悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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三話 縛り(裏)

【捨餓螺家の使用人達の記憶】

 

「一馬さまからお話があるそうだ。

中庭に集まってくれ。」

 

源吾様からそう仰せつかった数人の使用人は誰もいない中庭に集められた。

 

一体何の話があるのかと期待していると源吾を連れて一馬が中庭に現れた。

 

「ここに集められた理由を分かるか?」

 

一馬の問いに一人の使用人が答える。

 

「いえ、皆目見当がつきません。」

「.....そうか。」

 

使用人の答えを聞き終えた瞬間、一馬の顔から表情が消える。

身体から発せられる威圧感は子供のそれとは一線をかしており使用人は呼吸が出来なくなったのか首を抑えながら地面に座ってしまう。

 

「...い...き...が...」

「お前らは弟の二虎を教育と称して苦しめた。

あの"クソアマ"(母親)からの命令だってのは聞いている。

問題はな....二虎にそれをして"罪悪感を感じるどころか当然"だと思っている点だ。

 

おかしいよな?...二虎も俺もこの捨餓螺家の次期当主候補だ。

それなのに、栄養失調で死ぬかも知れないレベルにしてしかも、倒れて熱を出しても部屋に来ようとしねぇ。

 

そんな奴等はな......捨餓螺家に要らねぇんだよ。」

 

一馬は怒りから身体から発せられる呪力が増えるがその段階で中庭にいた使用人は気を失ってしまった。

 

「ちっ!....もうへばったか。

おい、出てきて良いぞ。」

一馬の合図で部屋にいた使用人達が怯えた表情をして現れた。

 

「これ見て分かったかと思うが....俺は弟が好きだ。

そして、その弟を蔑ろにして傷つける奴等に容赦する気はない。

倒れているコイツらは源爺の"手引き"で別の場所に送られる。

 

何処に行くか知りたいか?」

 

一馬の問いに使用人達は首を横に振る。

 

「分かったならそれで良い。

捨餓螺家の当主には弟の二虎がなる。

だが、今後あのクソアマの言うことは聞かなくて良い。

 

当主である二虎の命令だけを聞け....

分かったならさっさとここから消えろ。」

 

一馬がそう言い終わり呪力を抑えると使用人達は蜘蛛の子を散らすようにその場を後にした。

 

「それで源爺.....コイツら(気絶している使用人)は何処に送られるんだ?」

「彼等は捨餓螺家の使用人として仕えていますが元はただの呪術師です。

家に戻されたのなら本来の呪術師の仕事をするでしょう。

 

ですが、捨餓螺家に不義を働いたのです。

家から疎まれるでしょうし当然、呪術師の活動はしづらくなる。」

 

「つまり、俺が直接手を下さなくてもコイツらは地獄に行くってことか。」

「はい、帰させる使用人の家にこの事態が起きた理由を書面にして送りましたので間違いなくそうなるかと」

 

「なら、良い。

そう言えば二虎を教えていた呪術師については分かったのか?」

「えぇ、そちらの方は"送って来た家の御当主様"に任せました。」

 

 


 

【加茂家の記憶】

 

「お前がここに呼ばれた理由は分かるか?」

 

加茂家当主である賢尺が一人の呪術師に尋ねる。

 

「捨餓螺家の事ですか?」

「そうだ。

お前は捨餓螺家の呪術指導を行っていた筈だな?」

 

「えぇ、ですが"一ヶ月前にクビ"になりました。」

「それは何故だ?」

 

「奥様から無茶な要求をされたからです。

まだ、小学生の二虎様に無茶な教育を施そうとしていまして.....それを止めようとしました。」

「他家なのに随分と親身に対応したのだな。」

 

「捨餓螺家は呪具を作る家系で最も優秀と言われています。

その次期当主である以上、長く時間をかけて教育すべきです。

 

何故ならその道具を使うのは我々であり周り回って私達の益になると考えました。

しかし、その考えを奥様は理解してくださらずクビに.....申し訳ありません。」

 

そう告げると話を聞いていた賢尺笑う。

「いや、今回に限って良かった。

私もお前がそんな杜撰な教育をするとは思っていなかったのでな。

呼んだのはあくまで"確認"だよ。」

「どういう意味ですか?」

 

「今朝、捨餓螺家から文が届いてな。

弟の二虎が当主となったと....そして、弟の命を奪いかけた使用人と教育を担当した呪術師を探しているそうなのだ。

 

だが、お前は一ヶ月前にその仕事を辞めさせられている以上、その責は無く加茂家に被害は及ばない。

 

それに、今は捨餓螺家とは友好関係を気付きたい時だからな。

心証が悪くなるのは避けたかった。」

「そうでしたか。

ならば、私の後任を担当した呪術師は今頃、地獄を見ていますね。」

 

「あぁ、当主も含めてな。」

そう言って賢尺は問題を起こした呪術師を抱える御三家の当主の顔を思い浮かべて嘲け嗤うのだった。

 

 


 

【禪院家の記憶】

 

「おっ....お許しください!親方様!」

 

両手足を縛られ目隠しをされた男が涙を流しながら叫ぶ。

 

それを直琵人と弟の(おうぎ)が見つめていた。

直琵人が溜め息をつく。

 

「はぁ、よりにもよって家の奴がやらかすとはなぁ。

扇....どんくらい不味いと思う?」

「先ずは、捨餓螺 一馬と結んだ縛りを破る危険性があるな。

そして、兄上の話が正しいのなら一馬は弟を好いている。

その弟を傷つけ殺しかけたのが禪院家の呪術師だと分かれば両家の仲は当然、悪くなるだろう。」

 

「だろうな。

揉み消しは出来ないか?」

「それも無理だろう。

一馬の傍にいる五十鈴 源吾は先々代から捨餓螺家に仕えている人物だ。

 

話で聞いた事はあるが現役時代は家に敵対する呪詛師や組織を探して暗殺する任に就いていたらしい。」

 

「そんな奴を誤魔化すのは難しそうだなぁ。

....にしても、縛りを結んだタイミングで気付くとはなぁ。

運が悪い.....いや、"三ツ木は相変わらず性格が悪い"な。」

「兄上はこの事態に五条家の当主が関わっていると?」

「さぁな。

だが、縛りを提案するタイミングや三家で捨餓螺に行くのを進言したのは奴だ。

何かしら考えていたとしても不思議はない。」

 

「それでこれからどうする兄上?」

 

直琵人にとって呪具が手に入らない事自体はそこまで問題視していない。

直琵人が恐れているのは捨餓螺 "一馬個人"が禪院家に敵対することだった。

 

(あの年であれだけの呪力を操れるポテンシャルを秘めた呪術師が敵になるのはかなり不味い。

 

不利益になる前に一馬を始末する手もあるがそうしたら縛りを破ることになる.....どっちにしても家にとってはマイナスだがどうせマイナスになるなら低い損害で収めるべきだな。)

 

「俺は捨餓螺家に行く。

禪院の当主が直々に弁明すれば角も立たねぇだろ。」

「分かった。

それで、コイツの処分は?」

 

冷たい扇の問いに直琵人は答える。

 

「コイツのやったミスはデカ過ぎる。

術師の家系だが、そこまで強くもねぇし....ここは全ての責任を負って貰おう。

 

扇.....戻ってくるまでに"準備"をしてくれ。」

「承知した。」

 

「それじゃ、俺は捨餓螺家に行く準備するわ。」

 

直琵人がそう言って部屋を後にすると扇は目隠しされている呪術師の男に向かい歩いていく。

腰に携えた刀の鍔に手を掛ける。

先程の話を聞いていた男は取り乱しながら話す。

「扇様!お許しください!

私は...ただ、捨餓螺家の命に従っただけなのです!

全ては我が禪院の利にな.......は?」

 

続きを離そうとしていた男の口は止まる。

何故なら男の首が一瞬の内に胴から離れてしまったからだ。

 

扇を見るといつ抜いたのか抜刀した刀を右手に携えていた。

空中から落ちた首が地面を跳ねると扇は納刀し首だけになった男を手拭いでくるみ持ち上げる。

 

「その利を害したからお前は死ぬのだ。

全ては禪院の為だ。」

しかし、そう言う扇の顔は笑顔だった。

 

(この一件は禪院家だけではなく当主としても汚点となるだろう。

一つの汚点だったとしても塵も積もれば当主として不適格だと烙印を押される日も遠くはない。

 

ならば、次の当主は兄と同じく"強い"私だ。

ふっふっふ.....)

 

扇は自分が当主となる姿を想う。

自分が当主となれなかったのは自分が兄より後に産まれたからだ。

 

立ったそれだけの違いで私は当主になれなかった。

 

こんなのは不公平だ.....だが、それが呪術師の世界なのだ。

不平等、不公平、不幸....あらゆる不の文字が蔓延っている。

 

だからと言って不幸が自分以外を襲わないこともない。

兄は強いがこう言った事柄への対処は常に後手に回る。

 

それを支えてきたのが私だ。

だが、逆を言えばどう対処するか決められるのも私と言うことだ。

 

扇は裏切り者の首を桐の箱に入れて部屋を出ると自室に戻った。

そして、部屋に隠し戸棚を開けると中から数枚の書類を取り出した。

 

「捨餓螺家は使える。

兄を失脚させるにはそれ相応の失態が必要だ。

 

そして、それを払拭できるレベルの失態が......」

 

扇が持っているのは禪院家が管理している"とある土地"の資料だ。

この土地は人が入らない様に禪院家が買い取っている。

 

その理由はこの土地に封じられた呪霊に関係している。

呪霊は畏れや怨念が呪いとして溜まる場所で産まれやすい。

特にその呪いが大きな場所、過去に大量の人が死んだ場所には特級クラスの呪霊を産み出されていた。

 

過去の呪術師は祓えない強さの呪霊の対処は封じ込めるだけだった。

それも、特級呪具や特級呪物の力を使い......

 

この資料には封印された呪霊の場所と封印に使われている呪具や呪物の詳細が記されている。

 

扇はその資料を眺めていると一つの資料に目を止める。

「ほぉ.....これは素晴らしい。

この呪霊ならば私の策に使えそうだ。」

 

その資料に書かれていた呪霊の名は"寄燭蝶"(きしょくちょう)

等級は一級だがその能力は"周囲の時間を停滞させる麟粉の様な呪力を放つ"。

 

投射呪法を使う兄には天敵の様な呪霊だろう。

封印に使われている呪具は天逆鉾(あまのさかほこ)

その力はあらゆる術式を強制解除させる。

 

「良し、これにしよう。

後は誰を使うかだが....まぁ簡単に見つかるだろう。

適当な呪詛師を見繕えば良い。」

 

呪詛師は己の欲望の為にその力を使う。

故に傭兵紛いの輩へと堕ちる者が多い。

 

金を払えば簡単にこちらの手駒に出来る。

準備を整え機を伺い慎重に事を進めよう。

 

そうすれば私の前にいる兄は消え、この手に当主の座を手に入れられる事が出来る。

「精々、私の想い描く物語で舞ってくれ捨餓螺 一馬。」

 

扇は小さく嗤うと資料をしまい、何時もの様に当主の兄を支える立場を演じるのだった。

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