悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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四話 来訪(裏)

【禪院 甚爾の記憶】

 

修練場に連れてこられた甚爾は毎度の事に若干の苛立ちを覚えていた。

甚爾は禪院家の人間でありながら体内に呪力が全く存在しない身体だった。

 

産まれた時から肉体に縛りを受ける事を天与呪縛と言うらしく甚爾はその中で呪力を完全に奪われてしまったのだ。

 

"禪院家に非ずんば呪術師に非ず"

"呪術師に非ずんば人に非ず"の格言がある様に呪術と呪力至上主義の禪院家にとって甚爾は人間以下の扱いをされていた。

 

肉体的、精神的なイジメなんて日常茶飯事、禪院家の者からは悪意以外の物を受け取ったことすらない。

普通の家庭だったらとっくに自殺か殺される様な環境だったが甚爾は天与呪縛で呪力を失った代わりに身体能力がとても高かった。

 

イジメてくる奴等の攻撃を的確にいなし避ける技術を身に付けていたのだ。

更に格闘術の才能もあり一度見た武術なら完璧に再現することが出来た。

 

なら何故、甚爾はその力で復讐しないのか?

端的に言えば下らないと考えているからだ。

復讐で暴力をふるったらイジめている奴等も同類に堕ちる気がして気分が悪かったのだ。

 

だが、やり返してこない奴の行き先なんてストレス発散のサンドバッグにしかならない。

(あー、うぜぇなぁ。)

最近は武器を使って俺をイジめるのにハマってるらしいが呪術師として訓練中の半人前が放つ攻撃なんて目を瞑ってても避けられる。

 

喰らったフリをするのは相手がそれで満足するからだ。

(ろくにダメージを与えてないのにイイ気になってバカだなぁ.....)

今日も適当にボコられて相手の気が済んだら終わり....そうだと思っていたら俺の方向に尋常じゃない速度で何かが投げつけられてきた。

 

俺は反射的にそれを掴み取る。

それは木製の木刀....だがその形は中国の刀である青竜刀を模していた。

 

そして、それを投げてきた男が目の前に現れた。

笑顔で隠してはいるが奴の身体から感じる気配は普通じゃなかった。

(コイツの気配は何だ?

まるで、色んな人間が一つの身体に押し込められているみたいだ。)

 

そんな事に気付かないリーダーの男が尋ねる。

乱入してきた男の名は捨餓螺 一馬と言っていた。

甚爾はその名に聞き覚えがあった。

 

(確か最近、"躯倶留隊"(くくるたい)に配備された呪具の製作をしている家が変わったって言ってたな。

その名前が確か捨餓螺だった。

 

ってことはコイツはその家の関係者か?)

 

甚爾がそう考察していると一馬と言う男がわざとリーダーの男を煽り始める。

(あの、煽り方は絶対わざとだな。

でも、ありゃ気付いてねぇな。

このまんまじゃ一馬って男、殴られるんじゃねぇか?)

 

甚爾の予想は正しく我慢の限界を向かえたリーダーが一馬の顔面を殴ってしまったのだ。

(あーあ、やっちまった。

きっと、奴は禪院家に従う小さい家の奴だと思っているんだろうがもし俺の予想が正しければこりゃ大問題になるぞ。)

 

禪院家に呪具を供給している家の者を殴り付けた。

それがバレたらワンチャン呪具の供給に支障が出るんじゃねぇか?

 

そう考えていた甚爾だったがその後の一馬の言葉を聞き彼の考えは変わる。

「良し...殴ったな。

これで言い訳もたつ。」

(言い訳って言い切ったぞアイツ。)

 

そう言った瞬間、一馬の身体が急に加速しそのままの勢いでリーダーの男を殴り付けた。

殴られた男は顔面を凹ませながら後ろにぶっ飛んじまった。

 

俺は見たこと無い武術に目を惹かれる。

 

(何だあの攻撃?

それにあの威力....どう考えても普通の餓鬼じゃねぇ)

 

そうしていると一馬が俺を見て言った。

 

「おい!甚爾って言ってたっけ?

 

手伝えよ!お前もコイツらにボコされたままなんて嫌だろ。

 

その武器貸してやるよ。」

 

(あ?何言ってんだコイツ?)

 

いきなり、現れて武器渡してきたかと思ったら勝手に巻き込みやがって迷惑以外の何者でもねぇだろう。

 

.....でも、何でだろうなぁ。

あのぶっ飛ぶリーダーの顔を見てちょっとスッキリした。

 

やり返すなんてダセぇと思ってたが案外、楽しいかもしれねぇな。

 

俺も一馬の様に笑いながら言った。

 

「はっ!....何処の誰だか知らねぇがお前、中々狂ってんなぁ。

 

良いぜ付き合ってやるよ。」

 

そっから先は蹂躙劇だった。

一馬が渡してきた武器は自分でも驚く程、使いやすく襲いかかってきた奴等をそれでボコボコにした。

 

対する一馬は背負っているショルダーバッグから何かを取り出すと一瞬に武器に変形した。

一馬の獲物は木刀でそれを器用に使いながら襲ってくる奴等を制圧しボコボコにしていく。

 

四方八方から攻められる二人は戦いながらお互いの事について理解し学んでいった。

(アイツ(一馬)、戦いながら俺の戦い方を学んでるのか?

あの蹴りは俺の真似か?

はっ!上等だ。

俺の技ばっか盗んでんじゃねぇよ。)

 

甚爾は仕返しとばかりに一馬がさっき使った技を思い出す。

(肉体の動きと呪力の流れからありゃきっと中国武術の発頸に近い攻撃だろう。

重心移動と衝撃をインパクトの瞬間に合わせる.....こんな感じか?)

 

甚爾は左手に武器を持ち帰ると襲ってくる奴の武器を左手でいなして拳を相手の腹に向けて構えた。

「はぁ!」

気合いと共に放たれた甚爾の拳はイメージ通り腹部に捩じ込まれる。

 

凄まじい威力だったからか当てられた相手は武器を落とし腹部を抑えながら倒れると吐瀉して気絶した。

それを見て一馬は笑う。

「あ!俺の技、パクりやがったのか?」

「それを言うならお前もだろう?

仕返しだ。」

 

甚爾の返答に一馬は更に笑う。

「上等じゃん。

ここにいる奴、全員倒すまでの間にどれだけ技を盗めるか勝負するか?」

「望むところだ。

かかってこいよ一馬ぁ!」

「テメぇもな甚爾!」

 

 

甚爾は始めて楽しいと言う気分を味わった。

端から見れば只のイジメの仕返しだがそれでも彼にとっては禪院以外の人間との始めての交流であったのだ。

 

一頻り楽しんで気が付いた頃には立っていたのは一馬と甚爾だけだった。

 

 


 

【禪院 扇の記憶】

 

「どうしてこうなった?」

扇は早朝から頭を抱えることになった。

 

捨餓螺一馬が禪院家の修練場で稽古を行っていた。

呪霊との戦闘に経験があったのは四級を瞬殺した彼を見て禪院家で行われる呪霊の集団戦をさせた。

 

一時間、戦闘を続け訓練を終え私は自分の仕事に戻った。

(少し休んだら使用人に話を通し家に戻るだろう。)

そう思っていた早朝から躯倶留隊を指揮している者から連絡を受けた。

 

捨餓螺 一馬と禪院 甚爾が二人がかりで躯倶留隊の一班に重症を負わせたというのだ。

 

躯倶留隊は禪院家の中で術式を持たない呪術師や将来、"炳"(へい)"灯"(あかし)等、禪院家での主力部隊に引き抜かれる者の修行期間としての意味も含めていた。

 

二人に重症を負わされた班は将来、灯の部隊に編入される可能性がある班だった。

よりにもよって(直琵人)が不在の期間に不祥事を起こししかも、扇が一馬の世話を請け負っていた。

 

(捨餓螺 一馬め.....他家の分際で何て事を)

 

扇は苛立ちながら一馬の元を尋ねた。

私の顔を見た一馬は言った。

 

「禪院 扇殿.....これはどう言う了見ですか?」

「それはどういう意味だ捨餓螺 一馬?」

 

「他家だからと暴力を振るわれる謂れは無いかと思いますが」

 

 

捨餓螺 一馬が言うには禪院 甚爾に対する指導について質問したところリーダーと思われる者に暴力を振るわれたと言うのだ。

そんな証拠があるのかと尋ねると一馬は横においてあるカメラを指差した。

 

「勉強の為に持ってきたカメラだったのですが"偶然"にタイマーモードが入っていたらしく殴られた瞬間の写真が写っていたんです。

今、使用人さんに現像を頼みました。

扇殿もご覧になられたら良い....それよりも先程の質問にお答えいただいて御座いませんが?」

 

扇は子供らしからぬ証拠の持ち出し方と詰め方を受けて黙ってしまう。

(くっ!普通の餓鬼なら未だしも捨餓螺 一馬は当主が囲んでいる人物だ。

そして、禪院家は一度、捨餓螺家に不義を働いている。

それが意図的で無いにしろ二度も不義を犯せばこちらの立場は絶望的に悪くなる。

 

それ以上にこれが兄にバレたら私は......)

 

そんな考えを読まれたのか一馬は話し掛ける。

「禪院家での一件は不幸な事故であり俺はそこに一切関わらなかった.....それが貴方にとって都合の良い展開ですよね?

そう証言しても良いですよ。

一つだけ"願い"を叶えてくれるなら」

「願いだと?」

 

「えぇ、禪院 甚爾....彼を俺がここにいる間の世話係として任命してください。」

「.....そいつをお前に渡せば問題には起こさないんだな?」

 

「えぇ、彼は呪力を持たないのでしょう?

ならば、俺の元に来ても何も問題は無い....でしょう?」

自分が中学生程度の齢の子供に良い様に使われている事に歯を軋ませながらも他に道が無いことを悟った。

 

「良かろう....早速、禪院 甚爾お前の世話係とする。

そして、今後は勝手な行動は慎んで貰う...良いな?」

「えぇ、それで話は終わりですか?」

「あぁ、終わりだ。」

 

「では今日もご指導よろしくお願いします。」

ふてぶてしい一馬の態度に怒りを滲ませながらも扇は耐えながら部屋を後にするのだった。

 

誰も部屋にいなくなると一馬が言う。

「そう言うことになったからこれからよろしくな。

禪院 甚爾。」

「扇のおっさん相手に交渉するなんてお前何もんだよ?

てか、何時俺がいるって気付いてたんだ?」

 

そう言いながら甚爾は部屋に入ってきた。

「別に....ただお前って何だかんだ優しいじゃん?

自分のせいで俺が扇に殺されるんじゃないかって心配だったんだろ?」

「は!何を言って....」

 

「それじゃ、その腰に付けてる刃物は何だ?」

刃物を隠し持っている事を一馬に看破された甚爾は誤魔化す様に他所をむく。

「これは、朝食べたリンゴを剥いたナイフだ。」

「そうかい....取り敢えず残り6日間の間は俺の傍にいて貰うから余計なちょっかいは無くなるぜ。」

 

「それには感謝してるよ。

毎回毎回、ウザかったからな。」

「その代わりと言っちゃなんだけどお前に頼みがあんだよ。」

 

「頼み?」

「先ず一つ....」

 

「幾つもあんのかよ。」

「命の恩人だぞ?黙って聞け。

1つ目は互いに名前で呼び合うこと....俺はお前の事が気に入った。

それが禪院の奴にも伝わればお前の待遇も変わるだろ?」

 

「それって頼みか?

俺にしかメリットが無いように感じるが....」

「2つ目は定期的に俺の手伝いをして欲しい。

これに関してはどっちかが死ぬまでやって欲しい。」

 

「おいおい、2つ目の割には随分と強欲だな。」

「俺は呪具を作りだせる術式を持っているが如何せんどれだけ強くて負荷がかかるか分からないからな。

今も三級レベルしか呪具を作れてないしな。」

 

「....つまり?」

「肉体が丈夫で強い君に僕の呪具の実験台になって欲しいんだ!」

 

「キラキラした顔で外道な事言ってんじゃねぇよ!

てか、お前一人称俺だったろ?」

「それで最後は....」

 

「話聞けよお前マジで」

「もし、俺に何かあったら弟の二虎を守って欲しい。」

 

「........」

「俺にとって残っている家族は弟の二虎と世話をしてくれた源爺だけだ。

これ以上、失いたくない。

もし、俺が死んだら弟の二虎を誰が守る?

....だからお前に頼みたいんだ甚爾。」

 

「何で俺だ?

お前と会ったのだってつい昨日だぞ?

それも、一緒に禪院の奴をボコっただけ....そんな奴を何で信用できる?」

「お前はさこの世界についてどう思う?

俺はさ....めっちゃウザイと思うんだよこの世界。

お前も同じだろ?

俺たち個人の意思とか関係なくまるで道具みたいに扱われる。

全てはこの世界の平和の為?

その為なら道具扱いされても我慢しろ?...ふざけんな。

 

俺はそんな未来は選ばない。

自分の大切な者はどんな存在からも守る。

それが例え呪術師と言う世界だったとしても....

だから、お前は信用出来る。

他の奴とは違って心から染まってないからだ。」

 

「つまり、お前と同じ様にこの世界を嫌ってるから信用できるって言いたいのか?」

「まぁ、概ねそうかな。」

 

一馬の答えを聞き甚爾は笑う。

 

「ふふっはははは!お前本当に呪術師かよ!?

本当に狂ってるな!.....でも、友達になりたいからとか甘ったるい答えよりも気に入った。

良いぜ一馬、お前の頼み聞いてやるよ。

だが、俺もお前を利用するぜ。

覚悟しとけ。」

「勿論....それじゃあ、扇先生の授業を受ける前に朝御飯を食べようか。

一緒に行こう甚爾。」

 

「あぁ、一馬。」

 

 


 

【捨餓螺 二虎の記憶】

 

「ふぅ....これで今日の分は終わりですか?」

二虎の問いに源吾が答える。

「えぇ、後は我々が運びます。

御当主はお休みください。」

 

源吾は二虎の前に置かれた呪具を別の部屋へと送っていった。

現在、呪具を作っているのは二虎と一馬だけだ。

その理由はこれまで呪具を作っていた呪術師は前当主の竜臣と共に姿を消してしまった。

この影響もあり呪具を作れる者が二人以外、いなくなったしまったのだ。

 

二虎は一息着くために立ち上がると自室の机に置いてある油絵の具とキャンパスの前に座った。

絵を描くのが好きだと兄に言ったら即日、買ってくれたプレゼント。

 

最近はこれで絵を描くのが自分のリラックスタイムとなっていた。

二虎は書きかけの絵に目を向ける。

キャンパスに描かれているのは本来存在しない光景。

 

もっと、幼い兄と自分が一緒に遊んでいる光景だった。

呪術師として産まれなかったら叶ったかもしれなかったが現実はそうではなかった。

 

母親には兄は自分を恨んでいると教え込まれそれに従順にしたがっていた。

 

だが、実際、兄と話してみると性格は真逆だった。

恨むどころか兄は世界で誰よりも僕の事を大事にしてくれた。

ちょっと心配症な所はあるけどそれでも心配してくれているのは嬉しかった。

 

(僕も....兄さんの役に立ちたいな。)

 

兄さんは父に何かの呪術を掛けられていると源爺から聞いた。

でも、驚くことはなかった。

母があんなんだったのだ父も狂ってても可笑しくない。

願うならばその狂った血が僕達を怪物にしないことだけだ。

 

「これから.....幸せな家族として過ごしていけるかな....兄さん。」

そう尋ねるキャンパスの兄は優しく微笑んでいた。

 

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