ヒーロー名《大将黄猿ボルサリーノ》 作:ヒーローにわか
「それじゃあ、母さん。春から通う新しい学校の受験に行ってくるよ」
「今夜は合格祝いに焼き肉だからね。ぶちかましといで!」
サリーノはまだ試験を受けてすらいないのに、春から通うと当たり前の顔をして言い、母親は合格祝いに焼き肉をすると宣う。
どちらも、落ちるなどとは微塵も思っていない。
それだけの自負と実力が、黄猿にはあった。そして、元プロヒーローだった母親には、愛息子が紛れもなく同世代の中では、《最強》だと確信がある。愛息子はいずれ世界最強のヒーローになると。
「味噌ラーメンも忘れずにね?」
ヒーロー活動はインパクトが大事と母に言われ、普段使いしている《とって付けたようなボルサリーノ口調》は抑えて、ごく普通の息子として会話するサリーノ。
「母ちゃんの愛を舐めんな」
「
眩く光った――と思ったときには。
体を光に変えて、照大主はもうそこに居なかった。
「元プロヒーローの前で、個性の無断使用たぁいい度胸だよ、流石は私の息子。――頼むから筆記をしっかりしてくれ」
実技で落ちることはまずあり得ない。だが、筆記は頭の良さが問われる。
むろん、照大主は、個性の真価を十全に引き出すために科学を中心に猛勉強している。
その努力を、母はちゃんと知っていた。だけど。
「頼むから、名前書いて無くて0点なんてことにはならないでおくれ。マークシートも、ずらすんじゃないよ。アンタ、個性に頼りすぎて色々と抜けてるから……そこだけが母ちゃん心配だよ」
「ほう、これが天下の雄英高校、俺っちの新天地。広いなぁ」
プロヒーローの養成学科を有する、雄英高校のはるか上空。雲と同じ高さから、見下ろす影が一つ。サリーノだ。
学ラン姿に、ニット帽子。サングラスの、中学生にあるまじきオシャレな恰好で、雲の上から受験校を見下しているのだ。
「ふうん。どいつもこいつも見た感じパッとしない奴が多いねぇ。弱いモノ苛めは好きだけど、度が過ぎると興ざめだし。何より、前世で出来なかった熱い青春……憧れる」
肩まで伸ばした茶髪のパーマが、風になびく。彼は、強いあこがれを口にすると、光の粒子となりて、人知れず校舎の中に入る。
※※※
『HEYッッ!!リスナー諸君ッッ!!まずは筆記試験お疲れ様、なんていう気はないぜお前らッッ!!全てはここからッッ!!すなわちッッ、実技試験!!この結果によっちゃあまだまだ勝負はわかんねぇッッ!!!リスナー共、耳かっぽじって俺のライブにしっかりと耳を傾けろよぉッッ!!OKーッッ!?』
筆記テストを余裕のよっちゃんで終えたサリーノと、他の受験生たち。彼らは実技試験を受ける前に抗議道の様な部屋に移されていた。ステージの上に立ち、ぶち破ったテンションで、受験生に語りかけるのは、プロヒーロー兼教員の《プレゼントドマイク》。彼の激励と説明を兼ねたスピーチを、周りの受験生は緊張した顔持ちで聞くのだが、サリ―ノだけが、涼し気だった。
で、いざ。実技試験。本番。
市街地を再現した受験会場で、試験開始の宣言が下されると――。
「はいスタート」
いきなりの開始宣言に面食らい、一瞬動けなくなる受験生。それも一瞬のこと、一斉に動き始める。
ただ。サリーノだけは腕を組んで仁王立ちをしている。
身長が2メートルを超える長身。にじみ出るサリーノの貫禄に気押される周りは、こんな奴に負けてたまるかと奮起するが。
「こんな小手調べ速攻で終わらせるよォ」
サリーノは、お金のサインの手で、両腕をクロス。お金マークの手の隙間が、眩く光り輝いて。
「
無数の光弾となって、四方八方に放たれた。
一発一発が爆発力と貫通性を兼ね備えた致死の光弾。
光弾は、建物を貫いて、サリーノの認識範囲内の仮想敵ロボットを瞬殺し尽くした。
ちなみに言うと、サリーノは目と視神経の一部を光と繋ぐことで、認識範囲を各段に向上させている。周囲を飛び回る光を直接視レーダーの真似事をする。現在の視認可能距離は200メートル、認識範囲は1キロに及ぶ。
とりあえず、手加減と他の受験生への配慮もかねて、200メートルの範囲内に収めといた。
「……! な、」
圧倒的な蹂躙劇に為す術がない。
「あんまし、壊しすぎるのは可哀想だと思って手加減したけど……アンタ等一体いつまで呆っと突っ立ってるおつもりなんでぇ~?」
60体。
サリーノはそうつぶやく。
「あと何体お人形さんが残ってるのか知らねえけど、このままじゃ俺っちの独り勝ちになっちまう。全く強すぎるのは辛いねェ。同級生がゼロ人になるなんて」
鼻歌を歌いながら、サリーノはポケットに手を突っ込み歩く。
サリーノは、指揮棒を振るうように指を振るう。指を振るう度に、指の先からビームが飛び出し、そして仮想敵ロボットに命中、爆散し機能停止に追い込むのだ。
「うそだろ……デタラメすぎる」
「て、おい。このままじゃ、全部やられちまう」
我に返った受験生たちが、奮起して駆け出すのだった。
※※
『噂以上の”個性”だ。ひょっとしらら最強の”個性”なんじゃないのか?』
『特注のロボットを受注して正解だったわね。やり過ぎちゃったかなと心配したけれど、杞憂だったわ』
『他の受験生には悪いが、試練と思って諦めてもらおう』
「「「うわあああああ!!」」」
超巨大なロボットが二体。同時に解き放たれて、悲鳴がそこかしこから上がる。
ただ、サリーノだけは、態度が違った。
まるで怯えていない。サングラスを指でくいっと上げてから。
「お~怖いねェ~。俺っち以外に死人が出てもお構いなしかいィ~? 正義の味方ってのは辛いねェ」
お台場にある巨大ガン〇ムを見た観光客のノリで、サリーノは感想を呟く。
どんなに図体が大きくても、サリーノがピカピカの光人間である限り、傷の負いようがないのだから、サリーノはのほほんとした気分で、ロボットを見上げる。
「こんな巨大なロボットを二体も……お金持ってるねェ~」
超巨大ロボットが拳を振り下ろす先
その先には――。
「あれっれェ? こいつぁいけねェ!」
サリーノは次の瞬間。光に体を変えて。
一条の光線が、空間を駆ける。
振り下ろされる拳の着地点で、サリーノは実体化する。そして、女の子を抱き抱えると、拳が地面に触れる前に逃げる。
「俺っちの前で女の子を傷つけされるわけにはいかないからねェ~」
「な、なんで私のこと」
「お嬢ちゃん、危ないからそこにいなよォ~」
巨大ロボットが、そこらへんで暴れているというのに。
雄英高校の実技試験は一向に終わる気配を見せない。ということは、いまだ終了条件を満たしていないということ。
若葉色のボブカットの少女に、優し気に微笑むと、サリーノは、サリーノを見下す超巨大ロボットを睥睨する。
戦車の装甲の様に分厚い特別仕様の、超巨大ロボット。
中指と人差し指をくっつけ、手でピストルを形作ると、それを超巨大ロボットに向ける。
「倒さないと、試験は終わらないっぽいねェ~。俺っちが捻りつぶすとするよォ」
光の粒子が、指先に集まり、渦巻く。
そして。
「小手調べといくよぉ〜、
極大のビームが、極光と共に放たれる。
眩い光が視界を覆い尽くし、膨大な光量の温もりが、ひしひしと肌に感じる。
壁を貫く、貫通特化のビーム攻撃。だが、果たして、それを受けた超巨大ロボットは。
「おおぉ~こいつぁ驚いたねェ~。ちゃんと本気だったのに」
水蒸気の霧が晴れると、そこには、装甲が赤く染まり熱を放つも、壊れていない筐体がそこにはいた。
「試験内容を公平にするためだろうけど……いくらなんでもやり過ぎだよねェ~」