この世界がゾンビで溢れかえる前日まで、彼は絵に描いたようなブラック企業に三年間勤め、
しかし、世界そのものが壊れ、会社に行かなくてもよくなった彼はその枷から解き放たれ、自身のやりたい事をするという決意を固め、初めに自身が長年恋心を秘めていた会社の先輩に想いを伝えに行くところである。
「待っててください鳳さーーん!!!」
輝は憧れの先輩の顔を思い浮かべ、今一度強くペダルを踏む。
後ろから追いかけてくるゾンビの集団に捕まらないように。
そしてその出会いは偶然、そして何より一瞬だけ訪れた。
「ふっ!!」
輝の進行方向とは真反対。
ゾンビが彼を追いかけてくる方向へとゾンビ達を蹴散らしながら進む人影があった。
しかも、その人影はあろうことか武器の代わりになる物すら持たず、素手のパンチ一発でゾンビを数人吹っ飛ばし時には強すぎるパンチの勢いでゾンビを破裂させながら進んでいる。
だが、その状況で何より衝撃なのは、彼自身、着ている服すら無傷なのである。
「おおおおおおおおおっ!?」
アクション映画のワンシーンを見ている様な彼の姿に立ち止まりたいが、今はそれよりも自分のやりたい事に精一杯だった。
「……こんな世界でもスーツって仕事熱心だな」
そんな輝の姿を、啓斗は横眼で見てそう言った。
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彼らが一瞬の邂逅を果たす少し前―――。
啓斗は都心にあるデパート、そのアパレルショップを訪れていた。
「おー、やっぱりここはたくさん服があんな!」
今の啓斗の服装はタンクトップに短パンと、想像しやすく言うなら休日のオッサンである。
彼自身そこまでオシャレに興味があるわけではないがさすがのこの状況でも服を求めるのは当たり前なのだろう。
しかし
『あああ…おぉぉぉ…』
「おーおー、分かってはいたけどこっちもいっぱい居るわな」
デパート内にもゾンビは溢れかえっており、彼らは啓斗を見るや襲ってくる。
「服くらい落ち着いて選ばせてほしいけど、ゾンビ相手じゃそうもいかないよな。……いいぜ、かかってきな、んで死ぬほど俺を恨みながら、死んでくれ」
啓斗は全身から呪力を滾らせてゾンビに言う。
もちろん、彼らにはこの呪力は見えない。
何故なら呪力は基本的に一般人には視認できないもので、この世界でそれを確認できるのはこの啓斗をおいて他には居ないからだ。
そしてそこから三十分もしない間に啓斗はフロア内のゾンビを全て殺し尽くした。
「さあて服服っと…」
適当な服を吟味して着替える啓斗。
その姿だけを見るならただ服を買いに来た一般人そのものだ。
周りが血まみれで体が吹き飛んだ人間だらけでなければ。
「ま、こんなんでいいか」
啓斗が選んだのは紺を基調とした少し大きめのパーカーと、茶色のジャージ。
下がジャージなのは動きやすさを優先してのことのようだ。
「本当は下のフロアで飯の調達もしたいけど…」
啓斗が見つめる先には下のフロアから上がってくるゾンビ。
生きている者の気配なのか、それとも他に何かあるのかは定かではないが、階段エスカレーター問わずに彼の居るこのフロアに集まっている。
そしてこの場で唯一生きている彼を同類にしようと迫る。
「そうはいかねえか…!」
目的は果たし、ここに用がない啓斗はゾンビに背を向けて走り出す。
当然そんな彼をゾンビも追うが彼の脱出はもうすでに完了目前だ。
啓斗の眼前に迫る壁、先に見つけていたフロアマップでの建物の形状からこの先は外。
となれば、彼の取る行動は決まっていた。
「……っ!」
一際大きく呪力を込めた拳で殴りつけられた壁は、まるで豆腐の様に容易く、勢いよく砕け、啓斗はその中から煙と共に飛び出した。
「ハハハハハハハハ! 脱出成功!」
こうして、彼は目的を果たしたのであった。
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「さすがに腹減ってきたな」
服を一新して、都心近くに新しい拠点を得ようと考えた俺。
がしかし、夜も更けってきたのでどこかで食料を調達しようと考えたわけだ。
「けどなあ…」
この状況で飯屋がやってるわけない。
とすれば答えは一つである。
「やっぱここは、コンビニだな」
俺はそうしてコンビニに向けて歩き出す。
ちなみにまだネット回線が混雑しすぎているので当然歩いて探す事になる。
そういえば、昼間に見かけたあのリーマンっぽい人、まだ生きてるかな?
「数少ない生存者なわけだし、仲良くしたいものだ。悪い人じゃなさそうだし」
俺は道中ゾンビを蹴散らしながらコンビニを目指した。
今は心底思う、ちゃんと戦い向けの特典貰って良かった。
と、俺が道草食っている内に遠くで明かりが見えた。
そこには確かに、コンビニがあった。
「よっしゃ、もう腹ペコペコだ!」
俺はそのコンビニに向けて走る。
だが、距離が近くなるにつれてそのコンビニの前に一つの人影が見えた。
この状況だからゾンビかとも考えたがどうやら違うようだ。
だって、ビール飲んでるもん。
しかもちゃんと飲み口に口付けて飲んでるもん。
つまり、ゾンビにならずに済んでいる人間という事だ。
そして俺がコンビニの前に行った時、その人もまた俺を見た。
「あ! アンタは…」
「昼間のアクション映画の人!」
アクション映画?
俺は一瞬戸惑ったが、その人は昼間俺とすれ違ったリーマンっぽい人だった。
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「なるほど、好きな人に想いを伝えるためにか……すげえ行動力だな」
「そっちこそ、服が欲しくてなんて普通思わないでしょこの状況」
俺はコンビニから少しの水と弁当を拝借してこの人……輝の横に座ってお互いの事話した。
彼はつい昨日までブラック企業に勤めてて、その解放感に浸りながらこれからの事を考えているらしい。
「まあ、好きって言っても片思いだし……何より結局俺の思っていたその人の姿は理想に過ぎなかったんですけどね。社長の愛人だったし…」
彼はまた一口ビールに口を付けて言う。
その顔は少し寂しそうだが、想いを伝えられた充足感に満ちていた。
「関係ねえだろ」
「え?」
「理想だろうが、社長の愛人だろうが、お前はその人が好きでこんな状況の中でも想いを伝えたくて、伝えた。それだけあれば十分すぎるだろ」
「……そうっすね」
「それに、こんな状況だ自分に後悔しないように生きるべきだと思うぜ。どうせ遅かれ早かれ死ぬんだし」
不謹慎だろうが何だろうが俺は輝にそう言った。
「そうですね。……そうと決まったら、俺もやりたい事をやります! 名付けて【ゾンビになるまでにしたい100のこと】!」
輝は立ち上がってそう言った。
どうやら彼の中で何かが吹っ切れたようだ。
「100も見つけんのかよ、大変だな…!」
「ブラック企業で三年も無駄にしたんです。100じゃ足りないくらいです!」
輝はコンビニに入り、中から一冊のノートとペンを持ってきた。
そしてノートの表紙にデカデカとさっきの目標を掲げている。
「……ああ、いい目標だ」
「へへ、ありがとうございます。よし、今日は俺の家で飲みましょう! 大分汚れてますけど…」
そうして、俺と輝は彼の家を目指すのであった。
途中からタイトルの感じは変えるかもしれませんが、ご了承ください…