主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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十三話 修行

 

 

【ロキ・ファミリア】の中庭。そこは空気が静電気に触れたような緊張感が走っていた。今にも人を殺しそうなほど殺意を目にしたベート、それに対してラグナは固唾を飲んだ。

 

ラグナは距離を詰めて殴り掛かる。左腕でジャブを繰り出した、それを簡単に避けてベートは軽く蹴り飛ばす。第一級冒険者の蹴りは鋭く重い。ラグナは内臓が潰されたような感覚に陥って、悶えている。

 

朝何か食べていたら吐いていただろう。それほどの衝撃を容赦無く与える。観戦している団員達は身を震わせた。

 

「殺す気で来い。そんなんじゃ、ゴブリンにも勝てねえぞ!」

 

「は、い!」

 

そこからは地獄だった。避けることに専念しているラグナの動きを先読みして殴り続ける。一発も躱すことが出来ない。それほどまでに速い拳は普通の冒険者の意思を折る。

 

鍛錬なんて物じゃない。痛みで徹底的に教えていく悪魔のような教育。それでも心を折らずに立ち向かっていく姿は凄まじいの一言だった。

 

第一級冒険者には効かないだろう一撃を必死に繰り出す。恐怖心と焦りと怒りで、頭の中は沸騰しているのかと思うほど熱かった。

 

ラグナが繰り出す攻撃は全て躱されるか、弾かれて反撃の一手にされる。ベートは容赦無くラグナの腹を殴り飛ばす。

 

「あああああ!!」

 

「うるせえ、さっさと立ち上がれ」

 

痛みに苦しむ少年を見ても、ベートは表情一つ変えない。側から見たら残酷な光景だろう。第一級冒険者と新人冒険者。それは大人と赤子のような力の差がある。

 

ベートは痛みを必死に我慢して、脂汗を吹いている少年を睨む。この程度の痛みなら耐えられるだろう。この程度に耐えれないなら冒険者なんて辞めろ。視線で伝える。

 

それを受け取った少年は必死に立ち上がる。顔を涙と血で濡らして、震えているのがわかる。だが、目が死んでいない。回復薬を飲むと構えを取る。

 

「ハッ、それでいい」

 

目の前の少年はミノタウロスから女を守る根性を見せた。駆け出し冒険者が命を張って助ける。命よりも、その女が少年にとっては大事なのだろう。考えればすぐにわかる話だ。

 

──ならば強くなれ、もっと吠えろ、痛みを力に変えろ。

 

「来い、強くなりてえんだろ?」

 

「ッッはい!」

 

少年は必死の形相で向かってくる。血が流れて冷静な判断を失っている状態で、フェイントを交ぜてくる。第一級冒険者としての経験は、簡単にフェイントを見切れる。

 

それでも同じレベル1だったなら。ベートは避けることができなかったかもしれない。目の前の少年はそれくらい強い。幼い頃から訓練していたのだろう。掌には剣を持った者の努力の証が刻みついていた。

 

【ステイタス】は貧弱なのだろう。新人冒険者なのだから当たり前だが。それも時間で解決するだろう。

 

何より格上と戦って得る経験値は凄まじい。ベートも容赦なく攻撃しているため、一気に伸びるのは間違いないだろう。

 

やがて数時間。中庭が夥しい量の血に濡れた。拳と蹴りだけで、ここまで出血するなんてことはないだろう。

 

まるで剣で斬られたような痕跡に、【ロキ・ファミリア】の人間は顔面蒼白する。ここまでされるものなのか。修行なんて物じゃ到底ない。改めてベートには心がないと感じる団員達だった。

 

熾烈な鍛錬を見ていたアイズは表情を歪ませる。回復薬は体を回復させることはできる。しかし、失った血は補給できない。

 

そんな状態でアイズと訓練できるはずもなく。今日のところは訓練を終わることになった。

 

ボロボロの身体に外傷はない。それでも疲れと貧血で身体を動かすことすらできないくらい辛い。貧血を回復させるためには食事を摂るしかない。そのため【ロキ・ファミリア】の食堂で、ご飯をご馳走になった。

 

普通、他の派閥の人間がホームに入ることなど許さない。だが流石にあの死闘を見てしまえば、ラグナを認めてしまうのも無理はない。普段のラグナなら遠慮しただろうが。

 

零細の【ファミリア】で貧血を治せるほど食べられるわけがない。ここは遠慮なんてしないで、口に詰め込んでいった。そんな食事をして、ようやく動けるようになった後。ラグナはホームに帰宅した。

 

 

⬛︎

 

「頼む、ラグナ君に武器を作ってくれ!」

 

ヘスティアは土下座していた。彼女の神友のタケミカヅチから教わった、最終奥義。その土下座を見て、赤髪の女神ヘファイストスは大きな溜息を吐く。

 

一日前に鍛治場にやってきたヘスティアはずっと土下座をしていた。その神友の姿にヘファイストスは、会わなければ良かったと後悔し始めていた。

 

【ファミリア】を作ったという手紙を貰い。彼女にもようやく眷属が出来たことを喜んだ。下界に降りてきて間も無い彼女と契りを交わす人間は中々いないだろう。

 

冒険者志望なら、元から探索系として活躍しているファミリアに入るのが普通だ。知識も経験もお金も足りていない新人ならば、有名なファミリアに入りたいと思うことが普通。

 

手紙に書かれていた眷属の名前はラグナとベル・クラネル。出会いから何まで手紙に書かれていて。文字越しでもわかるぐらいに喜んでいた。

 

天界に降りた頃。彼女はヘファイストスのところに転がり込んで、堕落の日々を過ごしていた。眷属なんていつでも出来ると舐め腐っていた。そんな神友の姿に怒って、ようやく成長してくれたのだ。

 

そんな成長した彼女なら会ってもいいと、ヘファイストスは思って鍛治場に招待した。出会った瞬間に土下座されたヘファイストスは、意味が分からないと困惑することになった。

 

「貴方の子供、ラグナだっけ?初心者に私の作った武器は、新人冒険者に扱えると思えない。その子の成長にもならない。だから断るわ」

 

「そこをなんとか!」

 

「あのねぇ。何回も言うけど、その子の成長にもならない───」

 

ヘファイストスは目を剥いた。天界でも下界でも、グータラしていた女神が。決意に染まった瞳をしている。その瞳からは彼女の司る聖火を彷彿とさせる。

 

「あの子は、これから修羅の道を走る。自分の全てを捨てる覚悟で、前に進もうとしている!ラグナくんの力になりたい、その道には絶対な武器が必要なんだ!」

 

ヘスティアの言葉は真っ直ぐだった。怠惰な日々を過ごしていた彼女はいない。いるのは眷属のことを思う優しい女神の姿だけが、そこにはあった。

 

ヘファイストスはそこまでする理由が、その眷属にはあるのだろう。それこそ神の打った武器が必要だと思うほどに。

 

断ろうと思っていた。でも目の前の女神を折ることは至難の技だろう。彼女は昔から、根性だけはあった。

 

ヘファイストスは仕方ないと槌を手に取る。

 

「それで、その子が使う武器は?」

 

「作ってくれるのかいっ!?」

 

「ええ、貴方を折るなんて私には出来ないもの」

 

「ありがとう、やっぱり君はボクの最高の神友だよ!」

 

ヘスティアが抱き付いてくる。それに頬を赤くしながらもヘファイストスは使っている武器を聞いた。

 

「剣を作ってくれるかい?」

 

「剣ね、大きさは?」

 

「えーと、普通ぐらいの」

 

その曖昧な注文(オーダー)にヘファイストスは、好きに作らせてもらおうと剣の形を思い浮かべる。

 

ヘファイストスは鍛治神として、様々な武器を作ってきた。その数は億を有に超える。その中でも自信があるのが剣だった。

 

ただの剣なら簡単に打てる。問題は新人冒険者が持っても成長を妨げないような武器。最後までラグナという少年と歩める。そんな武器を作らないといけない。

 

神友に頼まれた武器。生半可な物を作るわけにはいかない。ヘファイストスは久しぶりに感じるプレッシャーを楽しんでいた。

 

「さあ、始めるわよ」

 

 

⬛︎

 

「(剣……誰かに教わってたのかな?)」

 

アイズは黒髪の少年の剣を弾いて思考する。昨日はベートに訓練の時間を全て取られた。そのため今日一日はアイズが剣を教えることになった。弟子なんて初めての経験で、少しだけ楽しみにしていたのだが。

 

ラグナの剣技は既に完成されていた。恩恵にまだ振り回されているが、それでも十分に美しい剣。敵の攻撃を弾いて、反撃の一手を繰り出す。独自の剣技。

 

アイズは剣の鞘、ラグナは【ロキ・ファミリア】の使っていない剣を使用している。数回打ち合うだけで、ラグナの努力が垣間見えてアイズは楽しそうに鍛錬をする。

 

いつも無表情で剣を振っている時とは違う笑顔に【ロキ・ファミリア】の団員達は心を奪われる。それを引き出したのが、余所者というのだから悔しがる者もいる。

 

昨日と違って、ラグナには鋭い視線が集まった。昨日のベートと行った訓練とは全く違う。

 

「(……格闘も上手くなってる。昨日見た時とは違う)」

 

剣を使いながら、回し蹴りなどを入れてくる。昨日観察した蹴りとは比べ物にならないほど鋭い。それはベートの蹴りと似ている物があった。心の中でアイズは頬を膨らます。

 

そんなアイズは昨日の惨状を見て、腕を抜いてしまっていた。ベートによる調教は、見ている側でも恐ろしかった。何より黒髪の少年の意思の強さ。アイズは単純に凄いと思った。

 

でも少年はどこか物足りなさそうだった。昨日の戦闘と比べたら天国のような物だろう。

 

「もっと、速くするよ?」

 

「お願いします!」

 

きっと目の前の少年は満足しないと思った。ダンジョンに籠っていたアイズのように、少年は貪欲に強さを求める。ならば優しさを捨てて、アイズも鬼になろう。

 

「──行くよ」

 

そこからは昨日と変わらない光景が広がった。昨日よりは応戦出来ているラグナだが、それでも単純な技術でボコボコにされる。真剣だったら少年は何百回も死んでいただろう。

 

使っていた鍛錬の剣はボロボロだった。【ロキ・ファミリア】の武器は余り物でも業物だ。それをボロボロにしてしまうほど、鍛錬は厳しいものだった。その剣は使い物にならないと。ラグナは貰えることになった。

 

ミノタウロスの一件で武器が壊れていたためありがたい。そして明日もベートと訓練だと思うと気が遠くなりそうだった。それでも一気に強くなれるなら、どんなことでもしよう。

 

ラグナはホームに帰って、意外と元気な体を酷使してダンジョンに向かった。

 

⬛︎

 

憧れているアイズと、少年の戦いを見て山吹色の少女は思った。

 

───凄い。

 

昨日のベートとの戦いから見ていた。観戦しているこちらの方が痛みを感じそうなほど血が舞う。それを見ていた団員達は目を離せなかった。もしも自分が彼なら挑めるだろうか。

 

無理だと思った。最初の一撃で心折れていたかもしれない。第一級冒険者の攻撃は恐ろしく怖い。一撃でも受けてしまったら、立ち上がる気力を奪う。しかも彼は冒険者になって一週間も経っていない新人冒険者。

 

絶望すると思った。すぐに折れて酒場の時のように逃げ出してしまうだろうと。でも違った、予想を遥かに上回る精神力でベートに喰らいついた。

 

「負けてられません!」

 

そんな姿を見て感化されないわけがない。新人に負けていられるかと団員達も鍛錬に力を入れるようになった。

 

【ロキ・ファミリア】の魔導士レフィーヤ・ウィリディス。彼女の瞳は憧れの金髪の少女ではなく。黒髪の少年ラグナの方を集中して見ていた。

 

その気高い咆哮を耳にして、熱くなった身体を抑えきれないまま。ダンジョンにレフィーヤは向かった。

 

 


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