悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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五話 実戦(表)

禪院家で過ごして5日たった一馬はその実力を伸ばしていっていた。

 

呪力や術式操作もかなり向上した。

そして、何より鍛えられたのが格闘術だ。

何故なら一馬の相手を毎回しているのは甚爾だった。

 

身体能力が強化された甚爾との訓練は普通の呪術師との戦いよりも大きな実りを与えてくれた。

 

何時もの様に修練場の一室で一馬と甚爾は戦っている。

一馬は手数で甚爾を攻め立てるが甚爾はそれを難なくいなし回避していく。

 

「くっ!少しは!当たれよ!」

「闇雲に殴っても当たるかバカ。」

 

「うるさいねっ!っと」

一馬は甚爾の足を払おうとするが上を飛ばれ避けられてしまう。

しかし、これこそ一馬が狙っていた展開だった。

 

「貰った!」

「へぇ」

一馬は全身に勢いを着けると頭を地面に付けながら右足を甚爾の腹に振り抜いた。

 

俗に"卍蹴り"と呼ばれるその技はその動きとは裏腹にとてつもない威力を誇っていた。

しかし、甚爾はその蹴りに合わせる様に身体を回転させて後ろ回し蹴りを一馬の振り抜かれた足に当てた。

 

こちらも、ローリングソバットと言われる蹴りであり凄まじい威力を誇るが軍配は甚爾に上がった。

 

甚爾の蹴りを喰らいバランスを崩した一馬の顔に正拳づきを鼻先前で止めた。

「これで俺の157戦153勝だな。」

「あー、クッソ!行けっと思ったのに」

 

「考えは悪くなかったぜ俺じゃなきゃ確実に喰らってた。」

「へいへい、お褒めいただき光栄ですよ。」

 

「不貞腐れんなよ一馬。」

差し出された甚爾の手を握り立ち上がると拍手しながら直琵人がやってくる。

「見事な勝負だった。

家の中でもお前達に勝てるのか何人おるかな"悪童"ども」

 

悪童と呼ばれた甚爾はうんざりした顔をする。

「また、その呼び名かよ。

一体誰が流行らせたんだか....」

「なっはっは!お前達が暴れすぎとるんじゃバカたれども!」

 

一馬と甚爾は禪院家の者を徹底的にボコしていった。

舐めた態度やイジメてくる奴等なんかには一切加減無く暴れまわり叱責しようにも一馬がその口で相手を負かす為、付いた渾名が悪童となっていたのだ。

 

閑話休題

 

「それよりも直琵人様はどうしてここに?」

尋ねる一馬に直琵人が答える。

「おぉ、そうだった。

そろそろお前も実戦をしたい頃だろう。

丁度、近辺で呪霊が現れた報告を受けたワシと共に祓いに行くぞ。」

 

その言葉を聞いていよいよかと一馬は思う。

(捨餓螺家じゃ危険だからって言って行かせて貰えなかったからなぁ。)

 

「分かりました準備します。

甚爾の武器も身繕わないと行けないですから少し時間をいただいても?」

そう尋ねる一馬に甚爾がツッコむ。

「おい待て何で俺まで行くことになってんだ?」

「構わんぞ。

準備が出来たら知らせろ。」

 

「おい!」

「ありがとうございます。

じゃあ、行こっか甚爾。」

 

そう言われ一馬に首を捕まれ引っ張られていく甚爾。

「.....俺の意見は無視かよ。」

 

 

 

 

京都にある湖"天若湖"。

 

この湖のほぼ全てを禪院家が買い取っていた。

その周辺の駐車場に黒塗りのベンツが止まる。

中から戦闘用の装備をした直琵人と側近の呪術師、そして一馬と甚爾が出て来た。

 

「ここですか?

呪霊がいる湖と言うのは」

一馬の問いに直琵人が答える。

「そうだ。

この湖は台風や洪水の被害を減らす為に作られたと公然の名目では言われているが実際には"とある呪霊"を封印していてな。

だが、封印した呪霊から漏れ出した呪力が土地を侵し呪力を備えた花を生み出してしまったのだ。」

 

「呪力を含んだ花......もしかして"黒彼岸"(くろひがん)ですか?」

「知っておるのか?」

 

「父の書斎に資料がありました平安時代、式神を呼び出す文字を書く墨の材料の一つだったと」

「ほぉ、そこまでは知らんかったがお前の言った黒彼岸がここには咲いておる。

まぁ、一般の者にはバレないように隠してはおるがな。

だが、その影響で周囲に呪霊が集まりやすくなっておるのだ。」

 

「そう言う理由が....現れる呪霊の等級は?」

「最大でも"二級"じゃな。

後は三から四の雑魚ばかりじゃ。

お前らの練習相手には打ってつけじゃろうて」

 

そう言い終わると直琵人は軽くストレッチをすると身体に呪力を込める。

「ワシはこの周りを見て回ってから合流する。

場所は地図に書いてあるからそれを見て進め。」

 

言いたいことを言い終えた直琵人は一瞬の内に速度を上げると湖の隣にある森の中へと姿を消すのだった。

 

(あれが禪院家の相伝術式である投射呪法か。

動きをフレーム単位でイメージしそれを肉体に反映する術式。

確かに使いこなせれば強いんだろうがあの速度で動きを構成するなんて生半可な実力じゃない。

流石は禪院家の当主と言うことか。)

 

一馬がそう分析していると後ろから甚爾に声をかけられる。

「何ボーッと突っ立ってるんだ一馬。

早く行くぞ。」

右目を擦りながら一馬に甚爾は告げる。

 

「そうだな。

こっちも行くか。」

そう言うと二人は森の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

一馬達が湖に到着する数分前......

湖近くの森の中で禪院家の呪術師が口を動かしていた。

 

「ねぇねぇ今からここで何が知ってる?」

「知らなーい何があるの?」

 

「それはね!とても強力な呪霊の封印を解くんだよぉ。」

「えー、凄い凄ーい流石は"碼鶴"(まかく)だね!」

 

「そんなに誉めるなよ~ぉ照れるじゃないかぁ~」

「えー、でもでも....」

 

プルルル!

 

そう碼鶴が喋っているとポケットのケータイから音が鳴る。

「チッ!何だよ邪魔しやがって!」

 

苛立ちながら碼鶴は右手をポケットに突っ込みケータイを取り出すと開いた。

番号から依頼人との仲介者だと分かり彼は電話に出る。

 

「はいはーい!何時でも何処でも殺します。

殺し屋、碼鶴でーす!」

「....はぁ、定時連絡をしてくださいって言いましたよね?

今何をしてるんですか?」

 

「沢山の禪院家の呪術師と一緒にいますよぉ?」

「...一応聞きますが"首から下"は?」

 

「無い!」

「だと思いました。

貴方の仕事は遊び過ぎるのが欠点です。

さっさと、目的を果たしてください。」

 

「OK....って何だったっけ?」

「はぁ....貴方の目的は"天逆鉾の回収"です。

忘れないでください。」

 

「そうだったそうだった。

オケオケ、碼鶴様に任せなさーい。」

「.....頼みましたよ。」

 

呆れながら仲介者が電話を切るのを確認すると碼鶴は血塗れの手でケータイを閉じてポケットに突っこむ。

 

そして、左手に持っていた"呪術師の首"を持ち上げて口を右手で動かし腹話術の様に喋り始めた。

 

「全く、怒りっぽくて嫌だねぇ....さーてと、それじゃ仕事しますかぁ。」

 

遊び飽きた碼鶴は左手の首をゴミの様に放り投げると目的の場所へ進んでいくのだった。

 

 

 

 

森の中へ入っていった一馬と甚爾は違和感を覚える。

「.....なぁ甚爾。」

「あぁ、やっぱり変だ。

歩いてかなりの時間が経っているのに呪霊どころか呪術師も見当たらねぇ。」

 

「だね。

不気味な程、静かだ....ん?甚爾あれ」

一馬が指差した先にあったのは小さな金属の破片。

だが、その破片を見た二人は一気に警戒レベルを上げる。

その瞬間、背後からいきなり呪霊が現れた。

 

しかし、その呪霊を甚爾は的確に視界に捕らえる。

「見えてんだよアホが」

甚爾は腰に付けていた二刀の小太刀を引き抜くと呪霊を一瞬の内に細切れにした。

 

「お見事、見事にバラバラだ。」

「まぁ、感覚+視界で呪霊を捕らえられるからな。」

そう言って甚爾は左目を瞑りながら右目を指差した。

 

甚爾の目に入っているのは一馬が作った特製の"コンタクトレンズ"だ。

戦闘の邪魔にならないように薄く小さくと考えて作り上げた一馬の自信作である。(弱点があるとすれば頻繁に目が渇くこと)

 

甚爾は小手に付けていた目薬を右目に点眼する。

「あー、やっぱり渇くの早い?」

「あぁ、定期的に目薬しねぇとボヤけるな。」

 

「そこはまぁ、要改良かな。

それより、今はこの破片だ。

どう見ても日本刀の刃.....それも"呪具だった物"だ。」

「だとしたら、呪霊にでも喰われたか?」

 

「直琵人さんが言ってただろうここに出るのは最大でも二級だって....二級呪霊を祓えない呪術師をここに配備するとは思えない。」

「なら、答えは一つだな。」

 

「あぁ、この森には"二級呪霊を遥かに凌ぐ"何かがいる。」

「....んでどうする一馬?

これ以上進むのは危険だぜ?

引き返すか?」

 

一馬は少し考える。

 

「いや、それは止めておこう。

相手の出方が分からない以上、逃げられる可能性は低い。

それに直琵人さんもこの異常に気付く筈だ。

なら、俺達は進んで敵の動向を掴みながら隠れるべきだな。」

「敵の動向を掴むって....どうする気だ?

俺を頼ろうってなら、無理だぜ?」

 

「そんな警察犬みたいな扱いはしないよ。

俺の術式を使う。」

そう言うと一馬は砕けた破片に触れる。

 

「拡張術式"呪索"」

その瞬間、触れられた破片が変化し小さな金属の玉になると一馬達の前を進み始めた。

 

「これは呪具に込められた呪いを合図に大元の呪具や使用者を探す技だ。

これで、呪具か使用者のどちらかには行き着く。」

「流石は御三家に囲い込まれている呪術師だな。」

 

「その評判はあんまり嬉しくないけどな。

さて、ここからは俺も警戒していこうか。」

一馬はそう言うとショルダーバッグから刀を取り出すと玉の示す方向へと進んでいった。

 

暫く森へと進んでいくと林の中に玉は入り込み動きを止めた。

そして、一馬達は周囲を漂う死臭を嗅ぎ事態を理解する。

 

「どうやら、悪い方の考えが当たったらしいな。」

 

甚爾は小太刀を抜いて辺りを警戒する。

 

「この死臭の広がり方からしても死んでるのは一人二人じゃないな.....一体何が....!?

甚爾!避けろ!」

一馬が叫んだのと同じタイミングで甚爾も小太刀を振り下ろす。

 

キン!と言う甲高い音と共に地面に水滴が落ちた。

「水?」

「そこか!」

 

一馬はショルダーバッグから槍を取り出すと呪力武術を応用して豪速球の槍を投げた。狙った木を貫通することは出来たがそこにいたであろう人物は笑う。

 

「うへへ!....お前達凄いじゃん。

一発で仕留められなかったのなんてなぁ久々だぜ。」

その声の方向に一馬は話し掛ける。

「お前何者だ?

俺達に攻撃するって事は目的は俺達の命か?」

 

「命?....あぁ、違う違う。

目的はほぼ達したんだよね。

これは単純な嫌がらせのつもりだったけど.....

避けられて反撃されるなんて想像もしてなかったよ。

だから、"見せてやるよ"。」

 

そう言うと一馬達の目の前に男が現れた。

両手が血だらけだが本人は気にした素振りを見せない。

「じゃじゃーん!俺様の名は碼鶴.....最強安全の殺し屋だぜ。」

「「は?」」

 

バカっぽい挨拶を聞いて一馬と甚爾は素で聞き返してしまう。

「嫌だから碼鶴!それが俺の名前!

知らない?最近、殺し屋業界ではかなり名を馳せていると思うんだけどなぁ。」

その問いに甚爾が答える。

 

「知るかよテメェみたいなアホっぽい殺し屋なんか」

「えー!知らないのぉ?君、遅れてるぅ~」

 

「一馬、コイツうぜえぞ。」

「んなもん見た時から分かってる。」

 

「えー、そんな酷い事ばっか言う奴には....」

 

 

 

「"お仕置き"だぞ。」

 

その瞬間、碼鶴が指を甚爾に向けた。

「"バン"!」

 

碼鶴がその言葉を言うよりも速く甚爾はサイドステップを行う。

すると、背後の木に何かが当たり貫通した。

 

「!?...気を付けろ一馬!

コイツ、わざと口と呪術の発動タイミングをズラしてやがる。」

「気付いたことろで間に合うかにぁバンバンバンバン!」

 

甚爾は向けられた指を驚異の動体視力で回避していく。

「うげっ!?マジかよ!」

「それが本気ならテメェに俺は捕らえらんねぇよ。」

 

勝機と見た甚爾が碼鶴に接近する。

その瞬間に表した僅かな呪力の流れを一馬は見逃さなかった。

「甚爾!避けろ!」

一馬が叫ぶがそれよりも速く碼鶴の策が動いた。

「"ズドーン"!」

碼鶴がそう言うと接近する甚爾の横から爆発が起こる。

 

「なっ!?」

「油断大敵雨霰ってね!

"ギュイーン"」

 

そう言いながら碼鶴は手に持っていた試験管を甚爾に振るった中に入っていた水が形を変えチェーンソーの刃の様な形に変わると甚爾に迫る。

「ちっ!クソが!」

 

甚爾は持っていた小太刀を碼鶴の放った水に投げ付けるとそのまま地面を踏みバク転しながら交代した。

投げ付けられた小太刀は水のチェーンソーを簡単に破壊すると碼鶴へ向かうがそれを首を動かして回避する。

 

「大丈夫か甚爾!」

「あぁ、こんぐらいなん....とも....な...」

 

そう言って甚爾は倒れて身体が痙攣を始めた。

それを見て碼鶴が告げる。

「へぇ、漸く効いてきたか。

常人なら一発で呼吸困難を起こす神経毒なんだけどな」

「毒?....なら!」

 

一馬はショルダーバッグに手を突っ込み握り込んだ手を碼鶴へ投げた。

その瞬間、碼鶴の目の前に大量の武器が降り注いできた。

「は?ちょちょちょ!」

 

碼鶴は焦りながらも後ろの木を盾にする。

攻撃が止んだのを確認して顔を向けると二人の姿は無くなっていた。

 

 

 

一馬は武器を投げ付けると両足に呪力を練り込み甚爾を連れて碼鶴から身体を隠した。

此方への気配が感じられなくなると甚爾に目を向ける。

(歯茎から血が出る程、噛み締めている。

これは筋肉の痙攣か?

毒物は専門外だが呪力が込められているのなら何とかなる。)

 

一馬は甚爾に触れる。

「呪具転生。」

術式を発動すると甚爾の痙攣が止まり一馬の手に小さな針が現れた。

 

「これ..は?」

「甚爾の身体にある毒を呪具に変えた。

全ての呪力を変化させるからお前にしか使えない裏技みたいなもんだ。

立てるか?」

 

「まだ、身体がグラグラするが...いける。」

「良し碼鶴と言った奴の口振りから恐らく呪祖師だろう。

目的は俺達じゃないにしても逃がしてくれる可能性は低い。

お前を連れて逃げたからそんな距離も稼げてないしな。」

 

「それじゃあどうすんだよ?」

「俺達でやる。

それしか道はねぇ」

 

「.....そうだな。

どっち道、逃げられねぇならボコすだけだ。

作戦は?」

「俺が奴の相手をする。

甚爾には奇襲を頼みたい。」

 

「分かった...合図は?」

「俺達の異名。」

 

「は....了解。」

 

そうして話し終わると甚爾は移動を始めた。

一馬はショルダーバッグを漁り武器の準備をしていく。

そんな事をしているとお目当てのターゲット(碼鶴)がやって来た。

 

「隠れてないで出てきなよ!

もしかして、シャイ?」

挑発してくる碼鶴の前に一馬が現れる。

 

「随分と面白い術式を使うんだなアンタは....」

「何々?俺の術式について分かっちゃった的なこと....!?」

 

突如の碼鶴の頭上から槍が降ってくる。

気付いた碼鶴はそれを回避するがバランスを崩した碼鶴に一馬は呪力のこもった金槌を腹部に投げ付けた。

 

「うぶほっ!!」

 

尋常じゃない威力を受けて吹き飛びそうになるが碼鶴は空中で回転し受け身を取る。

 

「軽薄な口調のわりには冷静に受けるんだな?」

「ガバッ!....うるっせぇなぁ。

今の何だ?」

 

「教えると思ってるのか?

覚悟しろよテメェはここで俺が仕留める。」

 

一馬は抑えていた呪力を解放する。

それを関知した碼鶴は目の前の子供を敵として認識する。

 

「どうやら...遊べるほど雑魚じゃねぇか。

良いぜ....こっからはガチで殺してやるよ餓鬼。」

 

そう言って殺気を放つ碼鶴を見て一馬は不気味に笑うのだった。

 

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