主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
ダンジョン6階層。上層の浅い層だが、冒険者の死亡率が一気に上がる領域。その理由は一体の怪物が原因だった。
新人殺しウォーシャドウ。鋭い鉤爪のような指先は殺傷能力が高い。5階層までなら防具が無くても良かったが、6階層からは武具を揃えないと厳しい。
壁に亀裂が走る。その亀裂からウォーシャドウが4体生まれ落ちる。新人冒険者からしたら地獄のような光景だろう。
そんな場所に1人の少年が疾走する。決して速いとはいえないが、怪物の虚を突くには十分だった。
ウォーシャドウの胸を突き刺し、瞬殺する。ようやく残りの怪物達が黒髪の少年ラグナに気づいた。
すぐに反撃しようと鉤爪を繰り出す。それをラグナは簡単に避ける。第一級冒険者の攻撃を受けてきたラグナは、怪物の攻撃なんて喰らうはずがない。
そのまま一体を切り裂く。しかし、倒した瞬間に怪物がまた産まれ落ちた。5階層と比べて、やはり怪物が産まれるのが早い。
少し面倒くさいと思いながら、剣を構える。
「【
どこか楽器のような美しい声。そんな声は一言だけ発声する。それだけで最強の一撃が誕生した。
音速の攻撃は距離という概念を殺す。音速の一撃は敵の防御を砕く。たった一度の魔法でウォーシャドウは全滅した。
それにラグナは冷や汗を掻いた。何度見ても恐ろしいと感じてしまう【魔法】。
長い詠唱を必要としない、一言だけの発声だけで放てる魔法。しかも音速の速さで敵を砕く。修行を積んでいるラグナでも勝てる気はしなかった。
「精神力はどんな感じだ?」
「ん……有り余ってるかな」
「なら、このまま7階層まで行けそうだな」
5階層まではラグナが怪物の処理をしていた。6階層からはベルのタイミングで魔法を放ってもらうことにした。
何かしらの
目標は10階層。そこにいる
「進むか」
「うん、行こう」
戦利品を拾って、ラグナとベルは更に下に降っていった。
⬛︎
「9階層!?」
冒険者ギルドにエイナの絶叫が木霊する。ダンジョンから帰還したラグナとベル。いつも通り換金をしようと冒険者ギルドに足を運んだ。
冒険者ギルドにはシャワーなどの施設もある、それを利用するためという理由もあったが。
エイナは美しい顔を驚愕で歪めながら、すぐにいつも通りの受付嬢の顔に戻る。
「怪我は…?」
「無傷ですね。というか何の心配もなかったというか……」
怪物がベルに向かっていった時は焦ったが、その怪物も【
9階層まで辿り着いて、ベルの精神力が心配になったので帰還した。10階層に向かうなら回復薬を買いたい。それにラグナが使う防具も買わなければならない。
それに10階層からは
エイナは無傷と聞いて、安心したように息を吐いた。
「君と他の冒険者を比べたら、ダメな気がしてきた……」
「ははは、俺は普通の冒険者ですよエイナさん」
「冒険者になって、一週間で9階層なんて聞いたことないよ……」
エイナは疲れたように顔を伏せた。作業机には、山積みになった書類がたくさんだった。どこか忙しそうと思いながら、ラグナは換金場に向かった。
ベルと戦った影響で戦利品の数が半端ない。間違いなく過去最高金額を超える自信があった。
換金場に戻ったお金をラグナは受け取った。
「……25000ヴァリス」
「そんなに!?」
「や、やばいぞ。ジャガ丸君250個買える……」
隣にいた無表情のベルも目を剥いている。それぐらいの大金を1日で稼いだ。回復薬を買えるし、なんなら防具を買うお金にもなる。
「……順調だ」
今のところラグナの思った以上に事が進んでいる。あとは【ランクアップ】を原作のベルと同じぐらい。もしくはそれよりも早くレベル2にならなければ。
今後の戦いにも影響するだろう。ラグナとベルは疲れた体を癒すためにシャワー室に向かった。
⬛︎
翌日。今日の鍛錬は休止ということになった。アイズとベートは【ロキ・ファミリア】の団長であるフィンに怒られたらしい。
理由はあの地獄のような特訓だろう。新人冒険者に言葉ではなく暴力で教えていく。2人とも師匠として教えた経験がなく、不器用なのだろう。
いや不器用という次元は超えている気がするが。まあ、とにかく。今日は休養日ということで、ラグナは都市を歩いていた。
「……確か、怪物祭か。昨日から何か準備していたようだったけど。それが理由か」
ラグナは原作知識を掘り起こして思い出す。【ガネーシャ・ファミリア】が主催の怪物を使った催しだ。
怪物を調教して、民間人に見せる。それを見ながらお酒、食事などを楽しむ。そんな祭りの賑やかさに、ラグナは目を細めた。
転生して初めて祭なんて見た気がする。ベルを連れて行こうかと、ラグナは足を運ぼうとする。
すると見覚えのある神がいた。
「──ヘスティア様!?」
「ラグナくんかい!?」
黒髪のツインテール。神特有の神威。何日かぶりの姿にラグナは顔を綻ばせる。突然留守になって、全然帰ってこないものだから。心配していた。
ヘスティアは背中に大きな包み状の物を背負っている。彼女の背丈と同じくらいの棒は、今にも落としそうなほど不安定だった。
「ベルも心配してたんですよ……どこに行ってたんですか?」
「実は、君に渡したいものがあるんだけど……」
「流石に人が多いですね……」
ラグナは原作知識である程度は知っている。彼女がヘファイストスという鍛治神に頼んで武器を打ってもらうことも。
でも実際に目の当たりにすると、心が渇きに満ち溢れる。彼女は、出会って間もない自分のために頼んだのだろう。
ヘスティアという神は、本当に凄い神だと思った。
しばらくヘスティアと共に歩く。流石にお祭りということで、人通りが盛んだ。肉を焼く音、どこからか聞こえてくる音楽。
少しだけ祭りの気分に圧倒される。
「ベルくんと一緒に回らないかい?」
「いいですね、ベルも祭なんて初めてだろうし」
この光景をベルにも共有したい。ラグナはそう思った。おそらく隣にいるヘスティアも同じ気持ちだろう。
教会がある西側に帰ろうと歩く。すると一気に人が雪崩れ混んでいく。その人混みに流れるように、ラグナとヘスティアは教会とは反対方向に進んでしまう。
そのためヘスティアの手をラグナは握り締めて、雪崩から守るようにする。ヘスティアの身長では、巻き込まれて怪我をする可能性がある。
ラグナはヘスティアを守りながら、避難できる場所を探したら。
「ら、ラグナ……くん」
「だ、大丈夫ですか?さすがに人が多いですね、一旦人がいないところに逃げましょう」
「あ、そうだね。うん、そうしよう!」
どこか頬が紅くなったヘスティア。それに気づかずに人のいない場所を探すラグナ。少しずつ、時間は過ぎていった。
⬛︎
並べられた檻。怪物達の唸り声からは興奮を感じられる。その怪物達の視線は1人の神に集中していた。
それは美だった。人、神、怪物でさえ虜にするような抗えない美。彼女は美しい容貌を晒して、怪物を吟味する。
彼女の目的はただ一つ。冒険を。黒髪の少年の勇ましい戦いを目にしたい。そこで逃げるようなら期待外れ、もしも立ち向かうなら。彼は英雄の資格を手にする事ができる。
死んでしまったとしても問題はない。魂は不変だ。天界に還った愛しい彼を抱きしめるのもいいだろう。
「そうね、あの子は十分強い。普通の怪物じゃ勝負にならないかも」
フレイヤは一つの石を取り出した。深い紫紺の色をした魔石。大きさと質は明らかに上層の物とは訳が違う。
「さあ、出てきなさい。あなたなら、彼の本気を引き出せる」
魅了で奪った鍵を使って、檻から一体の怪物を出す。その怪物は上層でも珍しい怪物だった。
『インファントドラゴン』上層の希少怪物。体躯は4Mと凄まじい。今回の怪物祭が盛り上がっている理由の一つだ。
竜という存在は、古代から人類を殺し続けてきた最強種。そんな怪物を調教出来る【ガネーシャ・ファミリア】は凄まじい。
その竜の鱗を触り、美神フレイヤはつぶやいた。
「さあ、小さな
その竜の瞳は蕩けて、彼女の言葉に答えるように咆哮で答えた。