――――勝ったぞ諸君!この戦い、我々の勝利だッ!!
なんて、某拳王様みたいに天高く右手を突き上げたい気分。
起き抜けにガチ泣きなんてやらかしちゃったけど、落ち着いて思い出してみるとそうでもなかったわ。
いや、服をひん剥かれたのまでは本当だけど。
あちこちがぶがぶされるのを本気で抵抗してたら、相手の方に限界が来て。
ふっつり寝落ちたエルマさんを見て、某狩りゲーで古龍を撃退した気分になったのはしょうがないと思う。
だからわたしがされたのは、『むしゃむしゃ(意味深)』じゃなくて、『むしゃむしゃ(物理)』。
よってエルマさんは情事酌量の余地アリ、執行猶予付きで見逃して良し!
Qッ!!Eッ!!Dッ!!
「いや、もう。本当にごめんなさいね、あーし達の割りを食わせちゃって」
「いーえぇ、びっくりしましたけど、エルマさんも大分酔ってらっしゃいましたし」
現在、カリオストロさんと郊外の林道を歩いている最中。
あの後二日酔いでダウンしてしまったエルマさんに代わって、送ってもらっているところだ。
ちなみにわたしの手には、『ひとまずのお詫びに』とプレラーティさんがボトルで渡してくれたワインが。
ロマネ・コンティって相当お高い奴じゃなかったっけなぁ・・・・。
「それにしても・・・・」
と、前を歩いていたカリオストロさんが振り向く。
向けられた目に、何だか鋭い印象を受けて。
思わずこっちも足を止めた。
「驚かないのね?あーし達の『コレ』に」
誰もいないからだろう。
目の前のカリオストロさんの手に、青い陣が浮かんだ。
・・・・・わたしが特に気にしないのを、警戒されているらしい。
まあ、普通驚くなりのリアクションするよね、こんな種も仕掛けもなさそうな手品。
「あー、一応驚いてますよ?でも、なんというか・・・・・」
「なんというか?」
カリオストロさんが気にしてるのは、わたしがエルマさんに敵対しないかどうかってところだろう。
色々と苦労を掛けてしまっているみたいだけど、なんだかんだで慕っているのは本当っぽいし。
んー、でもぶっちゃけてしまうとなー。
「こうやってエルマさんやらあなたやらが実際に使っているわけですし、もういっそ、一人見かけたらそこらに三十人くらいいてもおかしくなさそうだなっと」
というか。
公言できないけど、日常生活からして超常現象に浸りまくってるわけだし。
今更超能力とか出されても、ねぇ?
「・・・・想像以上の図太さに突っ込めばいいのか、例えのあんまりさを嗜めればいいのか」
「あはは」
一気に脱力したカリオストロさんが面白くて、思わず笑ってしまった。
まあ、一人見かけたら三十人って、生物学的に大先輩な節足動物かよって思うよね。
そいつに抱かれているイメージを知っているなら、なおさら。
「それに、エルマさんって悪い人じゃなさそうですから」
「どうしてそう思うのかしら?」
また歩き出しつつそう言うと、どこか驚いた顔をするカリオストロさん。
もしかして、意外な感想だったのかな?
「だって、いくら愚痴を零したって、『やめる』だなんて一言も言わない人ですから。しっかりした信念を持った、強い人ですから」
少なくとも、わたしにとってのエルマさんはそうだ。
アダムさんやらカリオストロさんやらのあれこれは零しても、『やめたい』だの『もういや』だの。
弱音は決して吐かない人だから。
「・・・・・隠し事が多いわよ?」
「人間だれしもそんなもんでしょ?エルマさんは人一倍なだけです」
「何その菩薩思考」
「ぼさっ・・・・!?」
ぼっ、菩薩に例えられるとは思わなんだ・・・・!
そんなに婆クサイ意見だったかしら・・・・!?
「けど、なるほどねぇ・・・・・ふぅーん」
こっちが勝手にへこんでいる横で、カリオストロさんはなにやら考え込んでいる。
「どうかしたんです?」
「んー?いーえ、ただ・・・・」
気になって聞いてみると、カリオストロさんはどこか面白そうに笑って。
「さすが、サンジェルマンが友人と言い切るだけはあるわね」
「ありがとうございます・・・・?」
よく分からなかったけれど、褒められているのは分かったので。
一応お礼を言っておいた。
カリオストロさんは満足そうに頷いていたので、間違ってはいなかったらしい。
「っと、街が見えてきたわね」
「あ、本当だ。ここまで大丈夫です、後は一人で行けます」
見えてきた、覚えのある街並み。
これ以上は人目も多くなるだろうし、そうなったらお互いによくないだろうしね。
「それじゃあ、あーしは引き返すとするわ。願わくば、今後もサンジェルマンと仲良くしてあげて」
「はい、カリオストロさん達も、どうかエルマさんを支えてあげてください」
「もっちろん、さすがに今回みたいなことがあったらね」
笑った後で、ふと何かを思い出したらしい。
カリオストロさんは、首を傾げながらこっちを見て。
「そういえば、何で『エルマ』って呼び続けるのかしら?あーしやらプレラーティやら、本名口にしちゃってるし、そっちで呼ばないの?」
なんだ、そんなこと?
「本人からちゃんと聞きたいので、名前って大事なものでしょう?」
「・・・・・そう」
聞きたいことは、それだけらしい。
明るく手を振ってくれるカリオストロさんに見送られながら、帰路へつく。
閑話休題。
「かなでええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」
「お、っと」
びゃああああん!だなんて泣く翼に、もう外聞なんてしったこっちゃないと言わんばかりに飛びつかれた。
監視がついていただけあって、やっぱり急にいなくなったのが騒ぎになっていたらしい。
「奏さん!怪我とかはないんですよね!?」
「ないない、このとーりだよ」
「よかったぁ・・・・!」
一緒にいたらしい響ちゃんにも、えらく心配させてしまったようで。
ちょっと罪悪感。
「無事でよかったです、奏さん」
「まったく、心配かけさせやがって」
「すみません、ちょっと知り合いに連れ込まれちゃって」
「つれこっ・・・・!?」
申し訳なさそうな緒川さんや、わしゃわしゃ頭を撫でてきた弦十郎さんに説明すると。
翼がぎょっとした様子で顔を上げる。
「ど、どこのどいつだ!?おのれ、よくも奏に・・・・!!」
「と、友達だって!いつも通り愚痴に付き合ってたら、何かあれよあれよと抱き枕にされちゃって・・・・!」
色々省いているけど、間違ってはいないはず。
わたしの、純潔は、まだ健在・・・・!!!
そうやってどうにか宥めていると、ふと翼の動きが止まった。
途端に笑顔が消えて、何だか危機感を覚えるオーラを放ち始める翼。
「ぁ、あの?翼さん?」
威圧感に耐えられなくなって、名前を呼んでみる。
「――――本当に?本当に何も無かったの?」
「な、無かったけど?」
「何も無かったの?」
「いや、その、ちょっと危なくはあったかも?」
「何も無かったの?」
「ぼ、防衛には成功したから!」
い、い
なんだろう。
部屋の温度が低くなってる気がする・・・・!
そんな中で、翼のちょっとひんやりした指先が首筋に伸びてきて。
「じゃあ、これは?」
「へっ?」
これ、と言われても、自分じゃ見られない。
それを察してか、緒川さんが手鏡をさっと差し出してくれて。
映った首筋に、赤いぽっちがくっきり刻まれていた。
「」
「奏」
絶句するしかないわたし、据わった目で見てくる翼。
・・・・・・絶体絶命とは、このこと。
「奏」
「へいっ!ナンデェ!?」
呼ぶ声に、返事する以外の選択肢がない。
「――――今夜は覚悟して」
「アイアイマムッ!!」
もちろん、告げられた宣告に頷く以外の選択肢もなかった。
・・・・・ヤンデレ怖い(泣)
奏(偽)さんの明日はどっちだ(笑