主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
白髪の少女ベルは、太陽の眩しさに思わず目を瞑った。あまり太陽に当たった経験がないため、ベルは太陽が苦手だった。
病のせいでほとんどの時間を家で過ごしたせいで、吸血鬼のような肌の白さをしている。だが彼女の容姿と相まって、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
先程までいた【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院。
身体の検査と薬の効果を調べるために、治療院で過ごしていた。薬の効果は全くといっていいほど効かなかった。分かったことは普通の薬なんかじゃ、身体を治すことなんて不可能ということだ。
だが10階層には発作を治せるかもしれない材料があるらしい。
ベルは隣で歩いている黒髪の少年ラグナを見る。少年はボロボロだった。服は血に濡れて、表情も元気がない。身体はヨロヨロと病弱のベルより頼りない。
「何かあったの?」
「あぁ……実はな」
彼は覇気のない声色で話し始める。ミノタウロスを仕留め損なった【ロキ・ファミリア】に戦い方を教えてもらっていると。
それを聞いてベルは心配の色を濃くした。第一級冒険者の訓練なんて、想像も付かないほど過酷なのだろう。
でも彼を止めるわけにもいかない。ラグナが逃げずに戦っているなら、その背中を支えよう。もしも助けを求めていたら、ベルは都市最大派閥とでも戦ってみせる。
そんな想いを滾らせながら、ベルとラグナは進んでいく。
「今日はダンジョンは休もう。流石に今の状態じゃ危ないよ」
「だが……お金が……」
「はいはい、さっさとホームに帰るよ」
ベルはラグナの手を取る。石というより岩のような硬さの掌。ベルは彼の努力の証が好きだった。
いつ頃だろう。彼が畑仕事以外のことを始めたのは。最初の頃は誰か分からないほど顔を腫らして帰って来た物だ。
心配するベルとは裏腹に祖父は笑っていたが。そもそもラグナに剣を教えるぐらい、祖父は凄い剣の使い手だったのだろうか。少し不思議に思いながら、故郷のことを思い出して恋しくなる。
都市を歩いて数十分が過ぎる。ベルの体力に気遣いながら歩くラグナ。そんなゆっくりと時間が過ぎる感覚に、ベルは不思議と心を落ち着かせていた。
ふと目の前に少女が現れる。薄鈍色の髪色と瞳をした美少女。どこか人を虜にするような笑みを浮かべる。
「ラグナさん!」
少女はラグナに抱きついた。
「────は?」
ベルの心に炎が点火する。ラグナは少女の抱擁を解いて、距離を取った。それに安心するのも束の間、少女は甘ったるい声でラグナに話しかける。
「ラグナさん、どうして会いにきてくれなかったんですか……」
「え……いや……」
「私、寂しかったんですよ?」
上目遣いでラグナを見て恋人のような言葉を吐く。目の前の少女は隣にいるベルに興味を示さずに、ラグナだけを見ている。
上機嫌だったベルの感情は一気に冷めた。ベルは薄鈍色の少女の前に立つ。身長差から、ベルは見上げる形になった。
そんな修羅場を周りは興味津々に見ていた。白昼堂々と始まりそうな喧嘩に、周りの視線が集まっていく。
「ラグナに近づかないで……!」
「あなた誰ですか?私はとても仲がいいラグナさんと熱い熱い、抱擁を交わしているだけですけど……」
「……僕の名前はベル。ラグナとは家族以上の関係って言ったら分かるかな?君がなんでラグナに抱きついたのか、どうでもいいけど。僕のラグナに近づくのはやめてくれない?」
ベルと少女はお互いに睨み合う。ラグナはそれを見てただ震えるしかなかった。ベルの身体からは般若のような圧倒的な雰囲気を感じる。
その怒りは旅立ちの日にゼウスに怒った時以上のものだった。それに対してニコニコと表情を崩さないシルにも恐怖を感じる。
あのベルの怒りを真正面から受けても、動揺していない。むしろ負けじと睨みを利かせている。
さすがに止めないと。そう思ってラグナはベルの肩を掴んだ。すると近くの酒場から、一人の女性が現れる。
「シル、何をやっているのですか」
翠色の髪色。種族の特徴でもある美しい顔。その店員の服装は酒場でも一度見たことがある。リュー・リオン。彼女はベルの姿を見て目を剥いた。
そしてすぐに戦闘態勢になる。まるで
ラグナは一瞬でベルの前に立って、彼女がベルを傷付けないようにする。
「あなたが、なぜここにいる、アルフィア!」
「……は?」
初めて会った人間から、敵意を持たれたベルは意味が分からないと声を漏らす。ラグナは改めてベルの格好を見る。黒い洋服に、白髪の髪色、瞳の色は紅と灰色。
アルフィアは過去に都市で『大抗争』を引き起こして、冒険者を蹂躙した『最凶』。ベルと同じ魔法を操り、英雄の資格を持った人間を圧倒した英傑。
そんなアルフィアと瓜二つのベル。大抗争を戦い抜いたリューが警戒するのも無理はない話だ。
「人違いしてますよ!よく顔を見てください」
「確かに、髪の色も背丈も違う。瞳の色も紅ではないが……」
それでもあまりにも似ている。アルフィアの血縁者である可能性を、リューは感じ取った。
リューは警戒を解いて、頭を軽く下げる。
「すいません。私の人違いでした」
「……別にいいですけど、その女をさっさと連れていってください」
「シル、ミア母さんが怒っています。急に外へ飛び出して、喧嘩とはいいご身分だと」
「そんなぁ……」
ベルは不機嫌そうにリューに吐いた。リューはミアの伝言をシルに伝えて、彼女と共に酒場に戻ろうとする。
「ラグナさーん!また、来てくださいよー!」
「……また機会があったら」
「約束ですからね!」
シルは酒場に入る直前に振り返って、ラグナに伝える。それを聞いたラグナは溜息混じりに返事をした。
ベルとラグナはまた歩いて【ヘスティア・ファミリア】の本拠地に到着する。不機嫌そうなベルに対して、ラグナは何をしたらいいのか分からなかった。
⬛︎
鍛治神ヘファイストスの鍛治場。魔石灯にぼんやりと照らされた部屋は熱気に包まれていた。剣を打ち始めて、二日ほどになる。ヘファイストス自身も、こんなに長く打ったのは久しぶりだった。
そんなに時間が掛かった理由は使っている武器の材料のせいだ。『オリハルコン』という鉱石は、様々な鉱石の中でも最高に硬い。そんな鉱石を熔かすのも、打って形を変えるのも大変な作業だ。
これが出来るのはヘファイストスの技術があってこそだった。
額から汗が滴り落ちる。瞬きすらしないような集中。それをヘスティアは真剣な表情で見つめる。
天界で何度も見た鍛錬。何度も振り下ろされる槌からは、音楽のように小気味よく金属音が響く。ヘスティアは彼女のサポートに徹して、邪魔しないように見守る。
最初は形が変わる気配がしなかった鉱石が。徐々に剣の形に変形していく。そこからは早かった。ヘファイストスは形が変わった瞬間に、叩く速度を上げる。
やがて剣は完成した。色は黒く、剣の形はどこか『刀』に似ていた。
「……完成と、言いたいところだけど。ヘスティア、この剣に血を垂らしなさい」
「血を……?わかった」
その剣を受け取り、ヘスティアは指を傷付けて血を垂らす。すると不思議な感覚をヘスティアは感じた。
まるで恩恵を刻んでいるような感覚。しばらくすると、剣は元の黒色に戻った。困惑していると、ヘファイストスが汗を拭いながら口を開いた。
「その剣は生きている。冒険者と共に成長する武器よ」
「生きている……?」
「私も作ったのは初めてよ。こんな邪道な武器、鍛治士から見たら冒涜よ」
普通の武器は打った瞬間にいい武器が決まる。だが、この武器だけは違う。持ち主と共に成長していく。成長次第では世界で一番強くなるかもしれない。でも成長しないままなら、弱い武器。
そんな持ち主次第の武器。それをヘファイストスが作ってくれたと知って、ヘスティアは満面の笑みを浮かべる。
この武器なら彼の冒険に付いていける。ヘスティアはそう確信した。
「言っておくけどね、この代金はあんたが返しなさいよ?」
「うぐっ……分かってるよ。ボクが君にお願いしたことなんだ。何年掛かっても、絶対に返すよ」
いくらなのか見当も付かない。それでも黒髪の少年の命を助けてくれるなら、どれだけ高くても安いとヘスティアは考えていた。
「そう、ならいいけど。それで、その剣の名前はどうするの?」
ヘスティアは抱えている剣を見て考える。これはヘスティアの恩恵が刻まれた、極論を言えばもう一人の眷属だ。
「……
「ふーん。ヘスティアにしては、いい名前なんじゃない?」
ウェスタとはヘスティアの司る炎の名前。決して消えることのない不滅の炎。汚されることもなく、永遠に彼を支えてくれるように。ヘスティアは剣を撫でながら想いを込めた。
「よし、君の名前は今日からウェスタだ!」
⬛︎
リューは思い返す、あの少女のことを。アルフィアと似ている顔と瞳。背丈と髪色は全く違ったが、それでもアルフィアと見紛えてしまうほど瓜二つだった。
皿を洗いながら、リューはアルフィアの最期を思い出す。彼女の最後の遺言を。彼女は最後にメーテリアとベルという言葉を吐いていた。
どこか後悔を感じた最後の顔をリューは昨日のことのように覚えている。
「……彼女が、ベル?」
答えに気づいたリューは震えてしまった。あの後、リューは独自に調べた。メーテリアという少女のことを。
【ヘラ・ファミリア】に所属していた女性。レベル1でアルフィアと同じ病を患っていた。そんな女性は若くして亡くなった。未知の病を治すことが出来ずに。
それならベルという少女は何者だ。リューの頭がぐるぐると回る。そして辿り着く。
メーテリアという女性の子供という可能性に。もしもそれが本当ならば、リューは償わなければならない。
彼女の唯一の血縁者であるアルフィアを殺したのだから。
「……謝って済む問題でも、ない」
アルフィアを殺したことに後悔はない。大量虐殺をした彼女は止めなければならなかった。
ベルという少女がアルフィアを知ってしまったら、彼女は傷ついてしまうだろう。そもそも謝罪自体が自己満足のようなものだ。
リューは感情をぐちゃぐちゃにしながら、頭を悩ませていた。
少し更新遅くなりました。
ちょっと語彙力を磨くために、時間を掛けて書きたいと思いますので、少しだけ更新スペースが落ちるかもしれません。よろしくお願いします