鬼にも笑劇があるらしい(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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続けてみた。津軽の言葉を煉獄さんは真に受けそうな気がする。


そして、皆目が覚める

 

 

「伊之助!この汽車はもう安全なところがない!眠っている人たちを守るんだ!」

 

 この汽車全部が鬼になっている!そう叫ぶと伊之助は張り切って中に戻り内部の肉を引き裂いた。人手が増えればこちらも有利になる、先程よりも幾許か顔色が良くなった炭治郎を見て津軽はへらりと笑った。

 

「奴さんあんなこと言ってましたが案外何とかなるかもしれませんね」

 

「だけど車両の人たちを全員守らなければいけない……」

 

 今はとにかく皆が目覚めるまでは現状維持をすべき時だった。柱である煉獄が目覚めれば戦況を巻き返せるのかもしれない。そんな打算を口にすれば津軽はほう、と気のない返事を返した。

 

「さて、あたくしは師匠の所でも行きましょうかね?いやしかし言いつけ破る訳には」

 

 まあ、とりあえず中にでも。そう呟きながら津軽も別の車両へと入っていった。勝手に一人で行くのは、そう言いかけるも先程の戦いぶりは尋常ではない。その手腕は手慣れており、怪物を見ても動じぬその度胸は一体何なのだろうか。少なくとも鬼殺隊ではない男だが、少なくとも任せられると判断して炭治郎も別の車両へと入り、乗客を守り始めた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 車両の中では肉が盛り上がっていた。肉といっても外部で晒される肌色の皮膚ではなく、その内部の肉が眼前に広がっている。醜悪なぶよぶよとしたそれは車両内部を変質させ、その足元すらその質感の感触がする。うへ、津軽は心底嫌そうに顔を顰めて周囲を見渡した。

 

「もう腸内じゃないですか」

 

 こんな大きな腸内に入るのも久々だ。以前やった時はデカブツ相手だったろうか。余りにも大きいから内部から攻撃して出てきたが、その後腸液やらが混じって臭くて大変なことになったことを思い出す。

 

――ああ、あの頃も楽しかった

 

 津軽は明治のあの頃を思い出しながら手袋を脱ぎだした。埃だらけの小汚い手袋をその場に置く、剥き出しになった白い手にはあの顔に走る線が見える。まるで血管のように伸びるそれは指先に至っていた。その後また衣類を脱ぎだす。靴と靴下、その上に纏う継ぎ接ぎのコートも足元に放ると津軽は随分と身軽になった。白いシャツ一枚にサスペンダーで吊った長ズボンだけの恰好となり、首をゴキリと鳴らす。

 

「さて、お立合い」

 

 剥き出した肉から触手が生えてくる、さながらそれは観客のように見えて津軽はそんなことを呟いた。

 

――今どれだけの時間が過ぎただろう

 

 炭治郎は一人孤独に車両内でそんなことを思った。車両内は触手だらけ、刀も思うように振れない。戦況も読めぬままだった、向こうから激しい音がするのだがそれが仲間の音なのかも分からない。後ろの車両の乗客は守れているだろうか、ただやみくもに守るだけでは徒に体力を消耗していた。連携がとれないこの環境は圧倒的に不利だった。あの鬼の笑う顔が見えるようで炭治郎は悔しげに眉をひそめた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

――煉獄杏寿郎は目を開く

 

 周囲を見れば肉の壁、肉の天井、肉の床。列車の様相は随分と様変わりしていた。どうやら随分と長い間うたた寝をしてしまったらしい。状況は概ね把握した。先に起きていた隊員がその対応に追われているようで、あちこちから刀で肉を断つ音がする。ああ、全くとんでもない寝坊だと煉獄はゆったりとした動きで刀を引き抜いた。

 

「よもやよもやだ、柱として不甲斐なし。穴があったら入りたい」

 

 煉獄はグッと呼吸を整えて、全身の筋肉を引き締めた。瞬間、弾丸のように真っ直ぐ飛んでいく。壁を、床を、天井を。そしてその触手も全て切り裂いて、煉獄は鬼に斬撃を加えて車両を駆け抜けた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「おやぁ?」

 

 津軽は向こうから激しい揺れを感じ取っていた。腰に力を入れて踏ん張りながらもそれを感じ取って首を傾げている。新手でしょうか?何かが迫って来る気配を確かに感じ取って身構えると、弾丸のようなそれは唐突にやって来た。

 

「おや、青年。君は誰だ?」

 

「あなたこそ誰です?」

 

 津軽の姿を見るなり動きを止めた煉獄を、津軽は見る。煉獄も津軽を見ていた。明るい焔のような頭髪、やたら目立つ御仁だと津軽はそんな感想を抱く。煉獄も青いな、と同様の感想を持っていた。

 

「お初にお目に掛かります。あたくし【鳥籠使い】真打津軽と申します。名前は真打ですが器は前座というちゃちな男でございますが、どうかお見知りおきを」

 

「これはご丁寧に!俺は炎柱煉獄杏寿郎という。手短に話すのだがこの車両はあなたが?」

 

 ええ、まあ……、と津軽はその手に纏う血を拭いながら曖昧に返事した。車両を見渡せば肉片があちこちに散らばっている。鬼相手にこうも出来るモノだろうかと煉獄は舌を唸らせた。

 

「ひょいひょい出るもんで軽く捻りましたが朝飯前です」

 

 まだ午前三時ですから、随分と上手いことを言う男だとも思った。不思議なことに引き千切れた触手は戻らぬままその状態にあるのが気掛かりだが、今はとにかく時間はなかった。

 

「煉獄さん、見た所時間がないのでしょう?此処はあたくしがやるのでこのまま行ってくだせぇ」

 

「でも君は一般人だろう?」

 

「まあ、でもこういった荒事は慣れてるもんで……」

 

 それに師匠の命令でありますからね、津軽がまた行けとその手を翻すと煉獄はまた風のように駆け抜けていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「竈門少年!」

 

 他の車両にいた炭治郎と再会し。煉獄はあらかたの事情を説明する。鬼に斬撃を加えて再生に手間取っている最中の僅かな時間であったが、最小限の説明で炭治郎に命じた。

 

「この車両は八両編成だ、俺は後方五両を守る。残りの二両は黄色い少年と君の妹が守る。もう一両は津軽殿がやっているから君と猪頭少年はその二両の状態を注意しつつ鬼の頸を探せ」

 

「頸……?でもこの鬼は「どのような形になろうとも鬼である限り頸はある!俺も急所を探りながら戦う、君も気合を入れろ!」」

 

 列車と一体になっているから、そう言いかけるが煉獄は力強く断言した。次の瞬間には駆け抜けて消えてしまった。その直前に車両全体が揺れる。この揺れの正体は煉獄さんだったのか、驚きながらも炭治郎は煉獄の柱の凄さを確認していた。その状況判断能力とその強さ。何もかもが遠い雲の上の存在に思えてならない。一人で五両も、そう感心しているがすぐに頭を振って炭治郎は走り出した。

 

 

 





明日からお仕事です。更新に間が開きそう。


正直、この作品無限列車編で終わらせようと思ってたのですが、ちょっと惜しいような気もしてアンケートします。

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