主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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二十一話 白と金

 

 心地の良い陽射しが窓から差し込む。白髪を輝かせる少女は姫のように美しい。太陽を浴びて少女ベルはゆっくりと瞼を開いた。起きたばかりで回らない脳を回転させて、ここはどこなのかを考える。

 

どこか質素で清潔な部屋。物はベッドと机に椅子と生活できるのか怪しいほどに少ない。あとは知的な本が机に置かれている程度で、とても寂しい部屋だとベルは思った。

 

でもどこか故郷の部屋と似ている気がする。少し懐かしい気分に浸っていると、扉が開いた。翠色の髪色、空色の瞳。

 

端正な容姿に、尖った耳は間違いなくエルフの特徴だった。服装はダンジョンでも着ていた店員の服だった。

 

「起きましたか、身体の調子はどうですか?」

 

「身体は……大丈夫です。えーと、助けてくれてありがとうございます……」

 

 昨夜に彼女に失礼なことをしてしまった。そのことを思い出してベルは後悔する。あのまま10階層を目指していたら、間違いなく死んでいた。

 

そんな彼女に暴言を吐いてしまった。ベルは身体を曲げてお礼をする。そんなベルにエルフの女性リューは優しい表情で口を開く。

 

「気にすることはない。私がやりたくて、やったことだ」

 

「……」

 

 ベルは凄い人だと思った。エルフは種族の中でも傲慢になりやすい。エルフは魔法種族と呼ばれるほど、魔法に長けている。

 

それだけじゃなく容姿、知性、長寿と種族としては最高の能力を誇る。そのため周りの種族を見下す傾向があった。

 

だがリューという女性は違った。少し話しただけで分かるくらい、彼女は真っ直ぐだった。

 

「……戦い教えてくれませんか?」

 

「気絶して、聞いていないかと思ったのですが。覚えていたのですね」

 

「はい、今の僕には力が必要です。だから、教えてくれませんか?」

 

 今のままではラグナを助けられない。冒険者を辞めるように説得することは、ベルには出来る気がしなかった。

 

きっと誰に何をされてもラグナは冒険者を辞めない。【スキル】だって躊躇いもなく使用するだろう。

 

ならラグナの敵を全て倒せるほど強くなればいい。それをやる自信がベルにはあった。

 

でも今のままではダメだ。『魔法』の使い方、駆け引きなんて技術はベルにはない。師匠が必要だとベルは考えていた。

 

そしてダンジョンで助けてくれたリューという女性。彼女は思わず見惚れてしまうほど、動きが軽やかだった。彼女が師匠になってくれるなら、それほどありがたいことはない。

 

「元から、教えるつもりでした。今日からというわけにはいきませんが、明日から修行を始めましょう」

 

「リューさん……ありがとうございます。でも、なんでそこまでしてくれるんですか?」

 

 ベルは疑問から質問する。ほぼ初対面のような自分に彼女は優しすぎた。その空色の瞳には、別の誰かを見ているような気がした。

 

リューは少しだけ表情を固くする。少しだけ目を伏せて、リューは口を開いた。

 

「……貴方は知人に似ていた。だから助けになりたかった」

 

「知人って……アルフィアって人ですか?」

 

「……ええ、そうです」

 

 ベルは納得する。確かにあの時のリューの表情は、今でも鮮明に思い出せるほどに驚いていた。

 

リューは少しだけ表情を暗くする。その知人のことを思い出して悲しんでいるのか。ベルには分からなかった。

 

「一度、ホームに帰りましょう。私が送ります」

 

 リューは表情を切り替える。その切り替えの早さに驚きながらも、ベルはラグナのことを思い出す。

 

「あの、治療院に行っても良いですか?」

 

「了解しました、では行きましょう」

 

 もうそろそろ目を覚ましている頃だろう。ベルとリューは外に出る。燦々と輝く太陽に照らされながら、二人は治療院を目指した。

 

 

⬛︎

 

「退院したい!?」

 

 治療院全体に広がる少女の声。銀髪の少女は目を丸くして、黒髪の少年を鋭い視線で突き刺した。

 

怪物祭(モンスターフィリア)』から1日後。女神フレイヤが突然入ってきたり、色々あったが体は全快した。

 

ダンジョンに潜ったり、修行をしたいのでアミッドに退院したいと話して今に至る。

 

「貴方は、片腕を失っていたのですよ?分かっていますか?」

 

 アミッドは必死に怒りを鎮めて、ラグナに問い掛ける。その表情の裏にはどこか鬼が見え隠れしていた。

 

ラグナはアミッドの言葉に頷く。彼女の言っていることは何一つ間違っていない。死にかけたのに退院を申し出る人間なんていないだろう。

 

でもラグナには時間がない。ここで入院して時間を無駄にするわけにはいかなかった。アミッドに恐怖を感じながらもラグナは意を決して口を開いた。

 

「お願いします、アミッドさん!」

 

「駄目です。あなたの目的は聞きました、貴方が焦る理由も分かりますが。諦めてください」

 

「そこをなんとか!」

 

 アミッドにも治療師としてのプライドがある。腕を無くした患者を1日で退院など出来ない。だがそれでもラグナは引けない。

 

話は平行線になるかと思った。だがアミッドは大きな溜息を吐いて、呟くように言った。

 

「……三日。三日間の入院で退院していいです」

 

「……二日で」

 

「本当に貴方は……!……分かりました。でもその間はしっかり安静にしていてくださいね!」

 

 アミッドの言葉にラグナは何度も頷いた。本当ならば一週間以上入院しないといけなかったのが、一気に短くなった。

 

これで早めにダンジョン攻略に行ける。10階層の探索にも行ける。ラグナは拳を握りしめて、次の予定を組み立てていく。

 

そんなラグナを見てアミッドは再度、溜息を吐くのだった。

 

⬛︎

 

 金髪の少女は走っていた。【剣姫】と呼ばれる彼女の疾走は、目にも止まらないほどに速い。それを見た住人達は彼女の容姿に見惚れる暇もなく、その疾走を見届ける。

 

アイズ・ヴァレンシュタイン。都市外までその名を轟かせる少女は焦っていた。『怪物祭(モンスターフィリア)』という催しのせいで、都市に大きな被害が出るところだった。

 

それに加えて新種の怪物(モンスター)も現れて、昨日は休む暇がなかった。ようやく落ち着いた時に、住民達の声が聞こえてきた。『竜』が脱走して、黒髪の少年を追いかけていると。

 

アイズの頭の中に浮かんだのは、ラグナだった。レベル1の新人冒険者。アイズは焦って『魔法』を使用して駆け回った。

 

だが新種の怪物の戦いで時間を使いすぎてしまったせいか。到着した時には既に手遅れだった。

 

そこにあったのは竜の『戦利品』と、満身創痍のラグナだった。アイズは一瞬だけ嬉しいと思ってしまった。

 

新人冒険者なのに竜を倒してしまった。凄まじい偉業にやっぱり間違っていないと、彼は間違いなく私の英雄だと思った。

 

そして次の瞬間には身体が震えていた。そんな彼は腕を無くして、今にも死にそうなほどに息が小さい。

 

──私の英雄が死ぬ。

 

アイズは凍ったように固まり、立ち尽くしてしまった。気づいた時には彼はいなくなって、治療院に運ばれたことを知った。

 

お見舞いに行こうとも思った。でも彼が死んでいたら、と考えると足が竦み行けなかった。

 

そんなアイズの背を押したのは、ベートだった。『アイツが簡単にくたばるわけねぇだろ』と。

 

ベートの瞳はラグナが生きていることを疑っていなかった。新人冒険者が竜と戦って生き残る、その難しさは冒険者なら誰でも分かる。

 

ベートは認めているのだろう。少しだけ嫉妬心を抱きながら、アイズは治療院に向かった。そして今、ようやく到着した。

 

「……アミッドは、いない?」

 

 いつもは受付にいるはずの彼女がいなかった。患者の治療に向かっているのだろうか。アイズは奥に進む階段を登って、入院しているだろう部屋に向かう。

 

その階段を登る最中にアイズは思い出す。ミノタウロスの時のことを。あの時の英雄のような言葉はアイズの頭の中に残っている。

 

そして白髪の少女のことも、頭に焼き付いている。あの幸せそうな笑顔、それを思い出すだけで嫉妬の炎で焼かれそうだった。

 

「……ここ、かな?」

 

 アイズはミノタウロスの時と同じ部屋に着いた。緊張が身体に走るが、アイズはゆっくりと扉を開いた。

 

そこには五体満足で本を読んでいる。黒髪の少年がいた。左腕は本当に怪我をしたのか疑ってしまうほどに治っている。

 

顔色も悪くはなく、退屈そうに頁を捲っていた。扉を開けたアイズに気づいたラグナは、目を丸くして驚いていた。

 

「……大丈夫、だった?」

 

「アイズさん?えーと、身体は大丈夫でしたけど……」

 

 アイズはよかったと安堵感に頬を緩める。ベッドの隣に置いてある椅子に座って、アイズはラグナの漆黒の瞳を見つめた。

 

豊穣の女主人の時も、こうやって瞳を見つめていた。ラグナは視線を誤魔化そうと本を読み直す。

 

「……どうして、竜を倒せたの?」

 

 アイズは気になった言葉を吐いた。新人冒険者なのに、竜に勝てた理由。その理由を知れたら、アイズはもっと強くなれる気がした。

 

ラグナはその質問に唸る。アイズとベートの訓練、ダンジョンの探索、ヘスティアからの武器、そして【スキル】。

 

その全てがラグナを勝利に導いた。

 

「……アイズさんとベートさんのおかげかな」

 

「……私?」

 

「駆け引き……はあまり教わらなかったけど。第一級冒険者と戦う怖さを知れたから」

 

 ラグナは思い出す。竜と相対する時の重圧感を。今まで戦ってきた怪物よりも遥かに強い。一瞬で実力差を理解してしまうほどに重かった。

 

でも第一級冒険者の蹂躙を体験していたラグナは、何度も立ち上がることが出来た。きっと少し前の自分なら、諦めていたかもしれない。

 

ラグナは頭を下げて、アイズに感謝した。

 

「……そっか」

 

 アイズが望む答えではなかった。けれど彼の力になれたということに、アイズはどこか満足感を感じた。

 

アイズはラグナの掌を握る。昨日失われた左手は暖かく脈も感じられた。アイズは無意識に手を繋ぐ。

 

「え……?」

 

 ラグナの困惑したような声が聞こえた気がする。でもアイズはそれを無視して、固い手を握りしめた。

 

そんな時。ふと扉が開いた音が聞こえた。風が部屋の中に入り込む。掌が大きく震えた気がした。

 

「────何してるの?」

 

 深紅(ルベライト)の瞳がアイズの金色の瞳と絡み合う。白髪の少女が、そこに立っていた。

 


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