限術式は脳に掛かる負担が半端無い。

球核術式ですら一度使うと頭が痛くなる位には疲労するからなぁ。)

 

もうこの段階ですら当主の自分よりも能力が優秀な事が分かった三ツ木は素直に呟いた。

 

「いや、チートやん。

何何君?本当に人間?」

 

呪霊による理不尽は経験してきたが呪術師による理不尽はそこまで経験が無かった為……内心冷めてしまったが逆に五条 悟の優秀さが危険だと三ツ木思っていた。

 

少し話しをして分かったが悟はどうも倫理観や善悪に関する思考が緩い。

ワンチャン、ムカつく人間にあったら無下限術式ぶっ放しそうと思うぐらいには精神が幼いのだ。

 

(産まれてからずっと強者だからこそ間違いを正したり考えを改める事をしてこなかったんだろうなぁ。)

 

だからこそ、このまま放置する訳には行かなかった。

表面上は御三家は安定している様に見えるがその裏では様々な謀略が渦巻いている。

特に加茂家で相談役の地位についていた"加茂 紫痕"。

 

コイツのヤバさは頭一つ抜けている。

奴の狙いは単純明快、呪術師の名声を平安時代まで戻す。

政治に介入し裏からこの日本を支配していたあの時代に戻そうとしている。

 

そして、その為ならば他の呪術師や同じ家の呪術師が犠牲になろうと一切、気にしない。

そんな性格を見抜いていた僕と賢尺が奮闘したお陰で加茂家の当主は賢尺になり紫痕の動きを牽制できた。

 

だからこそ、紫痕にとって五条 悟がどういう風に写るのか全く想像がつかない。

(支配に邪魔な存在として消そうとするか。

それとも、悟を担ぎ上げで日本を掌握するか……どっちにしても碌な未来じゃない。)

 

だが、それを使う様にも悟は強情だ。

自分よりも弱い人間の言葉なんて聞こうとしないだろう。 

("最強の悪ガキ"か……)

 

悪ガキ……そう言えば御三家以外にも小生意気で厄介な奴がいたな。

 

あの男なら……もしかしたら……

 

 

そう考え一馬を連れてきたは良いが速攻で悟にふっ飛ばされてしまった。

巻き上がるコンクリートの破片を見る限りかなり強めに吹き飛ばしたのだろう。

(並の術師なら重体かワンチャン死ぬなぁ。)

 

吹き飛ばして清々したのか悟が三ツ木に顔を向ける。

「何こいつ?雑魚すぎて話にもならなかったよ。」

「そりゃあ悟くん。

無下限術式による高速移動による奇襲なんて対応するのは難しいでしょ…」

 

実際、悟の今の奇襲を三ツ木が避けられるかと言えば否と言わざるを得ない。

 

「ふーん、でももう終わりでしょ?

そろそろ帰っても良い。」

悟がそう尋ねて後ろを向いた瞬間………

 

「何帰ろうとしてんだクソガキ?」

悟の背後に一馬が現れた。

「なっ!?」

「オラッ吹っ飛べクソガキィィ!!」

 

お返しとばかりに一馬は手に持った銀隸棍を振り降ろす。

速度の乗った棍の一撃が悟の頭に接近する。

"ガキン!!"

だが、硬い何かに当たった音と共に棍が弾かれてしまった。

 

「チッ!打撃がダメならコッチはどうだ?」

 

一馬は銅玄を取り出すと横を薙ぐように振るった。

又しても硬い何かに弾かれそうになるがここで一馬は銅玄に呪力を流した。

鎌が割れて口が現れると悟の呪力を喰らおうとする。

 

(アレを食らうのは"面倒"だな。)

六眼により銅玄の持つ能力を看破した悟は展開していた術式を解いた。

銅玄が悟を斬ろうと襲ってくるが動きを見ながら冷静に回避するとまた一瞬の内にも一馬との距離を取った。

 

(まただ。

あの予備動作がねぇ瞬間移動。

一体どうなってる?)

 

距離が離された今となっては一馬の持っている呪具では迎撃手段は無い。

下手な攻撃は悟からのカウンターを誘うだけだとこれまでの戦いで分かったが故に覚悟を決める。

 

「呪力武術 "爆華"(ばくか)

 

足に呪力を溜めて足裏から爆発させる様に放出する技だがこれを移動時にも応用出来る。

圧縮された呪力が地面に触れた瞬間、小さな爆発と共に一馬を加速させる。

 

 「速っ!?」

迎撃に失敗し悟の懐に一馬は入り込むと握り込んだ拳を振るった。

「呪力武術 "砲落"」

 

過去に甚爾と禪院家で暴れた際に使った技を遠慮無く叩き込むがその拳は悟が身体をかすめると逆に放たれた無下限の呪力を込めた空気の一撃を顔に受けて吹っ飛ぶ。

 

かすめただけでも凄まじい威力があったのだろう悟の腕から血が流れる。

「痛いなオッサン。

いたいけな中学生、いたぶろうとしてんじゃねぇよ。」

 

それに返す様に起き上がった一馬は片方の鼻を抑え溜まった血を出すと答える。

「テメェこそ年長者を労れやクソガキ。

俺じゃなかったら死んでたぞ今の一撃はよ。」

 

互いに反転術式を使い傷を完治させると立ち上がる。

「オッサンがそこそこ強いのは分かったよ。

これなら加減しなくて良さそうだな。」

「ほざくなクソガキ。

テメェなんぞ秒で仕留めてやるよ。」

 

口では両者とも挑発的な事を言ってはいるが内心はかなり違っていた。

(三ツ木のオジサン以来、初めてだな。

本気で戦っても問題ないって思える相手に出会ったの。) 

 

悟はその強過ぎる才覚と実力から周りに太刀打ち出来る者がいなかった。

故に稽古も当主である三ツ木でしか相手に出来なかった。

そんな彼にとって一馬は自分に喰らいつき戦ってくれる存在になっていたのだ。

(アンタならきっとコレも受けられるよな?)

 

悟は三ツ木と共に形にした新たな無下限術式の技を放っ決心をするのだった。

 

対して一馬の心には驚愕がひしめいていた。

痛ってぇぇえぇぇ!?

何だよあの化物小僧は!?

呪具と呪力武術使って漸く追い縋れるとか頭おかしいだろ!)

 

戦闘が始まる前までは五条 悟をただの生意気なクソガキだと思っていたが戦い始めてからは特級呪霊を相手にする気概で挑んでいた。

 

(数手戦っただけなのにもうボロボロだぞ。

反転術式多用しまくってるから呪力消費もヤベェ。

こんな事ならここに来る前に呪力使わなけりゃ良かった。)

 

一馬は体内に封印した呪具"御霊の壺"の能力で半永久的に呪力を供給出来る。

だが、無尽蔵に生成される呪力が自らの容量を超えない様に常に呪力を消費する生活を行っていたのだ。

 

(大体"8割"位の呪力量で生活するようにしてたからなぁ。

しかも、ここに来る時に飛鷲が持ってたアタッシュケースには俺の呪力もふんだんに送り込んじまってる。

アレで2割ぐらいは持ってかれたから、残り"6割"でこのガキを相手にしちまった訳だ。

 

アホは俺じゃねぇかぁ!?

何の連絡が無いにしても6割は流石に舐めプ過ぎた。

どうする?さっきのダメージの回復で呪力が4割持ってかれてる。

傷を全開にさせるなら金華釣を使えば一発だがアレは使うのにちょっと時間がかかる。

このガキならその隙に更に追撃加えてくるに決まってる。

けど、手持ちの呪具でガキの術式を突破する手段がねぇ。

 

本気でどうする?"奥の手"使うか?

いや、アレはまだ俺が使いこなせてねぇ。

加減が出来ない武器なんて敵以外に使えるかってんだ。

てか、それ以上にガキ相手に使って良い呪具じゃねぇ。

まぁ、そんな事言ったら今使ってる呪具全部アウトなんだが……)

 

そう考えている両者の中で先に動いたのは悟だった。

相変わらずの目にも止まらない高速移動だったが数度動きを見れたことで一馬にも多少の慣れが起こっていた。

急接近する悟に向かって銀隸棍を取り出すと構える。

 

しかし、悟の次の行動は一馬にとって見慣れた動作だった。

(あの呪力の流れに構え……マジかよ!?)

「確かこうだったよな?呪力武術"砲落"!!」

その瞬間、悟は構えた拳を一馬の銀隸棍に向けて振るった。

 

その一撃は一馬が放った呪力武術と寸分違わぬクオリティであり込められた呪力の質に関しては"悟の方が上"だった。

防御の為構えていた銀隸棍をかち上げるとそのまま悟の拳は一馬の身体に迫る。

 

だがいくら六眼が強力でも一度見た術式が模倣出来るだけで見たことの無い技には対応が遅れる。

故に悟の拳が一馬の身体に当たった時、苦悶の表情を浮かべたのは悟だった。

 

「痛っつ!?」

「一発見ただけで呪力武術をコピーしたのは凄いがちゃんと防御の技もあるんだよ。

呪力武術"芯鎧"(しんがい)

呪力を固めて肉体を鎧と化す技だ。」

 

そう説明する一馬だが急に悪寒を感じる。

悟を見ると腕を抑えてはいるが痛みからではないのに気付いたからだ。

「位相…黄昏…知慧の瞳……術式順転『蒼』(あお)

 

悟の指にビー玉サイズの蒼い球体が現れる。

それを見た瞬間、一馬は直感する。

 

("コレを受けたら死ぬ"。)

 

もう形振り構って入られない。

一馬は胸に手を当てた。

突如、一馬と悟の中心で大爆発が起こり二人は吹き飛ばされる。

そして、発生した爆炎が部屋を包み込もうとしたが三ツ木が展開した球核術式を発動する。

 

すると、爆炎は三ツ木の球核術式を中心に一瞬の内に吸収され周囲に残ったのは爆発により気絶した二人だけだった。

 

「全く、悟くんも切り札の"蒼"を使うだなんて本当に嬉しかったんやろうな。

僕以外で初めて自分と対等に戦える相手に出会えて……まぁでも流石にやり過ぎやわ。」

 

三ツ木は悟と一馬の近くにより反転術式を使い両者の身体の傷を癒していく。

 

「でも驚いたわぁ……いくら一馬くんでも蒼に対応出来る可能性は無いと思っとったからもしもの時は助けようとしてたけどあの"呪具"は反則やな。

悟くんも咄嗟に無下限呪術で回避しようとしてたけどアレだけのダメージ受けたの始めてなんちゃう?」

 

二人の回復を終えると三ツ木は気絶している一馬の前に突き刺さっている"日本刀"を見つめる。

先程の爆発はどう見てもこの呪具が原因だ。

 

「見た所、悟くんの術式……いや呪力に反応して爆発を起こした?

って事はやっぱりコレは"酒呑童子を使った特級呪具"なんやろうなぁ。

ホンマならこの呪具を奪い取るのが五条家の当主としては正しい判断だと思うんやけどまぁ、無理やろなぁ。

それが出来るほど他の呪術師が"信用"ならん。

縛りを追加すれば御三家にも疑われるし……ハァ本当に厄介だなぁ僕達(呪術師)って」

 

三ツ木は証拠隠滅の為、この空間に張っていた結界術を操作し周囲の呪力の残滓を書き換え始めた。

(良い面を見れば彼が悟くんの護衛についてくれたらかなり心強い。

悟くんは気付いてないだろうけど彼の術式には"弱点"があるからねぇ。

一馬くんならそれを埋められる技量もあるし兵隊を増やせるコネもある。

万が一ピンチになった時、僕以外にそういう"根回し"が出来るならこっちとしては大助かりだしね。)

 

そう考えながら呪力の書き換えを終えると二人を連れて元の応接間に戻る。

そこにはまだ眠りこけている飛鷲の姿もあった。

 

三ツ木は扇子で飛鷲の頭を叩く。

「とっとと起きなさい。」

ペシ!

「ん!?……あれここは?」

 

「おはよーさん。

良く寝てたねぇ

一馬くんと長く話し込んでたら彼長旅の疲れで寝ちゃってねぇ。

悪いけど彼を部屋まで運んでくれないか?」

起きた飛鷲は頭をガシガシ掻きながら立ち上がる。

「それは構いませんが……」

「それじゃあ、よろしくねぇ。

場所はこの部屋を出て左にある"三ツ首の間"って部屋だから……」

 

「何だその縁起の悪い名前……ってうおっ!?」

「僕も気色悪い名前だとは思うけどこう言うのは気にしないのが一番……ほうら行った行った。」

 

急かす様に一馬を背負わせると飛鷲は部屋を後にした。

 

すると、三ツ木の携帯に連絡が入る。

掛かってきた電話番号はかつて三ツ木と共に呪術師を目指し研鑽し今は仲介人として生きる女性だった。

「はいはーい、おまたせ。

そっちからかけてきたって事は何かわかった感じかな?」

 

あっけらかんと尋ねる三ツ木の声に電話の女性はため息を付く。

「ハァ……少しは自分の心配をちゃんとしたらどうですか?

って言っても貴方は仮面を外して本音で喋ってくれるなんて思ってませんけど」

「相変わらず辛辣だなぁ……そこは昔から全く変わってない。」

 

「そういう貴方も"辛い時ほど巫山戯る癖"……直した方が良いわよ。

それで頼まれていた情報だけど……貴方の悪い予感が当たっていたわ。」

「やっぱりかぁ……どれだけ調べがついた?」

 

「先ずは五条家に恨みを持つ"呪術師と呪詛師"が数名。

それから呪術師の世界を変えてやろうと"革命を起こそうとしている一派"が有力ね。

少なくとも"50数名の集団"が貴方の所の跡取りを殺しに現れるでしょうね。」

「予想よりも多いなぁ。

あの老いぼれ(紫痕)は何が何でも悟を殺したいらしい。」

 

「殺したいだけじゃないかも」

「どういう意味や?」

 

「最近、裏の世界で腕の良い呪詛師を集めているって聞いてる。

高額な報酬の割に内容は誘拐らしくてこっちの業界では噂になってる。」

「誘拐ね……それもそれで怪しいなぁ。」

 

「不安なら私が探ろうか?」

心配した声が電話越しに聞こえ三ツ木は変わらないと思いながらその提案を拒否する。

「要らん。

どんな奴が来ようと全員いてこましたる。

"錫魅"(すずみ)は何時も通りにしててええんや。」

 

「……此処から先はクライアントではなく友達として忠告しておく。

三ツ木、今回はいくらなんでもヤバ過ぎるわ。

何時もみたいな功名心や権力を求めた敵じゃない。

頭のネジがイカれた集団が相手になる。」

「えらい心配してくれるやん。

友達として嬉しいなぁ……」

 

「ふざけないで聞いて……長く仲介人としてやっていると色んな人間に出会う。

その中で最も厄介な相手って何だか分かる?

"思想や主義"を信念に生きている連中よ。

そう言う奴等には倫理観は無い……寧ろ、思想に則った倫理観で行動する。

思想による倫理は人として守るべきラインすら軽々と超えて残酷な事を平気で行える人間を作り出す。

事、呪術と言う世界ではそういう人間は強い。」

「勿論、"分かっとる"で……

これでもそこそこ長く御三家の一角を担ってたんや。

その恐ろしさや厄介さは身に沁みてるわ。

でもな……だからこそ今の呪術界には必要なんや。

"狂った思想や倫理を枠組み事ぶち壊せる力"が……それを行使出来る呪術師がな。」

 

三ツ木の言葉を聞いた錫魅は納得する。

「それもそうね。

貴方もそういう意味では狂った倫理の中に生きてるんだものね。」

「せや。

こっから先は狂った怪物同士の戦いや。

どっちがよりトチ狂っているかの………な。」

 

それだけ言うと三ツ木は電話を切るのだった。

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