「ちょいと、行ってきます」
師匠をお願いしたいのですが、津軽は鳥籠を持ちそんなことを言う。喋る鳥籠が師匠というのだが、そのレースの下に何があるのか。結核の少年と炭治郎は自然と視線が鳥籠へと注がれていた。
「気になりますか?」
不意に津軽が炭治郎たちに尋ねる。気になる、そう気になるのだ。素直に頷く二人に津軽は笑みを深めた。その笑みは奇怪で不気味なものであった。
「お見せしたってあたくしはかまわないんですが、何せ師匠は恥ずかしがり屋なので」
「勝手に私の属性を決めるな、そして弟子を取ったつもりもない」
君は助手だろうに、と更に言葉は続いた。弟子だったり助手だったりと。本当にどんな関係だろうか?困惑する最中、鳥籠が言葉を発する。
「見たいなら見せても良いのだが、君のような鬼狩りは多分切りかかるだろうからね。あるいは不気味がって話さなくなる」
どちらも経験したことだから間違いないよ。と懐かしむ声がした。つまりこの鳥籠は周囲に気を配っているようだ。気遣いあるいは配慮。この覆う布は姿を敢えて隠さねばならぬ事情があるということだった。誰もが見て度肝を抜く何かが。
「……一体何があるんですか?」
いよいよ、零れてしまった言葉に津軽はにっこりと応える。
「師匠はそりゃとびきりの別嬪ですよ」
津軽の回答は更に疑念を抱かせた。つまり、何の参考にもならない。こんな小さな鳥籠に収まっている別嬪などある筈がなかった。その大きさに見合う何かがあるのは確かだが、人間である訳が。津軽がはらりと鳥籠の覆いを捲り上げれば、その考えは瞬く間に打ち消された。
「わあああああ!!」
「……なッ、、」
少年は叫び、炭治郎は目を見開く。その鳥籠の中には確かに少女が収まっていた。黒曜の長い黒髪は艶があり、紫水晶の双眸で輝く。恥じらうように頬は赤らみ、薄く笑む唇は桜色でまるで紅を指したようであった。あどけなさの残る顔立ちでありながらも妖艶で、純真なのに魔性を帯びる。……成程、別嬪だ。津軽の言葉通りであれども、その鳥籠に収まる少女は首から下が存在していなかったのだ。
「初めまして輪堂鴉夜と申します、探偵です」
訳あって鳥籠生活をしております、美しい生首は動いていた。その艶やかな唇を動かして、そして瞬きすらもしている。その声は先程まで津軽と話していた声で間違いなかった。呼吸するこの生き物に炭治郎は刀を抜いた。
「やめたまえよ、日輪刀では私は殺せやしないさ」
何せ断つ胴体はないからね、輪堂鴉夜と名乗る怪物はそう言い放つ。
「それに、首だけで生きる生き物なんてそれ程いやしないさ」
「お前が鬼じゃないと言い切れるのか……!?」
炭治郎は以前那田蜘蛛山で胴体だけの鬼を見たのだ。頭部だけで動く鬼だって居ると思うのは当たり前だった。
「私は日に当たっても平気だし藤の花だって好きだ」
「ほぉ、鬼とはそんなに苦手なモノが多いんですねぇ」
因みにあたくしは普通に切られりゃ死にます、そんなどうでもいい情報を津軽は言いながらその場を荒らした。
「話に腰を折るようですが、師匠は鬼じゃありませんよ」
師匠は不死です、そう続けて津軽は鳥籠を抱える。まるで西洋のカンテラのように前に突き出した。不死、不死とはその文字通り死なないということだ。だがその胴体は何処へ行ってしまったのか。
「胴体は阿呆に何十年か前に持って行かれたんだよ」
そんな疑問を読み取るように、鴉夜はあっさりと応えた。
「そういや、師匠とはその頃からの付き合いでしたね」
「何年前だったかな」
「嫌ですね、十数年かそこらですよ」
歳食って忘れちまいましたか、呆れたように津軽はそんなことを言う。十数年と言うが、津軽の容姿と年齢が合っていない気がするが。そこはどうでも良いように話は続いた。
「忘れちゃいないが、お前が追いかけるって言ってから色々転々としたからなぁ」
「あたくしも海外公演なんて初めてでした」
日本が此処まで変わったのも初めて知りましたね。そう締めくくって漫才のような会話を終えた。口振りから察するに海外生活が長いようだ。確かに津軽や女中の服装は日本らしくないが、少なくとも鬼ではないようだった。炭治郎は刀を鞘に戻せば津軽は更に笑みを深める。
「分かって頂けたようで」
このままでは掛取万歳でもおっぱじめようと思いましたよ、これまた分からぬ演目を例えに挙げた。やはりこの男は噺家なのではないかと思い始めてようやく本題に戻った。
「それでは、師匠をお願いします」
鳥籠を結核の少年に押し付けて、津軽と炭治郎は列車の上へと乗り上げた。
――――――――――――
――煙が視界を奪う
暗雲のようにモクモクと煙る。それは列車の先頭の煙突から昇り、進行方向を阻害するようだった。列車の天井に当たる外側を炭治郎は駆け抜ける。それに追走するように津軽も走っていた。
「此方で合っているんですかい?」
「ああ、鬼の匂いがする!」
「あなた鼻が利くんですね、犬みてぇだ」
鬼とはそんな香りがするもので?まだ余裕があるのかゆったりと動いてそんな話をする。炭治郎の嗅覚は嘘も感情すら見抜く、それは津軽が驚いている匂いすら感じ取っていた。
「鬼の匂いは分かりやすいからね」
「……ほぉ、」
それではあたくしもそんな匂いなのですかね、そんな妙な言葉を津軽は言った。これはあの漫才の一種なのだろうか。そういえば、笑えない冗談だと鴉夜は言っていたな。だからこれも冗談だと炭治郎は受け取った。
「津軽さんは違いますよ、ちょっと変わった匂いはしますがね」
冗談だとしても笑えない、それでも和ませようとしてくれたのだな。炭治郎は苦笑するが津軽は静かにそれを見ていた。その後会話がないまま、炭治郎は走る。
――目指す先はその列車の先頭
いくつかの車両の向こうで誰かが立っていた。風圧で立つのもやっとなその場所で身じろぐこともない。燕尾服のような洋装を見に付ける優男だった、髪の毛先は緑色や赤紅色で染まる奇妙な出で立ち。男は振り返るなりおはようと呑気に挨拶を始める。
「まだ寝てて良かったのに」
ひらひらと振る手の甲には口が一つ。人間にはない、その口は正しくその男が人外と知らしめた。
「なんでかなぁ、折角良い夢を見せていたでしょ?」
目が覚めたことが不思議でならないように、その鬼は言う。
「お前の家族を惨殺する夢を見せることも出来たんだよ」
そっちの方が良かったかな、それがこの鬼が本当に見せたい夢のような口ぶりだった。だがあっさりと撤回して嫌でしょ、辛いもんねとも言う。炭治郎は怪訝そうな顔でその鬼を見ていた。
「じゃあ、今度は父親が生き返った夢でも見せてやろうか?」
クスクスと心底おかしそうに鬼が言えば炭治郎の額に血管が浮いた。
津軽も行かせようか悩んだけど行かせた。
正直、この作品無限列車編で終わらせようと思ってたのですが、ちょっと惜しいような気もしてアンケートします。
続きは?
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