主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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二十二話 一途

 

 

 一瞬で空気が張り詰める。たった一人の少女の圧だけで身体が震えそうだ。雪のような白い髪、深紅の瞳と灰色の瞳。容姿は美しく、どこか鋭い雰囲気を放っている。

 

ベルは怒り狂っていた。意中の相手の手を握られたからという理由もある。それよりも目の前の少女が、黒髪の少年を奪おうとすることが許せない。

 

第一級冒険者。都市では数十人ほどしかいない、英雄の領域。そこまで辿り着いた人間は、普通の人間とは住んでいる世界が違う。

 

そして金髪の少女は【剣姫】と呼ばれる冒険者。美しい容姿、凄まじい剣技、その全てを神が認めている。

 

そんな()()()()()()()()()が、ベルにとって唯一の少年を奪おうとする。許せるわけがない、許すはずがない。

 

産まれた時から一緒だった。そんな彼がいなくなったら、奪われてしまったら。ベルはゆっくりと右腕を突き出す。

 

彼女の身体を纏う魔力。新人冒険者ではあり得ない魔力量に空気が歪む。

 

「待て、ベル!」

 

 ベッドから飛び出すラグナ。その表情は凄まじく焦っている。突き出している右腕を、包み隠すように握った。

 

ベルの身体を纏っていた魔力は霧消した。それにラグナは安堵するのも束の間、鋭い視線をベルから感じ取る。

 

「……アイズさんはお見舞いに来てくれただけだ。少し落ち着いてくれ」

 

「恋人みたいに、手を握ってたのに?」

 

「それは……」

 

 なんで彼女が手を握ってきたのか。それはラグナにも分からなかった。彼女の思考と行動は予測不可能だ。

 

ラグナが口を閉ざしたのを見たベルは剣のような鋭い視線をアイズに突き刺す。

 

それを見たアイズは彼女が自分に敵意を向けていることを知る。それは少年の手を握ったことが原因だとも気づいている。

 

それでも離れたくない。彼の体温を感じていたい。アイズはベルに負けない強い力で、睨み返す。

 

その二人の睨み合いにラグナは萎縮する。とてもじゃないが、二人を落ち着かせる方法はない。

 

だがここで暴れられたら。間違いなく治療師のアミッドに大目玉を喰らう。そうなったら、二日間の入院がなくなってしまう。

 

ラグナは意を決して口を開いた。

 

「……ベル、なんでもいうこと聞くから。ここは収めてくれ」

 

 それは最終兵器(土下座)に次ぐ、最終手段だった。ゼウスが絶対に使うなと言っていた、言葉をラグナは使った。

 

ベルの視線は柔らかくラグナに向かう。その瞳は嘘じゃないのか、確かめているようだった。

 

「……なんでも、って言ったよね?」

 

「あ、ああ……」

 

「ふーん。そっか、良いよ。許してあげる」

 

 表情を緩めきったベルはアイズの方をわざとらしく見る。そして満面の笑みを浮かべた。

 

アイズはその表情を見て、雷に打たれたように目を剥いた。幼いアイズでもわかる、彼女は少年に物凄いことを要求するつもりだと。

 

それが何なのかは分からないが、とにかく不味い。このままでは白髪の魔女に英雄を奪われてしまう。

 

「ラ、ラグナは……私の英雄(もの)。返して……!」

 

「──は?」

 

 アイズは竜の尾を踏み潰す。その冷たい瞳にアイズは身体が震えていることに気づく。

 

実力差は明確だ。アイズなら余裕で彼女の首を落とせる。そのはずなのに、身体が震えている。

 

灰色の髪色をアイズは思い出してしまった。才能の化物と評される女性と、目の前にいる少女は似ていた。

 

雰囲気、容姿、佇まい。アイズのことを赤子のように捻った女性の名前はアルフィア。

 

アイズは大きく目を見開いた。そして理解する。彼女は『悪女』だと、『魔女』に間違いはないと。

 

だからといって何が出来るわけでもない。黒髪の少年は白髪の女を大切に思っている。あの時に聞いた言葉は一語一句覚えている。

 

彼女を傷つけて、彼に嫌われるのが一番嫌だ。アイズは嫌な想像をして、手を震わせる。

 

だがこの場所にいれば、アイズは黒い炎を燃やして暴れてしまうかもしれない。だからアイズは表情を歪めて、ラグナに近づく。

 

「──ラグナ、待っててね」

 

「え……?」

 

 最後に一言だけ、そんな言葉を残して彼女は外を飛び出していった。ベルは勝ち誇ったように笑みを浮かべて、彼女の背を見送る。

 

ラグナは最後まで理解不能な彼女の言動に、立ち尽くして困惑していた。

 

 

⬛︎

 

 ダンジョンに妙な音が響き渡っていた。怪物の肉と骨が断つ音、魔石がぐちゃぐちゃに潰れる音。その全てが雑音となり、白髪の少女の耳朶に染みつく。

 

その【魔法】の威力を空色の瞳は観察していた。【魔法】と【スキル】には個人の才能、経験、思考、心象。全てが反映する。

 

何故アルフィアの魔法を彼女が使えるのか。リューは未だに理解できていない。それは超越存在ぐらいしか分からない領域なのだろう。

 

ベルの魔法は強力だ。威力、速度、射程、何より詠唱が短い。確かに魔力の制御は必要だが、それでも一言(ワンワード)で終わる。

 

近距離戦に持ち込まれても問題はない。音の魔法は近距離、中距離、遠距離の概念を潰す。

 

今のベルに足りていないのは何か。リューは頭を回転させて考える。

 

「質問なのですが、魔法の空き欄(スロット)はいくつでしょうか」

 

「あと二つです、かね?」

 

「……ありがとうございます」

 

 リューは静かに瞠目する。魔法種族のエルフならともかく。ヒューマンの彼女が魔法の空き欄を最大の三つ所持している。

 

やはり彼女は魔導士としての才能がある。これから他の魔法を得る可能性があるなら、魔力と精神力の強化を行う必要がある。

 

他にも高速詠唱、並行詠唱、詠唱保持などの技術はあるが。今の彼女には必要はない。

 

「ではまず、限界まで魔法を打ってもらいます」

 

「……え?」

 

 リューは単刀直入に話す。ベルの魔法の威力を高めるためにも、何発も連続して放てるようになるためにも。

 

魔力と精神力の強化は必須。そう話すとベルも納得したように頷いた。そこからはベルが何度も怪物に向けて魔法を連続発射する。

 

怪物は爆散して、魔石すらも残さない。怪物を見つけたら、すぐに魔法を放つ。それを繰り返すだけで、体力と精神力は簡単に減っていく。

 

ベルは額から汗を垂れ流し、今にも倒れそうなほど足元を不安定にさせる。

 

精神枯渇(マインドダウン)になると。意識は朦朧として、痛みすら感じるほどに身体が怠くなる。

 

リューは大鞄から取り出した魔力回復薬を渡した。精神力を回復させる薬によってベルは少し落ち着きを取り戻す。

 

「ではもう一度」

 

 リューの澄んだ声がベルの耳に入る。ベルは悟った、このエルフは鬼だと。何度も繰り返して魔法を放っていくと、徐々に精神枯渇にも慣れてくる。

 

冷静に魔力回復薬を飲んで修行を続けられている。そんな姿を見てリューは感心した。

 

魔導士にとって精神枯渇とは日常茶飯事だ。そんな時にも冷静に対処できる能力は必要なのだが、目の前の少女は全く問題ないように思えた。

 

「ベル、魔力向上訓練は終わりです」

 

「……もう、限界です」

 

「はい、あとは私が運びましょう」

 

 リューは倒れそうなベルを背負って、地上を目指す。ベルは霞む視界の中で、一言だけ呟いた。『エルフ…怖い』と。

 

⬛︎

 

 空は朱に染まり、白髪の少女の髪を眩く輝せる。リューと訓練が終わり、体力を回復させたベルはホームに向かっていた。

 

普段は一人で帰宅などできなかったが。恩恵の力で身体は昔とは違う。ホームに帰るぐらいなら、ベルでも出来るようになった。

 

発作も最近は起きていない。視界が揺らぐことは多数あるが、それも我慢できるレベルだった。

 

ベルはメインストリートに人が多く行き交っているのを確認して、路地裏に入る。この奥を突き進むと、教会がポツンと建っている。

 

なんで、あんなところに建てられているのかベルは疑問に思った。しばらく歩みを進めていると、足音が聞こえてくる。

 

恩恵の力で五感も強化されているため、はっきりとわかる。遠くから男の怒号も耳に入る。ベルは気になって、奥に進む。

 

すると運悪く、走ってきた少女と鉢合わせた。栗色の瞳と深紅の瞳が合い、そのままぶつかり転がる。

 

「いたた……」

 

「ぅあ」

 

 ベルは尻餅をついて、少女は怯えたように身を萎縮させる。そのすぐ後に怒号を放っていた男が近づいてきた。

 

男は抜剣しており、瞳には殺意が渦巻く。容貌はいかにも冒険者らしく野蛮。その剣をパルゥムの少女に向ける。

 

パルゥムの少女は小さな悲鳴をあげて、ベルの後ろに下がった。男はようやく白髪の少女に気づく。

 

「さっさと、どけガキ!俺は後ろのパルゥムに用があるんだ!」

 

「……はあ」

 

 ベルは男の声に面倒くさそうに溜息を吐く。男は一気に苛立ちを覚え、少女の容姿を舐め回すように見た。

 

雪のような白髪は穢れを知らず。宝石のような瞳は見ているだけで、欲しいと思わせてくる。身体は細いが、十分に女らしい。

 

男は下衆な笑みを浮かべて、少女に近づく。その瞳には既に女しか映っていなかった。ベルは冷たい瞳で、一言呟くように発声した。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

「がっ?がああああああ!!」

 

 路地の壁に激突する男。死んではいないだろが、死んでいたとしても問題はない。初めて【魔法】を人に放ったが、手加減してもこれだ。

 

ベルは立ち上がって、砂を払う。そして少女と目を合わせた。パルゥムの少女は栗色の瞳を潤ませて、また悲鳴をあげる。

 

強力な【魔法】を見せたせいで、怯えているらしい。ベルは少女の手を取って立ち上がらせる。

 

「……何があったの?」

 

「い、いえ……何もありません!それより助けてくれてありがとうございます!」

 

 ベルの質問にパルゥムの少女は取り繕うように笑う。それほど恐れられるとは思わずベルは、少しだけ表情を悲しそうに歪ませた。

 

それをどう感じたのかパルゥムの少女は冷や汗を掻いて、更に少女のことを警戒する。

 

一目見て冒険者だとは分からないほどの軽装。身を守っているのは戦闘衣(バトルクロス)だけ。武器も杖も持っていない白髪の少女は、一般人と変わらない。

 

しかし先程見せた【魔法】。一瞬だけ感じた魔力の力、儚い雪のような魔力は一瞬で魔法を完成させた。

 

短文詠唱だとしても早すぎる。威力も凄まじく、速度も見えないほど。この少女からは一級冒険者にも負けない圧を感じた。

 

本当は今すぐ逃げ出したい。でも彼女が魔法を放てば、パルゥムの少女は死んでしまうかもしれない。

 

「怪我は?」

 

「ありません、冒険者様のおかげです!」

 

「……ベル。あなたの名前は?」

 

「ルル、ルルって言います!」

 

 ベルは少女のことを観察して、考える。あの男は間違いなく冒険者だ。その冒険者の所属している【ファミリア】から報復が来る可能性がある。

 

それはラグナとヘスティアに迷惑を掛けるかもしれない。少女ならば、あの男の契約している神を知っているかもしれない。

 

「あの男の所属しているファミリアは?」

 

「……【ソーマ・ファミリア】です」

 

「そっか、ありがとうルル」

 

 ベルは所属している【ファミリア】を聞いて、路地裏の奥に進む。パルゥムの少女はようやく解放されたと、走って路地裏から抜け出した。

 

⬛︎

 

 教会のホーム。ベッドには白髪の少女が背中を天井に向けて、目を瞑っている。その細く白い背中に一滴の血が垂れる。

 

ヘスティアは一度もしていなかった『ステイタス』更新を、ようやく行っていた。時間の都合、巻き込まれた事件などにより全く時間を取れていなかった。

 

ヘスティアは後悔しながら『経験値』を恩恵に反映させていく。そしてヘスティアは一つの『スキル』が発現できることに気づいた。

 

ヘスティアは迷いなく【スキル】の発現を選ぶ。そして神聖文字の羅列を見て、瞠目する。

 

 

『ベル・クラネル』

Lv1

力 I0→I6

耐久I0→I4

器用I0→I95

敏捷I0→I9

魔力I0→I145

『魔法』 【サタナス・ヴェーリオン】

     ・詠唱式『福音(ゴスペル)

     ・超短文詠唱

     ・音属性

     ・単射魔法

『スキル』【運命廻継(アルメー)

     ・病弱付与。

     ・身体能力低下。

     ・耐久力低下。

     ・魔力に高補正

     ・精神力高補正。

     【英雄一途(リアリスフレーゼ)

     ・能動的行動時、蓄積(チャージ)実行権。

     ・魔導の一時的発現。

     ・覇光の一時的発現。

     ・想いの丈により効果上昇。

 

「──へ?」

 

 

 

 




更新遅くなってごめんなさい!

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