しろめし修行僧・究極TKGでセンターを狙え!/小説 作:ドラ麦茶
翌朝。
たくあんが六時に店舗へ行くと、えみりは先に来ていた。テーブル席に着き、試作品を書き記したノートを広げ、頭を抱えている。
「おはようございます、えみりさん。昨日はよく眠れましたか?」
たくあんは朝の挨拶をしたが、えみりは「眠れるわけないでしょ、このままじゃまた選抜落ちで引退なのに」と、冷たく言い放った。そして、顔を上げることもなく、「早くみんなが喜ぶTKGつくらないと。みんなが喜ぶTKG……」と、またぶつぶつとつぶやく。朝の挨拶さえ無い。
「サーモンとアボカドはもうダメだから、候補は、ネギ塩とキノコとステーキと大トロと……あ、でも、大トロは1位の娘が使ってるからダメか。ステーキも、これじゃあステーキ丼になっちゃうからアウトだし、かといって、ネギ塩とキノコじゃ決め手に欠ける……ああ! もう、一体どうすればみんなが喜ぶTKGになるの!?」
えみりは拳を握ってテーブルを叩いた後、頭をがしがしと掻きむしった。かなり追い詰められている様子だ。こんな姿は、とてもじゃないが見ていられない。
「えみりさん。いったん、今までのことは忘れましょう」たくあんは、覚悟を決めて言った。
「え?」
「いろいろと制限があり、時間も無い中で、みんなが喜ぶTKGを作りだすのは、無理だと思うんです」
「ちょっと、今さらなに言い出すの? 諦めろって言うの?」
「いえ、そうじゃありません。いまのえみりさんは、ランキングの上位に行くことに囚われ過ぎて、周りが見えなくなっています。一度、初心に帰るべきだと思います」
「初心?」
「はい。みんなが喜ぶTKGではなく、えみりさんが一番喜んでほしい人のためにTKGをつくってみてはどうでしょうか? それなら、迷いなく作れるのではないかと思うんです」
「なに言ってるの? あたしが一番喜んでほしいのは、ファンのみんなに決まってるでしょ。ファンのみんなが応援してくれるから、あたしはアイドルでいられる。だから、ファンのみんなに喜んでもらうために――」
「えみりさん」たくあんは、えみりの言葉を遮り、そして続ける。「私は、アイドルのことは詳しくありません。しかし、アイドルの語源は『偶像』。神仏をかたどった像で、宗教とも繋がりがあります。私の宗派には『まずは身近な人を愛せよ』という教えがあります。すぐ近くの人を愛することができない者に、多くの人を幸せにすることなどできない、という意味が込められています」
「身近な人……」えみりは、探るような目をたくあんに向けた。「ひょっとして、お父さんのこと言ってる?」
「はい――見てください」
たくあんは片手で店内を示した。お店のいたるところに、えみりの応援グッズが飾られている。
「これが何? ぜんぶ、あたしが飾り付けしたものだけど?」
「確かに、飾りつけをしたのはえみりさんです。でも、昨夜お父様から聞きました。これらの手作りグッズを作ったのは、お父様だと」
「確かに、そうだけど……」
「えみりさん。お父様は、口ではあんな風におっしゃってますが、心の中では、誰よりもえみりさんを応援しているはずです。そうでなければ、こんな風にお店に飾りつけすることを許したり、まして、一週間もお店を閉めたりしませんよ」
「それは、そうかもしれないけど」
「それに、えみりさんだって、お父様に心配をかけたくないから、たま5入りを目指しているのでしょう? だったら、まず誰よりも、お父様に喜んでもらえるTKGを作るべきです」
たくあんの言葉に、えみりはもう一度店内を見回した。店内に飾られた、ポスター、等身大パネル、タオル、うちわ、サイリウムなどのえみりグッズ、そのひとつひとつに、えみりの父の愛が込められている。このお店は、娘に対する父の愛の形だ。
そして。
えみりは、その愛を感じ取ることができる人のはずだ――たくあんはそう信じている。
ゆっくりと時間をかけ、えみりは店内を見回した。
そして。
「あ――」
と、声を上げた。
その目の先には、オススメメニューの写真がある。
それを見つめるえみりの顔から、焦りやら嫉妬やらの負の感情が流れ落ちた。