鬼にも笑劇があるらしい(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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続けてみた。戦闘描写むずいのでひたすらに難しい言葉でつらつら並べるのみです。


朝が眩しかった

 

 

――猗窩座は自分が鬼であることを誇りに思っていた

 

 老いも病気にもならないし傷も負うこともない不滅の肉体。頸と藤の花以外で死ぬことのない種族。この身体さえあれば幾百年でも鍛錬が出来る。その果てにある至高の領域に立つことが猗窩座の念願だった。

 

――故に猗窩座は、弱者を厭う

 

 あんな弱くて脆いだけの人間を、醜く老いさらばえる人間を猗窩座は嫌悪した。集団でしか行動できぬ弱者風情が鬼になるなど、我慢ならない。

 

――それなのに、この状況は何だと言うのか?

 

 飛び交う刀と拳。赤い色変わりの刀に、青い刺青の走る腕が猗窩座に襲い掛かった。猗窩座は必死に攻撃を応戦するもその腕は煉獄の刀に切り落とされる。たかが刀で切られただけだ、上弦の鬼はこの程度の再生造作もない。再生するが、それを待たずして津軽の拳が猗窩座に向かってくる。

 

――不味い、こいつの攻撃は……!

 

 回避しようとするが煉獄は更に追い打ちを掛けてその足を斬る。切り落とされた足は無様に態勢を崩し、その顎目掛けて津軽の足が下から振り上げられた。脳内を直接揺らされるような衝撃、口から噴き出した血が噴き出る。口いっぱい広がる鉄の味が広がる。鬼として経験のない感覚はただひたすらに猗窩座の矜持を傷付けた。

 

「この……ッ!」

 

 額に浮かぶ血管と震える声は猗窩座の怒りそのものだ。振るう拳は長年鍛え抜かれた渾身の一撃、だがそれでも二人には届かなかった。斬撃は猗窩座の腕を切り落とし全身を刻み付けて、即座に津軽の腕が強打を繰り出す。

 

 

――猗窩座は今、二人相手に手をこまねいていた

 

 十二鬼月、上弦の参。猗窩座が誇るその強さがまるで嘘のように苦境に立たされている。しかも相手はたかが人間。弱い人間相手に猗窩座は今にも負けようとしていた。いくら練り上げられた肉体いえども鬼と人間では差がある筈だが、この状況は猗窩座も想像にしてすらいなかった。

 

――間もなく、夜が明ける

 

 それは津軽の悪ふざけの時間稼ぎもあった。功を奏してこの場に勝機が見え始める。暗い暗雲は次第に明るくなり、地平線の向こうで焼けつくような陽光がギラリと周囲を照らし始めていた。昇り始めた太陽は影を照らす。猗窩座は陽光を見た瞬間、顔色を変えた。

 

『夜が明ける!』

 

 焦燥に恐怖、そして動揺。猗窩座の顔には色が失われていく。陽光に浴びればどうなるのか、それは本能的な恐怖だった。影を探すが此処は木々のない剥き出しの平野。ここには陽光が差す。脱線した列車も遠い。

 

『逃げなければ、逃げなければ!』

 

 猗窩座の焦りは油断となり、津軽が猗窩座の身体を捉える。捕まえた、獰猛に笑いながら津軽はその全身を使って猗窩座を抑え込んだ。その背に寄りかかる赤子のように、そしてその手足の自由を奪う強靭な手足で身動きすら出来ない。まるで芋虫のようにのたうち回る猗窩座の頸に、赤い刀身が冷たく触れた。グッと押し付けられて頸に日輪刀が突き刺さる。グチリと血が流れた感触をその地肌で感じ取った。

 

「オォオオオオ!」

 

 地響きの如く響く猗窩座の悲鳴、それは死期を悟って死に物狂いになる獣の声だった。その場でのたうち回る身体が津軽ごと動き、津軽も僅かに呻く。煉獄もその頸の硬さに苦しむ。更に力を加えるように叫んだ。

 

「オオオオオオアアアアア!!」

 

「ああああああああ!!」

 

 猗窩座と煉獄の叫び声があちこちに届く。互いに譲らぬそのせめぎ合いは未だ続いていた。陽光は目の前だ、猗窩座はその陽光を見る。こんな傍まで見たのは初めてだった、頸もあと半分しか繋がっていない。何も成せずに死ぬ……?ジリジリとその指先が焦げ始めて、猗窩座は尚も足掻いた。

 

「退けぇえええええ!!」

 

 火事場の馬鹿力といったところだろうか、猗窩座の力が一層増した。剥き出しの生存本能は津軽の力を上回り、解けた身体が煉獄を襲う。窮鼠猫を噛む、振るう拳は煉獄の右腕をも引き千切った。今まで保ってきた均整が互解し、猗窩座はすぐさま森の方へと逃げ込む。出来るだけ陽光の届かぬ場所へ駆け抜けるその無様さに津軽が声を掛ける。

 

「逃げるんですかぁ?存外根性がない」

 

 武人失格ですね、わざとらしくその手を口元に置いて大きな声を上げていた。ビキリ、脳内で駆け巡る血管が額に浮かぶ。僅かに振り返る猗窩座は醜くひしゃげた顔をしていた。それは自尊心を踏みにじられた屈辱に満ちた顔だった。武人であることが誇りである猗窩座には許容出来ぬ言葉、尚もその自尊心に津軽が糞で塗りたくる。

 

――俺は、太陽から逃げてるんだ……!

 

 お前たちから逃げてるんじゃない。猗窩座はそう内心で罵倒するが、猗窩座は何も成してはいない。柱も、鬼狩りも殺せてはいない。だが殺せた筈だと猗窩座は必死に自身を言い聞かせる。だが本当に勝てたのだろうか、それは猗窩座だけが知っていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

――逃げられた……!

 

 陽光が出ていたのに、もう少しで頸だって。無理矢理身体を起こした炭治郎は悔しげに唇を噛む。暖かな日差しを受けているのに心が穏やかになれなかった。炭治郎の視線が煉獄へと自然と向かう。先程まであった立派な腕だった、乗客も守った優しい腕はそこになかった。

 

「煉獄さん…!腕が…!」

 

 額に当ててくれた指先は、その刀で鬼を狩るその腕は既になくなってしまった。白い羽織は赤く染まり、隊服は引き裂けている。その引き裂けた隊服の袖から見える腕はその断面を見せて痛々しい光景がありありと浮かんだ。柱の腕がなくなるということの意味はとても重い。炭治郎の暗く沈んだ声とその表情はそれを如実に示していた。

 

「問題ない、止血はした」

 

 見た目よりもずっといいぞ、いつもの様子で穏やかに煉獄は言う。煉獄は腕だけではなく、肋骨も折れて内臓だって傷付いている。

 

「しかし、随分とやられてしまった」

 

 柱として不甲斐なし。満身創痍にも関わらず煉獄は笑うばかりだった。いつも通り穏やかだった。それを見るのがとても心苦しい、炭治郎の悔しげに顔を歪める。どうしていつもこうなんだ、そう呟く炭治郎を煉獄は宥めた

 

「大丈夫だ、乗客は皆無事。俺も君たちも生きている」

 

 上弦の鬼も退くことが出来て十分じゃないか、煉獄はもの柔らかにそう締めくくる。

 

――煉獄はそう言っても、炭治郎は納得など出来なかった

 

 傷だっていつかは癒える。乗客も死ななかった、鬼殺隊も犠牲はなかった。上弦の鬼の名前も一人知ることが出来た。十分な成果なのに、何故か納得いかない。

 

――ああ、悔しいなぁ

 

 炭治郎が占める感情は悔しさから来るものであった。何か一つできるようになってもまた一つ分厚い壁がある。強くなれたと思っても結果は自分が横になっているだけだった。戦っているのは二人だけで、炭治郎は足手纏いにしかならない。

 

――まだ、そこに行けぬ自分は何だ?

 

 こんな所でつまづく俺は、煉獄のように出来るのか。気付けば炭治郎は涙を零していた。漏れる嗚咽を抑えて、膝を握る。きっと津軽が居なければ死んでしまっていた煉獄が生き残った安堵と悔しさ。炭治郎は強くなりたいと何度も思った。グイッと煉獄の左手で抱き寄せられた炭治郎が目を見開く。

 

「今は泣け、竈門少年」

 

 そして俺のように強くなれ、煉獄の言葉は炭治郎の心を揺さぶった。赫灼の瞳から涙が溢れて声が出た。伊之助もつられて泣いていた、後からやって来た善逸は困惑しているが三人とも柱に抱き締められて朝を迎えた。やって来た朝は、眩しく一際暖かかった。

 




煉獄さんは生存させましたが引退です。津軽は師匠と話してますが多分次回に回します。

正直、この作品無限列車編で終わらせようと思ってたのですが、ちょっと惜しいような気もしてアンケートします。

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