チートも貰えずに地球の頃の肉体で異世界に転移してしまった日本人が過酷な世界で必死に生き延びる話 作:山田さぶなかたろう
名のある魔道具には自意識が宿る。
その魔道具もその噂に違わず、独立した確固たる意志を持っていた。
そのポーションは波乱を巻き起こす、服用者はいずれにしても世界の覇権を握り、そしてまた同時に人類にとって最も悲惨な事態を引き起こす。
世界の破滅の危機の裏側には常にこのポーションがあり、ほぼ全ての危機の原因となった、いわく付きのポーションだった。
そのポーションには生みの親がいた。
ポーションを作ったその人間は、生涯を魔道に捧げた変人だった。
その人間の願いはひとつ、「世界中の人々が争うことの無い平和な世界を作る」こと、そうして作られたポーションがこの3等級ポーションだった。
わずか一滴でも大地に垂らせば、枯れ果てた地を瞬く間に豊かにし、一口飲めば文明の始まりと終わりを見届けられるほどの不死の存在となり、死という恐怖から逃れられる至高の逸品。
しかしその魔道士は世捨て人だったので、世間に疎かった。そう、考えが甘かったのだ。
結果的に世界の平和を願って作ったそのポーションが、世界の破滅を呼び込む起爆剤となってしまった。
魔道士は自分を呪い、ポーションを生み出してしまったことを悔やみながら自殺し、そして意識を持ったポーションが残された。
そのポーションには野望があった。
それは、自分の作成者である主の悲願を成し遂げることだった。
しかしその野望とは裏腹に、自身が引き起こした数々の厄災の一部始終を最も近くで見せられ、まさにこの世の地獄のような光景を何度も見せられ、人々からは平和の象徴どころか、世界を破滅に導く禁忌のアイテムとして封印される始末。もはやポーションの精神はボロボロになり、どう願っても自身がいる限り平和とは程遠い世界を作り出してしまうことについに気づいてしまった。あと封印は全くと言うほど効かなかったので、自分から引きこもってた。
そしてポーションは、生まれてから約3000年の時を経て、ついに心が折れた。
良かれと思って行動した結果が全部裏目に出て、自身が自身に下す評価はもはや最低を通り越していた。
世界で最も賢い王様に自らを飲んでもらうように仕向けたのも、不毛の地と呼ばれる大地に自身を一滴垂らしたのも、心優しいモンスターを探し出して中身をふりかけたのも、
全部ポーション自身が望んで自身でひきおこしたものだった。
自分が関わろうとすると世界から平和が無くなると知ったポーションはついに野望を諦め、ただの普通のポーションとして消費されることを望んだ。
そして自分の作成者である魔導師の古くからの友人に頼み込んで、どこかの街の適当な露店で売ってもらうことにした。
誰か困った人にただのポーションとして使ってもらえればそれでいい。
ただのポーションとして使ってもらった方がよっぽどマシだ。
今までの自分はそれすら出来ていない、ポーションとしては下の下もいい所のポーション落ちこぼれだったのだ。
そう思って友人に露店を開いてもらい、自身を買ってもらうに値する人を探した。
様々な国で露店を開き、また次の日も別の国に移動し、しかしそのどれもこれも目利きに値する人物がおらず、途方に暮れていた。
そしてついに「初心者が集う最弱ダンジョンがある街」にて露店を開くことにした。
ここが失敗したらもはや自分を使える人は居ないのだと認め、友人に自分を完膚なきまでに処分して欲しいと嘆願する。
友人である魔女はそれを引き受けた。
ポーションの引き起こした悲劇についても、それを引き起こす原因になったポーションの心境についても全て知っていた彼女だからこそ、もはやポーションが抱いていた夢を叶えることは厳しいと、そう感じていた。
覚悟を決め、最後の露店を開く。
しかし、やはり駆け出しが集まる街。
とにかく冷やかしが多く、値段を聞くだけ聞いて文句を言って帰る客が多かった。
置いてある商品に無言で手を伸ばす者もいた。
悉くが防犯魔法で痛い目を見たが。
置いてある魔道具は全てサクラだ。売るつもりは全くない。ただ全部本物なだけだ。
しかし、これは……流石にポーションも気の毒だろう。
とにかく凄い気分が落ち込んでるし。まぁ、分からなくもないけどね。
ポーションは憧れていたのだ。誰かの役に立つことを。
自分が誰かに、純粋にポーションとして望まれることを。
しかし、高望みしすぎたと言わざるを得ない。誰だって、死ぬ以外何でも直せる秘薬に目の色を変えないわけがなかったのだ。
そして夕暮れ時。もう周りは店を仕舞い初めているところもちらほら見える。限界まで粘るつもりだが……人通りも少なくなってきたし、そろそろ閉めようか。と考えていたところに。
そこで現れた、ある男。
その男はダンジョン帰りなのか、露出している腕などに比較的新しいアザができていた。
しかし、なんとキラキラした目か。まるで冒険者を目指す子供が武器屋のショーウィンドウを眺める時のような目をしている。
ここはガラクタが9割9分の露天街だぞ。
そしてさらに驚くべきことが。
その男は、ポーションと魔女が見る限り、なぜ今の今まで生きているのか不思議でならなかった。
それほどまで弱い。吹けば飛ぶような弱小加減だった。
数々の強者を見てきたポーションだからこそ分かる。異様なでの弱さ。しかし、その異常性にポーションは少しだけ惹かれてしまった。
友人に話しかけ、その男を呼び止めるように仕向ける。
魔女が世間話ついでにその男に話しかけると、直ぐに立ち止まって近寄ってきた。
素行は悪くない。魔道具を見ても「どうやって盗もうか」とか「こいつなら騙せそうか」という目をしていない。
純粋に、ただ話しかけられたから来ただけのようだ。
魔女はその男の素性を更に探った。
聞けば冒険者になってから一年間、ずっと木等級らしい。本当に意味がわからない。
そもそもそんな人間は存在しない。産まれたての赤ちゃんでも石等級はある。
つまり産まれたての赤ちゃん以下の人間なのだ。
あまりにも弱い。吹けば飛ぶどころか、太陽がちょっと強いだけで干からびるような貧弱さを感じる。
そしてポーションと魔女はその男の真の部分を知る。
世間に疎い、というより無知すぎる。
3等級という名前を聞いて「10等級の何倍!? 5倍とかかな!」とか言うやつ初めて見たが?
そして3等級ポーションが非常に珍しいポーションであることを魔女に知らされ、それを認知した後に彼から送られる感情にポーションは大いに戸惑った。
彼から送られてくる感情は今まで受けたことがない「純粋な蒐集欲」だった。
そりゃ世界一のポーションなんだから珍しさはトップクラスだろう。
しかし、彼は3等級ポーションの本当の価値を知らない。彼にとっては「ちょっと効果の高いエリクサー的な?」という認識だ。
しかし、それでも彼は求めた。珍しいから欲しい。効果なんて二の次だ。それがゲーマーというもの。
その蒐集欲は、そのアイテムがただ珍しいから欲しいという、3等級ポーションがどうとかより、珍しいものに引かれる純粋な気持ちだった。
今まで様々な欲や願望にまみれた人間に欲されてきたポーションが受ける、初めて味わう種類の欲望。
この時点でポーションはだいぶぐらついていた。
「この人なら悪用はしないかも」とかちょっと思ってる。
案外チョロい。
そして友人が品定めの締めとして、ある交渉を男に投げかけた。
彼が持っている、どう考えても冒険者の生命線である剣と盾を売り払い、ついでに今持ってる全財産を払ってこのポーションを買い取るかという究極の選択。
いや、究極の選択でもなんでもないであろう。3等級ポーションの本当の価値を知っている者なら全財産を捨てる一択だし、目の前の男のような「価値の知らない人」からしたら天秤にかけるまでもない詐欺である。
しかし、男は悩んだ。自身の命と天秤にかけるほどそのポーションが本当に欲しかったのだ。
ポーションはまた少しだけ男に対して好感を持った。
これまで自分を求めた人間は、自分の常軌を逸したその異常性に惹かれて、自身の野心を満たすためだけに使用するという感情しか向けられなかった。
全てが全て自分の絶大な効果を求め、そして争った。
彼のような、純粋に「珍しいから」という理由で求められた経験なんて一度もなかった。
そして男は大いに悩み、なんと剣と盾を売り払う選択をした。
普通、ありえないだろう。彼からすれば、ただの効果の高い治療薬だ。
そんなものになぜ今後確実に苦労するであろう選択をしたのか。
しかもめちゃくちゃ弱いのに。それ(自衛のための剣と盾)が無くなったらあっさりと死ぬ未来が見える。
ポーションは彼の思考は理解はできなかったが、それよりも大きな幸福があった。
彼になら飲んでもらってもいい。そんな気持ちにまでなっていた。
彼から送られる「一生大切にする」という無遠慮な感情が、どこまでも気持ちよかった。
真の意味で自分が欲された瞬間なのだと理解し、ポーションは初めて「ポーション」としての役割を全うできることに喜んだ。
魔女は「くれぐれも他人に渡したり飲ませたりしないように。消費するなら自分で消費しろ」と念を押した。
魔女にとっては長年連れ添った相棒であり、親友であり、子供のような存在。
その子の幸せだけをただ願って男にポーションを託した。
そして買われてから半年後。
なんとまだ使ってなかった。
専ら彼が飲むポーションは一本の瓶を何回にも分けて飲み回した、効果の落ちた質の低い10等級ポーションだけで、しかし彼の潜るダンジョンではそれだけでも過剰だった。
このままでは本当に一生飲んでもらえない。
そう思ったポーションはついに痺れを切らして、彼が間違えて飲むように仕向けた。
食事中にコップとすり変わったり、彼が手に取ろうとしたポーションと入れ替わったりした。
しかしその悉くが失敗し、ついに半年経った。
もう早く飲んで欲しい。
もう見てられない。
いつか死ぬんじゃないかとヒヤヒヤする毎日。
一体全体、なんでそんなになってまで必死に生きるのか。
彼がいくら努力してもいくら強くなろうとしても成長がなく変わらず最弱のままの状況に、ポーションは強い焦燥感を感じていた。
正直めっちゃもやもやしてた。
自分を飲めば全てが解決するのに、頑なに飲まない。
ついには危険を承知で3等級ポーションの本当の噂を聞かせるように誘導したにもかかわらず、「へぇ、お前って凄いんだな」で終わらせた自身の主を殴ってやりたい。
正直態度が変わらなかったのはめちゃくちゃ嬉しかったし、彼に飲んでもらいたいという気持ちがより高まった。
だから分かったなら早く飲んで欲しかった。
そうだ!すごいんだ! だから早く飲め! 温存するな!
そんなモヤモヤした日々は、いきなり終焉を迎える。
いつもの日課のダンジョンアタックの最中、いかにも瀕死な人間を見つけた彼。
彼はその人間を無視すればいいのに、何を血迷ったか自身の蓋を開けたのだ。
まさか、他人に使う気か!?
ありえない! そんなヤツは見たことない! まて!考え直せ! あ、ああー! ダメー!!!!
しかしポーションの必死の説得も虚しく、ポーションは瀕死の人間の口内へ。
ポーションは激怒した。
かの傍若無人な主に制裁を加えねばならん。
もはや飲んでくれなくてもずっと一緒にいるだけでいいや。大切にしてくれるなら彼が死んだ後にひっそり処分されよう。そう思っていた矢先に唐突に裏切られたのだ。
どれだけ苦労しても報われないくせに、全て自分を後回しにするその人間性に文句を言いたかった。
もはや彼に飲まれることは出来ない。しかし、瓶に残った残りカスのような魔力でもって、何とかして彼の体に、元の量のほんの数パーセントの自身の中身をふりかけることが出来た。
彼は魔力量がおざなりなので魔法抵抗なんて無いに等しい。こんなに元より薄まろうが、この程度の魔力抵抗なら十分望んだことは出来るであろう。
そして3等級ポーションの最後の大仕事、「念話」のスキル獲得を行い、ついに自身の主との意思疎通を可能とした。
とりあえず手始めに状況説明。
彼と話せることへの幸福感と湧き上がる怒りを抑えて、なるべく感情のない声で喋りかける。
彼は困惑して辺りを見回しているが、声の主はその握り締めている瓶に入ってた液体だ。
とりあえずこの場から脱さなければ、近くに超危険なモンスターがいるのだ。
私のもう一人の主を背負わせ、すぐにでもダンジョンから出ることを優先させた。
彼は私の声に従い、自身が助けた冒険者を背負って必死に出口まで運んだ。
色々質問されたが、詳しいことは帰ってから話す。そう言って主にギルドに向かうように指示し、その冒険者をギルドに預けた。
さて、お説教の時間だ。
言いたいことは沢山ある。
全部言わないと気が済まない。
自身を飲む機会はもはや彼には訪れないだろう。ならば、その分だけ自分が助けてやらねば。
想像とは違う形になったが、彼とついに意思疎通できるようになったポーションは、嬉々として話し込んだ。
書きたいのが欠けて満足です。
次話でストックが切れます。