鬼にも笑劇があるらしい(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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続けてみた。原作通りです。ちょっとだけ肉付け。
若干変更しました。津軽達のいる場所を同じ車両にいたしましたことをご了承を…


鳥籠が喋ってる

 

 

「起きろ!津軽!」

 

 大きくつんざくような声が響く。だがしかし、津軽の隣に座る女も眠っていた。ではこの声は何処から聞こえているのか、音源はその膝の上に乗る鳥籠から聞こえてくる。むしろ、鳥籠が喋っていた。鳥籠はキメの細かい絹のレースで覆われている。その裾にはフリルがあり、それがさながら天幕の入り口のように鳥籠の正面で重なり合っていた。その正面口から僅かに覗く影は人の口を作っている。つまり、そこに何かが居ることが明らかだった。人の言葉を介する何か得体の知れぬものが、確かにそこにあるのだ。

 

「静句までこのザマか……」

 

 寝息を立てる従者を見て、嘆く声を上げる。薄いヴェールの覆いの向こうで、それは心底悔しそうだった。実際、それは動けぬ状態なのだ、故に従者が動けぬのであれば四肢をもがれたに近しい状態である。津軽は仕方がないにせよ、自分に忠実な静句はこうなるのは異常事態だ。周囲を確認しようにも動けぬその身にはやはり従者が必要なのである。ならばと聴覚に頼ることで辺りを確認することにした。

 

「ええい、寝息すらやかましいのか……!」

 

 津軽のいびきがやたらと鼓膜に響く、それが耳障りで悪態をつく。耳の情報のみを頼りに周囲を確認するもやはり周囲も寝ているようで寝息だけがこの車両に響いていた。全てが寝静まるこの空間は異様で、奇怪な状況に陥っているのは事実のようである。とはいえ、これ以上の情報は見込めない。何せ確認は出来ないのだから。出来ることなどただこの鳥籠で時間を過ごすばかりとなった。

 

「さて、どうしたものか」

 

 それが途方に暮れている頃、車両の向こうで動きがあった。連結する向こうの車両から人が複数現れた。どうやら誰かが眠っていることを確認しているようだ。それを察すると口を噤んで鳥籠の振りをする。息を潜め、ただ静かに。

 

『釜泥ですかね?』

 

 とはいえ盗まれはしませんでしょうが。津軽がこの場に居るのならばそう言って笑うことを想像しながら、それは機会を窺った。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

――炭治郎は家族との二度目の別れをした

 

 だってこれは鬼の血鬼術だ、ただの夢でこれは現実ではない。そのまま此処に居たらただされるがままになるのは明らかだった。攻撃をされる前にこの夢から覚めなければならない。呼びかける家族の声から耳を塞ぎ、追いかける弟を振り払う。溢れ出す涙は偽りのない炭治郎の心そのものだった。いっそ振り返ってしまいたい、弟の身を起こして抱き締めてあげたかった。夢であれども再会出来た幸福、ただ平凡な当たり前が炭治郎の過去だった。

 

――それでももう炭治郎の手は炭売りの手ではない

 

 かつては炭だらけの手、今となっては傷だらけで泥だらけだった。剣だこも出来て硬くなったこの手は、既に過去の原形すら見つけられない。命懸けの戦闘ばかり常人よりも強い鬼ばかりを相手取る日々は痛みが伴う。可能であれば家族とあの生活をしたかった、平凡な当たり前がただ眩しい。それでも離れなければならなかったことが、ただ辛い。

 

――だが、それでも炭治郎は走り出した

 

 もう母親は死んだ。弟たちも妹たちも死んでしまって、炭治郎にはもう妹の禰豆子しか居なかった。現実は厳しいが、それが炭治郎の今の現実だ。せめてこれ以上犠牲者を増やさぬように、炭治郎は前へ進むしかなかった。

 

――夢から脱却するには自分の頸を断つほか他ない

 

 それは夢の中の父が教えてくれたことだった、だがしかし、分かっていてもそれを行動に移すには気が引ける。夢の中で死ねば現実に影響するのではないか、このまま死んでしまうのではないのか。ありとあらゆる想定は恐怖となって襲い掛かり、炭治郎の息が荒くなっていく。

 

――だがもし、夢の死が、現実に直結するのならばそれしかなかった

 

 

 既に炭治郎に選択肢はなかった。刀身を頸に置かれる冷たさが重く圧し掛かる。押し出す肉の感触を感じ取って息を呑んだ。これは夢だ、それなのに現実感がある。まるで感覚を殴りつけられているようだ、死んでしまうと錯覚した、血が切り口から溢れ出して流れる。気付けば叫んでいたが、それでも押し出して力を加えた。刀身にまで血が溢れ出して、炭治郎の手を汚してぬかるむ。痛い、痛い。激痛と共に滑る刀を引く、ずるりと皮膚と肉すら切れる痛みを感じた。血が溢れて、瞳孔は開ききってその眼球に血管が浮かぶ。鋭い嗅覚は血の匂いを深く感じ取るも、炭治郎はなお一層気合を入れた。血が飛沫を上げて雪を汚す。あっという間に意識は落ちて、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「うあああああああああーーーッ!!」

 

 断末魔にも似た声を上げて炭治郎は飛び起きた。切り落とした頸に触れるが血は出てはいない。濡れていないし、血の匂いがしない。

 

「大丈夫、生きてる……」

 

 そう感じ取って炭治郎はやっと安堵の息を零した。同時に禰豆子が炭治郎に視線を向けていることにも気付く。禰豆子、妹の名を呼んで身を乗り出せば嫌がったように下がり額を庇った。原因は分からないが、とにかく起きることは出来たのだ。それだけでも十分な成果だった。

 

――周囲を窺えば乗客たちも眠り、善逸達も眠っていた

 

 その傍に居る見知らぬ誰かが眠っていることに戸惑うが、その手首には縄が繋がっている。伊之助に善逸、そして煉獄。よく見れば自分の手首にもあったが焼き切れていた。禰豆子が燃やしたのか、その縄に顔を近付けば妙な匂いがする。鼻を動かして匂いを嗅げば鬼の匂いがした。同時に、思い出して切符を手に取ればやはり同じ匂いがする。微量だがこれによって皆眠らされたのだと気付いた。

 

――微量な匂いで強力な血鬼術をする鬼に、脅威を感じる

 

 早く皆を目覚めさせなければ、こんな強力な鬼では一人で太刀打ちが出来ない。縄を断ち切ろうとするも日輪刀で断ち切ってはならないような気がした。それならば、と炭治郎は先程と同様禰豆子に燃やしてもらおうと思った。

 

「禰豆子、頼む。皆の縄を燃やしてくれ」

 

 幼子のように素直に頷き、禰豆子の火が縄を燃やす。人を燃やすことのない優しい火は縄だけを焼き切る。これで眠りから覚める筈だ、必死に善逸たちに声を掛ければ縄を縛られていた人間に襲われた。

 

「邪魔しないでよ、あんたたちのせいで夢を見せて貰えないじゃない!」

 

 操られているのかと思えば、そうではないようだ。夢、と言った彼らは誰もが隈を作っていて碌に眠れてはいないのだろう。自分の意思でやったことは間違いなかった。現実から逃げるのは彼らの弱さだ。それでも、それ以上にその弱さに浸け込む鬼は許せなかった。

 

「……ごめん、俺は戦わなければいけないから」

 

 そう言って、炭治郎は彼らの項に手刀を入れる。鍛えられた鬼殺隊に対し相手は素人、制圧するのはあっという間だった。

 

「……幸せな夢の中に居たいよね」

 

 確かに良い夢だった、炭治郎も家族に居たいと思う程に。気絶した彼らを見おろし て、気の毒そうに目を伏せる。いっそこの現実が夢だったら良かったのに。そう思いながらも炭治郎は禰豆子を見た。幼くなったような無垢な顔を撫で、今を感じ取る。せめて禰豆子を治さなければ、いっそう強くなる意思を再度確認した。目の前の少年に向かい討とうとするが、少年には既に戦意はないようだ。

 

「……ありがとう、気を付けて」

 

 むしろ炭治郎を気に掛けているようだった。憑き物が取れたその顔は穏やかで、もう大丈夫なのだと思った。はい、と炭治郎は返事をするとすぐに禰豆子の手を掴み走り出す。

 

「……少年、待ちたまえよ」

 

 鬼の匂いのする方へと走り出す直前に、声を掛けられた。若い少女の声だった。まさか、まだ居るのか?周囲を見渡すが起きている人は居ない。まさか、鬼か?炭治郎の顔が険しくなる。

 

「……なに、別に取って喰おうなんて思っていないさ」

 

 日輪刀の鞘に手を掛けて身構えると少女は笑っていた。声の場所が分からない、愉快そうに話すその物言いは何処か達観している。

 

「ちょっと君たちにお願いがあってね、勿論タダとは言わんさ」

 

 更に言葉を重ねる場所にようやく気付く。一組の眠る男女の膝の上に乗る鳥籠がそれを言っていた。

 

「後で何か礼をしよう、それならばどうだろう?」

 

 お願いだ、私の従者を目覚めさせてくれ、と続けるそれは得体の知れない何かだった。

 




釜泥、釜泥。


正直、この作品無限列車編で終わらせようと思ってたのですが、ちょっと惜しいような気もしてアンケートします。

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