「さあさあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!どなた様でもお入りください。これよりご覧にいれますは身の毛がよだち、泣く子も黙る、戦慄恐怖の大見世物!世にも珍しき【鬼殺し】にございます」
まるで見世物の客寄せのような口上で、津軽は語る。実際これは見世物なのだ。そしてこれはいつかの再公演でもあった。それは相手に対して、そして津軽が楽しませる相手の為に。
「親の因果は知らないが、唸り沸き立つこの姿!」
まるで力士のように四股を踏んでいた、これ自体が見世物のように。
「一撃当たればピタリと殺す!文字の如くの必殺芸!殺せぬ怪物この世になし!いえいえ!お代は見てからで結構です!」
一撃と言った瞬間、大袈裟に人差し指を立てる。そしてその指を口元になぞるように置く。そして身振り手振りでその場を盛り上げた。だが、観客の居ないそれは猗窩座の前でのみ行われ、それが尚一層不気味だ。ふざけるなよ、猗窩座は額に血管を浮かべる。怒りに任せて自慢の拳を振り上げるのも容易く掴まれてしまった。
「ただし、見たあと生きていられたらのお話ですが」
ぎちぎちと鬼にも引けの取らぬ力で抑えられながら尚も津軽は言葉を続ける。掴まれたまま津軽の拳が猗窩座の腹筋にめり込みまた少し先で吹き飛んだ。陽気な口上を結んだ後またニッコリと微笑む。
「……何だ、お前は?」
「それをこれからご覧になっていただくんです」
津軽は肩をすくめた。その態度は癪に障る。弱者風情に傷を負わされるのも余計に腹立たしい。猗窩座は自慢の力を振るった。鍛え抜かれた拳、そして誰もが追い付けぬその足で。だが津軽にはさして問題がないように見えた。なんてこともないように、攻撃を躱しながら何かの節を付けて語り出す。楽しそうに、愉快そうに。まるでそれは歌だった。
「青き血筋の語るもの、人並み外れた怪綺談!」
躱しそして受け止める。人を容易く抉る猗窩座の拳は、人間である筈の津軽の皮膚を抉ることもなかった。さらにその口上は続き、津軽は歌う。
「それもその筈あたくしは、人であれど人でなし、人でなしとは人聞きが、酷いもんだと思われど、ひとまず聞いておくんさい、真打津軽の恥さらし!」
あそれ、と叫び津軽は半身をひねり、その足で猗窩座を蹴り飛ばす。軽いようで重い一撃は猗窩座の身体を吹き飛ばし、また元の場所目掛けて吹き飛んでいった。津軽は向こうへ行った相手を見て高揚したように笑む。まるでこの一瞬が天幕の見世物のようだった。津軽は再び妙な調子の歌を歌い始めた。
「維新・動乱一段落 明治も三十路過ぎる頃」
不思議な調子の歌を歌いながら、津軽は猗窩座を繰り返し攻撃した。
「お上の仕掛けた大虐殺 怪奇一掃大掃除」
振るう拳は猗窩座の顔を何度も殴り、そして顎を下から上へと拳が突き上がる。
「世に数多いる妖怪を 追って捕らえて ぶち殺す」
後ろに飛び上がるように仰向けに倒れるが、猗窩座とて黙って殴られるつもりはなかった。体勢を立て直すが津軽は畳みかけるように蹴りを繰り出す。
「そもそも掃除を担うのは 荒くれ共のお仕事で」
空式も無意味でたった半歩歩いただけで避けられる。
「その名もずばり【鬼殺し】 最強部隊【鬼殺し】!」
更に後ろ蹴り、割れた腹筋にめり込んで頭上に打ち上げられた。同時に津軽も飛び上がる。人間とは思えぬ程のその跳躍力で猗窩座を追う。その背に回り、津軽は再び同じ場所にその手の平を沈めた。重い掌底、めり込んだまま、猗窩座は地面に叩きつけられる。
「若気に可愛がられてた 真打津軽もその一人」
まるで虫けらのように、津軽は猗窩座の頭に足を置いた。足蹴にされるその屈辱に、猗窩座の顔が歪んだ。
「戻ってきたこの地でも、拙い芸をお見せします」
動けない、そして全身が痛む。だらりと流れる血はまるで無様で弱い人間のようだった。……まるで弱い、人間。ブチリと、頭の中で何かが切れるような音がした。
――――――――――――
「何だあの痩せ青野郎!滅茶苦茶つえー!」
はしゃぐ伊之助の声がする中、炭治郎は食い入るようにそれを見る。先程まで煉獄は戦っていた相手を津軽は子供のように弄んでいた。上弦の月を、あれ程容易く捻るこの男は何だ、まだその強さにも至れない自分は何だと炭治郎は噛み締める。
「……津軽の奴、遊び過ぎだ」
呆れたように、鳥籠は言った。鳥籠、喋んのか!?驚いた伊之助だが炭治郎はこの鳥籠の中身を知っていた。輪堂鴉夜、不死と呼ばれたその少女が生首でそこにいることを。
「ほら見ろ、あのやられているのが怒っている。ああいう手合いは虚仮にされるのを嫌うものだ」
鴉夜の言葉通り、足蹴にされた猗窩座の怒気は膨れ上がる。血鬼術を繰り出した猗窩座の身体能力は膨れ上がり津軽は瞬く間に吹き飛んだ。うへ、間の抜けた声と共に津軽は受け身を取る。不意に視線を感じる方向を見れば猗窩座の眼光が鋭く津軽を射貫いていた。
「ちょ、「殺す!」」
殺意に溢れる拳を津軽はその両手で止める。その身を守るように覆われた両腕は折れることもない、まるでそれは煉獄の刀のようだった。こんな男が煉獄と同列なのか、それが余計に腹立たしい。たとえ練り上げられていた肉体であっても、この男の性格は許容できなかった。まるで人を小馬鹿にして、いつも笑うような。
「……あたくしは、あなたの嫌う相手じゃありませんよ」
言われた言葉は虚を突かれた。思い浮かんだ白橡色の髪と虹色の髪はそこになく、真っ青な髪と青い髪がそこにあった。へらへらと笑うその顔から拳が繰り出される。同時に煉獄の斬撃も加わった。
「止血に手間取った、加勢させて頂く」
「そいつはありがたい、あたくし一人では手に負えませんので」
先程まで遊んでいた男が何を言っているのか。それこそこれが嘘のようにも思えた。夜が間もなく開ける。薄暗いその頭上、地平線の向こうで日が差し込み始めていた。
津軽には口では勝てない、間違いない。原作読むとまた別の口上が読めて楽しかったです
続きは?
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見たい!
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満足!