主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

29 / 64
29話 脳の奥まで

 

「ラグナくん……私のこと嫌いなのかな?」

 

 容姿端麗のハーフエルフの受付嬢が凄まじい瞳で少年を見つめていた。その目は暗く、そして絶望さえ覗かせた。

 

──忘れてた……!

 

竜の一件から二日間の入院。魔法の試し撃ちと洗礼。そして今日のダンジョン探索。一週間にも満たないはずなのに、濃厚な日々だったせいで、受付嬢のエイナの存在を片隅に追いやっていた。

 

「き、嫌いなわけじゃ……」

 

「じゃあ、なんで会いに来てくれなかったのかな?」

 

「い、色々あって……」

 

「そうだね、色々あったよね。私のこと忘れちゃうほど忙しかったんだよね?仕方……なかったんだよね?」

 

「あ、あばばばばば」

 

 エイナの言葉にラグナは壊れた機械のように震える。それほどまでに受付嬢は怒っていて、とても今のラグナでは太刀打ちできる存在ではなかった。

 

「はぁ。君は……もういいよ。質問に答えてくれれば」

 

「質問、ですか……?」

 

「うん、どうして駆け出しの君が上層最強のインファントドラゴンに勝てたのか……教えて」

 

「……あ、あの」

 

「教えて?」

 

「い、いや……」

 

「教 え て」

 

「────は、はい!」

 

 その圧力に耐えられず、ラグナは渋々話し始めた。主神であるヘスティアと一緒に竜に追い掛けられ、子供を助けるために殿を務めることになり、竜と対峙したこと。

 

「そんな経緯だったんだ……それでどうやって勝ったのかな?」

 

「【スキル】なんですけど、その効果は全能力の倍加、感覚の超強化、自動回復を行ってくれるもので……」

 

「……ぜ、全能力の倍加ぁ?」

 

 エイナは凄まじい情報量に深呼吸をしながら、机のコーヒーを口にする。

 

能力の倍加。それは熟練度ではなく単純な【ステイタス】を指しているのだとすれば、とんでもない。

 

レベル1がレベル2に、レベル2がレベル4に、レベル3がレベル6に。そんな嘘としか思えない効果にエイナは頭が沸騰しそうだった。

 

それだけでも絶叫しそうな効果なのに、さらに恐ろしいことに、それだけじゃない。

 

感覚の超強化。これは視覚や聴覚などの五感なのか、それとも反射能力などの方なのか、わからないが普通の力じゃない。何より自動回復までおまけのように付いてくるのだ、いくらなんでも規格外すぎる。

 

「あの、それだけじゃなくて……一応代償みたいなものがあって」

 

「……代償?」

 

「はい、まあ、ええと……」

 

 このレベルの効果が得られるのだ、それは代価があるのは当たり前。少年が言いづらそうにしていて、よほど重いデメリットがあるのだろうかとエイナはエメラルドの瞳でラグナを見守る。

 

「魂の摩耗……みたいな?」

 

「────は?」

 

 思わず低い声が出てしまうほどの爆弾が飛び出してきた。魂の摩耗……それは一体どういうことだろう。

 

「……摩耗って、もしもスキルを使いすぎたら一体、何が起きるの?」

 

「使いすぎたら、魂が壊れて……多分そのまま死んで、転生すら出来ないらしいです」

 

「そんなものを使ったの!?」

 

 エイナが立ち上がり絶叫する。いくら効果が絶大とはいえ、そのような代償の『スキル』をどうして使ってしまった。

 

「別に心配ないですよ。転生なんて、しなくても平気だし」

 

「……っ」

 

「それに、俺は弱いので、使えるものはなんでも使わないと」

 

 そう意気込む少年の姿にエイナは言葉を失った。

 

病気の少女のために命を張ってることは知っている。そのために異常な速度で成長していることも。それでもここまですることなのか。

 

魂まで捧げて、彼は少女を救いたいのか。

 

「ラグナくん……ダメ、だよ。そんなの……」

 

「もちろん、これは切り札ですから……よほどの状況が来ないと使いませんよ」

 

「そのよほどの状況に巻き込まれるのが君でしょ!?」

 

 まだ出会って一ヶ月も経っていない。それでもエイナは少年のことを理解していた。彼は神々が試練を与えているかのように、苦難に見舞われる。

 

竜の件もおかしいことが多かった。インファントドラゴンが道中の住宅を無視して、女神を追いかけたことも。

 

そのインファントドラゴンが魔石を喰らい、強化種になってることも。全て神が仕組んだのではと思うほどおかしいのだ。

 

そして一番おかしいのは少年だ。そんな異常事態を乗り越えて強くなってしまう、前代未聞の偉業を成し遂げてしまう。

 

「……私は、君に、消えてほしくない」

 

「エイナさん……でも、俺は行かなきゃ」

 

「……ラグナくんは、壊れてるよ」

 

「はい。でも──進みます」

 

 幼馴染の少女のために身を削り、突き進む。その脚を止めることは誰であろうと許されない。止めようとして触れてしまったら、脳の奥まで燃やし尽くされる。

 

「(瞳が熱い……誰も壊せない、阻めない絶対の意志)」

 

 黒の瞳はどんな宝石より綺麗だと断言できる。黒の少年は誰よりも強さを願う。これから地獄だろうと走り去り、修羅の道すら超えていく。

 

きっと、エイナの知識も必要ないほど彼は前代未聞の戦場に駆り出されるだろう。その度に『魂』を削り、戦うのだ。

 

それは美しいだろう。全てを賭して戦う英雄の姿に誰もが見惚れるだろう。だが、その結末は悲惨なものになる。

 

英雄の隣には精霊や、仲間がいるものだ。でも彼はそれすら置いてけぼりにする。

 

誰かが隣に立たなきゃいけない。そして、隣に立つのは自分がいい。

 

「ラグナくん……ベルちゃんが待ってるんでしょ?もう行っていいよ」

 

「そう、ですね。エイナさん、ごめんなさい、話ができなくて」

 

「いいよ、もう。だってこれからはずっと話せるから」

 

「……?よくわかりませんけど、また明日ダンジョン探索に行くので、その時に話しましょう」

 

 少年は相談室から外に出る。その姿を見届けてからエイナは自身の手を見つめる。この身体には王族の血が流れている。学区の頃は魔法こそ発現しなかったが、エルフとしての潜在能力は高い。

 

魔法が発現しなくても武器を持とう。その身を賭して戦おう。受付嬢の時間は終わり、冒険者として歩き始めよう。

 

「……学区の頃に戦技学科に入ればよかった」

 

 母親の医療費を稼ぐためギルドの受付嬢となった。それは後悔していない。だがそれでも戦闘を学んでおけば、役に立ったのに。

 

というか、ここまで自分は惚れやすかっただろうか。

 

確かに彼はかっこいい。身長は高く、容姿も整っているし、何より瞳。あの黒曜石の瞳に見つめられるだけで心臓は高鳴る。頼り甲斐がありそうな感じなのに、少し凄むとプルプルと震えるのが可愛い。そのせいで今日はそこまで怒ってなかったけれど、怒ってしまった。

 

何より病気に侵される少女のために命を懸ける姿は見てるだけで眩しい。その姿を見ていると家族と過ごしてた時を思い出す。ベッドに伏す母親を看病する父親に憧れは抱いていた、それを重ねているのか。

 

「……ふふ、私も焼かれてるなぁ」

 

 出会ってしまったことが最大の幸運で不運。エイナは昏い瞳で決意する。

 

「──私も【ヘスティア・ファミリア】に」

 

⬛︎

 

 夕焼けが都市を包み込む時間帯。ラグナとベルは本拠である教会に向かって歩いていた。その歩みはゆっくりで、それはベルの歩く歩幅にラグナが合わせているからだった。

 

「エイナさんと何の話を?」

 

「いや……竜の件から何も話せてなかったから、その件だ。怒らせちゃったな」

 

 それにしても恐ろしかった。あんな詰められ方は初めてで、正直今日の戦闘より緊張感が走った。

 

「……それで、どうしてリリを勧誘したの?」

 

 歩きながらベルは少年に質問する。さっきのことだ、唐突にサポーターの少女を勧誘したラグナ。その行動の意味をベルはずっと聞きたかった。

 

「ああ。理由は色々あるけど……やっぱり性格かな」

 

「──性格?」

 

「冒険者には荒くれ者が多いだろ、俺は良いんだが、ベルのことを考えると、優しい人柄の人をパーティーに欲しかったんだ。何より知識も経験も俺たちより遥かにある。そんな人材欲しいのは当然だろ?」

 

 そこに加えて言うなら、ベルとの連携が素晴らしかったから。超短文詠唱という大きな武器を扱いきるには、敵を事前に察知して魔法準備をする必要がある。

 

『福音』という魔法は強い。詠唱の短さ、威力の強大さ。全てが理想。本来なら奇襲すら完封できるのだろう。

 

だが病弱なベルには不可能だ。反射能力が、咄嗟のことが起きた場合の対応力が薄い。

 

でもそれは魔導士の経験が少ないからだ。未だ二週間未満の冒険家なのだ、それは仕方ない。仕方ないが、ダンジョンではあまりにも大きな弱点。

 

それを補うためにリリという存在は必要不可欠だった。

 

「……でも【ヘスティア・ファミリア】に勧誘する必要はないんじゃ?」

 

「確かにパーティーのままでも、今まで通り戦えるかもしれないが、遠征をするためにも、メンバーは出来るだけ増やしたい」

 

 原作のキャラクターはもちろん、他にも戦闘できる人は入れていきたい。いくらラグナが強くなろうと、遠征するには十分なメンバーが必要だ。

 

「それにヘスティア様のためにも、【ヘスティア・ファミリア】が大きくなるのはいいことだろ?」

 

「……そう、だね」

 

 それはいいことだ。病気の自分を迎え入れてくれた恩神、その恩を返すことにベルは反対はない。

 

ただ気になるのはファミリアに女性ばかり入って、ラグナを取り合いになることだった。

 

ラグナは凄い。彼はまだ足りないなどと言うだろうが、既に成長速度は下界最速で、何より精神の強さは第一級冒険者でさえ敵わない。

 

そんな彼がこれから先、次々と女性を誑かしていくのだろう。それが怖くて、とても嫌なだけ。

 

「……もう少しだけ、三人がいいな」

 

「どうした、ベル?」

 

「いや、なんでもない。それで薬の材料は手に入ったんだよね?」

 

「ああ。リリとベルのおかげでなんとかな」

 

 少年の魔法。少女の幸運。サポーターの視力。全てが噛み合って、なんとか手に入れたスライムの戦利品。

 

「ベルを教会に送ってから、【ディアンケヒト・ファミリア】に行ってくるよ」

 

「僕は行かなくていいの?」

 

「今日の探索で負担掛けたからな……ゆっくり寝ててくれ。すぐ届けて、すぐ帰ってくる」

 

 この薬で発作を抑える薬が製作できたら、遠征することも可能になる。

 

ダンジョン下層、深層域に行くには数日ほど掛かる。初見ということも考慮すれば、さらに時間は掛かるだろう。

 

一日で地上に戻れない。それは病気を患っているベルにとって凄まじい危険になる。深層域で発作なんて起きて、倒れたら絶望的だ。

 

「……薬自体は、神様たちに任せるしかないが」

 

 これが出来上がらないと、ベルは遠征から外れることになる。そうなれば戦力的にも痛手だ。

 

何よりベルの幸運がない状態で、遠征を達成できるのかも怪しい。やはり薬の製作は必須だった。

 

その後、ラグナは本拠までベルを送り、そのまま治療院に向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。