主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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十二話 師匠

 

 

「何だったんだ、あれ」

 

ダンジョンの三階層。敵が弱く数も多くない浅い場所は防具と剣を持ってないラグナが行けるギリギリのラインだ。もちろんリスクを冒して五階層以降に潜ることもできる。

 

流石に剣がないと無傷で戦えるとは考えていない。回復薬も買えないほどお金がない【ヘスティア・ファミリア】は怪我なんてしたら一気に借金する羽目になるかもしれない。だから浅い階層で戦っていた。

 

ラグナが思い出すのは金髪の少女のことだ。数分前に轟音が鼓膜を揺らした。その音に向かって見ると、アイズが壁を殴っていた。

 

意味が分からない行動をしている少女は暗い迷宮のせいなのか、昏い表情をしていた。でもそれは一瞬のことだったので気のせいなのだろう。

 

とはいえ原作とは違う行動をしている少女に、ラグナは動揺しかけた。なんでダンジョンにいるんだって思った。それを考えると、やはりミノタウロスのことが関係しているのだろう。

 

おそらく責任を感じて、心配してダンジョンに付いてきた。そう考えるほうが自然だろう。少しだけ申し訳ない気持ちになった。彼女も遠征帰りで疲れているだろうに。ラグナは敵を殴り殺して、ゆっくりと息を吐いた。

 

「(ベートさんが、発破してくれてよかった)」

 

豊穣の女主人の出来事を思い出す。ベートがラグナに仕掛けた罵倒。それは的確にラグナの背中を押した。

 

あれがなかったら、英雄を超えてやるなんて思えなかった。原作で凄まじい活躍をしている英雄達。それには【ロキ・ファミリア】も含まれる。

 

あの一級冒険者より強くならなければ、黒竜討伐もベルの治療も全てできない。改めて認識を改める。『成長スキル』のないラグナが戦って【ランクアップ】するためには、中層を目指す必要がある。

 

熟練度だって、おそらく中途半端にしか増えていない。早く強くなりたい想いは誰にも負けていない。でも【スキル】は素質が絶対条件。ベルのように都合良く【スキル】を獲得出来る気はしなかった。

 

⬛︎

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院。清潔に掃除された部屋は、魔石灯に照らされて美しく映えている。製薬室と呼ばれる場所に一人の老神がいた。ディアンケヒトと呼ばれる医神だ。

 

彼は机に並べられている薬の材料で、薬を複数作っていた。薬の材料には『レアドロップ』と呼ばれる怪物の素材もある。これを冒険者が売ったなら、簡単に50万ヴァリスは売れるだろう。

 

そんな高級な素材を使って、製薬室に籠ること二日。成果は芳しくなかった。今日は試薬品をベルに試したが。何の反応もなかった。色々と試していくうちにディアンケヒトは思い出していく。過去にメーテリアに作った薬の数々を。

 

記憶の中に一つだけメーテリアに効きそうな物があったことを思い出す。その薬を飲んだ時だけメーテリアは楽そうに呼吸をした。

 

でももう一度作ろうとも素材がない。その珍しい素材は、十階層の霧が出る階層にしか出現しない『スライム』のドロップ品だった。

 

過去に冒険者依頼を出したことがあったが、霧のせいで見えない。または小さすぎて追えない。あるいは速すぎて倒せない。そんな感じで徐々に存在を忘れられていた怪物。

 

「あれがあれば、もしかしたら……」

 

このことは黒髪の少年に伝えるべきだろう。ダンジョンに潜る彼なら、もしかしたら素材を持ってくるかもしれない。

 

ディアンケヒトは髭を触りながら、更に調合を始めた。

 

 

⬛︎

 

翌日のことである。ラグナはお金を稼ぐためにダンジョンに向かおうとしていた。ホームには誰もいない。少しだけ寂しげな静寂にヘスティアとベルの顔を思い出す。どこに行ったのだろう。いや、原作の知識の大事な部分は覚えている。

 

でも一人一人の行動とか覚えてはいない。流石に17年間生きてきて、忘れてしまうことは仕方ないだろう。そのため原作知識は完璧じゃない。その時の状況に応じて最適解を叩き出さなければならない。

 

既に原作はある程度変わっているだろう。予想外のことが起きても動揺しないように頑張ろう。そう決意したラグナはダンジョンに向かう準備をして、教会の外に出て走り出そうとした。

 

「え?」

 

すると奥から怠そうに歩いてくるのは【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガだった。昨日見た人物にラグナの脳は思考を停止する。

 

昨日よりも威圧感のある表情に身体が震える。怪物と相対するより怖いかもしれない。そう思っていると、ベートはラグナの前に立ち瞳を覗き込んでくる。

 

「──強くなりたいか?」

 

「強くなりたい、ですけど……どういう────!」

 

「ならさっさと付いてこい」

 

有無を言わせない。そんな雰囲気を目の前の青年には感じた。ラグナは唐突すぎて理解できない。それでも必死に背中を追って歩いた。結構な距離を歩いていると『黄昏の館』。【ロキ・ファミリア】のホームに到着した。

 

門が大きく開く。いくら掛かったのか想像も出来ないほどのホームにラグナは目を回す。そんなラグナに一瞥もせずにベートは奥に進んでいく。そして一つの広間に入った。

 

恐る恐る入ると、そこには【ロキ・ファミリア】の幹部達が勢揃いしていた。

 

「よっ、ラグナきゅん!」

 

「えーとロキ様」

 

「昨日はすまんかったな。うちのベートが迷惑掛けて」

 

「いえ本当のことだったので」

 

椅子に座り、ロキは手を上げながらラグナに会釈する。それに倣うようにラグナも頭を下げた。

 

なんでここに連れて来られたのだろう。昨日のことについての謝罪ならば、ラグナは受け取るつもりはない。あれはラグナの背中を押してくれた、必要な言葉だった。

 

「実はな、ミノタウロスの件でドチビから頼まれてん。ラグナきゅんに修行を付けてくれってな!」

 

「修行…?え、いいんですか!」

 

「し・か・も!指名制や、この中から好きに師匠選んだってくれや!」

 

ヘスティアに心の中で感謝して、ラグナは椅子に座ってる一級冒険者を見た。妙に胸を張ってこちらを見ている【剣姫】。あまり興味が無さそうな【怒蛇(ヨルムガンド)】。少し眠そうな【大切断(アマゾン)】。

 

重傑(エルガルム)】に【九魔姫(ナインヘル)】そして【勇者(ブレイバー)】。

 

都市最大派閥の一級冒険者達にラグナは瞠目する。誰に戦いを教えてもらいたいか。剣を教わるなら金髪の少女アイズだろう。彼女の怪物を殺す技術は凄まじい。それを少しでも教わったなら力になる。

 

魔法などを使えないラグナはリヴェリアを選べない。ティオナ、ティオネの姉妹も殴りなど超接近戦に強い。正に女戦士といったところか。

 

ガレスは力の種族と呼ばれるドワーフ。その力は計り知れない。でも教わるのは違う。

 

フィンは技術、知識など凄まじい。指揮をするつもりはないので、少し違う。

 

やっぱり一人しかいないとラグナは思う。後ろを振り返って、鋭い瞳のベートを見つめた。

 

「ベートさんで、お願いします!」

 

「……チッ」

 

ベートは舌打ちして不機嫌そうに睨んでくる。それでもラグナはベートしかあり得ないと考えていた。格闘能力を鍛えたいというのもあるが。本気でボコボコにしてくれる冒険者は、ベートだけだった。

 

「アンタ、大丈夫?ベートに殺されるわよ」

 

「大丈夫です。なんとか、頑張ります」

 

「まあ、私達は教えるの面倒くさいと思ってたからいいけど。ところで、アイズに何かした?」

 

「……何かしたんでしょうか」

 

金髪の少女は美しい髪が逆立ちしそうなほど怒っていた。無言でベートを睨みつけている。ベートは身に覚えのない殺意に困惑している。

 

アイズの異常に流石に気づき始める。全員が初めて見たアイズの姿。怪物に怒ってる姿とロキのセクハラに怒っているところは見たことがある。だが、こんな風に憤怒を露わにしているのは珍しかった。

 

「ラグナきゅんは、なんでベートを選んだん?」

 

「ベートさんなら、俺を容赦無くボコボコにしてくれそうだから」

 

「ドMって、ことか!」

 

「いや、違う!」

 

ロキは驚いたように目を見開いて叫ぶ。その風評被害にラグナは初めて声を荒げた。だが周りの【ロキ・ファミリア】の幹部達は全員、納得したように頷いている。

 

昨日の罵倒も嬉しくなって逃走したのだろう。そんな的外れな考察をされている気がする。そもそもラグナきゅんってなんだ。無視していたが、そんな風に呼ばれたのは初めてだ。

 

「わ、私も、ラグナをボコボコに出来る!」

 

「え、えぇ……」

 

「ベートさんじゃなくて、私を選んで欲しい!」

 

「ドS美少女アイズたん来たー!!」

 

混沌(カオス)に包まれた室内。団長と副団長二人は遠い目をしていたそうだ。結局、アイズとベートが交互に修行を付けることになった。なんとも贅沢だけど、どこか命の危険を感じるのは仕方ないことだろう。

 

 


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