俺が捨餓螺当主だった竜臣の部屋を調べ出してからざっと半月が経った。
その間に何が起きたか?
先ずは禪院家の当主が捨餓螺家に直々に詫びを入れに来た。
二虎の身に起きた事は指導していた禪院家の者にも責任があるとか言って見事に土下座をかました。
因みにその対応をしたのは二虎だ。
何故かって?
それは俺が二虎を当主に推薦して無事に二虎が捨餓螺家の当主になったからだ。
そして、俺は捨餓螺家の呪術師の立場に落ち着いた。
因みに母親はどうしたかと言えば俺と二虎が無理矢理、地方へ飛ばした。
二虎は悲しんでいたが、正直あのクソアマを家に置いておくのは危険すぎる。
何時、不満が爆発して二虎に被害が起こるか分からねぇからな。
源爺は二虎の補佐に収まった。
そして、俺は竜臣の部屋を調査しながら呪術の勉強も平行して行っている。
因みに先生は前に二虎を教えていた加茂家の人だ。(名前は面倒だから覚えてねぇ)
二虎曰く教えるのが上手いらしく彼に習うことで俺も自分の呪術についてかなり学ぶことが出来た。
先ず、俺の術式である転魂術式は触れた相手の呪力に反応して術式が発動する。
呪具転生は触れた呪力が形を変えることで呪具を生み出す技だった。
つまりは"呪力があればどんな物でも呪具に変えることが出来る"わけだ。
そうして、訓練したお陰で俺は幾つかの派生技である拡張術式を習得した。
先生曰く、元から術式の研鑽が高かったからこそ出来た事らしい。
そして、もう一つ俺には源爺が使いこなしている"呪力武術"の才能もあった。
呪力武術は自分の四肢に移動する流体状の呪力を形成しそれを波の様に移動させ、その力を打撃へと応用させる。
似た技で
呪力武術の利点は"攻撃、防御、移動"の全てに応用できる。
波の様な呪力が込められた攻撃は重く相手の芯に突き刺さり相手の攻撃のタイミングで波を起こせばカウンターを打てる防御にもなり両足に波を送り込めば緩急のついた速度を出せる。
問題を上げるとすればこれを使いこなすには呪力コントロールと肉体操作の感覚が完璧にリンクしてないと意味がない点だ。
呪力の波と拳の攻撃のタイミングがバッチリ合わないとダメージは全くでないらしいのだが俺は一発でこれを習得した。
源爺も言ってたが五十鈴家の当主になれるレベルの才能らしくメチャクチャ誉めてくれた。(めっちゃ嬉しかった。)
っと話が脱線したが竜臣の部屋での調査の結果、分かったのは俺に施そうとしたのは捨餓螺家が代々、研究していた邪法の一つらしい。
だが、それしか分からなかった。
詳しい資料の殆んどは部屋に無く分かったのはそれを俺の身体にやろうとしたと言う事だけだった。
「母親がクソなら父親も同じぐらいにはクソだったってことか。
まぁ、二虎に被害がでなかった事だけが幸いだな。」
そう独り言を言っていると俺の部屋をノックして二虎が入ってきた。
「やっぱり、また部屋に籠ってたんだね兄さん。」
二虎は当主に決まってから着物と羽織を着込んでおり子供ながら風格が出ていた。
そんな弟を一馬は笑顔で向かえる。
「おぉ、二虎!来てくれたのか!
ちゃんとごはん食べれてるか?」
「うん、兄さんよりはちゃんと食べてるよ...ってそんな事より禪院家の人が来てるよ?
兄さんが禪院家に行きたいって言ったのに待たせたら悪いよ。」
「ありゃ?もうそんな時間か。
悪い悪い、直ぐ準備して行くって言ってくれ。」
「分かったけど早くしてね兄さん。」
弟とのやり取りを終えると俺は部屋のクローゼットを開き服を着替える。
寝巻きを脱ぎ捨て適当にジーパンとTシャツを着ると特注のショルダーバッグを背負って部屋を出た。
そのまま、中庭に行くと禪院家の使用人が控えていた。
「ごめんごめん、待たせちゃったかな?」
使用人は笑顔で否定する。
「いえ、構いませんよ。
御当主様に貴方は丁重に扱う様、仰せつかっておりますので」
「そりゃ、どうも.....そう言えば俺の作った"呪染具"の調子はどうかな?
練習も予て送ってくれって言われてるから送ってるんだけど......」
「えぇ、そちらなら大変好調ですよ。
捨餓螺家の者が作る呪具の中でも
「それは良かった。
こっちとしても不満がなくて嬉しいよ。
それじゃあ、今日はよろしく頼みますね。」
「えぇ、お任せください。」
そうして俺は禪院家へと足を運ぶのだった。
何故、俺が禪院家に足を運んだのか?
その答えは単純、強くなりたいからだ。
これから先の事を考えると俺個人が動く場面も出てくるだろう。
その度に源爺を護衛として連れていたら大事な時に二虎を守れなくなってしまう。
なら、どうするか?
俺自身が強くなれば良い。
そして、御三家で最も強さに秀でているのは禪院家だった。
それに、禪院家は二虎の件もあり何かしらの詫びを欲していたから俺の提案は渡りに船だったらしい。
こうして、俺は車に乗せられて禪院家の屋敷に到着すると当主である直琵人が直々に出迎えてくれた。
「よく来たな捨餓螺 一馬!」
「この一週間、お世話になります直琵人様。」
そう言って俺が頭を下げると直琵人は豪快に笑う。
「がっはっは!固いなお前。
縛りの時に見せた獰猛で不遜な姿は何処へ行った?」
「流石にTPOはちゃんと弁えてますよ。」
「ふん!餓鬼の癖にませおって.....」
そんな話をしていると直琵人の隣にいた刀を腰につけ長い髪を後ろで括った侍の様な見た目の男が言った。
「兄上、そろそろ時間です。
ここから先は私が....」
「む!もうそんな時間か。
すまんがワシはこれから仕事があって出なければならん
コイツの名は扇、ワシの弟だ。
家での生活で疑問があれば存分に頼れ。」
「分かりました。
これからお世話になります扇様。」
「扇で良い。
こちらこそよろしく頼む。」
一馬は扇に連れられて闘技場の様な場所に連れられる。
「ここは我々、禪院家が修練に使う場所だ。
禪院の名を名乗る呪術師は皆、ここで修練に励んでいる。
先ずはここでの訓練に馴れて貰おう。」
そう言うと扇は一馬と共に修練場に降り立った。
「ここには、我々が飼い慣らした呪霊がいる。
お前の力を見せて貰おう。」
扇が指示すると修練場のに空けられた空間から四足歩行の呪霊が現れる。
「四級呪霊だ....祓ってみろ。」
「了解です。」
一馬はそう言うとショルダーバッグに手を突っ込み爪楊枝の様に"小さな木"を取り出す。
「"拡張術式"....
一馬が小さな木に呪力を流すと一瞬で大きさが変わり黒い漆で塗られ鉄の刃を備えた槍が姿を現した。
「ほぉ....それがお前の術式か?」
「まぁ、応用技ですね。
自分が作り出した呪具の形を操る力を使って大きさと重さを操作し持ち運びやすくしたんです。
でも、これが使えるのは"四級程度"の呪具だけですけどね。」
そう言い終えると一馬は槍を構えて呪霊に突進した。
呪力武術により強化された踏み込みは一瞬で呪霊との距離を埋めると槍が胴体を貫いた。そのまま横に槍を振り抜くと呪霊の身体が横に千切れ霧散した。
「流石に四級一体では何も分からないか。
一馬......そろそろ本気で行くが良いか?」
「えぇ、構いません。
お願いします。」
一馬が了承すると今度は呪霊が大量に現れた。
「三級と四級の混合だ。」
「了解です。
それじゃあ、さっさと片付けますか。」
一馬は笑いながら呪霊の群れへと突っ込んでいくのだった。
「そこまで」
扇の声で一馬は構えていた"刀"を下ろした。
「お前の実力は分かった。
今度からは相手の術師を用意する。
今日はもう休め。」
扇はそう言うと部屋を出ていった。
周りには呪霊の気配もない。
どうやら、本当に終わった様だ。
「....疲っかれたぁ!」
一馬は刀をショルダーバッグに戻すと地面に大の字に倒れる。
一馬の周りには壊れた呪具が散乱していた。
「結構、余裕を持って準備してきたけど結構使っちゃったなぁ。
残りの6日間、呪具が持つと良いんだが....でも、集団から襲われるなんて経験、そう出来ないから勉強になったな。」
一馬は自分の手を見つめる。
手には武器を降るって出来た豆があり何ヵ所かは潰れて血も出ていた。
「反転術式」
一馬がそう言うと手の豆がゆっくりと治っていった。
「痛てて!.....やっぱり、そう簡単には使いこなせないか反転術式。
三ツ木さんも才能とか言ってたしな。」
そうして、倒れていると修練場から声が聞こえる。
一馬は咄嗟に起き上がると両足に呪力の波を起こして飛び上がった。
修練場に俺と同い年位の少年を抱えた集団が入ってくる。
その少年を乱雑に地面に放り投げるとリーダー格の男が言った。
「さぁ、何時もの様に訓練をしようか
そう言うと周りの者が武器を持って甚爾と呼ばれた一人の少年を袋叩きにし始めた。
周りの者達が笑いながら行っておりそれをリーダー格の男もニヤニヤしながら見つめている。
(胸糞悪いもん見ちまったな。)
一馬は家族以外の相手にはドライだがだからと言って冷血と言う訳でもない。
こんなイジメを見て気分を悪くするぐらいの外聞は持っていた。
どうにかして止めるべきかと思ってはいたがここは捨餓螺家じゃく禪院家だ。
他家の事情に深入り出来る身分じゃない。
仕方がない事だと見過ごそうとしたがその少年を見て考えが変わる。
(アイツ.....攻撃を全部、受け流している?)
少年は確かに周りを囲った奴等の攻撃を受けてはいたが急所に当たりそうな攻撃は手や他の部位で受けることで回避していた。
攻撃している奴等はそれに気づいていないのだろう。
笑いながら殴り続けているだけだ。
(集団で囲まれながらこれだけ冷静に攻撃を受け流し続けているって言うのか?
だとしたら、凄まじい才能だ。
それに、見た目は派手に受けているが直ぐに立ち上がっている所を見ると全くダメージが無いのか。
つまり、奴はボコボコにされ痛め付けられている様に見せているのか.....だとしたら奴は自分よりも弱い奴に痛め付けられいると......ムカつくなそれ。)
一馬は直感的に感じた。
この男を助けるべきだと....
その瞬間、ショルダーバッグに手を突っ込んだ。
あれだけの奴等をボコすなら武器がいる。
この段階で既に一馬の頭には家の事情などの考えは吹っ飛んでいた。
目の前の気にくわないウザイ状況をどうするかしか考えてなかった。
一馬は一つの呪具を手に取り元の大きさに戻すと少年に向かって思いっきり投げた。
少年は見ること無くその武器を手に取る。
いきなり、武器を投げ込まれた事に周りの者が困惑していると一馬はその場に現れた。
「随分と肝の小さい事をしているんですね禪院家の人達は?」
「あ?誰だお前?」
リーダー格の男が尋ねると一馬は答える。
「あぁ、紹介が遅れてましたね。
僕の名前は捨餓螺 一馬。
禪院家に武術の稽古を受けに来た者です。」
「捨餓螺?聞いたことねぇな。」
「どうせ、木っ端の呪術師の家系でしょう?」
その言葉を聞いて一馬は心の中で微笑む。
(コイツらはどうやら俺の家や俺がどんな立場か理解してない。
なら、好都合だな。)
一馬は笑顔でリーダー格の男に尋ねる。
「それよりも、質問に答えて貰えますか?
見たところ貴方がここのリーダーの様ですし」
「見てわかんねぇか訓練だよ。
呪術も使えない雑魚い者を鍛えてやって....」
「ふふっ!あはは!」
その言葉を聞いて一馬はバカにした様に笑う。
「何が可笑しい?」
「いや、あれを見て雑魚と言う貴方が可笑しくて.....てっきり"自己紹介"をしてるのかと思いまして雑魚である貴方達がね。」
バカにした物言いに怒りを現したリーダーが指示を出し今度は一馬の周りを囲う。
「今謝るなら許してやるぞ?」
「生憎、自分よりも弱い相手に謝る頭は無いですね。」
一馬の言葉を聞いてキレたリーダーが彼の顔面を"殴り付けた"。
少し身体がグラつきリーダーが笑う。
「雑魚は雑魚らしく黙ってろ!」
しかし、その言葉を聞いた一馬は笑う。
「良し..."殴ったな"。
これで言い訳もたつだろう。」
「あ?何言って!?」
一馬は呪力を操作しリーダー格の男の前に跳躍する。
「な!?」
「"呪力武術".....
一馬の拳がリーダー格の男の顔に深々と突き刺さる。
ゴシャ!と顔面が砕ける男と共に吹き飛ばされた。
「へ?」「は?」
周りの者が呆然していると一馬は獰猛に笑いながら言う。
「おい!甚爾って言ってたっけ?
手伝えよ!お前もコイツらにボコされたままなんて嫌だろ。
その武器貸してやるよ。」
その言葉を聞いてキョトンとしていた甚爾だったが少し嗤うと言った。
「はっ!....何処の誰だか知らねぇがお前、中々狂ってんなぁ。
良いぜ付き合ってやるよ。」
この時の一件は禪院家の中でも有名となり。
一馬と甚爾の二人はこれ以降、"悪童"と呼ばれ始めるのだった。