主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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十一話 意思と救い

 

 

「また、会ったね」

 

息を呑むほど美しい容姿をした少女は微笑みかける。ラグナは混乱した頭で、目の前の少女のことを考えた。

 

アイズ・ヴァレンシュタイン。言わなくてもわかる。ダンまち世界のメインヒロインだ。二つ名は【剣姫】と世界中でも知られている有名冒険者。

 

まるで王女のような容姿は男冒険者にも女冒険者にも人気だ。そんな彼女に話しかけられている。それだけで周りの冒険者からは嫉妬の炎で殺されそうだった。

 

「あー、あの時助けてくれてありがとうございます……」

 

「ううん。あれは私達の責任だから、ごめんね」

 

普段無口のアイズが喋り掛けに行った少年に【ロキ・ファミリア】の視線が集まる。それを肌で感じたラグナは肩を震わせた。物凄く逃げたくなる気持ちを抑える。満面の笑みの少女を見て溜息を吐きそうになった。

 

「おー。お前がドチビの子か!」

 

赤髪の女神ロキは面白い玩具を見つけたとばかりに笑顔を見せる。ラグナは軽く頭を下げて会釈する。都市最大派閥の主神は舐め回すように顔を見る。そんなロキの行動にラグナは目を丸くする。

 

「なかなか、可愛い顔しとるやん」

 

「ど、どうも……?」

 

初めて言われた言葉に更に困惑する。気に入られたとは違う感じ。やっぱり玩具としか見られていなそうだ。

 

「君が……そうか。今回のダンジョンの件すまなかった」

 

「私からも謝ろう」

 

「いやいやいや!謝らないで大丈夫ですから!」

 

ラグナは頭を下げる【ロキ・ファミリア】の団長と副団長に目を剥く。この二人は正に英雄のような存在だ。そんな彼等に頭を下げられると必然的に周りからの刺すような視線を向けられる。

 

容姿端麗な二人は、焦っているラグナを見て頭を上げる。そして近くにいた狼人(ウェアウルフ)女戦士(アマゾネス)が近づいてくる。

 

「お前は……あの時の冒険者か!」

 

「ミノタウロスを逃して、ごめんなさいね」

 

「まさか、逃げるなんて思わなかったよねー」

 

鋭い目つきのベート・ローガ。どこか露出の激しい服をしているティオナとティオネ。いつの間にか逃げる場所がなくなっていた。

 

アイズは隣の席で相変わらず無言で視線を向けてくる。まるで石化したように表現も瞬きもしない。それを必死に無視しながら、どうやって帰るか考えていた。

 

「──お前、冒険者になって一週間も経ってないんだってな」

 

そんな時。目の前にいる狼人(ウェアウルフ)は嘲笑うように話した。それに酒場の空気が一変する。

 

その瞳はラグナにぶつけられている。隣にいるアイズはベートから守るように、手をラグナの前に出す。

 

「自分が犠牲になるつもりで、女を守った気分はどうだ?」

 

「っ!?」

 

「最高だったか?その女を救って満足したか?」

 

ベートの言葉にラグナは沈黙する。彼の言っていることは間違ってない。ラグナは原作知識として知っていた。あの時のミノタウロスは【ロキ・ファミリア】が失敗して逃した怪物だと。

 

ラグナの頭の中には常にアイズの姿があった。誰よりも強い主人公が憧れる冒険者。絶対に助けてくれる、そう確信してたからラグナは足止めをする事が出来た。

 

じゃあ知らなかったら。きっと逃げていた。自分でも笑えるほどに結論がすぐに出た。ミノタウロスに勝てるわけがない。そう思って逃げ出したはずだ。

 

「やめろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の失態だ」

 

リヴェリアがベートを止める。リヴェリアの言うことは間違っていない。命賭けで少女を救った。それは褒められるべきことだ。それは【ロキ・ファミリア】の団員達もそう思った。

 

「駆け出しの冒険者が、ミノタウロスから逃げるなんて当たり前でしょ?この馬鹿狼は何言ってんのよ」

 

「お前は黙ってろ」

 

「──は?」

 

今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気。肌に電気が纏ってるような、圧力に他の冒険者は恐れて離れていく。

 

ラグナは己の不甲斐なさに笑っていた。あの時はベルを逃すのに集中した。そして逃した後は安心した。あとは【ロキ・ファミリア】が助けてくれるって。

 

これからの戦いに救いなんてない。地獄みたいな戦場に足を踏み入れる覚悟をしたはずだ。なのに無意識のうちに助けて欲しいと願った。

 

世界を救うために戦うと決めた人間の思考じゃない。

 

「お前は他人に救ってもらおうとした軟弱者だ。そんなの冒険者とは呼ばねえ!」

 

ベートの言葉は核心を突いていた。実際ラグナはその言葉を聞いて納得してしまった。自分の意思で行動したのは、ベルを投げ飛ばした時だけだ。それ以降は救ってもらうことだけ考えて行動していた。

 

そんな覚悟じゃ辿り着けるわけがないのに。怒りで震える。ゼウスの言葉を思い出す。最後までゼウスは言っていた。逃げるのも戦うのも、全て自分の意思だと。

 

ミノタウロスの時のラグナは違った。意思なんてないのも同然だった。前世の知識に操られて、意思を捨てていた。

 

これはラグナ()の物語だ。自分の意思を貫かなければ、英雄なんて超えられない…!

 

手から血が滲むほど握る。漆黒の瞳はベートの鋭い視線とぶつかり合う。ラグナはお金の入った小袋を置いて、外に出た。

 

もしかしたら原作のベルもこんな気持ちだったのかもしれない。無力感と情け無さで壊れてしまいそうだった。

 

暗くなった都市を走る。目指す場所は決まっている。

 

「強く……なってやる」

 

曇り空を貫く塔を目指して、少年は走る。もう一度覚悟を決めよう。あの儚い雪のような少女のために、世界で暮らす人々のために。

 

呆気なく散ってもいい。ただ最後まで自分の意思で戦い抜こう。少年はもう一度己を奮い立たせるように、拳を握った。

 

⬛︎

 

アイズは気付いたら付いて来ていた。黒髪の少年は全速力で都市を走っている。それを余裕で捉えながらアイズは付いていく。

 

唐突にベートが罵倒を始めた時は驚いた。レベル1の冒険者がミノタウロスに襲われて助けを求めるのは当たり前だ。でもベートはそれを許さないようだった。

 

今はそんなことはどうでもいいと頭を振り払う。問題は少年の方だ。武器も防具も装備していない。そんな装備でダンジョンに入って行った。

 

危険すぎる行為にアイズは瞠目する。新人冒険者が防具も無しにダンジョンなんて自殺しに行っているようなものだ。

 

危ないと思いアイズも階段を降りていく。

 

長い螺旋階段を降りた先にダンジョンの一階層は存在する。ダンジョンと地上では空気が違う。怪物の存在するダンジョンは少しだけ空気が重かった。

 

少年は疾走を止まなかった。出会った怪物に拳で攻撃していく。殴り、蹴りはあまり慣れていないのだろう。怪物が2体、3体現れると当然後ろを取られる。

 

──助けないと。

 

そう思うも少年は回避出来た。身体に染み付いているようだった。それは生半可な修行では身に付かないことだ。数に囲まれて背後を取られれば一級の冒険者でも危ない。

 

回避した後、拳で怪物を潰す。どこか鬼気迫る表情にアイズは過去の自分を見た。

 

【人形姫】そう言われた時代のアイズは荒れていた。誰も助けてくれないから、強くなるために剣を取った。

 

一刻も早く強くなるために剣を握った。英雄なんて幻想を振り払って剣を振った。怪物を殺して、殺して、殺して。怒りと憎悪のままに戦った。

 

目の前の少年の瞳は怒っていた。弱い自分に、情けない自分を憎んでいた。

 

「私と、一緒……」

 

どうして強くなろうとするのだろう。アイズは昔から変わらない。『黒竜』を殺すため。怪物を根絶やしにするため。でも彼はどうだろう。

 

それはもしかしたらあの時の、白髪の少女のためなのかもしれない。そう思うとアイズは黒い炎が心を焼いたことに気付く。

 

熱く壊れてしまいそうなほどに苦しい。羨望、嫉妬、妬み、感情が溢れかえる。幼いアイズは感情を総べる方法を知らない。ずっとダンジョンで戦っていた少女には嫉妬の感情なんて知らない。

 

復讐姫(スキル)】を使ってる時とは違う感覚。それにアイズは溺れてしまう。

 

「……羨ましい、羨ましい、羨ましい!」

 

だから燃え上がる炎は、少女を襲おうとした怪物に向かう。回し蹴りは凄まじい轟音を響かせて、怪物とダンジョンを傷付ける。

 

怪物は断末魔を残すことなく消える。アイズは金色に輝いていた瞳を漆黒に変える。

 

「私には、私にはいなかった!なのに……なのに!」

 

今にも泣きそうな表現で怪物を殺す。夜のダンジョンは静寂に支配されていて、アイズの声はよく響いた。拳からは皮膚が剥がれて血が滴り落ちる。

 

その痛みでようやくアイズは落ち着いた。興奮は少しずつ収まっていく。アイズは誰かが近づいてくる足音に気づいた。

 

「──大丈夫か?」

 

ダンジョンの奥から少年が現れる。アイズが放った轟音を聞いたのだろう。壁に空いた穴を見て少年は目を剥いていた。

 

それを空けたアイズの腕を見て、更に理解出来ないように震える。少年はアイズに近づいて、シャツの端を千切った。

 

それをアイズの手に巻いて応急処置をする。あとは回復薬を使えば簡単に治るだろう。巻かれた白色の布は、少しずつ赤色に染まっていく。

 

「あ、ありがとう……」

 

アイズは嬉しくなった。彼は心配して来てくれたのだ。そう思うと心はお風呂に浸かってるみたいに暖かくなる。幼いアイズは感情を表に出すことはできない。相変わらず無表情のアイズに少年は困ったように笑った。

 

「というか、なんでダンジョンに?【ロキ・ファミリア】の宴会はどうしたんだ?」

 

「あっ」

 

今更黙って出て行ったことに気付く。きっと心配で宴会どころではないだろう。そんな少女の焦りを見た少年は大きく溜息を吐いた。

 

──呆れられた…!

 

アイズは一瞬だけ悲痛に表情を歪めた。

 

「それじゃあ、俺は奥に進む。さっさと帰ったほうがいいぞ」

 

「ま、待って!」

 

黒髪の少年はアイズの声を聞いて立ち止まる。アイズはどうしても聞きたかったことがある。

 

「──ラグナ、くんは。どうして強くなりたいの?」

 

アイズは恐怖を感じながらラグナに聞いた。アイズの頭の中にあるのは白髪の少女だった。今まで見たことのないような綺麗な髪色。どこか庇護欲を擽られそうな可愛い容姿。

 

彼女のためだったらどうしよう。頭の中で幼いアイズが慌てている。ぎゅっと目を瞑りアイズは返答を待った。

 

そんなアイズの言葉にラグナは思い悩む。一言で言えば白髪の少女のためだった。ベルのことを話そうとしてラグナは嫌な予感を感じた。

 

それを言ってしまえば、取り返しが付かないことが起きそうだ。何の根拠もないけど、そんな気がした。

 

だからラグナは頭に浮かんだことを話す。

 

「黒竜を倒すため」

 

「────!」

 

「まあ、遠い目標だけどな」

 

ラグナは改めて遠い目標に苦笑しながら、ダンジョンの奥に進んでいく。アイズはふと立ち上がった。

 

嬉しいと思う気持ちと悲しい気持ち。それが混ざり合ってアイズは苦しくなった。彼は自分と同じだった。彼は自分の英雄になりえた人だった。

 

でももう遅い。心の中にいる幼いアイズは泣いていた。どうしてもっと早く助けてくれなかったと。子供のような我儘を言っている。

 

もうアイズは強い。オラリオで彼女に勝てる冒険者はほとんどいない。覚悟も決意も、普通の冒険者とは訳が違う。

 

だから彼と並べないのが寂しくて、悲しくて。でも嬉しい。一人ぼっちだと思っていた世界には、一人だけいたのだ。

 

「ラグナくん……ううん、()()()

 

アイズは名前を呼んだ。あの少年の名前を頭に焼き付ける。

 

「私と同じ人」

 

手を包む白い布。アイズの血で徐々に紅に染まっていく。その痛みをアイズは大事そうに撫でる。

 

「早く強くなって──私を」

 

───助けて。

 

 




異端児編が楽しみだなぁ……(白目)

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