今後ともよろしくお願いしながら温かい目で見てください
このゾンビパンデミックが起きてから数日ーーー。
「98…99…100……ふぅ、やっぱり朝の運動は気持ちいいなぁ」
俺は輝の部屋から出て、マンションの屋上に住み着いていた。
いつまでもあの部屋に二人で居るわけにも、部屋を借り続けるわけにもいかないからな。
『あー…ゔぅぁぁ…おぉぉぉ…』
「ま、空の快晴とは似ても似つかない地上の地獄だけど」
屋上から下を眺める。
相変わらずゾンビは日に日に増え続けるばかりで、国も何かしらの対策を取ろうとしてるんだろうが、流石にこんな映画でしかないような状態じゃ打開策を模索しようにも時間がかかるのだろう。
ちなみに今は腕立て・腹筋・スクワットをそれぞれ百回。
十五分のインターバルを挟んで三セットやるというよくあるメニューで体を
そんな時俺のスマホがピロンと音を立てた。
音の正体は俺に届いたメッセージで、差出人は下に居る輝。
「…ネット、復旧したのか」
輝からのメッセージでその事実に気づく俺。
とりあえず情報を得る為にネットの海に身を投じた訳だが、やはり政府や自衛隊もまだ事態の収拾には時間が掛かりそうという事しか分からなかった。
そして、また輝から連絡が入る。
『一度俺の部屋に来てもらえますか』
そのメッセージに呼ばれるまま、俺は輝の部屋に向かう。
と言っても、ただ降りるだけで大した事は無いのだがな。
「どうした輝?」
「おはようございます、啓斗さん! 今日もいい天気ですね!」
「……まさか、それを言う為だけに呼んだわけじゃあるまいな? そうだったら殴っていいか?」
「ち、違います違います! 実は…」
輝曰く、やっとネットが復旧したのだから長年連絡の取れていなかった知人達にメッセージを飛ばしはしたものの、そのほとんどから返事がずっと帰ってこないという事だとか。
「多分ですけど、ネットが回復したって事はそれだけネットを使う人が減ったって事ですよね」
「まあそうだろうな。実際政府もこのパンデミックには後手に回ってるだけで直接的な解決策は見いだせてないだろうし、まだまだ被害は増えるだけだろう。んで、他に連絡取ってないやつは居ねえのか?」
「……居るには、居ますね」
「じゃあソイツにも連絡すりゃいいじゃん。もしかしたら無事かもしれねえし」
「いや、もしかしたら、じゃなくてアイツなら…ケンチョなら必ず無事なんです。俺と同じでそう簡単にくたばる奴じゃないですから」
コイツからここまでの信頼を置かれるとはすごい奴だな。
「なら、なんで連絡しないんだよ」
「……実は」
輝がブラック企業で働き始めてからしばらくして、そのケンチョという友人と飲んだ時に、些細な言い争いから連絡も取らずに疎遠になったらしい。
「バカですよね。アイツの言った通り、あんなとこさっさと辞めてりゃ……こんな時になってようやく気付くなんて」
輝はその友人のメッセージ画面を見て俯く。
「別に遅くねえだろ」
俺は輝の部屋に入りながら言葉を続ける。
「その友達の言葉に耳を貸せなかったって事は、その時のお前にはその程度の余裕もなかったって事だろ? だったら余裕を持てた今、それを伝えるくらいしてみろ」
「けど…」
「それとも」
俺は輝の【ゾンビになるまでにしたい100のこと】ノートを見せて告げた。
「ゾンビになった好きな人に想いを伝えるのは出来ても、親友のゾンビに謝るのは出来ないか?」
輝の掲げたしたい事はまだ全然百に満たない。
しかしその中に親友と朝まで飲んでバカ騒ぎするというものがあった。
俺はただそれを輝に見せただけ。
これでどう動くかは輝次第だ。
「……そうっすね! 大丈夫、ケンチョなら絶対生きてます! 俺と似てますから!」
「そりゃ、また騒がしいのが増えそうだ」
「酷いですね…けど、きっと今は女とホテルでしょ」
え、そういうタイプなん?
ゴメン輝、どこが似てるよ…。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
腹が減った…。
水も底を尽きそうだ…。
だけど、
「あぁぁぁぁぁ…あゔ…?」
「っ!!」
外はこのゾンビだらけ。
「だめだ…、どこにも行けねえ…。おまけに」
「ああああああああああ!」
もう三日間、このゾンビと二人きり……気がおかしくなりそうだ。
現にもう何度か、俺もゾンビになってしまった方が楽なんじゃないかと思った程だ。
「けど……酔ったノリで入ったのが、SMルームでマジ助かった…」
ああクソ…マジで腹減ってきた…。
俺は、こんな所で死ぬのか…。
ちくしょう…、なんでこんな時に学生時代のアイツの顔なんか思い出してんだ?
いつもバカやる俺に、本気で笑い転げてくれて、一緒にバカやってくれて…。
ああホント、あの頃は本気で楽しかったな。
……ああそうだ、俺は本当は…。
「!!」
目を閉じようとした時、俺のスマホに着信が届く。
こんな状況で連絡しようなんて普通考えるのか…?
だけど、着信の相手は俺がさっきまで思い出していた友達だった。
「……輝か?」
『おお出た! ケンチョ生きてた!』
電話口から聞こえる聞きなれた声。
こんな状況なのに、めちゃくちゃ元気だ。
『久しぶりだよなー! 最後に飲みに行ったのもう一年前だっけ?』
「お、おう…」
『なんだよー、なんか元気ねーじゃん!』
「いや、お前こそそのテンションどうなんだよ…?」
『いやー、色々あって吹っ切れてさ! ま、積もる話は後って事で、今どこに居んだよ?』
「新宿、だけど…」
『OK、新宿ね! 今から行くわ、紹介したい人もいるし!』
「…いや無理だって! 周りはゾンビだらけで、俺はもう…」
『大丈夫大丈夫! とにかく、住所送っといてよ! じゃな!』
「あ、おい…!」
俺が言い切る前に、輝は電話を切ったらしい。
……何なんだ一体。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いえええええい!! 大型バイクサイッコー!」
「そこまで喜んでもらえると、こっちも調達した甲斐があるな」
俺は輝と共に新宿を目指していた。
輝には俺が壊した自転車の代わりに鍵が付いたまま捨てられていた大型バイクを、ちょうどコイツのしたい事にも大型バイクを乗り回すってあったしな。
んで、さすがに俺も自転車で輝の横を爆走している。
走ってもいいがあそこから新宿までだとちょっと疲れるしな。
「でも、ケンチョのいるホテルまではどうやって行ったものか」
「そこは俺に任せとけ」
「?」
その後、俺は輝と別れてゾンビを引き寄せるうちに輝を先に行かせることにした。
今回の目的は輝が友人と会う事、アイツが先に行かないと意味ないしな。
「さあ来いよゾンビども、食えるもんなら食ってみな!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
輝から電話があって一時間くらいか。
なんだかさっきから外が静かだな…。
俺は恐る恐るドアを開けてみると、さっきまで通路を徘徊していたゾンビどもが姿を消していた。
「何が、あったんだ?」
そしてゾンビの代わりに、そこには、俺の知る友達が居た。
「輝…?」
「ケンチョ?」
俺が何かを言う前に輝は大声で俺に言ってきた。
「お前の言う通り、あんな会社さっさと辞めればいいだけの話だった! なのに俺はアドバイスに耳も貸さずに、それどころか楽しそうなお前に勝手に嫉妬して八つ当たりして……! 友達なのに、ホントにゴメン!」
…コイツ、わざわざそんな事を伝える為だけに、こんな危ない中来てくれたってのか?
バカ野郎…そんなの
「お、俺の方こそ…」
「おーい、アーキラー」
俺が言葉を返そうとした時、非常階段の方からもう一人、俺の知らない人が姿をやって来た。
「お、アンタが輝の言ってたケンチョって人だな。会えたみたいで良かったな」
「あ、アンタは…?」
「俺、俺は菜海啓斗。まあ縁あって今輝と一緒に行動してるもんだ。……っとここで長話したいとこだが、逃げるぜ」
「「え?」」
この人が指差した方を見るとさっきまでの比じゃないゾンビどもが押し寄せてきていた。
「おおおおおーーーーー!」
「なんかさっきよりも多くないですかー!?」
「あー、すまん。ゾンビどもをおびき寄せてる最中乗り捨てられた車見つけてさ、調子乗って運転してたらクラクションやらここに突っ込んだ時の音でめちゃめちゃ寄ってきちゃった」
「なんつー見切り発車だよソレ!?」
「とにかく上に逃げるしかねえ!」
俺は輝、啓斗に続いて逃げる。
なんでこの二人はこんな、映画みてえな状況でもそんな楽観的なんだよ。
俺は一緒に逃げる二人を見てそう思いながらラブホの屋上に到達、ゾンビに追いつかれる前にドアを閉めようとしたが、ギリギリで押されてしまう。
「やっべえ、長くは持たねえ!」
「どきな」
啓斗がそう言うと、コイツはあろうことかドアを蹴りで歪ませて、ゾンビの侵入を防いだ。
マジでなんなんだこの人…、何で輝はこんな人間離れした人と行動してんだ!?
「これでしばらくは大丈夫なのか?」
「いや、あの量じゃどうせすぐ破ってくるさ」
「じゃあどうすんだよ!? ここは屋上で、他に逃げ場なんてないんだぞ!」
焦る俺に、輝は静かに返した。
「……飛ぼう」
「え?」
「隣のビルまでなら、何とか飛べない距離じゃない…!」
「いやいや飛べない距離だって! 無理に決まってんだろ!」
「なるほど、いいアイデアだ。先に行くぜ」
「はあ!?」
そう言うと啓斗はその場から幅跳びでもするみたいに隣のビルに飛び移った。
これには、さすがの輝も面食らっている。
「……何なんだ、あの人…」
「まあ、頼もしい人ではあるよ。それに啓斗さんが実践したんだ、跳べない距離じゃないんだろ!」
「輝!」
輝は走り出し、ビルギリギリの所から飛び出した。
啓斗と違って助走をつけたけど、それでも輝もなんとか隣のビルに飛び移れている。
結構血出てるけど…。
「どうだああああ!!」
「どうだあって、決断力凄すぎだろ…」
「ケンチョも早く来いよ!」
輝にそう言われ、俺はビルの下を見る。
ここから落ちたら絶対に助からない…。
でも、飛ばないと後ろから来るゾンビに襲われる。
「無理だ…やっぱ、俺には飛べねえよ…。悪い輝、せっかくお前が、友達と一緒に助けに来てくれたってのに…」
「ケンチョ…?」
「最後に、聞いてくれ輝。俺ホントはさ、仕事なんかちっとも楽しくなかったんだ…!」
どうせ死ぬならと俺は隣のビルに居る輝に言う。
「毎日毎日客に笑顔で嘘八百並べて、ほとんど騙すような形で契約取ってさ…、それで上司に認められても会社に何度も表彰されても、美人のモデルをものにしても、大物政治家や有名スポーツ選手と会食しても……っ! ちっとも嬉しくなんかなかった!」
心の底から出た本音。
自分の本当の夢に嘘ついて、今の自分に満足するためにしてきたものを俺は全て吐き出していた。
そんな俺を輝も啓斗も、真剣な顔で見つめている。
俺は輝と違って、全然その人の事は知らねえけど……でも輝、お前にだけは聞いてほしかった。
「そんな虚しさを誤魔化そうとして、お前の前で見え張って楽しそうなフリして、ベラベラと自慢話ばっかして、嫌な奴で、俺の方こそ、本当にゴメン!」
「……そりゃそうだろ、だってお前のそのサービス精神はさ、いつだって俺達を楽しませるために発揮してくれてたじゃんか!」
俺の言葉に答えてくれる輝。
ああそうだ、俺はいつだって誰かを笑わせていたかった、自分の体張って、心の底から笑顔でいて欲しかった。
だから、俺は
「ああ、俺は本当は、お笑い芸人になりたかったんだああ!!」
やっと言えた自分の夢。
だけど、ホントに悪いな輝。
俺はもうここまでだわ…。
「だったら飛べよ、ケンチョとやら!」
諦める俺にそう告げたのは、啓斗だった。
アイツはビルの縁に立ち、大きく両手を広げている。
「そこまでして本音を語ったんだ。今さら諦めるくらいなら、俺達を信じて飛べ! 安心しろ、何があっても俺が受け止める!」
「……なんで、会った事もねえ俺にそこまでしてくれんだよ…赤の他人じゃねえか」
「人間なんざ、突き詰めりゃ全員赤の他人だ。それに、お前の為じゃなく、ここでそこまで言ったお前を見捨てのは後味が悪すぎる。だけど、俺にしてやれるのはこれが精一杯、お前の一歩はお前が踏み出すしかねえんだぞ!」
「おおそうだ! 飛べケンチョ! なりたいものがちゃんとあるなら、そんな会社さっさと辞めて、今から目指せばいいじゃんか!」
「輝…」
「俺の教訓だ、友達のアドバイスは聞いとくもんだぜ。芸人なら面白おかしく、そこから飛んでみやがれ!」
俺は二人に言われ、大きく助走をつける。
同時に俺の後ろからはゾンビが迫ってきたが、もう関係ない!
俺は、何が何でもお笑い芸人になるんだああああ!!
「おおおおおおおおおおお!!」
俺は飛び出すと同時に着ていたものの全てを脱ぎ捨てた。
「ぶ、ぶははははははははははは!!」
「そこまでするか、普通…?」
笑って俺を迎えようとする二人。
だが、俺の体はビルに着く前に落下し始めた。
うっそだろ……この状況で普通死ぬのかよ…!?
俺はそう覚悟したが、その前に何かに抱きかかえられた。
その正体は、俺に勢いよく啖呵を切った啓斗だ。
「中々にいい覚悟だったぜ」
「……へへへ、どうよ。言われた通り、お前らを信じたぜ。……ん、ておい待てこのまま行くと俺達」
俺をキャッチするために飛んだ啓斗。
つまり、進行方向は俺達がさっきまで居たビルに向かう訳だ。
そこから分かる通り、俺の眼前にはゾンビどもが今か今かと待ち構えている。
「うおおおおおおっ!? 食われるーーー!!」
「……食われねえし、食わせねえよ」
俺にそう言うと、啓斗はビルの屋上よりも少し下を思いっきり蹴りつけた。
その勢いを利用し、俺は抱きかかえられたまま隣のビルに到着。
俺達を食おうとしたゾンビは崩れた瓦礫に巻き込まれて下に落下した。
「ふふふ、一石二鳥だな」
俺に笑いかける啓斗。
ホント、輝も無茶苦茶な人とつるんでんな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ケンチョこと、
と言っても飲んでいるのは輝と憲一朗だけで、俺はほとんど水だがな。
「しっかし、最後の時はマジで助かりました。ありがとうございます啓斗さん」
「そう改まるな、啓斗でいいよ。それにお前に会いに行くのを決めたのは輝だ。礼なら輝に言いな」
「いやいや、そもそもケンチョに連絡とる決心をくれたのは啓斗さんだったじゃないですか」
お互いを褒めあう俺達の晩酌は、本当に朝方まで続いた。
「つーか、あの人間離れした身体能力はなんなんだよ。せっかくだし、ちょっとくらい教えてくれもいいじゃん」
「あー、それ俺も聞きたかった! 何か秘密とかあるんですか、実は極秘のエージェントだったとか!?」
その途中、俺の事を二人から聞かれた。
うーん、呪力云々は教えても意味がないしな。
「なあに、ただただ毎日の筋トレを欠かさなかっただけだよ。俺はただのフリーターだった」
俺は二人にそう告げるのだった。
試作的にほぼケンチョの視点で進めてみましたが、やっぱり原作キャラの心境を自分なりに解釈するのは難しいですね
爆発的に感想が多くなり返せていませんが、様々なご意見なども頂きながら温かいお言葉に感謝しております