主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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26話 魔法の真価

 

「それで、魔法に浮かれてダンジョンで試し撃ち。威力が強力で失神して……そこをたまたまフレイヤの眷属が通りかかって、君は助けられたと……」

 

「はい、心配掛けてごめんなさい……」

 

「君が無事ならボクはいいんだけど、魔法が強すぎて失神って、一体どういうことなんだい?」

 

「えーの、そのままの意味すぎて……発動したら内側から雷が湧き出て……その痛みに耐え切れず……って感じです」

 

「思ったより、そのままなんだね。というか、こんなの自爆魔法みたいな物じゃないか!?なんて地雷を引いてしまったんだぁぁぁ!」

 

 黒のツインテールを振り乱しながら、ヘスティア様は絶叫する。本来の付与魔法(エンチャント)は強化や保護を行うものだが、発動すると失神するほどの痛みが伴うなど地雷以外の何者でもないだろう。

 

何より使い勝手も悪い。アイズさんの【エアリアル】のような短文詠唱でもないし、今の状態だとゴミ同然である。

 

「それで、まだあるんだろう?」

 

「えーと……【フレイヤ・ファミリア】に修行を付けてもらうことに」

 

「……うん、また予想の斜め上を行ったね。どうしてフレイヤのところが、修行を?」

 

「それは……多分気に入られたからだと思います」

 

「……嘘は言ってないってことは、本当なんだね」

 

 目を見開き、しばらく瞠目するヘスティア様。都市最大派閥である【フレイヤ・ファミリア】に気に入られたという事実を飲み込むのに、少し時間が掛かっているようだった。

 

「全く、ラグナくんはボクの胃を破壊するつもりなのかい?」

 

「そ、そんなつもりはないんですけど……ごめんなさい」

 

「まあいいさ。何でも使わないと君の夢には届かないもんね、二大派閥の力を借りれるなら借りた方がいいに決まってるよ」

 

「……はい、何でも使います」

 

「うん、でも話を聞いたら一気に疲れちゃった。……ボクは寝るけど、しっかりベルくんのケアはするんだよ」

 

「……は、はい」

 

 俺に忠告してベッドに向かって行くヘスティア様。この短期間で凄い負担を掛けてしまっている。そのことに申し訳ないと思いながら、俺は隣に座る白髪の少女と目を合わせた。

 

「ベルもごめん……心配させたよな」

 

 ヘスティア様と話している間も無言を貫いていたベル。その表情は無であり、怒ってるようにも悲しんでるようにも見える。

 

何より無言の圧がやばい。なんか白い魔力みたいなのが、見えるし……今にでも【福音(ゴスペル)】されるんじゃないかと冷や汗をかく。

 

ベルはそのまま俺に近づいて、肩に鼻を当てた。そしてすんすんと鼻を数回鳴らす。

 

「……女の人の匂いがする」

 

「っ!」

 

「僕たちがラグナを探してる間、何をしてたの?」

 

 その深紅の鋭い視線に口を閉じる。言えない、【フレイヤ・ファミリア】の本拠を案内してもらってたなんて。そんなことを言えば魔法によるお仕置きで、俺は壁と同化してしまう。

 

「言えないんだ、言えないことしてたんだね……?」

 

「してないしてない、ヘスティア様に誓ってそんないかがわしいことはしてない!」

 

「本当?迷宮都市に来てから女の人に囲まれるようになって……僕のこと忘れたのかと思った」

 

「わ、忘れるわけないだろ。大事な家族だ」

 

「……なら、証明できるよね?」

 

 証明……証明ってなんだよ!?そんなものいったいどうやって証明すれば、頭を必死に回転させるが、答えは出ない。

 

全く動きがない俺に痺れを切らしたのか、ベルは目を瞑り唇を突き出した。

 

いやいやいや、キスしろと?そんなこと恋人でもないのに出来るわけが……いやでもキスで許されるなら、役得だし……でも近くに処女神がいるんだぞ!?様々な考えがよぎる中、俺はベルを抱きしめた。

 

「あ、あのぅ……これで、勘弁してもらえないですかね?」

 

「……意気地なし」

 

「いや、だって……」

 

「もういいよ。でも次、同じようなことしたら、してもらうから」

 

 その言葉に苦笑いを浮かべる。絶対次からは外出する時は一報しよう。俺はそう心に誓った。

 

 

⬛︎

 

「おはようございます、ラグナ。顔色悪いですね」

 

「……嫌な夢見ちゃって」

 

 戦いの野(フォールクヴァング)、その庭にてヘイズさんと挨拶を交わす。周りを見ると、既に多くの【フレイヤ・ファミリア】の眷属たちが準備体操や、武器の具合を確かめている。俺も聖火剣(ウェスタ)を軽く振ってみたり、身体を動かす。

 

「今日はみんな張り切ってますね」

 

「……もしかしなくても、俺がいるからですよね」

 

「はい、間違いないです」

 

 ヘイズさんの言葉に溜息を吐く。戦士たちの視線は鋭く、殺気を感じる。この場所ではレベル1からレベル4までの団員が集まり、殺し合いを行う。

 

今の俺の【ステイタス】から考えると、全員が格上で、経験も豊富。そのことを改めて頭に叩き込む。

 

油断はない。だけど絶対に敗北するだろう。そんな予感を感じていると、地面を蹴り上げる音が聞こえた。

 

「──うおおおおおおおおおお!!」

 

「いきなりか!」

 

「当たり前だ、この場所ではルールはない。死力を尽くすのみ、そしてお前は死ねぇぇぇぇぇ!」

 

 槍使いの強襲を受けながら、背後を気にする。これはバトルロワイヤル。しかも、俺は彼等の恨みを買っている冒険者。全方位から攻撃が来ることは間違いない。

 

そして、その通りに背後から二人。前方から槍使いを含む三人。合計五人に囲まれる羽目になり、嫌な汗が全身から流れる。

 

「俺は気に入らない!弱いお前が何故、フレイヤ様に……!」

 

「何より、神聖な原野にお前が踏み入るなど……あってはならない!」

 

 そんな恨み言をぶつけられながら、凄まじい猛攻が俺を襲う。必死に弾く、弾く、弾く。だがついに槍使いの蹴りが腹に突き刺さった。

 

「があっ!?」

 

 格上の蹴り。それに目を剥くほどの衝撃を感じながら、コロコロと転がっていく。そしてすぐさま立ち上がり、俺は覚悟を決めた。

 

「【白い雪、黒き終焉、終わりの(ベル)が鳴る前に】」

 

「詠唱だと……使わせるか!」

 

 このままだと間違いなく追い込まれて、囲まれて何もできないままリンチにされる。そんな未来を悟った俺は魔法の行使に踏み切った。

 

黒い魔力が迸り、魔力制御に苦戦している俺を止めるべく冒険者の追撃が次々と襲いかかる。

 

「【破滅の雷霆】っ!」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 必死の防御。聖火剣の特性である不壊を駆使して、戦士の攻撃を次々に受け止め、弾く。

 

魔力制御と戦闘の両立に頭が沸騰する。長い詠唱に苛つきすら感じる。それでも初心者なりに魔力を練っていく。

 

「【不滅の聖火……届かない英雄の幻想(かげ)】!」

 

 そんな防御が成功していたのは、間違いなくベートさんとアイズさんの訓練のおかげだ。あの訓練が無ければ俺は襤褸雑巾となっていただろう。

 

「ぐぁ!?」

 

 だが全方位の攻撃に防御を貫かれる。右肩を貫かれ、絶叫が溢れそうになる。でも魔力の制御は、詠唱だけは絶対に手放さない。

 

「【誓いは、ここに。終末(おわり)の刻まで駆け抜けろ】!」

 

「魔法が完成する!?」

 

「──【ケラノウス】!」

 

 雷鳴が鳴った。全身の血管から雷霆が全身を巡る、地獄の痛み。気絶しそうになるが、必死に意識を保つ。青白い雷霆が全身を包み、そして周囲に放たれる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「なんだ、この雷は!?」

 

「クソ、そんな新人の魔法など……!」

 

 俺を囲んでいた戦士は全員が吹き飛び、そのまま感電によって動けないでいる。

 

「っ……!」

 

 今がチャンス。動けない彼等を倒すなら今しかない。しかし、雷霆の痛みが凄まじい。これに慣れるなんて出来るはずない。内側から燃やされるような痛みなんて。

 

だが最初より耐えられている。我慢しろ、受け入れろ、乗り越えろ。必死に呼吸を整え、歯を食いしばる。そして気づく、徐々に雷霆の威力が落ちていることに。

 

「──聖火剣!」

 

 光り輝く神聖文字。ヘスティア様の血を受けた剣が雷霆を喰らい、俺の痛みを軽減してくれたのだ。

 

付与魔法には種類がある。自己強化だけで、武器に付与できるものとできないものにだ。そして【ケラノウス】は後者だろうと思い込んでいた。

 

疑問に思う暇もなく、雷霆を喰らい剣が大剣ほどの大きさに変化する。

 

「痛みが薄れた……今なら!」

 

 先程魔法を浴びせた戦士も動きを取り戻してる頃合い。俺は全力で発走する。

 

「────っ!?」

 

 地面を蹴った瞬間、雷が全身を後押しする感覚を覚える。間違いない身体能力が倍増している。レベル2にも届きそうな敏捷を獲得した俺は、そのまま戦士たちに対して聖火剣を振り抜いた。

 

「はぁぁぁぁぁあ!」

 

「ぐ、ぐああああああああ!?」

 

 魔剣のように放たれた一撃。凄まじい雷鳴音と共に、雷霆が戦士たちを吹き飛ばした。10Mほど吹き飛ばし、されど戦士を倒すには至らない。すぐに立ち上がり、こっちに向かってくる。

 

「……っ!」

 

未だに雷霆は全身を駆け巡っている。俺はそのまま雷のように発走する。自身の肉体じゃないような、圧倒的な加速。それに酔いしれて忘れていた。

 

魔法には精神力という燃料が必要なことを。突如として全身を覆っていた雷霆が嘘のように消え去る。

 

重力が重くなったように、全身を怠さが包み込む。精神枯渇の一歩手前の状況に俺は冷や汗をかいた。

 

「うおおおおおおおおおお!!死ね、ラグナァァ!」

 

「──ですよねぇ!?」

 

 動けなくなった戦士を見逃すなんて真似をこの場所はしない。襲ってくる戦士に俺は聖火剣を手に立ち上がる。

 

その後の結果は言うまでもなく、俺は何度も死にかけた。肉体を貫かれ、魔法で焼かれ、受けていない攻撃はない。そう断言できるほどメタメタのボコボコに。

 

回復魔法のおかげで、死ぬことはない。だからこそ永遠に続く闘争に俺はおかしくなりそうだった。

 

陽が落ちてきて、ようやく洗礼が終了する。この場にいる戦士たちはフラフラの手足で、食堂に向かっているようだった。

 

「立ち上がれます?」

 

「……ごめんなさい、無理かもです」

 

 そして洗礼一日目の俺は指一本動かさず空を仰いでいた。傷はないが、これまでにない貧血に全身が真っ青になっている。倦怠感と眠気に襲われ続けており、今にも意識を落としそう。

 

「それじゃあ、抱えていきますね」

 

「お願いします」

 

 そんな俺を軽々と横抱きにするヘイズさん。他の眷属達に続いて食堂に向かって歩いていく。

 

「洗礼、どうでした?」

 

「疲れました……」

 

「洗礼を受けて疲れましたなんて感想が出るなんておかしい人ですね」

 

「そうですか?」

 

「はい、普通なら狂ってる、怖い、逃げ出したい、そんなことを思いますよ」

 

 まあ、確かに今日みたいな蹂躙は逃げたいと思うのが普通だ。でもアイズさんとベートさんの訓練で似たようなことをしていたから、そのおかげでもあるのだと思う。

 

それにあっちは回復薬で傷を治していたけど、この場所では回復魔法がある。だから痛みが和らぐのも早い。

 

それに戦っていると、無我夢中になるからか……恐怖という感情があまり生まれないのもある。

 

「きっと、貴方は第一級に届く人間でしょうね」

 

「……届くだけじゃ、ダメなんですけどね」

 

 レベル5。確かに、その数字は凄い。だがゼウスとヘラが成し遂げなかった、黒竜討伐にはどれだけ強くなっても足りない。何よりダンジョンの最深層に辿り着けない。

 

「それじゃあ、食事を作ってきますね」

 

 大食堂。洗礼で身体を酷使した戦士達が肉を貪り、酒を浴びるように飲んでいる。

 

怒号は飛び交い、明日の洗礼の備えを行う。そんな場所に他派閥の人間がいることに、青かった肌がさらに青く。

 

食事を取らないと体が動かない。とはいえ、流石に食事までお世話になるなんて……と思ったが案外周りの戦士達は俺のことを気にしていないようだった。

 

「一日、それでも共に命を削り合ったあなたを認めない勇士はいませんよ」

 

「……心、読んでます?」

 

「いえ、ただ気まずそうな顔していたので」

 

 料理とともにヘイズさんが現れ、米料理と酒が机に置かれる。俺も他の戦士達に倣って、貪るように喰らう。

 

料理は想像以上に美味しいし、何より量が凄まじい。これまで零細のファミリアのため、食事も質素なものが多かったからか、さらに美味しく感じた。

 

満腹になるまで食事して、なんとか俺は今日の修行を終えた。

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