しろめし修行僧・究極TKGでセンターを狙え!/小説 作:ドラ麦茶
≪――ふーん。その娘も、かなりあせってるんだろうね≫
「そうなんだよ。もう、完全に周りが見えなくなってる。あれじゃあ、まともなTKGは作れないかもしれない」
どうにかえみりを休ませたたくあんは、父親が用意してくれた寝室で、
≪それにしても、TKGか……いろんなアレンジができるから、かなり難しいよね≫そう言って、ぶりあんは通話しながら食べていたどんぶりの中を見せた。≪そういえば、これも、ある意味ではTKGなのかな≫
どんぶりの中は、一面黄金色の錦糸卵でおおわれている。ぶりあんが箸で錦糸卵をどけると、その下に大トロに鯛にアワビに伊勢エビなどの海鮮が敷き詰められていた。恐らく一杯数万円はする海鮮丼だ。
ぶりあんはたくあんとは宗派が違うため、修行中に『一日一膳』や『一椀一品』の制約は無い。御曹司の上に顔も心もイケメンという非の打ち所のない彼は、訪問先で少しほほ笑むだけで、
モニターに映し出された贅を極めた海鮮丼を見て、ごくりと喉を鳴らすたくあん。一椀一品が課せられたたくあんには決して食べることができないものだ(それ以前に、たくあんが街でほほ笑んだところでせいぜいメザシ一匹貰うのが関の山であるが)。せめて気分だけでも、と思い、たくあんはアワビや伊勢海老を頬張る自分の姿を思い描く。
だが、その瞬間、口の中に消毒液と歯磨き粉を混ぜたような苦味が広がった。
「あ……ニガイ……ニガイニガイ……」たくあんは苦味を追い出そうと舌を出すが、苦味は広がるばかりだ。「これ父さんだ。絶対父さんだ」
たくあんの父・こしあんは、たくあんが修行中の禁を破ると、すぐに呪詛を飛ばしてくる。その呪詛とは、たくあんの口の中にリモートで不快な味を広げるというものだ。恐らくこれはうがい薬だ。しかし、実際に海鮮丼を食べたわけではなくただ想像しただけなのに、それでもアウトとは……厳しいにもほどがある。
「……まったく、無茶苦茶だよ父さんは」
ようやく口の中の苦味が治まり、たくあんはぶりあんに愚痴を言った。
≪いや、おじさんは、たくあん君に立派な跡継ぎになってほしいんだよ≫と、ぶりあんが言う。≪この前も電話で話したけど、たくあん君のことお願いしますって、何度も頼まれたし。たくあん君のこと、すごく心配してるみたいだった≫
「父さんが……?」
単なる嫌がらせで呪詛を飛ばしてくるのかと思っていたが、父にそんな面があったとは知らなかった。厳しい父ではあるが、それも、愛の形なのかもしれない。
「父の愛の形、か……」
たくあんは、まだ少しだけ口の中に残る苦味を噛みしめながら、ふと、えみりの父のことを思い浮かべた。