主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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二十話 美神の力

 

ゆっくりと瞼を開く。知っている天井から黒髪の少年は、ここが治療院であると知った。左腕を咄嗟に触り確認する。

 

肩から先まで全て治っていた。もう腕は治らないと思っていたため、瞠目する。周りを見渡すと、横で寝ているヘスティアがいた。

 

おそらく武器を作ってもらうために、寝ていなかったのだろう。そのためラグナはヘスティアに布団を掛けて、ベッドから立つ。

 

「(普段と変わらない……?)」

 

少し貧血気味ではあるものの。身体は普段の時と変わらないように思えた。身体の調子を確かめていると、ヘスティアが唸り声をあげて目を開けた。

 

「ラグナ、くん?」

 

「おはようございます、ヘスティア様」

 

「……ラグナくん!」

 

ヘスティアは目を覚ましてすぐにラグナに抱きついた。そんなヘスティアを受け止めてラグナは思い出す。

 

おそらく治療院まで連れていってくれたのは彼女だと。最後に見えた彼女の表情は迷子の子供のようだった。

 

そんなヘスティアの心配に少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 

「……ヘスティア様がくれた武器のおかげです。ありがとうございます」

 

「違う、君の力があったからだよ。それに言わないといけないことがあるんだ」

 

「言わないといけないこと?」

 

ヘスティアは顔を上げて真剣な表情になる。その表情に釣られるようにラグナも背筋を伸ばした。

 

「君の【スキル】のことだ。ボクは君に隠していたんだ」

 

「……もしかして『誓約代償(レギオン)』ってやつですか?」

 

「そうさ。その効果は能力の倍補正、感覚の超強化、そして自動回復」

 

その【スキル】の効果を聞いてラグナは目を剥いた。予想以上の強さの効果だ。おそらく【レアスキル】と呼ばれる物に該当するだろう。

 

なんで早く教えてくれなかった。という言葉は出なかった。彼女の表情から、このスキルには何かしらの代償があると理解したから。

 

「……その代わりに()()()()。つまり魂に傷がつくことになる」

 

「魂の、摩耗?」

 

ラグナは良くわからない代償に頭を傾げる。今のところ身体に異変は起こっていない。本当に傷なんか付いているのだろうか。

 

「……君の目標について理解はしている。でも、このスキルをなるべく使わないで欲しいんだ」

 

「それは……」

 

ラグナは口を閉ざした。この先の戦いは今のラグナの力では厳しい。でも【スキル】があれば、間違いなく戦いを有利に進めれる。

 

もちろん代償を考えて使うのは考えるが。それでもヘスティアの言葉に頷ける自信はない。

 

「もしも魂が完全に壊れたら、死んでしまった時に転生できなくなる。新しく生まれ変わることも出来なくなってしまうんだ!」

 

その言葉を聞いてもラグナの表情は揺らがない。ヘスティアの言っていることは理解できる。

 

でもラグナは次の人生に興味はない。今世で終わっていいと思っている。それは転生しているからなのかは、分からないが。

 

魂が砕けたとしても、ベルを治せるならそうする。黒竜を倒せるなら、魂だって砕いてみせる。その覚悟は絶対に揺らがない。

 

「……ごめんなさい、ヘスティア様。それでも俺は前に進みます。どれだけ魂が傷ついても、辿り着かないといけないから」

 

「……っ」

 

ヘスティアは目を伏せる。彼女も分かっていたのだろう。ラグナを説得なんてできるわけがないと。

 

ラグナの意思はどんな鉱石よりも硬い。それを砕くことはヘスティアには出来ない。でも彼の魂が壊れゆくのを見過ごすことはしたくない。

 

ヘスティアが彼に出来ることは恩恵の更新ぐらい。彼が強くなるように手伝うことしか出来ない。

 

下界に降りた神は本当に無力だ。それをヘスティアは身に染みて実感する。悔しさ、不甲斐ない気持ち、全てが神だった頃は感じれなかったことだ。

 

「ボクは何が出来る?」

 

「ヘスティア様……?」

 

「ボクは君達に何をしてあげれる?」

 

蒼い瞳からは雫が溢れそうだった。そんな悲痛な表情のヘスティアを見て、ラグナは瞠目する。

 

彼女が弱音を吐くことところは初めて見た。そこまで追い詰められていたとは、ラグナは知らずに動揺する。

 

だがラグナは自然と口を開いていた。

 

「……弱い俺を支えてくれませんか?」

 

「支える……?」

 

「はい。きっとこれから、ヘスティア様には迷惑ばっかり掛けると思います、心配だって。そんな情け無い俺を支えてください」

 

その言葉を聞いてヘスティアは口を閉ざす。彼は情けなくない。一人で竜と戦って勝利した英雄の卵だ。

 

そんな彼を支える。それはどれだけ難しいことなのだろうか。ヘスティアには分からなかった。

 

でも漆黒の瞳に見つめられると、心が熱くなる。ヘスティアは自信なさげに頷いた。

 

「……ボクに出来るかな?」

 

「出来ます、ヘスティア様にしか出来ません」

 

「そうかな……そっか。ならボクが君を支える、だから──死なないでおくれよ?」

 

ヘスティアは囁くようなか細い声でラグナに言う。その瞳は澄んだ青色ではない。海のように深い青色のようだった。

 

彼女は本当に大切に思ってくれている。その気持ちを受け取り、ラグナは頷いた。

 

 

⬛︎

 

美しい月光が窓から姿を現す。その月光を浴びながらラグナは考えていた。それは武器のことだった。

 

ラグナの新しい武器。『聖火剣(ウェスタ)』という名前の剣は、ヘスティアが作ってくれたラグナ専用の武器だった。

 

原作の【ヘスティアナイフ】と特性は同じ。使い手の得た経験値によって、武器も成長している。つまり、この武器は生きているのだ。

 

この武器は折れない。切れ味だって衰えない。正しく一級品の武器のおかげで、ラグナは今ここにいる。

 

そして原作にはなかった鞘。これもヘファイストスに頼んで、ヘスティアが作らせた物だった。あまり豪華な感じではないが、この鞘にも驚くべき特性がある。

 

ラグナは剣を抜いて、ベッドに置く。そしてラグナ自身は鞘と共に遠くに離れる。

 

「──戻れ」

 

一言発声すると、剣が吸い込まれるように鞘に収まった。この特性はなかなかに面白かった。原作でもないような、鞘の特性。

 

剣に【ステイタス】が発生しているから出来た芸当らしい。そして鞘にもヘスティアの神血が入っている。これを作っていたから、帰ってくるのが遅くなっていたとは知らなかった。

 

ラグナは剣を天井に掲げて、宝物のように胸に抱いた。神様からの贈り物はやっぱり嬉しかった。

 

そろそろ眠りに就こう。そんな時に扉のノック音が耳に入る。こんな時間に誰だろう。そう思いながら、どうぞと声に出す。

 

「失礼するわ」

 

どこか高級楽器のような、美しいソプラノ音が鼓膜を撫でる。ラグナは目を見開いて驚いた。今回の事件の元凶の、女神フレイヤがそこにいた。

 

紫紺の瞳はラグナの漆黒の瞳と絡み合う。ラグナは睨み付けながら、周りの視線に気づいた。

 

囲まれている。おそらくフレイヤの護衛だろう。物凄い殺気がラグナを襲って、身体を動かなくする。

 

シルの正体が美神フレイヤということをラグナは知っている。それがバレたのだろう。いつバレたかは知らないが、絶体絶命の状況にラグナは緊張する。

 

「ごめんなさいね、貴方を危険な目に合わせたこと謝罪するわ」

 

「……謝罪はいい。目的を言え」

 

「あら、私はただ貴方を助けたいだけよ?」

 

フレイヤは妖しい笑みを浮かべる。フレイヤはラグナの近くにある椅子に腰を掛ける。そしてどこか楽しそうにラグナの手を取った。

 

嫌悪感を抱くことはなかった。それは彼女が美しいからなのだろうか。いや、なんとなく違う気がした。

 

彼女はどこか悲しんでいるようだった。まるで取り返しのつかないことをしてしまったように。

 

「私は貴方の戦いを見たかっただけ。流石に竜はやりすぎたかもしれないけど……。そこで予想外のことが起きてしまった」

 

「……俺の【スキル】か」

 

「魂を代償にするスキルなんて、予想外だった」

 

フレイヤは目を伏せる。それは後悔しているようだった。何に後悔しているのかは分からないが。

 

「貴方が死んでもいいと思った。それなら、私が天界で貴方を探すだけだから」

 

「……はあ」

 

「でも魂が傷付いたら、転生することも出来ない。今なら間に合う」

 

やはりこの神はおかしい、ラグナはそう思った。つまり肉体が死んでも、魂が無事ならばそれでいい。そういう考えはまさに神らしい。

 

だがラグナにとって魂とは、そこまで重要ではない。大事なのは今の人生だ。ベルの病気を治し、黒竜を倒せば満足して死ねる。

 

「本当は神の力を使うつもりだった。でも違反で天界に送還された後。貴方は私の眷属達に殺される」

 

「だろうな」

 

「だからやめた。なら最後の手段。貴方の目的を代わりに達成する」

 

「────は?」

 

ラグナは一瞬思考を奪われる。

 

「貴方の幼馴染のベル。あの子の病気を治すために、私の眷属達の力を使う」

 

「……そういうことか」

 

今の弱いラグナより都市最大派閥の最強達が、最深層を目指すなら現実的だろう。おそらく成功率だって遥かに高い。

 

でもラグナは頷くわけにはいかない。確かに【フレイヤ・ファミリア】に丸投げすれば、ベルも戦わなくて済む。

 

だがそれで秘薬が見つかるとは思えない。それに原作通りに進まなければ、今後の戦いに必要な人間が死ぬ可能性もある。

 

「断る。俺は、俺の力で目的を達成する。魂がどうなっても俺はどうでもいい」

 

「……そう。なら、貴方を私の眷属にしましょうか?」

 

「っ!?」

 

瞳が妖しく光る。ラグナは身体が固まる感覚に陥った。フレイヤは魅了を使って脅そうとしている。

 

魅了を使われれば間違いなく、ラグナは傀儡になる。思考も何もかも奪われて、人形に成り果てる。

 

「どうする?私の眷属になるか、諦めて冒険者を辞めるか」

 

「……こうする」

 

ラグナは自身の首に剣を突きつけた。ラグナは魅了を使おうとしたら自殺する。相手が脅してくるなら、こちらも脅そう。

 

フレイヤに剣を突き付けるなら間違いなく【フレイヤ・ファミリア】に殺される。だから自分を人質にする。

 

「……貴方が死んだら幼馴染の子は悲しむでしょうね。本当は死ぬつもりはないんでしょう?」

 

「当たり前だ。アンタに魅了されるぐらいなら、死んだ方がマシというだけだ」

 

「……私の身体、全てあげるのに?」

 

ラグナは鼻で笑った。彼女は確かに美しい。男なら全員が一瞬で獣になるのだろう。でもラグナはどうでもいい。

 

「いらない。確かにアンタは美しい、でもそれだけだ。俺はやるべきことがある」

 

「やっぱり、貴方は美しいわね。ますます欲しくなっちゃった」

 

フレイヤは椅子から立ち上がり、残念そうに話す。でもその目は肉食獣のようにギラついていた。

 

「いつか、貴方を奪うわ。心も身体も私の物にする、覚悟しておきなさい」

 

「……誰が、お前の物になるか」

 

「ふふ、ゾクゾクしちゃう」

 

最後まで鋭い視線で睨みつける。その漆黒にフレイヤは身体が熱くなるのを感じた。その視線を受け止めて、フレイヤは扉から去った。

 

ラグナは緊張が一気に解れる。もしも魅了されていたら、今のラグナに抵抗する術はない。

 

「本当に、厄介な女だな……」

 

 




体調が悪くて遅くなりました!
よろしくお願いします!

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