悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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二話 覚醒(裏)

【竜臣の妻の記憶】

 

「こんな筈じゃなかった。」

 

私は目の前で暴れている呪霊を見ながらそう呟いた。

捨餓螺家の当主である竜臣と結婚した時は幸せだった。

 

古めかしい仕来たりの多い家だったがそれでも私は竜臣を愛していた。

彼の為なら何でも出来ると思っていた。

 

そんな私の人生が変わったのは一馬が生まれてからだ。

捨餓螺家には産まれた子の体内に宿る生得術式を見る決まりがあり一馬も捨餓螺家に代々伝わる呪具を使い生得術式を調べたのだ。

 

その結果を知ってから竜臣の目の色が変わった。

それから、竜臣は私から一馬を奪い私の存在すら切り離したのだ。

 

勿論、私は何度も抗議した。

だけど、その抗議が届く処かまた次の子供を産む様に急かされてしまった。

 

そして、竜臣は一馬との時間を優先し私との時間すら取らなくなった。

こんな状況では新しく子供なんて産めない。

 

そんな事を考えていたら屋敷に若い男が呼ばれた。

そして、聞かされたのだ。

その男が私が次"に産むだろう子供の父親になる存在"なのだと竜臣に言われ私の寝室に来たのだ。

 

それを聞き私の心は完全に消え去った。

竜臣を愛した自分やその血が流れている一馬すら嫌悪感や憎しみを感じるようになった。

 

そんな頃に二虎が産まれた。

だから、私は決めたのだ。

この家から"竜臣の血"を根絶やしにしてやると.....

 

私は二虎を当主とさせる為あらゆる手を尽くした。

教育に関しては特に力を入れたお陰もあり今の二虎は当主に相応しい存在になった。

 

そんなタイミングで竜臣が呪術師を連れて行方不明になった。

しかも、一馬を残して......

 

私は神が味方してくれていると感じた。

竜臣がいなくなってから家の実権を握ったのは妻である私だ。

 

そして、私はその権力を全て使い一馬を追い詰め逆に二虎に更に特別な教育と優遇を行った。

(これだけやれば問題ない。)

 

そう思っていたのに一馬のやっていたお遊びを見て私の危機感は更に加速された。

無数のスーパーボールに呪力を流しその起動を全てコントロールする。

 

呪術にそこまで詳しくなくても一馬のやっていることの異常さは理解できる。

そして、それを捨餓螺家の者が気付かない訳がない。

 

(このままでは竜臣の血を持った者が当主になる。

それだけは何としても避けないと.....)

 

私は殺し屋を雇い一馬の暗殺を図った。

もう、自分の子だから等の感情はない。

竜臣の血をこの世に残しておくことが許せなくなっていた。

 

だが、その暗殺者も一馬の世話をしている源吾に止められてしまった。

先々代の五十鈴家の当主であり呪力を用いた格闘術を扱う源吾の腕は当主を引退した今でも強力だった。

 

殺すことも出来ずただ時が過ぎていくは私にとってストレスだった。

(早く二虎を捨餓螺家の当主として認めさせないと....)

 

そこで思い付いたのが当主の座を賭けた呪具の創造だった。

いくら、一馬が才能があったとしても二虎の様に幼い頃から英才教育を受けていない。

これならば二虎は負けることはないだろう。

 

念には念を置いて試し合いが行われる期間まで呪具の製作に関わる呪術師との交流を完全に絶ってやった。

(何の技術も持たずに呪具は作り出せない。

これで二虎の敗けはなくなった。)

 

実際に上手く行っていた見届け人の前で二虎は当主として認められるだけの才覚を示し一馬は呆然と見ているだけだった。

 

勝敗は決した....後は竜臣が残した後継者への贈り物を手に取るだけだった。

竜臣は消える前に紐で十字に結ばれ閉じられた木箱を残していた。

(どうせ、権利書程度の代物だろう。)

 

私は木箱の中身を甘く見積もってしまった。

実際、中に入っていたのは封印されていた一級呪霊だった。

 

解放された呪霊は暴れまわり私の腕や呪術師を倉っていった。

腕を喰われた痛みから動くことが出来ない私を余所に呪霊は二虎を見つめていた。

 

「や....めて....」

私に残った唯一の存在である二虎を奪わないで欲しいと願ったがそれが届くことはなく....倒れている二虎にゆっくりと近づいていった。

 

そんな状況を変えたのは一馬だった。

二虎に手を出そうとした呪霊に怒りを露にすると一瞬の内に決着が付いた。

 

凡人の私の目には急に一馬に接近した呪霊が小太刀に変えられ畳に突き刺さった光景だけだった。

 

その一馬の姿に過去の竜臣が重なる。

(また、貴方は私の足掻きを笑うのね。

死んでも変わらずに.......)

竜臣の血を根絶やしにする....その計画すら幼稚だと笑い飛ばす様に見せつけられた才能。

 

私は竜臣(一馬)を睨み付け呪いを吐くことしか出来ない。

 

「お前なんか....死んでしまえ。」

 

そして、私はそのまま意識を失ってしまった。

 


 

【とある見届け人の護衛の記憶】

 

捨餓螺家で、行われた当主を決める為に行われた呪具を作る戦いは凄いものだった。

 

まだ、小学生くらいの齢である捨餓螺 二虎。

母親が次期当主にと推しているので身内贔屓もあるかと思ったがそんな事は無かった。

 

呪術と呪力の両方を宿した呪具である呪装具をあの短時間に立った一人で作り上げたのだ。

作られた呪具の等級も高く今後、優秀な呪具師になるのは誰の目から見ても明らかだった。

見届け人として参加していた御三家の表情も明るい。

 

(これは次の当主は決まったな。)

 

見届け人達は次の当主は二虎になるのだと感じていたがその考えは前当主が残した木箱から現れた一級呪霊により変わってしまった。

 

暴れまわる呪霊から見届け人を守っていると一馬が立ち上がり呪霊に怒りと共に濃密な呪力をぶつけた。

 

こちらが重苦しいと感じる程の呪力を受けた呪霊は一馬に襲い掛かっていくがその攻撃を一馬はいとも容易く回避したのだ。

 

長く前線で活躍していた護衛はその動きを見て理解した。

 

(あれは、前線での殺し合いを経験している奴の動きだ。)

 

呪霊との命を賭けた戦いを経験し死線を何度も乗り越えてきた者が見せる技術の結晶。

普通ならば呪術師として実力がピークとなっている者が見せる動きをまだ中学生くらいの少年が見せたのだ。

 

そして、その少年は呪霊に手を触れると術式を発動した。

御三家の中でも聞いたことがある噂.....

 

捨餓螺家の当主が持っていた触れた呪霊を呪具へと変えてしまう最強の生得術式の一つと呼ばれる"転魂術式"

それをこの少年は使い呪霊を呪具へと変えたのだ。

 

それを見た見届け人は顔色を変える。

当然だろう。

これ程の力を持った者が現れたのだ。

御三家としては囲い込みたい筈だ。

 

故に呪霊が現れ何人かの呪術師が犠牲になりながらも問題になることは無く見届け人は御三家へとそそくさに帰っていった。

きっと、それぞれの当主に報告されるだろう。

護衛を勤めていた呪術師は2人の少年のこれからの行き先を哀れむ。

 

(彼等はきっと、これから御三家に人生を使い潰されるだろう。

不憫だが仕方が無い。

そうすることで今のこの世界を平和を守っているのだから.....)

 

 


 

【とある御三家の記憶】

 

見届け人からの報告を受け男は笑みを浮かべる。

 

「全くこの時代の呪術師は豊作だな。

"六眼と無下限術式"を持つ者と"転魂術式"を持つ者が同じ時代に現れるとは......」

 

転魂術式については先代から聞いたことがある。

数ある呪具の中で最も作るのが難しい特級呪具を作り出せる唯一の生得術式。

 

男の持っているこの"鉄扇"も過去に転魂術式で作られた特級呪具の一つだ。

「やはり、欲しいな。

転魂術式の使い手を囲い込めれば我が家の地位は磐石なものとなる。

それに、これから特級呪具を作らせるにはそれなりに成長して貰わねばなるまい。

 

"禪院"の愚か者や頭のおかしい"加茂"に接触される前に何とか恩を売りたいなぁ。」

 

男は鉄扇で自分のこめかみを抑えながら考えると一つのアイデアが浮かぶ。

 

「....ふふ。

良いことを思い付いた。

勝手に家で囲い込むよりも他家をわざと巻き込み蹴落とせば良い。

 

疑念を残せば人は勝手に邪推し敵味方を作るだろう。

そして勝手に嫌い敵対を起こす中、私は味方として捨餓螺家の後ろにつく。

 

そうなれば恩もあるだろうから特級呪具も手元に抑えやすくなるか。

なら早速、捨餓螺家の当主に他の御三家を嫌って貰える要因を作らないとなぁ。」

 

男は硯と筆を取り出すと他の御三家に手紙をしたためる。

手紙を書きながら男は傍に控えていた部下を呼ぶ。

 

「御呼びでしょうか三ツ木(みつき)様。」

「うん、禪院家か加茂家のどっちかと所縁があって金に靡くか捨餓螺に恨みのある家を調べてくれ。」

 

「承知いたしました。」

「それと、これを書き終えたら捨餓螺家に行くからその準備もよろしく。

....確か子供達は小学生と中学生だったよね?

彼等が喜びそうな物をプレゼントしたいから準備しといてね。」

 

「はっ!」

そう言うと部下は部屋から出ていきその後に男の妻が入ってきた。

「貴方、忙しかったかしら?」

「ううん、君の為ならどんなに忙しくても時間を取るよ。

どうしたんだい?」

 

「この後、私、産まれた"悟"の所に行くんだけど貴方はどうする?」

「....あー、君と一緒に行きたい気持ちもあるんだけどちょっと今から用があってね。」

 

「良いわ別に....貴方が忙しいのは理解してるから」

「理解のある奥さんで僕は嬉しいよ。

ごめんね。

後でちゃんと埋め合わせするからさ。」

 

「それじゃ、楽しみにしておくわね三ツ木。」

そう言って妻が部屋から出ていった。

 

今の家の他よりも優れている点がある。

それは未来だ。

 

呪力の繊細なコントロールを可能とする六眼とそれに見合った生得術式である"無下限術式"を持った者が産まれた。

 

()が成長すれば当主は僕から彼へと代わるだろう。

 

それもそれで良い。

 

家の未来の為になるのならこの立場から身を退くことは寧ろ、喜ばしいことだ。

 

それまでに僕がやるべきことは彼が当主となった時に手元に強力な手札を残しておくこと捨餓螺家との繋がりはその第一歩だ。

 

「全く、妻との時間を大切にしたいのに仕事が多くて敵わないなぁ。

あぁーあ、どっかの田舎で隠居したいなぁ。

呪いとか関係ない世界でゆっくりしたいなぁ。」

 

男はそんな愚痴を誰もいないことを良いことに漏らすと一回、深呼吸をした。

 

呪術師の世界を支配しているのは実質三つの家だ。

"術と力を至上と考える禪院家"。

"古来からの仕来たりや位を第一とする加茂家"。

そして、"利益の為ならどんな者とも手を組む五条家"。

 

この三家が今に至るまでいがみ合い潰し合いながら呪霊を祓ってきた。

 

呪術師の本来の役目は人に仇なす呪霊を祓い世界の平和を裏から守ることだ。

だが、今の御三家がそれを真に行っているとは言えない。

 

互いに己の家と権力を手に入れるオマケとして呪霊を祓っているだけだ。

 

だが、その流れを変える存在が産まれた。

五条家に産まれた今の段階で既に最高の呪術師の名を受け継ぐに値する"五条 悟"。

 

そして、あらゆる呪霊の運命を終わらせる可能性を秘めた術式を備えた"捨餓螺 一馬"。

 

彼等が成長し力をつければ呪術界は彼等を中心には回るだろう。

(そうなればきっと今の腐った呪術界を壊してくれるかもしれない。)

 

三ツ木は過去に思い更ける。

もしあの時、御三家がいがみ合わず協力できていたら......手に残った血肉の感触が振り払う様に前を向く。

 

(絶望したところで何も変わらない。

僕達に正義を名乗る資格などない。

所詮、僕も呪術界の闇に呑まれた一人だ。

 

未来を叶えるのは先の人間の役目.....だからこそ、僕達の役目はその露払い。

その為ならいくらでも泥や血にまみれよう。)

 

男は服を着替えると早速、捨餓螺家へと向かうのだった。

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