主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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27話 飛躍と探索

 

 

 夜。教会の地下で、ヘスティア、ベル、ラグナは一つの用紙に目を向けた。

 

『ラグナ』

Lv1

力  G:223→B:731

耐久 E:436→S:937

器用 G:278→B713

敏捷 H:193→B759

魔力 I:0→F316

『魔法』 【ケラノウス】

     ・詠唱式『白い雪、黒き終焉、終わりの(べる)が鳴る前に。破滅の雷霆、不滅の聖炎、届かない英雄の幻想(かげ)。誓いはここに、終末(おわり)の刻まで駆け抜けろ』

     ・付与魔法。

     ・雷属性。

     ・全能力(アビリティ)を魔法威力に変換。

『スキル』【誓約代償(レギオン)

     ・特殊条件達成時、任意発動。

     ・使用時、魂の摩耗。

     ・全能力の倍補正。

     ・感覚の超強化。

     ・肉体損傷自動回復。

     【終末戦炎(ラグナロク)

     ・戦闘時、獲得経験値増幅。

     ・格上撃破時、獲得経験値大幅上昇。

     ・経験値限界獲得による、能力限界突破。

 

「「「えぇ……」」」

 

 そんな声が漏れるほどの成長だった。『洗礼』による修行の過酷、レベル1という比較的熟練度が上がりやすいこと、何よりスキルの【終末戦炎(ラグナロク)】の効果の影響。

 

だとしても伸びすぎだ。しばらく三人で放心状態になっていて、しばらくしてヘスティアが口を開く。

 

「……一応、【ランクアップ】は可能だよ」

 

「ま、まじですか?」

 

「うん。やっぱり竜を倒したことで上質な経験値が手に入ったから……あとは熟練度次第ではあったんだけど……早くない?」

 

 ヘスティアの予想ではもう少し掛かるはずだった。それが一瞬で達成されて、正直混乱している。

 

間違いなく熟練度の伸びも世界記録だろうし……このまま【ランクアップ】すれば下界最速の記録を樹立するだろう。

 

「でも、熟練度が伸びきってないから……今回は見送ろうと思うけど、いいかな?」

 

「あ、はい!俺もそうお願いしようと思ってました」

 

 耐久などはSに到達していたが、魔力などは魔法が発現したばかりということもあって伸びしろが多い。原作のベル・クラネルのようにカンストまで伸ばしたい。

 

「……ラグナ、今日の修行について聞かせてほしいんだけど」

 

「あっ、ボクも聞こうと思ってたんだ。一体どんなことをしてきたんだい?」.

 

「えーと……ひたすら殺し合いをしてました」

 

「「───は?」」

 

 その後、ベルとヘスティアに『洗礼』についての説明をすると、ヘスティアとベルは何度も顔を青くしていた。

 

バトルロワイヤル形式で行われる無限の闘争。周りは格上だけ、重傷を負えば即座に治療される。そんな地獄のような戦いを毎日のようにしている。

 

そんな異常としかいいようがない訓練に、しばらくヘスティアとベルは理解できないように瞬きを繰り返す。

 

「……大丈夫だったの、ラグナ?」

 

「全然平気って、言いたいところだけど……まあ、キツかったな」

 

 痛いし、苦しいし、何より常に囲まれるのは恐怖でしかない。打開策なんて思いつかないまま、ひたすらボコボコにされるのは精神的にも苦しい。

 

「でも、この成果を見ると……洗礼で得られたことは多い。魔法の力も理解できたし」

 

 【ケラノウス】は痛みを伴うほど強力。魔法を剣に付与することによって痛みを半分ほど減らせることに気づいたが、それでも痛み自体は発生する。

 

もちろん我慢することが出来るレベルだが、ダメージ自体は負ってしまう。通常探索などで使うには詠唱の長さもあって、使用するのは難しいだろう。

 

切り札、もしくはダメージ覚悟での使用。そういう運用をするなら並行詠唱の習得は必須だろう。

 

今日の洗礼でも防御しながらの詠唱を行った。あれも一応並行詠唱に入るのだろう。普通、2回目の魔法行使で、あのような芸当は凄まじい偉業なのだが、黒髪の少年はそのことに気づかない。

 

彼の並行詠唱の完成系のイメージは一つだけ。攻撃、回避、詠唱。その三つを行うリュー・リオンの技術。

 

あのように自由に歌えることが出来れば、魔法の使用範囲を大きく広げることができる。しかし、あのように歌うには魔力の扱いに慣れてなさすぎるのと、単純な技と駆け引きのレベルが浅すぎる。

 

並行詠唱を習得するのは、まだまだ先の話になりそうだった。

 

「明日も洗礼に参加するのかい?」

 

「あ、いえ。明日はダンジョン探索に……」

 

 洗礼自体はいつでも参加可能。勝手に入って、勝手に参加してください。と薄紅色の少女に言われたことを思い出す。

 

そんな都合良く他派閥の訓練に参加してもいいのかと思ったが、今の状況的に毎日洗礼に参加することは出来ない。

 

その理由はベルのこともそうだが、何よりベルがパーティを組んでいるサポーターの少女にある、

 

リリルカ・アーデ。小人族(パルゥム)の少女であり、変身魔法という珍しい魔法を利用して、冒険者から盗みを働いている狡猾な少女。

 

サポーターとしての能力は高く、視野の広さと頭の良さは原作でも目立っている。

 

そんな少女は原作でもベルと出会い、救われる運命にあった。だがベルが女性となった、この世界では状況が大きく変わることは容易に考えられる。

 

「ベルもそれでいいか?」

 

「うん、一緒に探索してくれるのはありがたいよ」

 

 しばらくサポーターの少女の問題が片付くまでダンジョンに潜ろう、そう作戦立てるラグナ。今日の疲労もあって、就寝はいつもより早かった。

 

⬛︎

 

 噴水の水の流れる音が美しい噴水広場。多くの冒険者が集合場所に使う、その場所にラグナとベルは来ていた。

 

「この方が……ラグナ様でしょうか?」

 

「うん、昨日話したけど……」

 

「は、初めまして、リリルカ・アーデです!見ての通りサポーターをやっています」

 

「初めまして、【ヘスティア・ファミリア】所属のラグナです」

 

 堅苦しい挨拶からラグナとリリは目を合わせる。

 

リリはベルから聞いたラグナの情報を思い出す。幼馴染で、一緒に育ってきた家族同然の人。ベルと同じく迷宮都市にやってきたばかりの新米冒険者。

 

黒髪黒目。整った容姿にスラリと伸びた手足。白髪の少女の隣を立つ姿はまるで騎士のように感じられた。何より荒くれ者の冒険者という感じが全くしない。

 

だが強化種である、インファントドラゴンを討伐した化け物である。

 

上層最強と言われているインファントドラゴン。集団で戦うなら勝機はあるだろうが、ソロ討伐……しかも強化種の撃破を新米が行ったなど信じられるはずがない。

 

でもギルドで配られた情報は確かで、英雄候補なんて言葉すら囁かれるほどの偉業を成し遂げた冒険者。そんな冒険者と白髪の少女が同じ【ファミリア】だとは。

 

「えーと、リリさん……」

 

「あの、敬語はやめていただけませんか?……リリにさんなんて付けなくていいので!」

 

 リリはそう提案して、ラグナは少し迷った後、控えめに頷いた。

 

「わ、わかった。それで、突然パーティーに加わることになって、大丈夫だったか?」

 

「リリは全く気にしません。むしろ、パーティのバランスが整っていい感じです」

 

 魔導士とサポーター。おそらく今までの冒険者の歴史の中でも初めてのパーティ構成。その歪さで、戦えていたのはベルの魔法があったからだ。

 

前衛がいるかいないか、それだけで後衛の負担は減る。何より精神力の消費を抑えることが出来て、効率的にダンジョン探索が進む。

 

「それじゃあ、早速行くか」

 

「はい!」

 

「うん」

 

 初めての三人パーティ。久しぶりに少年とのダンジョン探索に浮かれるベル。これからの行動について考えるラグナ。そして英雄候補とすら呼ばれるラグナに緊張するリリ。三人は神の塔(バベル)に向かっていった。

 

⬛︎

 

「──ふっ!」

 

 抜き放った聖火剣(ウェスタ)を振り抜き、コボルトを両断する。一気に上昇した熟練度の影響で、身体能力を制御できていないが、それも少しずつ修正していく。

 

「……ほ、本当に新人冒険者なのですか」

 

 その戦闘に固まるのはサポーターのリリだった。今までたくさんの冒険者の戦闘を見てきたからわかる。あれはとっくに新人の域を越していると。既にレベル2なのでは、そう疑ってしまうほどの圧倒的な動き。

 

彼の強さは能力もそうなのだろうが、何より武器。黒い刀身から放たれる一撃は怪物の肉を簡単に両断する。

 

その切れ味から業物の一振りであることがわかる。あれを売れば何千万は下らないかもしれない。

 

盗むための作戦を立てようとして、リリの冷静な頭脳は難易度の高さからストップを掛けた。

 

相手は英雄候補と呼ばれる少年。そんな相手にアクシデントを仕掛けて、盗みなんて働けるのだろうか。

 

何より盗み出すことに成功したとして、隣を歩く白髪の少女が許すはずがない。速攻の魔法にて一撃でやられてしまう。

 

今までの比じゃない難易度にリリは唾を飲み込む。諦めるしかない、リリはそう結論づけた。

 

「本日はどこまで潜るんでしょうか?」

 

「10階層を目指そうと思う。初めての階層だから、少し不安はあるけど、どうだろう?」

 

「10階層が初めて、ですか……」

 

 リリは信じられなかった。この二人ならとっくに10階層は踏破しているだろうと思っていた。

 

「リリは10階層で活動したことはあるのか?」

 

「ええと……はい、冒険者様に同行して何度かあります」

 

 その質問にリリは怪訝な表情をしながら答える。

 

「それなら10階層に出現するスライムは見たことないか?」

 

「スライムですか……そんなの見たことないです」

 

 リリは探索の記憶を思い返して答えた。10階層で戦う敵の多くはオークなど人形の怪物。粘着生物など10階層には出現しないはずだが、どういうことだろうとリリは首を傾げる。

 

「実は、ある神から10階層にスライムがいるって言われてな。早くて小さくて、そもそも遭遇することもほとんどない。希少怪物(レアモンスター)なんだ」

 

「希少怪物……ですか」

 

「そのスライムが落とす戦利品がどうしても欲しい」

 

 ベルの治療薬。その材料になる可能性があるスライムの戦利品。それを手に入れるには協力者は多い方がいい、ラグナはダンジョンの経験が豊富なリリの力を借りる気でいた。

 

「もし見つけたら報告してほしいんだ。お願いできるか?」

 

「わかりました……スライムを見つけたらすぐに報告します」

 

「ありがとう、リリ」

 

 そのお願いにリリは目を丸くしながらも承諾する。そしてサポーターに対して真っ直ぐお礼を言うラグナに対して、もしかしなくてもお人好し第二号なのでは、と思い始める。

 

そのままパーティは簡単に10階層に突入した。入り口付近には霧がないが、奥には視界を遮る霧が蔓延している。

 

ここが10階層で、ラグナとベルが目標にしていた階層である。あっという間に辿り着いてしまい拍子抜けするが、それも全て凄まじい成長を見せたラグナのおかげだった。

 

ベルの精神力を僅かにしか消費させないように、風のように怪物に突貫していく。そんな彼の影響で、ベルは疲労を溜めることなく10階層に辿り着く。

 

さすがにここまでノンストップで探索しているので、ラグナには疲労が溜まっているかと思えば、全然平気そうだった。

 

それもステイタスが大きく伸びたのもあるだろうが、何より『洗礼』の経験が大きい。無限の闘争を経験した現在、ダンジョン探索ぐらいでは疲労すら感じなくなっていた。

 

『ヴオオオオオオ!!』

 

「見るからに怪物の量が多いな」

 

 10階層から怪物集団が発生する。オーク、インプの集団を遠くから視認してラグナは目を剥いた。怪物自体は問題ない、ただ視界を遮る霧が煩わしい。こんな場所で小さなスライムを見つけなければならない。そりゃ見つからないわけだと、ラグナは溜息をする。

 

「右からも来ます!」

 

「【福音(ゴスペル)】!」

 

『ギィヤ!?』

 

 その一声で怪物を屠るベル。その集団相手に魔法の連発を強いられる。怪物の集団をまとめて吹き飛ばせていた、5階層とは違う。

 

狙いが悪ければ、一撃で魔石を砕けない。そのことにベルは背筋に冷や汗をかいた。

 

『ヴオオオオ!?』

 

 徐々に怪物に囲まれていく、そんな状況を一瞬で変えたのはラグナだった。最短効率で怪物が死んでいく。もはや目が追えないほどだった。

 

「……すごい、すごいすごい……凄いです、ラグナ様!」

 

「そう、だね。凄いな、ラグナは……」

 

 あの手の集団を一瞬で片付けてしまった。それを見てリリは目を輝かせる。そしてベルはその差を見せつけられ、拳を握りしめる。

 

「……ラグナ」

 

 その瞳に昏い感情を乗せて、少女は少年の名を呼ぶ。しかし、彼は振り返らない。雷のような速度でひたすら怪物を処理していくのだった。

 

 

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