主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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25話 戦いの野

 

 冷や汗を流しながら必死に情報を整理する。

 

まずここは【フレイヤ・ファミリア】の本拠である、戦いの野(フォールクヴァング)。俺の原作の知識では眷属たちが殺し合い切磋琢磨するという異常な環境がこの場所にはある。

 

いや、そんな情報は今はどうでもいい。一番は大変なのはここは他派閥の本拠(ホーム)だということ。そんな場所に俺がいるということは宣戦布告と取られても、全然おかしくない!

 

ベルにも、ヘスティア様にも迷惑が掛かる。そのことに俺は青褪めることしかできなかった。

 

「どうして、そんなに顔を真っ青に?」

 

「だ、だ、だって……俺、他派閥の本拠に侵入してるんですよ!?」

 

「……まあ、確かに他の眷属たちが見ればそうなりますね」

 

「そうなりますねって……見つかったら、俺殺されちゃいますよ!?」

 

 他人事のようなヘイズさんに思わず泣きたくなる。俺はただ魔法の試し撃ちをしたかっただけなのに。

 

「大丈夫ですって、あなたはフレイヤ様のお気に入り、眷属は手を出せませんよ」

 

「……そんなの信じられませんよ」

 

 正直、暗殺されてもおかしくないとすら思っている。それぐらいフレイヤの眷属はヤバい。おそらく目の前のヘイズさんも……俺が思い出せないだけで【フレイヤ・ファミリア】の重要人物だった気がするし。なんか疑心暗鬼になりそうだ。

 

「うーん、それじゃあ直接許可を貰いに行きましょうか」

 

「……許可って、何の許可です?」

 

「貴方がこの本拠に移住する許可ですよ」

 

「嫌ですよ!?なんで、俺がここに住まなきゃいけないんですか!?」

 

 ここに住むことになったら、命がいくつあっても足らないだろう。寝てる時も風呂に入ってる時も命を狙われる恐怖、それを想像するだけで吐き気がする。

 

「冗談ですよ。でも、ここで訓練する許可はもらった方が貴方のためですよ」

 

「貴方のためって……」

 

「70階層」

 

「っ」

 

「そんな私たちですら向かったことのない深層の最深部に新人冒険者である、貴方は手段を取っていられないでしょう?ここならダンジョンより圧倒的な効率で強くなれます」

 

 ヘイズさんの言葉は確かにその通りだった。ダンジョンの最深層を目指すなら、圧倒的な成長速度と戦闘経験を積まなければいけない。

 

それは普通の手段では到底不可能なのだ。戦いの野で行われる『洗礼』ならば、それを補うことができるかもしれない。

 

「それに、貴方の魔法の検証に回復士は必要でしょう?」

 

「それは……」

 

 気絶するほどの雷霆を思い出し、俺は唾を飲み込んだ。そうだ、あの魔法。付与魔法でありながら己の肉体すら壊す破滅の雷鳴。一瞬で怪物を灰に変えたあの威力は絶対に今後必要になる。

 

だがダンジョンで練習することはできない。もちろん、地上で魔法の行使なんて許されることもない。でもここなら別だ、戦いの野なら俺がやりたいように訓練ができる。

 

「納得しましたか?」

 

「納得というか、必要なのは理解した。でも、許可なんて誰に取るんだ?」

 

「?そんなの決まってるじゃないですか、フレイヤ様です」

 

「……ですよねぇ」

 

⬛︎

 

「あら、また会ったわね。ラグナ」

 

「……会いたくなかったなぁ」

 

「それは酷いのではなくて?私、仮にも美の女神なのだけど」

 

 美の女神フレイヤ。ソファに腰掛けて、ワインを片手に持っている姿はまさしく女王といった感じだ。

 

現在、【フレイヤ・ファミリア】は遠征に向けて準備を進めているらしく、普段は神の塔にいるフレイヤは本拠である戦いの野に移っていたらしい。

 

幸運なのか不運なのか。俺は整いすぎた神の容姿を見つめ、溜息を吐いた。そんな俺を見てフレイヤはニコリと笑った後、膝をついているヘイズさんに視線を移す。

 

「ヘイズ。どうしてラグナを本拠に?」

 

「昨夜、ダンジョンで魔法を行使して倒れたラグナを発見、その場で治療し、本拠に連れて帰りました」

 

「魔法を行使して……ラグナ、自爆魔法でもしたのかしら?」

 

「だとしたら、試し撃ちなんてしないだろ。付与魔法(エンチャント)だ、雷属性の」

 

 その言葉を聞いて、フレイヤは唇に指を当てる。

 

「付与魔法は本来、身体の保護や強化を行うもの。自身の身体を傷つける付与魔法なんて聞いたことはないわね……他にも特性のようなものは?」

 

「特性……ああ、全能力を魔法能力に変換するってのが……」

 

「間違いなく、それが元凶ね。しかも、原因を取り除くことはできないタイプ」

 

 フレイヤの言葉にやっぱりかと項垂れそうになる。【ケラノウス】は耐久が上がっても、それすらも魔法威力に換算してしまう。つまりどれだけ強くなろうが魔法行使にはダメージを覚悟しないといけないってことだ。

 

あまりにもクソすぎる。もっと【ファイアボルト】とか【福音(ゴスペル)】とか、そこら辺のわかりやすい魔法がよかった。しかも、俺魔力の扱いとか下手だし。もしもミスして魔力爆発でも起これば、パーティ全滅は必至。

 

「一応、魔防という発展アビリティがあるけれど、それがどこまで機能するかもわからないわね」

 

「慣れるしかないって感じか……」

 

「そうね。少し早いかもしれないけれど、ラグナ。あなたには『洗礼』に参加してもらおうかしら」

 

「……そっちから言われるとは。それは俺からお願いしたいところだった、だが大丈夫か?」

 

「子供達のこと?そこは大丈夫よ、私から言って聞かせるから。でも……おそらく集中砲火は受けるでしょうね」

 

「まあ、それは仕方ないよな。えーと、感謝します神フレイヤ」

 

「初めて、そんな嫌そうに感謝を述べられたわ。ラグナ『洗礼』は明日から始めましょう」

 

 フレイヤはそう言って、ソファから立ち上がり俺の手を握る。

 

「帰る前に、この本拠を紹介してあげる」

 

「断ることって……」

 

「あら、ここまでしてあげたのにお家デートもしてくれないなんて……私、泣いちゃいそう」

 

 その瞬間、膝を突くヘイズさんから凄まじい殺気が飛んでくる。うん、断ることは出来なさそうだ。結局、俺は夕方になるまで戦いの野の観光デートに付き合わされた。

 

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