主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
朝起きると、爺さんは消えていた。最初は混乱したが、物凄く取り乱したベルを見て平静を取り戻す。するといつの間にか手紙が置かれていたことに気づく。内容はこうだった。
『儂はハーレムを築く旅に出る。探さないでください』
ふざけた手紙に、思わず手紙を握り潰す。だが理由があるはずだ、例えばヘラ様が思ってたより早くにゼウスの場所を察知したとか。あの爺さんのことだ、ヘラ様の気配に思ってたより移動を優先しなきゃいけなかったと。
というかなんで、頑なにヘラ様と会わないのだろう。別に喧嘩をしているわけでもないはずなのに。少し不思議に思いつつ、俺はベルを横目で眺める。
同じく紙を握り締め、ベルは震えていた。
それに嫌な記憶が蘇る。それはベルが楽しみにとっておいた、ケーキを食べた時。あの時も考えられない雰囲気と、逆らえない圧によって俺は最終奥義土下座を披露したのを覚えている。
あの時と今の雰囲気は全く同じだ。
「……もしかしたら最後の別れになるかもしれないのに、ちゃんと別れの言葉言いたかったのに。…………許さない」
「ひっ……」
思わず悲鳴が出るほどの圧。でも同時に悲しそうに顔を歪ませる。当たり前だろう、ずっと共に過ごしてきた祖父がいなくなったのだから。
今のベルと原作のベルは全く違う。病気だからというのもあるが、精神が弱い。いや、仕方ないのだろう。ずっと、この家で一人にさせてしまったからな。
14歳だし、まだまだ子供なのだ。これからゆっくりと成長していくはずだったんだが。それが難しいのが、この世界なのだろう。
「ベル、行こう」
「……うん」
枝のように細いベルの手を取り、俺達は外に出る。この家ともさよならだ。少しだけ別れに寂しさを感じながらも、俺とベルは都市に向かった。
⬛︎
下山は滞りなく進んだ。怪物との遭遇も考えていたが、杞憂だったようだ。とはいえ警戒しておいて損はないだろう。この世界はどこにでも死の危険性があるのだから。
馬車に乗り込んだ俺達は休息を取っていた。俺は疲れていないが、ベルは息も絶え絶えに苦しそうだ。途中で休みも入れてはいたが、ベルには足りなかったのだろう。
発作が出ないか心配だが、俺が不安がっていてもしょうがないだろう。ベルの体調に気を配り、1時間ほどが経過した。ベルも息切れはなおったようで、少しは休めたようだ。
馬車に大きく揺られながら、ベルは口を開いた。
「……ラグナは、迷宮都市に着いたら冒険者になるんだよね」
「ああ、そのつもりだ。というか、すぐに金を稼ぐにはそれしかない」
田舎に住んでいた影響もあり。そんなに所持金は多くはない。二人分の生活費に加え装備の新調、他にも色々と出費は嵩む。一刻も早くお金を稼ぐ手段が必要ってわけだ。
それに俺の目標はダンジョン70階層以降の攻略と『黒竜』討伐ときた。この二つを終わらせないと、世界は滅亡する。
うん、改めて難易度終わってる。あと70階層以降って言ったけど、全部の階層を攻略しないと世界が終わる。
改めて世界の危機すぎるだろ。
「怖くないの…?」
「……怖い?」
「僕は、怖いよ。ラグナが、怪物に殺されるなんて嫌だ」
ベルの声は震えていた。細い身体を自分で抱きしめている。俺が死ぬ想像でもしているのだろうか。
そんなベルに何を言えばいいのか分からなくなった。俺は死なないなんて言えるほど、俺は強くない。むしろ死ぬだろうな、みたいな達観している俺もいる。戦闘なんてやりたくないし、田舎で畑仕事していた方が性に合っている。
でも、それでも。病気のベルを見過ごしておけない、世界が終わるのを知っておいて放っておくなんて出来ない。
ベルは不安そうに、こちらを見つめてくる。深紅と灰色の瞳からは、今にも水滴が溢れそうだ。
「なら、ベルが助けてくれないか」
「え?」
「ベルが心配になるぐらいに、弱い俺を助けて欲しい」
それはあまりにも、頼りない返答だった。病気で身体が弱いベルに助けを求める俺、今更ながらにカッコ悪いと思う。でも本音でもあった。
俺一人じゃ怪物と戦えない、俺一人じゃ世界なんて救えない。才能なんてあるとは思えない。英雄と肩を並べる自信がない。
そもそも俺なんていなくても、どうにかなるのかもしれない。だけど、この世界の現状を一番よくわかっている人間は俺だけだ。なら戦うしかない。そんな地獄みたいな戦いにベルを連れていくのは怖い。
それでも、隣にいて支えてくれるのなら。それはどれだけ心強いだろう。
ベルはゆっくりと頷く。真剣な表情からは決意が見て取れる。
「助けるよ、約束する!僕がラグナを助けるから。だから―離れないで、ね?」
「あ、あぁ。約束するよ……」
どこか妙に圧のある言い方に、どもりながらも了承する。
馬車はどんどんと進んでいく。その間にオラリオについてからのことを話し合う。といっても、どこの宿を取るとか。そういう他愛もない話だ。
数時間が経過した頃。馬車には俺達以外の人間も乗り込み、時間が過ぎていく。
そして、遂に迷宮都市が見えてきた。馬車から身を乗り出し、外を見ようとするベルを落ちないように支えながら、俺もその姿を見る。
「うわぁ!見て、ラグナ!凄いよ!!」
「これは……凄いな」
巨大な壁が、中にある街を守るように聳え立つ。門には列が出来ており、たくさんの種族が、騒いでいた。
実際に迷宮都市を見て、胸を高鳴らせてしまった。俺は本当に異世界にいる、それを再実感した瞬間だった。
⬛︎
とある宿屋。そこに俺とベルは宿を取り休息を取ることにした。流石に旅をした後に迷宮都市を見て回れるほど、体力はない。
第一目標は契約してくれる神様を探す。でも簡単に契約してくれる神は少ないだろう。
病気に罹ったベルを安全に受け入れてくれる場所なんて、【ヘスティア・ファミリア】だけだ。俺の目標は70階層以降の攻略だが、正直に言って【ロキ・ファミリア】とかに入れる自信はない。もちろん【フレイヤ・ファミリア】だって無理だ。魅了されたくないし。
つまりベルのことを大切にしてくれて、なおかつ協力してくれる神はヘスティア様だけというわけだ。
宿にベルを置いて、とりあえず俺はヘスティア様を探しに外に出た。
ヘスティア様を探す方法は簡単だ。じゃが丸くんを売っている店を片っ端から、探し回るだけだ。もしかしたら今日バイトじゃない可能性もあるが、その時は、その時考えよう。
とりあえず道を行く人に、じゃが丸君の売っている場所を聞いて歩く。すると遠くからでも香る、甘い匂い。
「あっ、いた」
黒いツインテールを振り回しながら、忙しなく働いている幼女。彼女こそヘスティア様だ。実際働いている姿を見ると、微笑ましいという感情しかない。それは他の客もそうだろう。なんていうか神様らしさがない。
でも彼女は原作でも屈指の善神だ。竈門の神と呼ばれる理由がわかる。彼女は何というか暖かい笑顔を見せてくれる。
俺は客が減った瞬間を見計らって、ヘスティア様に近づいた。
「あの、神様ですよね?」
「うん、ボクかい?そうさ、ボクは神様だけど……。もしかして、ボクの眷属になりに来たのかい!?」
「あ、そうです」
「ってそんなわけないか。一人も団員を集められないような神の所になんて、来るわけ……えっ!?」
ヘスティア様はまじまじと俺を見つめる。
「俺を眷属にしてください、ヘスティア様!」
「よ、よっしゃぁぁぁぁぁぁ!ようやくだ、ようやくボクにも運命が訪れたんだ!」
思いっきりガッツポーズを取るヘスティア様。全身から喜んでいることがわかる。それはいいんだが、周りの視線が痛いほど突き刺さる。
「実は、もう一人だけ俺の連れが居まして……」
「うんうん、ボクは何人でも大歓迎だよ!」
ご満悦なヘスティア様を見て、俺はニヤリと笑った。初日に神と契約出来る。第一目標は達成というわけだ。
「ボクはバイトがまだあるから、少し遅くなるけど大丈夫かな?」
「大丈夫です。夕方ぐらいに、ここにまた来ます」
「うん!待ってるから、ちゃんと来てくれよ?」
少し不安気なヘスティア様に頭を下げて、別れた。後はベルと合流して、報告するだけだ。そしたら宿代を気にせずに、教会に住むことが出来る。その残ったお金で、武具を調達できるのもデカい。
このオラリオの広さで、すぐに見つかったのは幸運だったな。今日中に恩恵を授かって、色々とダンジョンについても調べたい。今の俺はほとんど知識のない、一般人だからな。
やることが多すぎて、溜息が思わず出る。これも世界を救うため、ベルを助けるため。そう思い、自分を励ました瞬間。俺は背筋が凍りついた。
「──ま、まさか」
自身を舐め回すような視線。それに気付いたのは、たまたまか。それともわざと気付かせたのか、神の塔と呼ばれる場所を俺は睨み付けた。
「……神フレイヤ」
⬛︎
それはたまたまだった。
美の女神フレイヤ。都市において、その名を知らない者はいない。都市最強と呼ばれるほどに、彼女のファミリアは無敵だった。
そんなファミリアの主神である彼女は退屈していた。というのも神として、下界に降りてから何百年も経った。神々は全知だ、だからこそ未知が知りたい。下界に降りてすぐの時はドキドキが止まらなかった。
子供達の可能性には、興味深いし。英雄を目指す者を見るのは楽しい。でも段々と飽きてくる。もう新しい英雄候補は生まれないのだろうか、自分が期待出来る子供は現れないのだろうか。
そんなことを考えながら、塔の最上階から子供達を観察する。葡萄酒を片手に、自分でも馬鹿馬鹿しいと考えながらも。
「……あの子は?」
ざっと子供達を見て気付く。一人だけ異様な雰囲気を持っていることに。黒髪黒目、至って普通の容姿、だが肝心の魂は歪んでいた。
見たことのない。まるで二つの魂がぐちゃぐちゃに混ざり合ったような、そんな魂の色にフレイヤは笑う。
────面白いと。
「あら、私に気づいた?」
彼は一瞬で覗かれてることに気が付いたのだろう。すぐにこちらに振り向いた。まるで、フレイヤがここにいることを知っているかのように。それに身体の奥がゾクゾクと震えるのを感じる。
「──あの子、欲しい」
紫紺の瞳は星のように輝きながら、肉食獣のように瞳孔は鋭かった。フレイヤは夢中で少年を観察する。まるで宝物を見つけた子供のように、運命は牙を剥く。