チートも貰えずに地球の頃の肉体で異世界に転移してしまった日本人が過酷な世界で必死に生き延びる話   作:山田さぶなかたろう

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設定垂れ流し。
こういうの考えてる時が一番楽しい。


第二話 冒険者も格差社会

 再び孤立したブルースライムを探してダンジョンを練り歩く。

 

 その間考えるのは、この先どう暮らしていくかという、夢も希望もない現実的な話だ。

 

 俺は今、毎戦闘に命を賭してブルースライムと対峙して必死にお金を稼いでいるが、実はお金を稼ぐ目的というのはあまり無い。

 

 当然食費や生活費を稼ぐためでもあるが、この世界の冒険者ってのは意外とお金が無くても、実は生きるだけなら生きていける。

 

 というのも、冒険者を支えるギルド、そのギルドの支援が分厚いからに他ならない。

 

 今俺は‪”‬木‪”‬等級という冒険者ランクに属している。

 

 木等級は下から数えて一番目、要するに駆け出し。最弱の証である。

 

 この木等級の冒険者には、ギルドの仮眠室を無料で借りられる権利と、朝と夜にギルドの食堂で無償で配給を貰える権利が与えられる。

 

 その代わり、一週間に最低でもブルースライム一体を倒すという、あってもなくても変わらないノルマが存在したりする。

 

 ノルマを満たせなかった場合は、全等級共通で等級がワンランク下がる。俺は木等級なので、下がったら冒険者資格剥奪だ。

 

 ちなみにノルマが達成出来ずに冒険者資格が無くなった場合に限り、再発行が許されるらしい。再発行のお金はかかるけどね。

 

 おっと、今「こんなにぬるいノルマでいいのか」と思ったことだろう。そう、皆さんがお考えの通り、こんなノルマでは冒険者育成支援を行う施設ではなく、ヒモを量産するヒモ製造施設だ。

 

 しかしこれにはしっかりと対策というか仕組みがあり、木等級より上の等級になればなるほど受けられる支援が良くなる。そしてそれと同時に冒険者がこなすべきノルマも増えるという仕組みになっている。

 

 木等級の一個上の石等級のノルマは、一週間でブルースライム1000匹分の収入を得ることだ。

 

 石等級のノルマを満たせると判断された人は木等級から強制的に卒業させられ、石等級に繰り上げられる。

 

 つまりヒモはヒモでも、本当にどうしようもない選ばれしヒモだけが木等級でヒモになれるのだ。

 

 正直に言って石と木の支援の差はまさに雲泥の差なので、好き好んで木のままでヒモになるやつはこの世界には存在しないが。

 

 そして、実は木等級になってから石等級になるまでの平均卒業時間は約一分と言われている。誰も調べてないので俺調べだ。

 

 というのも、今までの冒険者はギルドで冒険者登録をした時点で石等級以上の能力があると認められた人しか居なかったので、木等級である時間は一瞬だけだったのだ。

 

 形式上一番下の等級から繰り上がるというシステムを成立させるためだけにある、まさに書類上の幻の等級が木等級なのだ。

 

 幻の等級ってかっこいいね。ここで言う幻は全くいい意味じゃないんだけどね。

 

 さて、散々こきおろしてきた木等級だが、もう一度言うが俺は木等級である。

 

 冒険者になってもう一年以上は経つ。

 

 恐らく木等級史上最長期間記録を持つ名誉木等級だと思われる。誇っていいと思う。多分前代未聞だし。

 

 何の話だっけ。ああ、そうそう。

 

 つまり冒険者であれば基本的に飯には困らん。って言っても木等級で配布される給食は味のない温かいスープと硬いパンだけで、一度も美味しいと感じたことは無いし、最低限生き延びるためだけのものしか与えられない。

 

 木等級なんだからしかたないね。

 

 しかし生きられはするので、余程切羽詰まらない限りは俺は食費にお金をかける必要が無いのだ。

 

 いや、まあ正直こんな食生活だと心が死ぬのでひと月に1回適当な飯屋に入って定食を頼むんだが。

 

 毎月決まった時期に、店内最低金額の「店主の食べれるもんなら食べてみろ日替わり定食」を美味い美味いと泣きながら食べる変質者はこの街で密かに噂になっているとかいないとか。

 

 では、食費にお金をかけないとなると、いったい何にお金をかけるのか。

 

 まずはアイテムだ。

 

 冒険者は自分の身は自分で守らなくてはいけないため、ダンジョンに潜る際は万全の準備を行ってから潜るのが一般的。というより「舐めてかかると普通に死ぬから死ぬ気で行けよ」って話だ。

 

 なので、アイテムはちょー重要。金がかかっても必要経費としてしっかり揃えるのは冒険者として最低限の常識だ。

 

 では実際どういうアイテムを買うか。

 

 まずはポーションだろう。

 

 ポーションは怪我を負ってもすぐさま回復してくれる最高のアイテムだ。

 

 ヒールという回復魔法の効果を誰でも受けられるように、ということで開発されたと一説では言われている。

 

 そのポーションの中でも最も低い等級である10級ポーションは、ヒールの効果を再現したと言われる7等級のおよそ8分の1程度の効果量らしい。

 

 随分と希釈されたなぁ。と思うが、それでも効果は絶大だ。

 

 日常生活で負う傷や負傷は全て10等級で直せる。切り傷だろうと後遺症も副作用もなく綺麗に元通りだ。

 

 そして俺は日常生活で負うような傷しか与えられないブルースライムとしか戦ってないので、10等級で十分だ。

 

 一般的なご家庭には数十本の10等級ポーションと、もしものための数本の9等級ポーションが備えてあるというのはこの世界の常識だ。

 

 ちなみにポーションには消費期限があるので頻繁に買い換える必要がある。10等級ポーションなら一年間有効で、それ以上になると徐々に効果が薄くなり、二年経つと効果が全く無いただの水になる。

 

 ついでに、等級ごとに消費期限が決まっており、等級が上がれば上がるほど効果は長持ちするので、9等以上はそうそう消費期限が切れることは無い。

 

 話が逸れたが、つまりは「普段負う傷を必要最低限癒せる程度の回復量」として定められた10等級ポーションの回復力は、弱いと言ってもちゃんとした理由があり、当然世界でいちばん普及しているポーションなのだ。

 

 俺の冒険スタイルでは、ポーション代は一週間の稼ぎの約半分を持っていく。

 

 正直な話、毎戦闘毎戦闘ダメージを負う度に飲みたいくらい痛みがキツイのだが、スライム一体と戦う毎に飲んでたら秒で破産してしまう。

 

 なので使用頻度を抑える気持ちはあるが、精神的に辛くなりそうになったら直ぐにポーションを飲むので、必然と使用頻度は高くなり結果として結構な出費となっている。

 

 さて、収入の半分はポーションに消えることはわかったが、残りはどうするか……というと、今は貯金している。

 

 今の所、その他のアイテムを買う予定は特にない。

 

 ドロップ品を入れるカバンは一度買えば壊れるまで使い放題。

 

 腰に巻いてるポーションを入れるホルスターや盾を留める金具は、なんとギルドから配布されたもの。

 

 冒険者登録時の初回限定配布品なので、絶対に壊さないように細心の注意を払って扱っている。結構年季が入ってきたのでもうすぐ壊れそうではあるんだが。

 

 その他、冒険者にとって最重要アイテムである「帰還の魔石」は、最低品質のものをギルドから配布されているので、無くすまでは再度買い直す必要は無い。

 

 帰還の魔石とは、ダンジョンからギルドへ一瞬で戻れる魔道具である。

 

 品質によってクールタイムが決められ、最低品質の「帰還の魔石」は、一週間に一回だけ使える。何個持ってても意味はない。

 

 というわけで、俺が普段から買い足しているアイテムは、ポーションだけとなる。

 

 その他に誰でも思いつく使い道として、「防具を買えばスライムと戦いやすくなる」だとか「もっと威力の高い武器を買ってスライムを効率よく倒せるようにする」だとか色々と考えられるが、未だ購入するには至っていない。

 

 というのも、俺にはチートも何も無いので当然防具の防御力=重量になる。

そもそも軽くて丈夫な防具は大抵モンスターのドロップ品で作るオーダーメイドの装備だったりするので、金額的に全く手が出せない。生地の一部の1センチ四方分すら買えない。

 

 そして重量が増えればその分機動力が落ち、移動するだけで余計な体力を消耗し、一日に動ける距離も減る。

 

 受けるダメージが減って安定して倒せるようになることより、装備を軽くして動きやすくして、体力の許す限り沢山距離を稼いでとにかく一体でも多く狩った方が結果的に効率が良くなるのだ。

 

 だから防具は保留中。今の装備が壊れたら買うだろうけど。

 

 続いて武器だが、これはもはや言い訳にしか過ぎないが、どれだけ武器が良くても効率は今と変わらないだろうと思われる。

 

 何故なのか、簡単だ。俺の剣の扱いがあまりにも下手だからだ。

 

 そもそも今使っている鉄剣だって、上手く核に当てさえすれば一撃で倒せるのだ。

 

 つまりこれより良い武器にしても一撃で倒せることは変わらなく、むしろオーバーキルである。

 ブルースライムだけで生計を立てると仮定するならば、俺自身の剣を扱う技量を上げ、上手く核に当てられるようにする以外にこれ以上効率よく倒せるようになる手段は無いと言っていい。

 

 おそらくハンマーとかなら核を狙わずに一撃で倒せるだろうが……皆さんご存知の通りハンマーはクソ重い。

 

 あんなん持って走ったら一分経たずに呼吸困難になるし、移動中に手で持つ訳にも行かないので背中に背負う訳だが、数歩で重みで潰されてゲームオーバーだ。

 

 というわけでハンマーは無し。結果的に最低限使える鉄剣が最適になる。

 

 最初の頃なんて鉄剣の重さにすら耐えられなくて練習用の木の剣を使って戦ってたぐらいだ。

 

 でも、いくら叩いてもブルースライムの核まで刃が入らず千日手になった(俺はダメージを受けるのでいつか負ける)ので、泣く泣く木の剣を卒業して鉄の剣をひいこらひいこら言いながら使っているのである。

 

 というわけで、武器の新調もお預け中だ。わがままばかりですまん。

 

 その他に槍玉に挙げられる特殊なアイテムとして「魔道具」がある。

 

 それぞれの魔道具が冒険者に有用な効果があり、それら全てが総じて探索に役に立つ。

 

 ただし、より役に立つものほど値段が爆発的に高くなり、誰でも知ってるような有名な魔道具は国家が国宝として保管しているレベルになる。

もちろん非売品である。

 

 魔道具自体は買えれば非常に有用だが、そもそも出回ってる数が少なく、たまに耳にする「オークション」で競り落とした魔道具の噂を聞けば、全部が全部目が飛び出るほどの値段だった。

 

 俺からしたら大抵の商品が目が飛び出る程高いので信用ならないと思うが、とにかく俺程度じゃ一生どころか何生かかっても手に入らないほど高いやつばっかなのだ。

 

 なので魔道具は眼中にすらない。

 

 いや、魔道具の方から眼中にされていない。

 

 よって、現状は欲しいものが見つかるまでお金はギルドに預けて保管している。

 

 ……とは言ったものの、一度だけ衝動買いで「魔道具」を買ったことがある。

 

 だがそれも無理は無い。

 

 だってめちゃくちゃ安かったんだもん。

 

 いつもの日課で通ってる露店巡りで、すっげー怪しげなお店があり、そこで売ってたポーションがなんと「3等級」。

 

 のちのち知ったが「死ぬ以外はありとあらゆる傷を癒す」とか言われてる伝説級の激ヤバポーションだった。

 

 そのポーションを見つけた俺は珍しさのあまり、普段は内に秘めていた蒐集欲が目覚め、手持ちにあったお金と、足りなかったのでついでに持ってた剣と盾を売ってなんとか手に入れたのだ。

 

 いやー、ゲームでの癖が抜けてないね。だって露店だよ?露店って、言わば「価格と品が完全乱数で決まるシステムの、毎日ラインナップが変わるショップ」なわけ。

 

 そこで見つけた「恐らくエンドコンテンツでしか手に入らないであろうクソレアアイテム」が「初心者の収入でギリ買える値段で売ってた」ら、ゲーマーならとりあえず買うだろ?

 

 後で稼ぎ直せばいいやってなるよね。俺もその時はそう思って咄嗟に買った。

 

 その怪しげな露店の店主は大きなフードを被って顔を隠しており、表情は全く読み取れなかったが置いてるものが全て見たことない魔道具ばかりだったので、恐らく無許可で露店を出している違法な露店だったのだろうと思われる。

 

 露店を開くには、商業ギルドにお店の場所を知らせるのと、売上の一部を商業ギルドに支払わなければならないので、そのお金を渋ったのだ。

 

 非常にがめつい奴だが、まぁそういうやつは結構いる。毎日数十人くらいそうやって違法で露店を出して、次の日には商業ギルドに見つかって店を畳むのだ。

 

 つまり今日を逃せば次会えるチャンスは二度とない。

 

 なので買った。買って損したなんて今でも思ってない。最高の買い物をしたと言い切れる。

 

 そんなこんなで手に入れた伝説級ポーションだが、なんとこのポーションの瓶には【不壊】のエンチャントがかかっており、どれだけ衝撃を加えても壊れないという性質がある。

 

 なので非常用の盾として、そしてもしもの時に使う最終回復手段としてダンジョンに行く時は必ず携帯するようにしている。

 

 俺の唯一と言ってもいい財産だ。




まだまだ続きます。
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