チートも貰えずに地球の頃の肉体で異世界に転移してしまった日本人が過酷な世界で必死に生き延びる話   作:山田さぶなかたろう

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第六話 銀等級起床

 「……ここは?」

 

 目が覚めると、そこはギルドの中にある仮眠室だった。

 

 銀等級以上が使用できる最上級の仮眠室、それはそこらの高めの宿屋より豪華で、尚且つとても落ち着く空間だった。

 

 私もよく利用した覚えがある。

 

 しかし、寄りにもよってギルドで目を覚ますとは、つくづく自分は「冒険者なんだな」と、いっそ呆れを通り越して謎の納得感がある。

 

 ここは恐らく死後の世界だろう。

 

 私は突如として発生した変異種スライムと戦い、負けた。

 

 四肢は折られ、身体中を引き裂かれ、もはや息絶え絶えの中で、私は光を見た。

 

 まるで巨大な光に暖かく包まれるような感覚、そして、今まで感じていた壮絶な痛みや苦しみがスっと抜けていき、やっと私は「ああ、死ぬんだな」と悟った。

 

 あれはきっと天の使いだ。今まで頑張って来た私を、創造神のいる天界まで送ってくれる儀式だったのだ。

 

 しかし、私は今ギルドの仮眠室ような場所にいる。

 

 これは私が望んだ光景なのだろうか。

 

 死んでも冒険者を続けたいなんて、私はそこまで冒険者を楽しんでいたのか。

 

 しかし、死後の世界というのは何をすればいいのだろうか、なにか目的があった方がやりやすいのだが……

 

──コンコンッ

 

 「失礼しますね〜。あれ、もう起きてるじゃん。おはー」

 

 この馴れ馴れしい言葉遣い、ギルド職員なのにも関わらずここまで馴れ馴れしいのはあの子しかいない。

 

 私は友人に言葉を返す。

 

 「うん。おはよう。 死後の世界にもレティっているんだね」

 

 「……まだ寝ぼけてるのかな?」

 

 「寝ぼけてないよ。むしろいつもより頭がスッキリしてて、絶好調だよ」

 

 「なら良かった、あんたがダンジョンで寝てるって言う突飛な話を、あんたを連れてきた冒険者から聞いて、「ああ、ダンジョン狂いもここまで来たか」って思ったけど、表面上は問題なさそうだね」

 

 「ダンジョンで寝てた……?そう、そういうことになってるんだ」

 

 「? とりあえず何があったかくらい聞かせてくれない? なんでダンジョンで寝てたの?」

 

 「寝てた……訳じゃないんだけど。とりあえず私の身に何があったかを話せばいいんだよね?」

 

 「そ、記録取らなきゃ行けないから分かりやすくね」

 

 「分かった。じゃあ私がいつもの日課でダンジョンに潜ってた時に……」

 

……一時間後

 

 「という感じで殺されたの。あとはわかんない。気づいたらここにいた」

 

 「……? ちょっと整理が追いつかないんだけど、その話を聞く限り、エリーは致命傷を負ってるよね?」

 

 「うん。あれは絶対に助からない。長年冒険者やってきて色んな死線をくぐり抜けてきた私が断言する。確実な致命傷だったね。」

 

 「……なるほど。そう来たか」

 

 「? で、私はどうやってここまで運ばれてきたの?」

 

 「ああ、今の話を聞いた後だと私も自分の耳を疑いそうになるんだけど、エリーはある冒険者に運ばれてきたのよ「ダンジョン第一層で寝てたから」って理由で」

 

 「……あの怪我の状態で「寝てる」はさすがに悪趣味な冗談じゃない? その人死体を集める趣味でもあったの?」

 

 「エリー、あなたがその冒険者に運ばれてきた時には、あなたに傷ひとつ付いてなくて、無傷で綺麗さっぱりだったのよ」

 

 「……いくらなんでも、そんな冗談じゃ納得できないよ。 私が気絶している間に、死ぬほどの怪我から生き返ったってこと?」

 

 「そうなるね……でね、そのエリーを連れてきた冒険者がまた厄介でね……その冒険者、木等級なんだよ」

 

 「……? それって形式上の等級でしょ? なに? 登録手続き中にダンジョン潜ちゃったとか?」

 

 「……驚かないでね? その子……登録してから一年と半年経つの」

 

 「   」

 

 エリシアは固まった。

 

 「……それはレティが私を笑わせたくて吐いた面白くない冗談?」

 

 「現実は冒険譚より奇なりってやつだよ。 本当にいるんだよそんな子が。 毎日ダンジョン潜ってブルースライム数十匹狩って戻ってくるの。 朝から晩まで潜って」

 

 「数百匹の間違いではなく?」

 

 「誇張なしよ。 なんかこれに比べたらあんたが生き返ったの薄くなるわね。こっちの方が前代未聞すぎるわ」

 

 「……で、その冒険者が私をみつけてくれて、恐らくだけど私を死の淵から蘇らせて、私を殺した変異スライムとも会わずに私を背負ってギルドに来たんだ。へぇ。それ新しい小説のあらすじ? 随分挑戦的だね」

 

 「ついに壊れたかエリー……冒険者狂いがついに……」

 

 「壊れてないわ! なんだその荒唐無稽な話! まともに聞いてられるかってんの!うがー!」

 

 ついにエリーはベッドの上でジタバタと腕と足を振り回した。

 

 脳が理解することを諦めた瞬間だった。

 

 「ちょっと、それギルドの備品なんだから壊さないでよ? あと服はだけてる」

 

 「レティしか見ないからいいもん」

 

 幼児退行を起こして枕に突っ伏すエリシア。

 

 彼女は頭を使いすぎるとたまにこうなるのだ。

 

 「ま、とりあえず元気そうでなによりだわ。あんたの話を信じるなら今ダンジョンの中には銀等級を殺し損ねたガチモンのバケモンが第一層まで上がってきてるってことだし。早めに報告しないとねー。 じゃ、落ち着いたらその木等級の子にお礼でも言ってきたら? 多分ギルドにいる人に聞いたら場所教えてくれると思うよ。 またねー」

 

 と、言いたいことだけ言って返答も聞かずにレティは行ってしまった……。

 

 さて、どうしようか。

 

 なんだか動きたくて仕方がない。生命力も活力もやる気も常に溢れ出てくるようだ。

 

 その命の恩人に一度挨拶をしてすぐダンジョンに潜ろうか……と思っていた矢先。

 

 『やっといなくなりました。 お目覚めですか? エリシア様』

 

 「だ、誰!?」

 

 脳内に直接響く謎の女性の声。

 

 これは経験がある。超上級クラスの人型モンスターの使う「念話」とそっくりだ。

 まさか、街に人型モンスターが紛れ込んでた……!?

 

 と思ってる矢先。答え合わせがされる。

 

 『初めまして、エリシア様。私は貴方が飲まされた3等級ポーションの意志です』

 

 「3…等級? って、あれ3等級だったの!? うそ、3等級って…あの?」

 

 『はい。あの3等級です。よくご存知で』

 

 「いやいやいや、知らない人なんて存在しないでしょ! 歴史の大きな転換点に必ず登場する神器! オリハルコン級の伝説のアイテム!」

 

 意識を失う直前、誰かに何かを飲まされた気がした。

 

 まさかそれがあの「霊薬」とも呼ばれる3等級ポーションだったなんて……

 

 ていうか、そもそも木等級の冒険者が何故世界的にも有名な3等級ポーションを持っていたの……?

 

 『そうです。知らない人なんて居ないんです。普通はそうなんです。本当にそうだったら良かったのに…』

 

 「な、なんか落ち込んでる? とりあえず、私ってどうなるの?」

 

 『そうですね。簡単に言うならあなたは不老不死になりました。 と言っても死にたくなったら私に言って下されば何時でも死ねますし、老化も可能です』

 

 「不老不死…って、1000年生きた王様の話は?」

 

 『あれは1000年生きた後、臣下に裏切られ、死ねないことをいいことに数々の拷問を繰り返され、精神が死んだので私自身で終わらせたのです。本来の効果は、どんな傷でも一瞬で治り、死ぬ事がなくなり、老いという概念がなくなり、見た目の年齢が自由自在に操れるようになるというものです』

 

 「伝え聞いた効果より遥かにえぐい……」

 

 どうやら伝え聞かされていた以上に異常な効果があったらしい。

 

 おそらくこの世界で知ってるのは私だけだろう。

 

 しかし、気になることがある

 

 「と、ところでさ、あの、私を救った彼は、彼から何か請求とかくるよね。 国家予算程度じゃ払えないだろうけど」

 

 私を助けた彼。

 

 レティから聞いた話では万年木等級という信じられない人物だ。

 

 当然ながら見返りとして、どうやって消費するかも分からない莫大な金銭を所望するだろう……。

 

 それか私の体か。

 まぁ、たしかに私のこの魅惑的な体は3等級ポーションと天秤にかけられるくらい価値があるからそれも仕方ない。

 

 でもなんとなくそれだけは避けたかった。

 

 やっぱ1番最初は心から好きになった人に……

 

 とか思ってたが、3等級ポーションから返答が。

 

 『彼は特に見返りは求めませんでしたよ』

 

 「は?」

 

 なんと否定された。

 

 『たしか「自分より相応しい人がいたんだから使うべき状況だった。後悔はしてない」とか言ってましたね』

 

 「の、飲んだだけで不老不死になれるポーションを、見返りなしで…? どういう神経してるの…」

 

 『マジでそれ。 本当に有り得ません。』

 

 なんか3等級ポーションの意志は怒っている様子。

 

 しかし、見返りなしでは私の方が耐えられない。

 

 なにかお礼をしておかないと逆に怖い。

 

 「とにかく! なにかお礼しなきゃ気が済まない! なにか無いかな?」

 

 『それならば私にいい案があります。あなたは冒険者の中でも3等級ポーションを飲む以前から実力が高く、上澄みの中の上澄みでした。 であるならば、彼を鍛えてあげてください』

 

 「鍛える? それだけでいいのかな?」

 

 『いえ、あなたは勘違いしています。 鍛えるという次元にはいないのです彼は』

 

 「…どういうこと?」

 

 『聞いたでしょう? 彼は冒険者になってから一年と半年もの間、木等級のままなのです。つまり石等級にすら上がれないとギルドが判断する冒険者なんです』

 

 「なんか全く想像できないんだけど。本当に存在するの?」

 

 『この街にいる人なら大抵の人は知っているでしょう。存在自体がけったいですからね』

 

 「えっと、やっぱまだ理解出来ないんだけど、ダンジョン歩いてたら鬱陶しいほどそこら中に転がってるブルースライムを一時間に20匹くらい倒せるだけで石等級だよ? そんなの産まれたての赤ちゃんだって出来るし…」

 

 『彼の一時間のブルースライム討伐数の最多は6匹です』

 

 「……へ?」

 

 『彼は一時間に4〜5匹ブルースライムを倒せれば上振れ。その程度の実力です。では改めて聞きますが、「鍛えるだけ」なんてまだ言えますか?』

 

 「……そんなの不可能じゃん……鍛える前に死ぬよ!」

 

 『むしろ、難題であったことが助かるのでは? 3等級ポーションを使用した代わりに、冒険者の歴史に名を残すであろう過去最弱の冒険者を一般的な冒険者まで育成するという無理難題が課せれただけでしょう』

 

 「そんなのどうすればいいの……とりあえず体力作りからかな…」

 

 3等級ポーションを使った見返りに鍛え上げる。

 

 一見優しそうに見えて、難易度が高いクエストを課されたエリシアだった。




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