チートも貰えずに地球の頃の肉体で異世界に転移してしまった日本人が過酷な世界で必死に生き延びる話 作:山田さぶなかたろう
是非読んでいってください。
「おらっ! くらえ!」
片手で力強く握った鉄の剣をスライムに向かって振り下ろす。
しかし、力を込めすぎたのか単調な動きになってしまった鉄の剣はスライムにヌルッと避けられてしまった。
さらに剣を力いっぱい振った反動で動けない所を、スライムが突進してくる。
「いっ!!!! っってぇ……!」
咄嗟の事だったので盾ではなく剣を握っていた右腕側を正面にしてしまったせいで、体の右側にスライムが勢いよくぶつかってしまう。
思わず剣を落としてしまいそうになる程の鈍い痛みを歯を食いしばって堪え、腰に挿したポーションに伸びそうになる手を抑え、今度こそ憎き宿敵を討たんとスライムを正面に捉え、武器を構えて腰を落とす。
しばらくしてもう一度スライムが突進してきたのを見て、今度は全身に力を込めて、体を固くする。
盾を体の正面に構え、突進の衝撃に耐える準備をする。
この時剣を握ったままだと反動で剣が自分に飛んでくる可能性があるので、念の為邪魔にならないように足元に落としておく。
左手で盾の持ち手をしっかりと握り、右手は左手を支えるように添える。
そして盾を構えた直後、スライムが盾にぶつかり、凄まじい衝撃が腕を伝わって全身に走る。
盾の持ち手が訴える鈍痛を必死に堪えて、押される力が弱くなったと感じた瞬間、盾を思いっきり押し出してスライムをはじき返す。
ブルースライムは打撃に弱いので、盾で叩くだけで体がよろけたように動きが鈍くなるという性質がある。
スライムが動けなくなるその瞬間を狙い、足元に置いてある剣を素早く拾い、スライムに駆け寄る。
「今度こそっ……くたばれ!!」
先程と同様に。いや、盾を捨てて両手で振り下ろす分、先程より強めに剣をスライムに叩きつける。
今回はスライムの体にしっかりと剣が当たり、しかも運良く核に当たったのかスライムの体が派手に弾け飛び、散った破片たちが少しの痙攣の後、ついに動きを停止する。
そして淡い光を放ってスライムの残骸がその場から消える。
スライムがいた場所をよく見ると、ちょうどスライムの核があった所に小指の第1関節程の大きさの透明度の低い鈍い色の石が残されていた。
しかし、そのドロップ品には目もくれず俺は腰に挿してあったポーションをつかみ取って、わずかに残っていた中身を一気飲みする。
全身を蝕み続けていた鈍痛が徐々に引き、スライムの突進によって負傷していた右腕の痛みが次第に消えて行く。
……はー全く。ポーションを考えたやつは天才だな。マジ感謝。
と、そんなどうでもいい事を考えながら、一滴すら惜しいので何度もポーションを縦に振った後、名残惜しそうにようやくポーションを口から離し、ポーションが入っていた瓶を握りしめたまま脱力する。
マジ疲れた。
スライムにはいくつか種類があるが、その中でも先程まで対峙していた「ブルースライム」は、数多くいるモンスターの中で最弱の中の最弱である。
その弱さの指標として具体的な例を出すなら、この世界の小学3年生くらいの子供が、適当にそこら辺で拾った木の棒を持ってブルースライムと出会わしたとしたとしても、その木の棒すら使わずに踏みつけて勝てるくらいの弱さだ。
が、しかし俺はその程度のモンスター相手にあの大立ち回りを繰り広げている現状。
もう分かると思うが、はっきりいって俺は弱い。
ビックリするほど弱い。
あまりの自分の弱さに、次第に怒りが込み上げてくる。
怒りで握っていたポーションの瓶をダンジョンの地面に叩きつけようと腕を振り上げ……、
今握っている瓶の値段を考えて、腕を下ろす。
基本的にポーションの瓶は使い回すものでは無いが、俺は金がないので使い回している。
瓶を持参するといつもの値段の半分でポーションを買える。ライフハックだ。
使い回すのは衛生面の観点で言えば非常に不潔だし、ポーションの質、すなわち回復力が落ちるためギルドからは全くと言うほど推奨されていない。が、だからと言って毎回買い換えられるほど俺はブルジョワジーでは無いのだ。
ついでにポーションの値段の話もしておこう。
ポーションの値段は、さっき倒したブルースライムが約30匹分必要になる。
と言っても、高いか安いかと言われると、ポーションの値段は一般的には「格安」とされており、街で最もグレードの低い安宿に泊まるにはポーション5本分のお金が必要なのだが。
それを気軽に買えない俺の収入って一体……。
ポーションの瓶を腰に巻いたホルスターに割れないように慎重に戻し、剣を鞘に入れ、落ちていた盾を拾って腰につけた金具で固定する。
そしてようやくブルースライムからドロップしたブルースライムの魔石を拾い、背中に背負っていたバッグに放り込む。
これで現在の収穫はブルースライム五匹分。
ダンジョンに入ってから一時間分の成果だ。
正直に言おう。
ブルースライムだけを狩って生活するのは不可能である。
先程胃に流し込んだ激安ポーションの値段は、日本円で言えば「100円」だ。
ブルースライムの魔石の売値はその約33分の1、およそ三円になる。
数匹、いや数百匹倒したところで子供の小遣いにすらならない。
それを俺は、一時間に五匹しか倒せていない。
時給15円。あぁなんて悲しい響きなんだ。
当然こんなに討伐数が少ないのには理由がある。
俺が壊滅的に弱いからだ。
ブルースライムは全モンスターの中で言わずと知れた最弱モンスターなので、基本的に五〜六匹程の群れを作ってそこら辺でぐでっとしてる。
大して俺は最弱モンスターであるブルースライムですら五匹も集まるとボコボコのボコにされるので、一匹ずつしか相手にできない。
なので、大きめの群れを見つけたら基本無視するしかない。勝てないから。
アイツらの主食は壁の隙間に潜む虫とかなので、自分から襲わなければ人間には無害だ。
しかし襲いかかってきた生物には非常に好戦的になり、たっぷりと水分を蓄えた、そのぶよぶよぐにぐにの肉……水体?の全身を使って思いっきり突進してくる。
これがまぁ痛い。伝わらないと思うが、だいたい米が入った一キロの袋が飛んできてると思ってもらって構わない。
俺が戦うのは運よく三匹くらいの群れになっているやつの、更に少し離れてぐでっとしているブルースライムを狙って誘き寄せて戦う。
誘き寄せる方法は簡単で、そこら辺に落ちてる石を当てるだけだ。
上手く行けば一匹だけ襲いかかってくるし、運が悪ければ他のブルースライムが「自分に攻撃された」と勘違いして一緒に襲ってくる時もある。
そういう時は逃げる。恥も外聞も投げ捨てて必死に逃げる。
二体以上はマジで無理。
そんなこんなでおっかなびっくり慎重に慎重を重ねて戦った結果。平均日給120円というなんとももにょもにょする収入で生きる羽目になっている。
後悔はある。いや、後悔しかない。
そもそも俺がなんでこんな生活を送っているのかと言うところから説明しよう。
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ある日、俺は喧騒の中で目が覚めた。
そこは大きな噴水が真ん中にある広場で、この街のメインストリートを繋ぐ街の中心でもあった。
その広場には多くの露店が軒を連ねており、夥しい数の人々が行き交う未知の光景だった。
俺はそんな景色は今まで住んでいた地域で一回も見た事がなく、どこまでも異様な光景だった。
それはまるでテレビで見た海外の市場のよう。
現実離れしたその光景を更に際立たせるのが、道行く人々の格好だった。
その通行人たちは、まるで戦に向かう武士のように、戦場で戦う兵士のように、皆それぞれが武装していた。
剣や杖を持った人々、重そうな甲冑を身にまとい、それを重さも感じさせず軽々と歩く人。ローブを身にまとい全身を隠すもの、身の丈ほどある大剣を背負って歩く巨漢。
それら全てが現実で見た事がないもので埋め尽くされた、まるでファンタジーな世界だった。
その後、なんやかんやあって俺は冒険者になった。
ついでに言うと、俺は転生者だった。
日本人なのでもちろんサブカルチャーには造詣が深い。
当然異世界転生モノの概要も知っていた。というか好きなジャンルだったし、何度も「自分も異世界転生してみたい」と妄想したものだ。
そんな夢が叶ったと理解したその時は、とてつもなく喜んでいた記憶がある。
恐らく今まで生きてきていちばん大きな声で叫んだだろう。
しかし、ある問題が直面した。
よくある異世界転生モノである、チートを貰う儀式を行っていないことに気づいた。
更に追い打ちをかけるように、ステータスを開こうとしても、何も出ない。
思いつく限りの方法を試したが、全て失敗した。
諦めきれなかった俺は、「身体能力が上がってるかもしれない!」と自分に言い聞かせ、街に勝手に生えてくる最も簡単なダンジョンへと潜り込み、この世界で最も弱いモンスターとされているブルースライムと対峙して、
あっけなくボコボコにされて生死の境をさまよった挙句、通りがかった近所のガキンチョにギルドに運んでもらった。
ちなみにブルースライムは人を食べない。
なんか……聞いてた話と違う。俺が知ってる異世界転生モノと。
その瞬間に悟った。
「俺、チートないじゃん」
チートもなしに、身体能力も地球の頃のままで、異世界に着の身着のままで飛ばされたという現実を理解した瞬間。
華々しい異世界転生への幻想は見事に崩れ去った。
もうちょっとだけ続きます。