「――――追え!!逃がすなァッ!!」
「こっちだ!最悪殺してしまっても構わん!!」
夜も更け、東の空が白み始めた頃。
響き渡る怒号の数々。
奥まったアパート群の中を乱反射して、耳鳴りのような音を残していく。
「・・・・ッ」
追っ手を気にして、何度も後ろを振り返りながら。
握った手を放すまいとさらに強く握った。
と、ちょうどよい暗がりを見つけた。
街灯も届かず、良い具合に建物の柱が出ている。
「ッこっちだ!」
「・・・・ぁッ!」
手を引いて、物陰に隠れた。
最悪悲鳴を上げられても構わんとばかりに、強く抱きしめて。
自分ごと身を縮こませる。
「待てェッ!!」
「逃げられると思うなよッ!!」
すぐそばを追手が通り過ぎて、気配が遠くなった。
数テンポ、身じろぎと息を殺して。
そして、安全を確信できたところでやっと体を離す。
見下ろせば、おびえ切っている目と視線がかち合う。
「大丈夫、大丈夫だ」
安心させるよう努めながら、微笑みかける。
――――おそらく、言葉は通じていないだろう。
それでも、守らなければならない存在だ。
「君を守れるのは光栄なことなんだ、だから、大丈夫」
忘れもしない。
アンバーの瞳に、淡い茶髪。
あの日、地獄から救い上げてくれた。
希望の象徴。
「さあ、もう少しだ」
もう一度手を取って、目的地へ向かおうとした。
その時。
「――――そこまでだ」
乾いた音がする。
――――フランス、パリ。
凱旋門やエッフェル塔等、様々な観光名所に溢れたこの街は。
まさしく『花の都』と呼ぶにふさわしい華々しさを誇っている。
しかし、そんな絢爛の都でも人が住んでいる限り犯罪は起きる。
そして、犯罪に立ち向かう警察も。
「――――最初に通報があったのは?」
「午前4時頃、複数人の争っている音が聞こえると近隣住民から一報が入った」
パリ警察に努める警視『ラファエル・コスト』は、同僚の警部『ニコラ・ペラン』と警部補『アルチュール・オンギャン』を伴って。
現場に赴いていた。
「その一時間後に銃声、警察が駆けつけてみれば。倒れている被害者と・・・・」
アルチュールに促される形で差された先を見れば、そこには他の警官に付き添われている一人の少女が。
「庇われているあの少女が発見された」
「事件の重要参考人ね」
「ただ、問題が、ってちょっと!ラファエル!」
頷いたラファエルは制止の声を振り切って、ずんずんと少女に歩み寄る。
見た限りは、息子のテオと年が近いくらいだろうか。
「ハイ、ごきげんよう」
「・・・・ッ」
声をかけると、びくりと驚いた顔でこちらを見てくる少女。
「大変な目に遭ったわね、でも、もう大丈夫。あたし達が来たから、怖いことなんて何もないわよ」
安心させるように話しかけてみたが、少女の顔が晴れることはない。
というか、視線に含まれる警戒が強くなったような・・・・?
「ラファエル、逸り過ぎだ」
「ニコラ、あたし何かやっちゃったのかしら?」
同僚と、明らかに神経を尖らせている少女とを見比べながら。
ラファエルが問いかけた時だった。
「――――
少女が、まさに意を決した、とばかりに声を張り上げた。
一同びっくりして注視すれば、視線に気おされるも。
何とか身を乗り出して、少女は口を開いて。
「あ、あい、きゃんと、すぴーく・・・・ふ、ふれんち?ふらんす?・・・・ふ、ふらんす!!」
ええいままよ、とばかりに両手を振り上げたのだった。
「・・・・彼女、言葉が通じない」
「英語がギリギリ喋れたんで、日本人だってことは分かりましたが、それ以外はさっぱりで・・・・」
「なんてこと・・・・!」
「ああ、でも大丈夫」
ぴしゃん!と額を叩くラファエルを宥める様に、アルチュールはどこか得意げに肩を叩いた。
「日本人だって分かったんで、すぐにアストリッドに連絡して、タナカさんを連れてくるように伝えました」
「信用できる日本人だからな、多分そろそろ・・・・あ」
ニコラが目を向けた先。
一人の日本人男性に付き添われた女性が、現場に入って来た。
青いコートに、『もしも』に備えて色んなアイテムを入れたリュック。
切り揃えられた前髪に、横に結ばれた口元。
満を持した相棒の登場に、ラファエルの顔が明るくなった。
「アストリッド!おはよう!」
「ええ、おはようございますラファエル。ペラン警部と、オンギャン警部補も、おはようございます」
「おはよう」
「タナカさんも来てくれてありがとう、よろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いします」
挨拶もそこそこに、遺体とその周囲を観察していく『アストリッド・ニールセン』。
その瞳は、人とは違う景色を見つめていた。
――――花の都、パリで起きた銃撃事件。
「被害者は、パリ在住のシリア移民。三年前にフランス国籍を獲得し、現在はフランス国民として生活しています」
被害者が庇っていたのは、血縁も面識もない少女。
「キョウコ・タチバナ、13歳の日本人。海外への渡航歴はアメリカへ行った一度きりです」
「被害者との面識は全くないと、タナカさんが聞き出してくれました」
「まったく赤の他人を庇っていたの?」
言葉も通じぬ彼女は何故守られていたのか。
「気になる記述を見つけました、被害者は2042年の『難民キャンプ大火災』の生き残りです」
「ッあの!?」
パズルのピースとして、現れたのは。
「『ファフニール』・・・・」
「はい、彼、ないし彼女は、2041年から2042年の間にパリで起こった殺人事件のうち、実に13件に関わっているとされ。また、中国、ネパール、インド、ソマリア、ジブチ、シリア等々、20の国と地域で指名手配されている危険人物です」
「やばいやつね」
「はい、やばいやつです」
口をつぐむ、関係者達。
「『ファフニール』は私たちの恩人です」
「けど、奴は人殺しです!」
「恩人を売ったりしない、お帰り下さい」
加速した事態は、二転三転していく。
「これは・・・・!?」
「何かしらの儀式の跡の様です、専門的な記号・・・・私の知識にはないものです」
「見たからには生かしておけないな!!」
「まずい、逃げるわよ!!」
「まさか国連が出てくるなんてね」
「今回の事件に異端技術が絡んでいます、ノイズも現れたとなると出てくるのは必然です」
「そうね・・・・」
「
「
「身内がS.O.N.G.にいたのか」
「再会出来てよかった・・・・」
そして、明るみになっていく真実。
「データを統合した結果、確信しました。あなたが、『ファフニール』です」
「――――正解です」
「ラファエル、正義とは何なのでしょうか」
「さあ?神様にでも聞いてみようか?この間日本に出たらしいわよ」
「・・・・ジョークですか?」
「ええ、ジョークよ」
「あなたは何故、人を助け続けるのですか」
「責任があるから。罪を見逃してもらった分、答えて示し続けなければならないんです」
その果てに、見えるものは。
「――――私は適任です、ふふっ」
チョイワルビッキーと一途な393
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アストリッドとラファエル~文書係の事件録~
「竜の足跡」
書くかどうかは、9.5対0.5で薄めたカルピスくらいの可能性・・・・・!
『アストリッドとラファエル~文書係の事件録~』
最近ハマっているフランスの刑事ドラマ。
事件解決の為なら、ちょっと強引な手段も辞さない女性警視『ラファエル・コスト』はある日。
犯罪資料局で働く自閉症スペクトラムの女性『アストリッド・ニールセン』と出会う。
生まれつき対人関係能力に大きなハンデを負いながらも、犯罪化学に基づいた鋭い推理を展開するアストリッドに、達悦した才能を感じたラファエル。
犯罪科学者として捜査協力を依頼するうちに、彼女達はかけがえのない
フランスで知的障害者がどんな扱いを受けているのかとか、当事者がどんな生活をしているのかとか分かって面白い。
あと、アストリッドが日本好きなので、日本ネタがちょくちょく出てきてふふってなる。
現在NHK総合で第三シーズン放送中!見てくれよな!()