10/15日の最新話時点であり得るIFでもあります。
それでは、どうぞ。
――――ソラシド市。
関東地方内陸部に位置する、平和な都市だ。
自然豊かで子育てもしやすく、空港や大きな駅などの交通の要衝はもちろん。
大きなショッピングモールなどのおでかけスポットもある。
最近は、巨大な怪物やそれに立ち向かうヒーローの存在など。
物騒なうわさも後を絶たないが・・・・。
テレビ番組などの『暮らしたい街』の話題で、たまーに名前が出ることが特徴だろうか。
「――――お腹すきましたね」
「そういえば、もうお昼時だね」
「何食べようか?」
「だいぶ買い物したねぇ」
「えゆぅ!」
そんな街に住む少年少女達。
ソラ・ハレワタールに、虹ヶ丘ましろ。
夕凪ツバサに、聖あげは。
それから、あげはにだっこされたエルは。
重なった休日に、ショッピングに繰り出していたのだった。
「この辺だと何があるかな」
「えっと・・・・あ、近くに定食屋があるみたいだよ」
ツバサの疑問に、スマホを捜査していたあげはが画面を見せる。
「なになに、ご飯大盛り・・・・無料!?」
「とんかつ定食が人気なんだ」
「おいしそーだよね!」
「ここにしましょう!」
今いる場所から五分ほど歩くことになるが、苦ではない。
満場一致で決まり、早速そちらへ行くことにした。
ついて見れば、いかにもな店構え。
藍染めに白抜きで書かれた店名が、無骨ながらも確かな実力を主張している。
「――――いらっしゃいませー!」
「あれ、香子さん!」
引き戸を開けると、くるくる動き回っていた店員がこちらに気付いて声を上げる。
するとましろも明るい声を上げた。
彼女は『立花香子』。
虹ヶ丘家のご近所のアパートに住み、進学の為に一人暮らしをしている高校生だ。
「おや、いらっしゃいましろちゃん。みんなでお昼?」
「はい!」
「五人です!」
「赤ちゃんもいるなら、お座敷がいいね。五名様入りまーす!」
淡い癖毛の茶髪を揺らし、琥珀色の瞳を微笑まし気に細めた香子は。
厨房へ声をかけて、五人を席へ案内した。
「ご注文決まりましたら、お知らせください」
「はい!」
「・・・・あれ、あげはさん?」
ここでツバサは、あげはがやけに静かなことに気付いた。
見ると、ぽかんと口を開けている。
ツバサの声で、ソラとましろも首を傾げて彼女を注視していると。
「・・・・はなちゃん?」
「あ、やっぱりあーちゃん先輩?」
どうやら二人は知り合いだったようだ。
驚くあげはとは対照的に、にこっと笑っておひやを配る香子。
「お二人は知り合いなんですか?」
「そそ、中学の先輩後輩!」
ソラの疑問に香子が答えると、あげはも黙って頷いた。
ついでに注文も済ませてしまう。
「お久しぶりですねぇ、三・四年ぶりじゃないです?」
「そ、そおだねぇ・・・・」
伝票に書き込んだ香子が、人懐っこく笑いかける。
しかし、どういうわけだかあげはの目は泳いでいた。
再会が、あまりうれしくないのだろうか?
「あげはちゃん?」
「ぁ、い、いやぁ!なんでもないよ!なんでも!あはははは・・・・」
ましろの問いかけにも、どこかしどろもどろだ。
「そ、それよりも!ましろん達とはなちゃん、知り合いだったんだね!私はそっちがびっくりもんだよ!」
「ああ、うん。近所のアパートに住んでて、よく会うの」
「朝のランニングで、ご一緒するんです!」
「へぇー」
先に知り合ったのは、やはり元から住んでいたましろだった。
中学に上がったばかりの頃、居眠り運転の車に危うく轢かれそうになったところを助けられたのが始まりだという。
その後近所に住んでいることを知り、ちょくちょく話す仲になっているとか。
「まるでヒーローみたいですよね!」
「あはは、相変わらずなんだねぇ。私と会ったのもそんな感じなんだよ」
「そうなんですか?」
「うん」
聞けば、あげはが出会ったのはさらに昔。
不審者に追いかけられたところを、助けられたとのこと。
「『趣味だから気にするな』って、言ってたなぁ」
「そうそう!香子さん、『人助けが趣味』って」
ましろが、顔をキラキラさせて語りだす。
「いつも冷静で、いろんなこと知ってて、大人になるならあんな人がいいなぁって・・・・まだ高校生なんだけどね」
「あはは、ましろんの憧れなんだ」
「えへへ、うん!」
「分かります!」
ましろが照れくさそうに頬をかくと、その隣でソラが拳を握って同意する。
「シャララ隊長とはまた違いますが、素晴らしい人なのは間違いありません!それにましろさんは香子さんのことが――――」
「わー!わーわー!!ソラちゃんストップー!」
「もぶっ」
ぱあん!とソラの口を物理的に塞ぎにかかったましろ。
その顔は、耳まで朱に染まっていて。
向かいで目の当たりにしたあげはは、大体の事情を察してしまった。
(こりゃあ、ましろん苦労しそー・・・・)
「わんわん!すき!」
「――――そんなに褒めても、ご飯しか出てこないぞー?」
いつの間にか、随分盛り上がってしまった様だ。
振って来た声に一同が振り向くと、人数分の定食を起用に持ってきた香子が。
にやっと歯を見せている。
「はーい、とんかつ定食四人前、エルちゃんには店長からいちごのサービスね。お待ちどおさまー」
「わあー!おいしそー!」
「いちごー!」
配膳されたとんかつ定食。
名前にもなっているメインのとんかつは揚げたてらしく、こんがりきつね色なのはもちろんのことだが。
耳を澄ますとかすかにパチパチという音が聞こえた。
エルへのいちごも、心なしか輝いているように見える。
「――――にっ」
厨房を見ると、こちらを伺っていたらしい中年男性が、いい笑顔で親指を立てていた。
「ありがとうございます!」
「んふふ、伝票おいときますね。それではごゆっくりー!」
「「「「いただきまーす!」」」」
香子は、歓声を上げるソラ達を微笑まし気に見つめてから。
「――――大丈夫ですよ」
「――――ッ」
ふと、その去り際。
あげはだけに聞こえる声で。
「その子達、みんないい子ですから」
はっと振り向いたあげはへ、艶やかに『静かに』のジェスチャーをしたのだった。
◆ ◆ ◆
「――――立花、香子」
その名前を、伝えた時。
胸中に渦巻いているのは恐怖だった。
暴力的に向けられる。
視線、レンズ、マイクのフラッシュバックに襲われて、めまいを覚えた。
だけど、
「香子さん・・・・!」
その子は、輝くような笑顔で。
わたしの名前を躊躇いなく呼んだのだ。
「あの時は、ありがとうございました!」
向けられた声と、目には。
侮蔑も、憐憫も、同情もなくて。
わたしを、『立花香子』を。
ただ、一人の人間として敬ってくれていた。
(何も、知らないの?)
己の名前の意味も、それにまつわる厄介事も。
「?、あの・・・・?」
「っあ、いや・・・・なんでもない」
思わず、目をそらしてしまう。
だって、あまりにも眩しすぎて。
「・・・・お礼は受け取る、でもあまり気にしないで。人助けは趣味だから」
「わあ・・・・!はい!」
――――嗚呼、この子は本当に知らないんだ。
立花香子も、その姉も。
それに付随する、異端技術や政治的なやり取り。
そして、汚くて、醜くて、悍ましい伏魔殿の存在も。
全くの無縁なのだ。
(羨ましい)
躊躇いなく父母に甘えられる環境が、屈託なく笑顔を浮かべられる環境が。
この世は善で出来ていると信じていそうな顔が出来る、環境が。
(眩しいな)
同時に、救いももたらしてくれた。
己が暗がりにいる意味を示してくれた。
その輝かしい笑顔が、照明してくれたのだ。
――――立花香子の境遇に、意味はあったと。
少なくとも、その笑顔を保てるだけのことはやってきたのだと。
「それにしても、ご近所さんだったんですね!」
「うん、高校がこっちで。最近越してきたの、改めてよろしくね」
「はい!」
だから。
「クッソが!バッタモンモン!」
「二度と来るなー!」
今日も無事に怪物を倒し、脅威を追い払ったプリキュア。
定食屋で遭遇した後日に、覚醒した先輩が。
撤退していく敵へ、元気よく野次を飛ばしている。
そんな彼女達を物陰から見守りながら、おもむろに口を開く。
「――――ダメじゃないですか、いたいけな子を襲おうだなんて」
雑談でもしているような声色で、話しかけた先には。
「ん"ーっ!ん"ーっ!」
影に捕えられた、ローブの男。
「ん"ん"!!むぐぐーっ!!」
「ハアー?日本語でお願いできますぅー?」
「もがもがもが・・・・!」
「アハハッ!ウケるんですけど」
明らかに小馬鹿にして耳を傾けながら、にやにやと笑ってやる。
相手の顔が面白いくらいに歪んで、一段と笑みが深まった。
「表立って介入してないからって、油断したでしょ?だからこうやって漁夫の利狙ってたんでしょ?」
『ざぁこ、ざぁこ』と言いたげな顔で言い当てれば、また一段と面白い顔になる男。
悦に浸りながら、足を組んだ。
「ざぁんねんでしたー、正確には経過観察なんですよぉー。ちゃあんと見張ってるんでね、抜け駆けはダメですよぉ」
「むごぐぐーッ!」
揺らめく。
己の足元が。
それが何を意味するか、男は理解出来ている様だ。
今まで以上に暴れ回って、拘束から逃れようとしている。
「――――」
「うん、いいよ。食べちゃいな」
だから、死刑宣告よろしく。
『語り掛け』に、許可を出した。
「骨の髄まで、残さずね」
「ん"っ!ん"っ!ん"っ!ん"っ!」
骨が軋み、筋肉がぶちぶちちぎれても。
なお逃げようと試みる男だったが。
哀れ、到底間に合わず。
「ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"――――ッッッッ!!!!!!」
誰にも知られない場所で。
誰にも聞こえない断末魔が轟いた。
立花香子(IFの姿)
作中時点では高校三年生。
ソラシド市内の高校に通っている。
セミロングの淡い茶髪を一つ結びにしている。
性格は落ち着いているが、一方でおちゃめな一面も。
虹ヶ丘家の近所に住んでおり、ソラとは毎朝のランニングで一緒になる。
その正体は、S.O.N.G.に所属する錬金術師。
裏社会の闇からは『
あげはと出会った中学の頃は要人保護プログラムを受けており、『
――――本当に食べさせた訳じゃない、死ぬほど痛い目を見せただけである。
だけである。
聖あげは
作中でキョドっていたのは、S.O.N.G.のことを知っていたため。
ひょんなことから異端技術関連の事件に巻き込まれ、そこを香子に助けられた過去がある。
以来、持ち前の面倒見の良さを発揮して、香子を気にかけていた。
『はなちゃん』『あーちゃん先輩』と呼び合うくらいには信頼されている。
可愛がっていた後輩が、幼馴染み兼妹分にぢっっっっっっとりとした感情を向けていることに、最初に気付いてしまう。
続くとしたら、苦労人になるのでは。
生きろ。
虹ヶ丘ましろ
香子に向ける感情は、どちらかといえばアイドルや俳優へのそれ。
身近に幼馴染みと同い年の格好いい同性がいたら、憧れざるを得ないよね。
なお、当の本人からはぢっっっっっっとりとした矢印を向けられている模様。
ソラ・ハレワタール、夕凪ツバサ
近所の頼れるお姉さん。
見かけたら挨拶を交わすついでに、ご飯に誘う程度に仲良し。
プリンセス・エル
わんわん!好き!