チートも貰えずに地球の頃の肉体で異世界に転移してしまった日本人が過酷な世界で必死に生き延びる話 作:山田さぶなかたろう
ふいーつかれたー!
俺は銀等級の女の子(名前はエリシアと言うらしい)をギルドに届けたあと、床にぶちまけたドロップ品等を拾うことを忘れていて今日の収入がゼロになったのをさっき知った。
元々30円行くかどうかだったから変わらないだろうという話では無い。「収入なし」という言葉が俺の中の小さな小さなプライドをズタズタに引き裂くのだ。
まるで俺が冒険者ギルドのヒモみたいじゃないか!
『みたい、ではなく紛れもないヒモですよ』
「あれ?声に出てた」
『めっちゃ出てました』
「マジか、気をつけよ」
ソロで活動することが多いと普段から独り言が多くなるらしい。一般的な通説として確認のためという説もある。
『しかし、良かったのですか?あなたが助けたってギルドに言わなくて』
「信じて貰えると思う……? 俺、誇るわけじゃないけど木等級だよ?」
『それはなによりも説得力がありますね。私だったら卑劣な方法で誘拐しようとしたクズだと判断します』
「とても心をえぐられる言い方。 でもなぁ。万年木等級が死ぬ寸前の銀等級をたまたま持ってた3等級ポーションで助けたなんて話、当事者でもにわかに信じられねぇもん」
『話盛りすぎでキモイですね』
「ねぇ、ちょくちょく毒が出るのはなんなの? 俺泣くよ?」
『お好きにどうぞ。 わたしは今非常に不機嫌なので』
「え、俺なんかした? マジで覚えてないんだけど絶対謝った方がいい気がする。 マジでごめんなさい」
『……別に、私の都合です。気にしないでください』
「確実に俺に非があると思うから気になるんだよなぁ。 でも俺にはどうしようもないって言われたら諦めざるを得ん」
『そうですね……もう取り返しがつかないので気にするだけ無駄です。世間一般からみたら貴方はとても正しい行動をしたのは紛れもない事実です。ただ、私の心情だけが否定しているだけなので』
「よく分からんけど大変だったんだなぁ……」
『全部あなたのせいですが』
「マジすみませんでした」
『謝罪の意を感じられませんね。とりあえず謝れば許してもらえるとでも思ってるんですか? そもそも何に対して謝っているんです?』
「いや、迷惑かけたなぁって。君3等級ポーションなんだろ? 随分と失礼なことした覚えあるし」
『別に……そこはどうでもいいのですが』
「そう? 一緒に風呂入ったり一緒に寝たりしたのに?」
『っ! き、気にしてません。 あなたに対して特別な感情を持っている訳では無いので、何も感じませんでしたよ? ええ。本当に』
「気にしてないなら良かった。相棒に変質者って呼ばれたら立ち直れなかったから」
『また相棒って……んん! 私は特に気にしてないのであなたも気にしなくていいのです。それよりも、もっと建設的な話をしましょう』
「建設的な話って? 今日の収入がないから明日の毎月恒例定食ご褒美が無くなるって話?」
『その話はどうでもいいです。勝手にしてください。私が言いたいのは、これからどうするかです』
「どうでも良くはないんだよなぁ。 って、「これからどうするか?」 どうもこうも、今まで通りにダンジョンに潜る気だけど……剣と盾も買い直せばいいだけだしね」
『貴方は、今のままで満足ですか?』
「……何が言いたいの」
『冒険者として過去最低とまで言われるほどの弱さで、一年間いくら鍛えてもモンスターを倒しても成長の見込みがなく、そこまでしてまだ木等級のままで冒険者を続ける気かと聞いているんです』
「……そりゃ、俺だって今の状況は脱したいよ。 でも……」
『でも、なんですか? 貴方は言い訳ができるような立場なんですか? 貴方は胸を張って「できる限りの全ての可能性を試した」と言えるんですか? そう思っているのであれば、私は貴方を軽蔑しますね。失望です。ブルースライムに押しつぶされて勝手に野垂れ死んでください』
「……辛辣だなぁ」
『事実を言ったまでです。 では再度聞きますが、貴方はここまで言われて、まだ冒険者を続ける気ですか?』
「……」
『……返答が無いようであれば』
「続けるよ」
『……そうですか。私の忠告には耳も貸さず、これからも苦しみ続けると言うわけですね。あなたの考えは充分伝わりました。じゃあもう勝手にしてください』
「ごめん、サンちゃん。俺は冒険者が好きだ。危険を犯してでも自分の好奇心に従って自由に生きるその生き様にどうしようもないほど憧れてるんだ。今まで誰かに従って生きる生き方を何も考えずに選択してきた俺にとって、彼らは、俺の憧れなんだ」
『そう、ですか。』
「だから、一つだけお願いしたい」
『いやです』
「ちょ、聞くぐらいはして欲しいんだけど」
『はぁ、どれだけ長く一緒にいると思ってるんですか。どうせ「俺を鍛えてくれ!」とかでしょう?』
「さすがサンちゃん! 俺が言おうとしてること一言一句当ててきたね」
『その……サンちゃんとは?』
「え、3等級ポーションのサンちゃんだけど。他に名前あったの?」
『ないですけど……せめてもっとマシな名前にできないんですか?』
「マシな……って言われてもなあ」
『確かに名前が無いのは不便ではありますね。では今後は「ネレ」と呼んでください』
「ん? それはどこから出てきたの?いい名前だと思うけど」
『私の生みの親である魔術師の名前から拝借しました。 いい名前なのは間違いないでしょう』
「へぇ、そりゃ作成者だっているか。凄い人なんでしょ? 歴史に名前残ってたりとかするの?」
『いえ、私を生み出した結果、自分を呪って自害しました』
「えっ!? マジか」
『マジです。 ちなみにこの事実は世間には公開されていないので貴方が初ですよ』
「普通に超歴史的価値のある情報をありがとう。これで過激な歴史家とかに狙われたら浮かばれないな……俺」
『貴方が著名な歴史家に名を知られる確率を考えるくらいなら、まだ隕石が降ってくる瞬間を肉眼で見るまで待つ方が有意義です』
「詩的だね。10割貶してるけど」
実質俺専用の個室になりかけてるギルドの仮眠室でごろごろとしながら、3等級ポーションこと「ネレ」と駄弁る。
あれから帰ってきてすぐ銀等級の娘をギルドに渡して、何が起きたかの事情聴取をされた。
と言っても当たり障りのない内容だ。
『ダンジョンで迷って、取り敢えず一方向に進んでたら突然地震が起きて、わけも分からず走ってたらこの子が倒れていた』という。ある意味真実でもある嘘の状況説明をかました。
それを聞いたギルドの職員が「こんなに綺麗(体に傷がひとつもついてないという意味)なのに、なぜ銀等級が第一層で倒れていたんだ?」と、至極当然の疑問を問いかける。
それに対して「さぁ? 出られなくなったから朝まで寝てたんじゃないですか?」と惚けたら「(それはお前だけだろ……)」という呆れた顔をされた。
「もういい、とにかくご苦労だったな。 では討伐報告でも聞こうか」
「あ……すみません、今日なしです。」
「……は? 一匹も倒してないのか? ブルースライムを? どうやって?」
大袈裟に手を広げて最大限の疑問を体で表現する。顔ウザイな。
「いや、倒せたには倒せたんですけど……途中で落としちゃって……」
そう、あの時だ。3等級ポーションを出す時にアイテムを入れたバッグをひっくり返したときに、全てダンジョンの床に落ちたのだ。
それを拾うことを忘れて、銀等級の娘だけお持ち帰りしたのだ。
いちばん簡単なダンジョンのそのまた第一層で、ブルースライムを数匹狩ることしか出来ない実力のくせに、その日の収入源の魔石を全て落とした挙句剣も防具もダンジョンに置いてきたと。
「(ダメだこいつ……)」
ギルド職員がさらに呆れた顔をする。
「いや本当に自分が悪かったのですみませんその顔やめてくださいちょっとトラウマが……」
日本人は「マジで使えないなこいつ」という目線に敏感なのだ。それきらい。
「……はぁ。 もういい、いけ。なんか事情聴取するのも不憫になってきた」
「いつもご迷惑をおかけします。 では僕はこれで……」
こんな感じに無難に切り抜けてきたのだ。
ギルド職員。意外とチョロい説。
回想終了。さて、ネレとおしゃべりの続きでもしようか。
「こっからどうすんだろうね。なんで銀等級の実力の冒険者があそこまで死に体になっていたのかもまだ謎だし、多分銀等級の娘は事情知ってるだろうから明日から一時封鎖かな。 ちなみにダンジョンの内部構造が変わってもダンジョン内のモンスターは変わらないっぽいんだよね。ネームドとかの固有モンスターもそのままだよ」
『そうですね……って言いたかったんですが。貴方のそのたまに出る説明口調はなんなんですか? ダンジョンでもいきなり喋り始めたりしてちょっと恐怖を覚えてるんですけど』
「配慮だよ」
『誰へのですか』
特に誰宛とかはない。 ほら、プログラマーって人形に自分の書いたコードの説明したらエラーが発見しやすくなるとか言うじゃん。
多分そういうのだよ。
「しばらく休暇になるのかな。 って言ってもなによりも銀等級の娘が起きるの待ちだね。 早く起きないかなー」
『貴方はそんなことより筋トレでもしたらどうですか? せっかく降って沸いたトレーニング期間を有効活用しましょう。 大丈夫です。3等級ポーションこと私ネレがついています』
「そうだなぁ。 今までは知識がないからって言って言い訳かましてたけど、今はネレがいるからアリなのか……是非お願いしていい?」
『ふふっ、素直なのはいいことです。お任せ下さい。 一週間後にはオーガも萎縮するモリモリマッチョマンにしてあげますとも!』
「いや表現古いな。あとオーガの平均身長三メートルあるし。それはもはやバケモノだろ」
ということで筋トレすることになりました。
次回はネレちゃんのお話です。